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クーの迷宮(地下42階 ウィンディゴ戦)後始末も冒険の内

 やってきました地下倉庫。

「はー」

 大量の鉱石を見て溜め息をつく子供たち。

 精製するこっちの方が溜め息つきたいよ。でも、その前にやらなきゃいけないことがある。

「金を運んできてくれるか」

「どれくらい」

「そうだな。ブロックの十分の一ぐらい?」

 飛行石自体は精製してしまえば一握りだ。が、生み出す浮力はとんでもなく大きい。なにせ一辺が一メルテ半のあのブロックの量とリアルタイムで拮抗しているのである。

 所有する金属のなかで最も重い金でコーティングしても、拮抗させるための重石の体積は木箱一個分だ。

 僕は重石を乗せた状態で、飛行石を精製。

 ヘモジの拳大の大きさにまるめては大量の金にくるんで子供たちに渡していく。

「軽く持ち上げられるぐらいの重さに大体でいいから調整して、木箱に詰めていってくれるか」

「成形しなくていいの?」

「大体でいいぞ。飛行石の大きさも大体だからな」

「わかった」

 何も言わなくても、木箱に収まるように四角く成形し直され、次々木箱に収められていった。

 大きな金塊を片手でスイスイ。端から見たら子供たちは怪力少年少女だ。


 大した量じゃないと言ったが、前言撤回。最終的に木箱三箱弱になった。

 所有している金だけでは足りず、鉄のインゴットも重石代わりにしたからだ。

 それを普段利用しない倉庫の最深部、セキュリティーの最も堅固な場所に放り込む。

 残念ながらここに入室できるのは僕と大伯母、ラーラの三人だけである。それだけ貴重、あるいは危険な物を置いて置く場所なのだが、現在はすっからかんだ。

 子供たちは既に疲れている。

「これ以上は幼児虐待になっちゃうかな」

 そう言ってからかうとすぐに反応が返ってくる。

「今日できることは今日しておかないとね」

「休みたいけど」

「がんばる!」

「うんうん!」

 少し休んで貰ってから手を貸して貰うことにした。

「これ全部、精製しないとな……」

 ガーディアンをいじり倒したいのはやまやまだが、転送用ゲートの周囲には魔石やら何やらでさすがにひどい有様。特に巨大宝箱一杯分の大量の鉱石。これはなんとかしないとさすがにまずい。

 僕は片っ端から分解と結合を繰り返す。不純物も利用価値のある成分を秘めているので、こちらもさらに再分解するが、それは量がある程度揃ってからだ。

「宝石も混ざってるな」

 鉱石と宝石が同居していて、作業を難航させた。

 宝石なのか、ただの不純物なのか、思案する時間が無駄に掛かった。


 見る見る内にサイズも形もバラバラの砂利の山が幾つもできあがる。

 休憩を終えた子供たちが戻ってくると、インゴット作成の準備を始めた。

「手慣れたもんだな」

 鋳型を並べて金、銀、銅の流れ作業の列ができあがる。

「銀までは楽勝だよな」

「金はまだ減衰が……」

「宝石?」

「袋にでも入れておいてくれ。後で僕がやるから」

「ほーい」

「『鉱物精製』スキル欲しー」

「あんた毎回言ってるわね」

「だって本心だもん」

「がんばるしかないね」

「ミスリルがないのが救いよね」

「この間のは消化したのか?」

「あ、あれはですね……」

 その顔は……

「半分でギブアップしました!」

 ニコレッタが素直に頭を下げると、他の子供たちも頭を下げて恐縮した。

「残りは売ったのか?」

「いえ、木箱に入れて……」

 さりげなく空箱と一緒に部屋の片隅に積み上げられていた。

「気が向いたときにまたチャレンジすればいいさ」

「ごめんなさい」

「倉庫を一杯に満たしてから、一気にカンストさせるのも一興だしな。成長すればミスリル集めの要領だってよくなるし」

「いや、さすがにそれは……」

「まあ、人それぞれだ。焦ることはないさ」

 目減りする希少金属。損失は計り知れない。

 豪邸が建つ程の損失を毎日出しながらの修行というのは、効率を言う前に心の負担になる。

 だから立ち止まる。心をリセットするために。

 それを「勝手なこと」と吐き捨てることはできない。まして苦労を知っているこの子たちにとって、散財することはストレス発散にはならない。むしろストレスになる。

 申し訳ないと、力不足が悔しいと、自分にその価値があるのかと、負の感情に怖じ気づいて手が止まったとしても、それは一時のこと。

 それまでは一進一退。自分たちが出していい損失と利益のバランスの上を右往左往すればいいさ。

「でもずっと置いておくと、姉さんが帰ってきたとき、全部持って行かれちゃうかも知れないな」

「ナーナ」

「あり得る」

「それはそれでお金が入ってくるから、いっか?」

「よくなーい!」


 結局、僕の方が終らなかった。

 バラバラの鉱石をあれもこれもと、やっていると仕分けるだけで頭が痛い。

 さすがに朝からずっとだったからな。子供たちもいい加減解放してやらないと。

「師匠、少しだけ飛行石ちょうだい」

 年少組が纏わり付いてきた。

「なんに使うんだ?」

「靴の底に付けたら飛べるかなって」

「飛ぶのはいいがその後どうするんだ?」

「へ?」

「どうやって下りる?」

「…… 靴を脱ぐ?」

「靴も石も戻らないぞ?」

 頼むから死ぬようなことするなよ。

「そうなるんだ」

 他の子が感心する。

「精々体重を軽く誤魔化すぐらいにしておくんだな。それと飛行石はミスリル以上に希少だから、お前たちみたいな子供が持ってると外部に漏れたら、よからぬ客を招くことになるぞ。誘拐事件とかごめんだからな」

 誘拐程度で済めば、まだ対応の仕様があるが……

「じゃあ軽くする程度で?」

 重力に重さは関係ないからな。あるのは筋力との兼ね合いだけだ。

「筋力が萎えるから、長期使用は厳禁だぞ」

「えー、楽できないの?」

「自分の足で立てなくなっていいのか?」

「頭がゴチャゴチャする」

「学校の存在意義がわかってよかったな」

「師匠ーッ」

「まあ、飛び跳ねる程度ならいいだろう。扱いはもうわかってるだろうから何も言わないけど、金塊も見せ物じゃないからな」

「自重しまーす」

 それぞれに、なくしてもいい程度の量を渡した。


「オーッ」

「軽い軽い」

 兎のようにびょんびょん跳ね始めた。

 年長組は危険性に早速気付いたようだ。

 そう、靴底のグリップ力が低下しているのだ。横滑りはできても踏ん張りが利かなくなったのである。

 坂の多いこの町で履くのは危険だ。

 それでも楽しんでいる時間を無下にへし折る気はない。

 自分たちだけ早々に飛行石を外して、金の粘土のなかに戻した。

 年少組ははしゃぎ回った。普段届かない棚の上までジャンプしたり。天井に手形を付けたり。

「帰るんじゃなかったのか?」

 僕は呆れた。

「こんなとこ、他人に見られたら困るでしょう」

「家でもできるだろ?」

「そんなことしたら怒られるよ、絶対!」

「明日の放課後、町の外で使ってみない?」

「だったらあのソリももう一度造ろうぜ」

「あれは携帯用の『浮遊魔法陣』がないと」

「貸し出さないぞ。探索用の備品なんだから」

「大師匠に賄賂?」

「だな」

「何がいいかな?」

「やっぱ、これ?」

「お前らなぁ」

 飛行石をバーターに使うなよ。

「それより。一旦、飛行石、外してみ」

「なんで?」

「いいから」

 子供たちは座り込んで、言われるまま靴底に貼り付けていた石を取り外した。

「歩いてみな」

 子供たちは立ち上がると渋々一歩を踏み出した。

「……」

「……」

 無言になった。

 予想以上に重く感じるだろう?

「じゃあ、帰るぞ」

「鬼ーッ」

「悪魔ー」

「ほら、。モナさん戸締まり、待ってくれてるんだから」

 地下から這い出すと僕たちはモナさんと一緒に工房を後にした。


「これ、慣れちゃ駄目な奴だ」

 ヴィートが呟く。

「考えて使うんだな」

 その後、飛行石の存在を知ったモナさんが目を輝かせたことは言うまでもない。

 その結果、すべての飛行石はガーディアンの改修に回されることになって、子供たちは煩悩から解放された。

 その代わり『ニース』分の飛行石と交換で、作業はモナさんが受け持ってくれることになった。

 小分けにした結果、何でもかんでもというわけには行かなくなったが、どの機体も大幅なステータスアップが望めた。

 僕の新型も盾の重量を気にしなくて済むようになったので、開発中止にしようかとも思ったのだが、折角上がった推力を無駄にするのも勿体ないので、構造を大幅刷新して、数日後、納得いく形にできたのであった。



「ナーナ!」

 ランタンの欠片が手に入った。

「幸先いいな」

 ランタンの追加取得が可能なのか、調べるために僕たちは四十二層に潜っていた。

 そしてカークスを狩る。

 因みに本日はフライングボードでカークスの集落までショートカットしている。

 そして小一時間程、戦闘を繰り返して、欠片を八個揃えた。が、それ以上は出なかった。

「数量限定か!」

 明日、揃わなかったときのことを考えると聖堂には行かずに、ボス狩りに向かってもよかったのだが、それでもし明日、聖堂まで行って無駄足になったらと思うと……

「行くしかないか」

 検証は大事だ。

 僕たちは先日のルートをなぞる。二回目ともなるとイフリートの尻尾もかわいいものである。

 火蟻を倒し横穴に。

 ルートが分かってしまえば、こんなものだな。

 人工の通路をひたすら下る。

 そして青白い炎が湧き上がる噴水が如き、聖火台。

 心地よい音色。

「ナナーナ!」

「二個目、手に入った!」

 やってる本人が言うのもなんだが、無理だと思ってた。

「ハードル下げ過ぎじゃないか?」

 ゲートキーパーの温情に不安が募る。

「取り敢えず、魔石を交換してイフリートの姿を拝みに行くか」

「ナーナ!」

「おー」

 さてここからは再び未知の領域。

 手前の洞窟を戻りながら別の分岐を探す。

 敵はランタンの炎を恐れて出てこないので退屈至極。

 ヘモジはランタンの魔石を外してしまった。

 が、それでも敵の登場は次の段階まで待たなければならなかった。



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