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クーの迷宮(地下42階 ウィンディゴ戦)思いがけない宝物

遅れました。m(_ _)m

「この辺りだが……」

 予定コースとは真逆に進んだ。ゴールが遠のいていくが、止むを得ない。これも乗りかかった船だ。

 狼の縄張りを突っ切ることになって、応戦しながらの移動となった。

 魔法が飛び交う、飛び交う。

 結界で吹雪を遠ざけつつ、近付いてきた者を順番に仕留めていく。

「後でやるか、先にやるかの違いだしな」

 それでも巨人の足跡は埋まっていく。

 巣に到達してしまった。が、狼の群れは未だ健在。

「もう一体、出てきた!」

 巣からウィンディゴの雌が出てきた。

 狼はウィンディゴにも襲い掛かった。

「あらら」

 子供たちの手が一瞬、止まる。

「気を抜くな!」

 トーニオの怒声が飛ぶ。

 取り敢えず、向かってくる敵を最優先。ウィンディゴはヘモジが見張ることに。

 一方的に数を減らす『髭狼』。

「そっち行ったぞ」

 雑魚敵、残り四体。

 が、『髭狼』は全滅を前に逃げ出した。

「あ、逃げた!」

 時を同じくしてウィンディゴが吠えた。

 ウィンディゴ戦開始である。

 が、ヘモジはさりげなーく見張りの地位を退いた。

 子供たちの算段はできていた。

 手の空いた者から順にウィンディゴ戦を想定して、下準備を整えていたのだ。

 子供たちは結界でウィンディゴをその場に押さえつけた。

 ウィンディゴは怒り、拳で結界を二枚一度に破壊した。

 子供たちは一瞬、ドキリとする。

 もう一つの拳がまだ張り直し切れていない残り一枚に。

「突破した!」

 が、内側に別の結界が六枚展開。

 焦り過ぎだ。

「すげー、三枚壊された!」

 子供たちは認識を新たにした。そう、ここは四十二層だ。

 防御担当が本気を出す前に、攻撃担当が本気になった。

「ごめん、拳が邪魔して首を狙えなかった」

 一つ後手を踏むと連鎖するあるある。

 痩せてはいても拳は巨人サイズ。こちらのソリを一撃で破壊するだけの大きさがある。それが目の前に降ってくれば、視界は必然的に狭まる。本来、散開することでそれを未然に防ぐのだが、今回、動ける範囲は狭い。


 魔石の回収をして、中に入る。

「あったけー」

「でも臭い」

 相変わらず壁の一部が煤けている。

「この物件は雨漏りがひどいな」

 と言っても、人の移動の妨げにはならない。

 僕たちは奥に進んだ。

「坂、きついぞ。気を付けろ」

 階段を作りながら下りていく。

「深いね」

 鍾乳洞に繋がった。

 水の澄んだ綺麗な地底湖だ。

「なんか怖いよね」

「ゴーストが出そう」

 僕たちは端を通り過ぎる。

「見付けた!」

 全員がニコロの方を見た。

 そして絶句する。

「宝箱だ……」

 これまたでかいな。

「このサイズのミミックいたら怖いね」

 嫌なこと想像するなよ。

 通例通り、ヘモジが蓋を開ける。

 そして中を見て、全員再び絶句する。

「こんなことあるの?」

「あるんじゃね?」

「これってお宝なの?」

「…… 誰、基準よ」

「石材屋?」

 それはさしたる価値もなさそうなただの石。四角い加工済みのブロックであった。それが宝箱いっぱいに綺麗に積み上げられていた。

「こんなの砂からいくらでもできるんだけどな」

「普通の冒険者、どうやって持ち帰るんだ? これ」

「あっても、別に困らないけど」

 オリエッタが落ちそうなくらい首を伸ばして何かを確認し始めた。

「待って」

 放置しようとその場を離れようとしたら、止められた。

 オリエッタはまだ何かを探している。

 ブロックを一つずつ確認しているわけではあるまいな?

「何かあるの?」

 子供たちも覗き込む。そして『解析』乱発。

 他のパーティーなら迷惑行為である。

「見付けた! 一番底」

 オリエッタにその名を耳打ちされた。

「まじか?」

 オリエッタは大きく頷いた。

「そんなことが…… まさか、この段階で手に入るなんて」

 子供たちを驚かせてやろうと、僕は画策する。

 そして……

「面白いものを見せてやろう」

「何?」

「何?」

 興味津々の子供たちの視線を捕まえた。

「まあ見てな」

 僕はブロックを上から一つ捨て、二つ捨て、時間を掛けて排除していく。

 子供たちは足場を増やして宝箱の縁から覗き込む。

「これ捨てちゃうの?」

「いや、また使うから、落とさないでくれよ」

 ブロックは放り投げないで足元に積み上げておく。

 二十個程、排除したときだった。

 宝箱いっぱいに積み上げられたブロックがゆっくりゆっくり迫り上がってきたのだった。

「動いた!」

「持ち上がってきた!」

「なんで?」

「どうなってるの!」

「ブロックがこぼれ落ちないように周りを固めてくれるか」

「固めるの?」

「そうだ、早く」

「?」

 僕は見本を見せた。

 全体が崩れないように、外側に面するブロックを、迫り上がってくるタイミングに合わせて、固めていった。

 子供たちは四方に散って同じことをしてくれた。

 そして一つの大きな箱になったブロックの塊はどんどん上昇し続けて、ようやく目的の底が見えた。

「底の石だけ違う!」

「これ何の石?」

「解析できないよ!」

「飛行石だ」

「え?」

 子供たちは固まった。

「飛行石って、存在する物なの?」

「大戦の頃に使われたって聞いたけど……」

 あっちの世界じゃ普通に使われてる。法外な値段だけどな。

「ちょっとみんなで押えてろ」

 空気より軽い物を押えるのは容易い。

 その間に僕はブロックの底面に、側面から頭を出すような形でブロックを貼っていく。

 四面に四つ付けただけで、上昇は下降に転じた。

 落ちてきた塊は宝箱の縁に引っ掛かってその場に鎮座した。


「このブロックは飛行石が浮かないようにするための重石だったんだ」

「すげーっ!」

「よくわかったね。オリエッタちゃん」

 今になって感動する子供たち。

「今なら重さのバランスが取れてるから、動くぞ」

「動かしていい?」

「横転させるなよ」

 それは風船のようにふわふわ動いた。

 若干重いのでゆっくり傾いていくが、子供の力でもすぐ持ち上がるのですぐ元の位置に。

「すげー」

 なぜか小声で感嘆した。

「神様…… いや、ゲートキーパーに感謝だ」

 これで開発中のガーディアンの懸念事項は一気に払拭しただけでなく、更なる過剰積載すら可能にした。さすがに船に投入しても焼け石に水だが。

「早く帰りたくなってきた」

「師匠ーッ!」


 塊のまま倉庫に転送して、探索を再開した。話題は飛行石一色。当然子供たちにも分け前はあるわけで、僕が差額を払うことになる。

 彼らのガーディアンにも恩恵を与えることでけりが付いた。

「装甲分厚くする?」

「『補助推進』欲しい」

「武器よ。武器。師匠のロングレンジライフル」

「複座にしようよ。複座に」

 まあ、好きにやってくれ。

 そして最深部で見付けた魔法陣を破壊する。

 先に狼を壊滅させているので、何の障害もなく脱出完了。

 青空が出迎えた。

「じゃあ、また彷徨うか」

「嵐のなかに突入だーッ」

 子供たちが無駄に元気になった。



 タッキングするかのように進行方向を変え、予定していた方角に向かった。

 すっかりソリの上での時間の使い方に慣れてきたな。

 幼児は昼寝。年長者は屋根の上で干し肉をかじりながら見張りである。

 ヘモジもオリエッタも欠伸が絶えない。

 ここが海なら釣り糸でも垂らすのだろうが。


 青空と灰色の空の境目を通過する。

 途端に吹雪き始め、温度がガクンと下がる。

 そして風が強まり、あっという間に視界が狭まる。

「緊張感を維持するにはこの方がいいだろけど」

 熱い飲み物が欲しくなったので、雪を溶かして湯を沸かして貰った。

 そして全員に熱いお茶が振る舞われた。

「そろそろ終わりにしたいもんだね」

 距離的に言っても次が最後だ。出口が移動してなければ。

 そして念願の――

 その前に。

「ウィンディゴ発見!」

 相変わらず足が速い。

 が、さすがに子供たちも慣れた。当初の焦りはもうない。

 結界さえしっかり張っていれば、どの方角から襲われても恐るるに足らずと知れば、腰も据わる。

 吹雪く闇のなかでもしっかり反応が追えていれば。

 出会い頭の一撃で沈めることも可能だ。

「あちゃー。これ大サイズないよ」

「いいよ、もう。早く帰りたい」

 おー、我が代弁者よ。

「最後までしっかりやりなさいよ。修行なんだから」

 も、申し訳ない。

 女の子はしっかりしてるな。

 オリエッタがプククと笑う。

 こら、心を読むな。

「狼に注意しろ。足跡を追え」

 全員が目を皿にして周囲を警戒する。

 そして飽きずにやってくる狼集団。でも、数が寂しいな。

「向こうも嫌になったんじゃないの?」

「晴れてからが大変だってことでしょう」

「でも、ゴールだったら戦わないよな」

「これ、乗り捨てるの?」

「折角造ったのに」

 天井を見上げる。

「戻ったら、同じような物をまた造ればいいだろう」

「置いておく場所なんてないぞ」

「師匠の船のなかに置いておけばいいよ。何も入ってないし」

 勝手なことを。

「おー」

「それ採用、決定!」

 おい、こら。

「学校のみんなともあっちこっち行けるようになるね」

「遠足行こうぜ、遠足」

「北の滝にピクニックってどうかな?」

「行きたーい」

「じゃあさ、じゃあさ。飛行石もくっつけちゃおうよ」

「ガーディアンはどうすんだよ」

「うー、悩ましー」

「頼むから自重してくれよ」

「はーい」

「わかってるって」

 そろそろ『地獄の業火』が必要になるかも知れないな。


 辿り着いた場所は先日見た物と同じだった。

 荷物をすべて持っていくか、置いていくかで意見が分れたが、正解だった場合、魔法陣はなく環境変化もないはずだから現状と変わらないはずだと意見すると、環境がこのままなら戻ってくる意味はないと判断された。狼の残党とも戦わないといけないし。

 というわけで。使わなくなった食器類などは倉庫に転送。身軽になった。

「じゃあ、突入だ」

「中も一緒だな」

 同居人の襲撃がないだけで、さしたる変化はない。


「……」

 見慣れた階段が現れた。

 僕たちはほっと胸を撫で下ろした。

 考察。地形に変化なし。ただしウィンディゴが住み着く洞穴は日によってランダムな可能性あり。

 飛行石の宝箱は固定なのか、どうなのか。恐らく『解錠』は最高難易度だったりするだろうから、おいそれとは発見されないだろうが、ラーラみたいに箱ごと切るような輩もいることだし。

 どうだろう。ゴールドラッシュがこのフロアでも起きるだろうか?



「うわっ」

「暑い」

「肌が焼ける」

「重い」

 白亜のゲート前広場に転送してきた子供たちはダレた。

「雪が恋しい」

「倉庫に寄って帰るぞ」

「ふぁーい」



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