クーの迷宮(地下42階 ウィンディゴ戦)子供たち、雪原で憩う
再び風が強くなってきた。
例のパーティーは追い付いてきたのか? マップが広過ぎて把握できない。
目下の疑問は巣穴の位置が毎回変わっているかも知れないということ。
つまり出口も固定されていない可能性がある。
「そんなことってあるの?」
「未だかつてないな」
「じゃあ、ないんじゃない?」
「だとすると、直接向かっても?」
「どうなのかな…… 巣穴の位置がズレたのか、あるいは……」
安易に結論に飛びつけない。
「地形自体は変わっていないのかな?」
僕は顔を上げた。
「巣穴は発見されてないだけで、まだたくさんあるのかもしれない。じゃなかったら、リセットされるごとに候補地がランダムに変化するとか」
「確かめる?」
地図情報を睨みながら、現在値を割り出す。
『浮遊魔法陣』の出力と経過時間、向きを変える度にメモしてきた角度を換算して、大まかに現在地を予測する。
「このまま行くか。それとも第二ポイントまで戻ってみるか……」
「第二ポイントは活動エリアの隅っこだから、わかり易いんだよね?」
子供たちも僕の手元を覗き込む。
「問題は出口が固定されてるか、どうかなんでしょう? だったらこのまま進んだ方がいいんじゃない?」
「でも距離あるよ?」
「どの道、行かなきゃいけないんじゃないの。辿り着けば、地形が変わってるかどうかもわかるじゃない」
ニコレッタが煮え切らない男子の意見を振り切った。
「この先にもまだ見付けてない巣穴があるかもしれないしな」
要はイベントが少なくて味気ない結果になるかもしれないから、それがつまらないのだ。
「でもどうやって見付けるの?」
「ウィンディゴがこっちを見付けてくれるだろう」
「じゃあ、このまま進んでいいな?」
「方角、合ってる?」
「大体な」
僕たちは前回直進して突き当たりを右に折れたコースを、曲がったついでに斜めに突っ切ることにした。
「ホットミルク、おいしー」
部屋のなかに配置した指定席をすべて取っ払い、床を一段掘り下げて椅子代わりにし、宝箱からよせばいいのに回収してきた毛皮を敷き詰めて、直に座り込んだ。
お前ら、これ後でポイするんだぞ。
「これ、帰っても使えるから、改造しようぜ」
ヴィートが言った。
「窓おっきくしたい」
マリーが話に乗っかった。
「倉庫に入る?」
「余裕じゃん」
「でも外に出せないよね」
「……」
「エレベーターに乗らないし」
「じゃあさ、木製にして水に浮かべる?」
「そこまでして欲しいか?」
熱いミルクより熱い熱弁が交わされた。
が、じゃんけんに負けた者は寒空で吹雪をずっと睨んでいた。
「交替の時間だよ」
ミケーレが階段下に設けられた風除けの扉を開けた。
子供たちは現実に引き戻された。
「次、誰だ?」
「俺だ」
「わたしね」
ジョバンニとフィオリーナがミケーレとニコロと入れ替わりに階段を上っていった。
「魔石、半分です」
トーニオが教えてくれた。
「三分の一を切ったら交換しよう」
「はい」
操作棒はトーニオが握っている。
「なかなか抜けないね」
カテリーナがミルクを皿に入れて、窓からずっと外を眺めるオリエッタに話し掛ける。
冷めたミルクを温め直して貰ってオリエッタはご満悦だ。表面に浮いた膜を舌でよけながらペロペロ舐める。
この吹雪は装置を止めない限り消えることはない。逆説的に言うならば、天候が悪い所には稼働している装置があるということ。そしてウィンディゴのテリトリーであるということ。
身体が温まって、瞼が重くなってきた子供たちを横目に、オリエッタは首を掻く振りをして僕に知らせてきた。
僕は頷いた。が、子供たちはまだ気付かない。
この悪天候のなか、この距離で気付けたら、一人前なのだが。
「敵が来たわよ」
一拍遅れて、お声が掛かった。
子供たちが跳ね起きた。
「戦闘準備!」
トーニオは船を止め、子供たちと一緒に階段を駆け上がる。
「お姉ちゃん、どこ?」
「あっちよ!」
「見付けた!」
二度目の不手際はない。
子供たちは先手を打って、結界を張り巡らせた。
僕は自分の結界範囲を小さくして、子供たちに任せた。
巨人の一歩は恐ろしい威圧感を纏っている。
子供たちは奥歯を噛みしめ、恐怖と対峙する。
ファーストコンタクト!
結界にぶち当たって、足が止まった。
子供たちは叫び、段取り通り魔法を放った。
大きな首が雪の上に沈んだ。
棒立ちになった身体がゆっくり前のめりに倒れる。
ズズン。雪煙が舞い上がる。
ジョバンニが雪の上に飛び下りたら身体が全部沈んだ。
「だ、駄目だ。こりゃ」
飛び降りるからだ。
ウィンディゴがやってきた方角を忘れないために、ソリの向きを進行方向に向けておく。
子供たちは柔らかい雪上を歩く算段を楽しみながら、時間を潰した。
「やっぱり、かんじきかな」
ヴィートやニコロは造形して接地面を増やした氷の靴をブーツの上から履いて、がに股で歩く。
「凍らせればいいじゃん」
マリーたちは足元を凍らせ、その上をスイーと滑るが、雪と氷の境界線で見事に転んだ。
薄氷が割れて、足を取られたようだ。
「こら、遊ばない!」
ニコレッタに助け起こされる。
「魔石になったよー」
「見りゃわかるって」
ミケーレの言葉にニコロが憎まれ口を叩く。
「おおっ?」
僕とヘモジとオリエッタは屋根の上で様子を窺いながら微笑んだ。
「魔石(大)だ!」
子供たちが魔石を取り囲む。
「痩せてるのに……」
「おっきいの落とすんだね」
「やっぱりあの速さは…… 『身体強化』だったのか」
首を落としても大サイズが出たのは運の要素が強い。
「ナナーナ」
ヘモジが声を掛ける。
「移動するぞ。早く乗り込め。狼が来るぞ」
トーニオが年少組の尻を叩いた。
「全員、乗り込みました」
「落ちるなよ」
僕たちは足跡と追いかけっこを再開した。
狼たちは遅刻していた。
「今度は一直線だ」
引き離すことにした。
再び巣穴を発見する。
が、今度の入口は大雪をくり抜いた洞の先にあった。子供たちは興味津々で大きな雪の洞穴を進んだ。
そしてようやく土でできた入口に行き着き、後はお決まりの繰り返し。
今回は宝箱もなく、すぐ出られた。
が、雪の洞の出口を狼たちに完全包囲された。
「冷たッ!」
雲が晴れたせいで、出口付近の天井が溶けて大粒の雫が降ってきた。
ポタポタと煩わしいので、再凍結してやる。
「過去、最多だな」
今まではばらけていた一団が、今回は一堂に会していた。
「参ったね、こりゃ」
ジョバンニは手のひらに炎を宿す。
「魔石は放棄する!」
トーニオは早々に宣言した。
使う機会が滅多にない炎系中級魔法『爆炎』が立て続けに敵の一団に叩き込まれた。
さながら温度の低い『地獄の業火』のようであった。
あっという間に『髭狼』は数を減らし、弱った残党も血祭りに上げた。
「ナーナ……」
「見事過ぎる」
「小さい敵には強気だよね」
ヘモジもオリエッタも絶句する。
『髭狼』は小さくないけどな。ウィンディゴが大きいからそう感じるだけだ。
手に入らなくても気にしないと宣言はしたが、手に入る物まで無駄にしようとは思っていない。
魔石の回収をしている間、僕は地図情報を更新する。
地図が機能しないとなれば、緻密な記載も意味を成さないことになるが、それを推し量るためにもまず正確なデーターを揃えておかなければならない。
暗算でできる程度の大雑把なものであるが、オリエッタの助言のおかげで、余所に出しても恥ずかしくない物には大抵なっている。
昼までに巣をもう一つ見付けた。
これも前回とは異なる位置にあった。
奥も浅く、狼の襲撃も散発的だった。だからというわけではないが、宝箱は見付からなかった。
「お腹空いた」
簡単に終ると思っていたので、簡単な物しか持ってきていなかった。
「いくら僕でもこの距離は転移させられないからな」
「非常食でいいよ」
「お昼帰れないかもって、言ってきたもんね」
それでも夫人には準備して貰っているわけで。
「日当たりのいい場所で食べましょう」
とは言え何もない真っ平らな雪原。
遠景の例の山を目印に、方角だけはしっかり定めて陣を張る。
屋根に毛皮を持ち込み、ひなたぼっこしながらの食事。
強めの日差しに、心地よい風。
「これでご飯が豪華ならな」
「それは言わない」
硬めのパンと腸詰め。おやつはフルーツ缶詰だ。
いつものように石を綺麗にスライスした物を鉄板代わりに。それを中心に円陣を組みながら、腸詰めを焼いていく。
「師匠、後どんくらい?」
「出口が前回と同じなら後二割ってところかな」
「すぐだね」
先日よりジグザグに進んでいるが、目的の出口には間違いなく近付いている。
「あっち吹雪いてるし」
腸詰めのプチプチした皮の食感を楽しみながら、子供たちはパンを頬張る。
温かいヘモジ特製コンソメスープが額に汗を掻かせた。
「冷たいのない?」
「いっぱいあるわよ」
ニコレッタが手摺りの外を指差す。
「……」
「さあ、デザートにしましょうか」




