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クーの迷宮(地下43階 イフリート戦)前哨戦は殲滅戦

 先日通ったルートに未開のルートを発見した。

「?」

「ん?」

「ナァ?」

 僕たちは首を捻った。

「こんな道あったか?」

 あれば絶対メモに記載していたはず。

「こんなにわかり易い二股を見落とした?」


 疑念を持ちながらも僕たちは進んだ。

 そしてあの山の麓まで続く溶岩の流れを跨ぐ長い吊り橋に辿り着いた。

「いた!」

 念願の敵発見!

「カークスの砦だ」

 砦が見えたらイフリートの寝所は近い。

 エルーダでは砦を突破した先に横穴があった。

「強行突破だ」と言っても、ランタンの火は消されたままだった。

 ヘモジが許さなかった。

 高く立派な城壁が目の前に立ちはだかっているというのに。

 それはエルーダの野戦砦より遙かに進化した本格的な城砦であった。物見櫓は円塔に。城門には跳ね橋と鉄の落とし格子が。

「こりゃ参ったね」

 無数の狭間がこちらを狙っている。

「イフリートに辿り着く前にこれかよ」

 敵の反応も数倍どころか数十倍に増大している。

 これだけで充分一フロア分のコンテンツになるだろう。

「どうやって入る?」

 エルーダでは正面突破以外にも経路が用意されていたが。

 明日のためにも全体像を把握しておきたい。情報も売れるし。

 抜き足、差し足。城壁の上から監視する連中の目をどうやって躱すか。

 橋の中腹を過ぎてしまえば弓兵の射程に入ってしまう。

「索敵能力が低いとはいえカークスにも両目は付いてるからな」

「ナナーナ」

「あ、そうだった」

 馬鹿正直に正門から入らなくてもよかったんだ。

 僕たちは一気に転移した。まず砦の上空に。そこから内部を一望し、一番高い塔の上に降り立った。

 僕は早速、絵図面を作り始めた。

「密偵になった気分だな」

「リオネッロが密偵になったら無敵」

「だといいけどね」

 ヘモジは一足先に散歩に出掛け、城壁の上にいる見張りを叩いて回った。

 洞窟内へと続く入口を守るためだけの城砦なので奥行きは思った程ない。

 その辺はエルーダとそう変わらない。

 兵士の数は…… 骸だけでも既に越えていた。

 ヘモジが向かった左の城壁に、生きた兵士は後わずかだ。

「余っ程、鬱憤が溜まってたんだな」

 取り敢えず、下りたときに上から狙われたらたまらないので、すべて始末しておく。

 左の城壁はヘモジに任せ、僕とオリエッタは右回りに攻めることにした。

 転移と隠遁を繰り返しながら華麗に弓兵共を仕留めていく。

「転移がなめらか」

 オリエッタが感心した。

 僕も言われて気が付いた。

 なんだろう、このぬるっとした感覚は。ゲートを潜る感覚がどんどんなくなっていく。なんというか、空間の密度というか、反発力というか、反動というか、普段感じている抵抗のようなものがないのである。

 普通に跳躍しているだけのような。

 身体に余計な負担も感じない。

 調子が良すぎて却って怖いな。

 おかげで抵抗されることなく首を狩っていくことができるわけだが。

 ヘモジの方がド派手にやってくれているのでそのおかげもあるか。

「増援だ」

 階段を上って増援が、ヘモジ側の壁にどんどん集まっていく。

「遠いな」

 中庭からの直通階段。僕たちはちょうどその中庭を挟んで対極にいた。

 ヘモジは楽しそうに無双している。が、巨人相手だと埋もれてよく見えない。

 吹き飛ばされる巨人を見て、ヘモジの現在地に当たりを付ける。

 こっちも急いで処理して合流しないと。

 中庭に集まりだした兵士たちに『雷撃』を落とした。


 援護は無用だと思っていたが、ヘモジの方に集まってくる兵士の数が想定外に増えてきた。

「あの階段、洞窟内にも繋がってるのか?」

 僕たちは片側を終らせ、急ぎ反対側の城壁に跳んだ。

 そして階段の出入口を岩塊を落として一旦塞いだ。

 さすがに村落にいた連中よりいい装備を着てる。

 落石から生き残った連中に雷を落とした。

「金、落とさないかな」

「ゴーレムじゃないから」

 こちらも乱戦に突入する。

「転移してる! 転移してる!」

 オリエッタが叫んだ。

 僕は魔法と剣技を駆使して回った。

「リオネッロ、転移してるから!」

 頬に爪を立てられ、緊急事態であることを知らされた。

 ボゴッ。という重苦しい音と共に目の前のカークスが倒れた。

「ナナーナッ!」

 ヘモジが僕を指差し、オリエッタと同じことを言った。

「誰が?」

「リオネッロ、戦闘中。転移使ってた」

「はあ?」

「ナナーナ」

 ヘモジも頷いた。

「転移したつもりは…… ただ首を刎ね……」

 僕は後ろを振り返る。

「跳躍しただけで届く位置に首、ないから」

 どの骸も一撃で首が落とされていた。

「転移してた?」

「うん」

「ほんとに?」

「ナーナ」

「自覚がないってのはやばいな」

「やばいね」

「ナーナ」

 魔力を大量消費した感覚もない。

 念のために『万能薬』を舐めておく。

 別の階段から再びカークスの一団がやってきた。

「どれだけいるんだ?」

「ナナーナ」

 近接はヘモジに任せ、戦闘スタイルを魔法使いに戻した。

 結界を張り、押し返しながらの魔法攻撃。

「楽なんだけどね」

 機械的になり過ぎて面白みに欠ける。

 こんなこと続けるくらいなら大きなのを一発かまして終らせてもよかったかもな。

「ナーナ!」

「ほんと。どこから湧いてくるんだ?」

 洞窟のなかからしかないのだが。

「こいつらには持ち場の概念はないのか!」


 それからしばらく無駄な戦闘に付き合わされた。

「疲れた」

 どうやら秘密裏に潜入するのが正解だったらしい。

 さすがに疲れたので見張りの塔で一休みである。

 城壁の外を見回して、潜入経路になりそうな地形を探す。

 見渡せる場所にあるとも思えないが。

「夜襲でもしろということか…… な」

 実際、吊り橋を渡るところからしっかり丸見え。渡った先は左右どちらに進んでも行き止まりで、ルートは正面ゲートに至る道のみ。

 夜襲を想定すると……

 門は閉じられるのか? 開け放たれたままなのか?


 休憩を終えた僕たちは正面ゲートに降り立った。

「外の見張りを倒して……」

 城内に入れたと仮定する。

 巡回から身を隠すには。

 中庭を見渡す。

 どこかに……

「あれか」


 兵士たちの視線を掻いくぐろうとして最初に目に付く物件が、この掘っ建て小屋。

 門の脇に併設された小屋に潜入を試みる。

「ここの当番兵も持ち場を離れたらしいな」

 中を覗く。

 厩舎として使っているのかと、カークスがどんな馬に乗るのかと期待したら、ただの物置だった。

「あった! これじゃない?」

「ナーナ?」

 それは廃棄された酒樽の山の隙間にあった。地下に繋がるハッチだ。

 カークスサイズだから、隠し扉という程、謙虚なものではなかった。

 鉄製のハッチに穴を開けたら埃だらけの階段が出てきた。

 遅ればせながら、こちらのルートを進ませて貰うことにした。

「ここもただの物置だな」

 カークスサイズの大きな地下室に降り立つ。

 農耕具に、城門や吊り格子、跳ね橋を動かすためのでか過ぎるドラム、錆びた鎖。

 続く扉はどこにもなかった。完全に孤立した単なる地下倉庫だった。

 が、人のサイズなら……

 崩れた石壁の先に通れそうな亀裂を見付けた。

「どうだ?」

 身体の小さいふたりを先行させる。

「通路がある」

「ナーナ」

 敵の姿はない。先の騒動でここいらの兵士も持ち場を離れたか。

 僕も狭い隙間を潜って通路に降り立った。

「なるほど」

 洞窟方面に進む。


 持ち場というものを理解しない愚か者の粛正は済んでいたので、楽に進めた。

 罠もなく、明かり取りから差し込む光と風のおかげで却って快適だ。

 靴音の反響がする。

 カークスの魔力反応が現れ始めたところで通路は突然途切れ、手掘りの跡が残る坑道に。

「相変わらずでかい洞窟だな」

四十一層で慣れたつもりだったが、規模が違った。

 坑道は並行して幾重にも走り、正解ルートが一目では分からないレベルであった。

 兎に角、隠密行動しながら状況把握に務めた。

 たまに避けきれない戦闘を挟みながら、ルートを開拓していった。

「ここから下の階だな」

 記録を取ると、階下に降り立った。

 そして坑外に出ると、断崖絶壁に築かれた巨大な地下神殿とその入口が目の前に聳え立っていた。

「エルーダに勝るとも劣らない絶景。とてもあの太い指で築かれた物だとは思えない」

 ここから先、しばらくは静寂が支配する。

 が、この場所にあるのは廃墟としての静寂さのみ。むしろ聖堂の方が清浄さを兼ね備えている。

「何もかも熱波でボロボロ」

 長い回廊を進む。

 非戦闘員らしきカークスの姿がチラホラ見えるが、戦闘エリアには来ない模様。

 僕たちは神殿最深部の長い通路に入った。

 そして巨大な扉を見る。

 エルーダでもおなじみ。イフリートの巣窟へと繋がる最後の扉。

 見張りが二体…… こいつらが扉の鍵を持っているかは兎も角、邪魔なのでやり過ごすことはできない。

 と、言うわけで。

 ヘモジと僕とで一体ずつ倒した。



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