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クーの迷宮(地下42階 ウィンディゴ戦)子供たち、雪原を行く

 帰宅した僕たちはランタンを家の吹き抜け中央に設置した。

 青い炎は大伯母が周囲に色ガラスフードをかぶせて落ち着いた色に変えた。

 照明代が一気に浮くことになった。

「中庭や入り江にも欲しいな」

 これって繰り返し拾えるものなのか?

 試しにやってこいということになった。エルーダと違って、発動条件が破片集めなら可能かもしれないとのこと。

 都合のいい解釈だ。

 僕たちが付き添わない形でなら、九分九厘間違いないだろうから、子供たちが聖堂を拝むのはそのときでいいだろう。

 あいつらの驚く顔が見られないのは残念だが。

 ラーラや大伯母たちはあれから攻略が進んでいないので、だいぶ先のことになるだろうけど。

 明日は子供たちと雪原探索なので、都合のいい解釈に付き合うのはその翌日だ。

 ルートは既に押えたので、問題がなければ半日もあれば事は済むだろう。

 それから正解ルートに向かい、イフリートを倒しても遅くはなるまい。

「都合のいい結果になればいいな」と、納戸の前でわやわやしている子供たちの笑顔を見て思う。


「師匠。冬装備これでいい?」

「ちゃんと付与掛かってるか?」

「うん、多分」

「凍傷になるから、気を抜くなよ」

「ふぁーい」

 自分で装備付与する練習だ。

 魔法陣はいつもの如く、大伯母が訓練用に用意した物だ。

 耐寒仕様の結界を張りながら、あれもこれもはまだ無理だから、装備に頼ることにした。

「これ、どういう意味」

 優しい公式なのだが。

「それはね」

 年少組にはまだちとつらかったか。

 取り敢えず全員分の寒冷仕様装備は整った。

 大概の付与はドラゴン装備で間に合っているので、後は完璧を期すためのテコ入れ程度であるが、今回は宝飾品に頼らず、見た目重視のモコモコサーコートとロングマントである。

 付与は付かないが、厚手の肌着も用意してある。

 むっちゃかわいい。ちびっ子戦士だ。

 夫人とお姉さんズがにやけている。

「指輪一つで済むことを……」

「おもちゃにされてるし……」

 お前もな。

 オリエッタもモコモコ帽子を被らされていた。

 ヘモジは自前の角の生えた兜と、モコモコ毛皮の外套とブーツ姿で対抗する。

「勇ましいはずの姿が…… 哀れなほど愛らしい」



 翌日。勇んでやってきた雪原暴風地帯。

 今日も遠慮なく吹雪いていた。

「全然見えないよ」

 子供たちの言うとおり。先日より雲が厚く、暗かった。

 悪天候にも善し悪しがあるのだろう。

 洞穴内の床が荒れていたので、別パーティーが出た後だとわかった。

「まずいな……」

 もし先にウィンディゴを倒されると、巣穴の位置がわからなくなる。マップが広い故に、わずかな方向調整のミスが命取りである。

 先回りしたいところであるが……

 外に彼らの足跡はなし。

 フライングボードを使った模様。

「まず乗り物、造らないとな」

 急がば回れ。子供たちと一緒に安全地帯で工作を始める。

 子供たちはモコモコだ。

「寒さ対策の結界はしなくていいか?」

「顔、冷たいから」

 年少組が懇願するが、いずれ火照ってくれば、厚着すら脱ぎたくなるだろう。

 ちゃんと付与できていたらな。

「それにしても…… 豪華になったな」

 さすがマンパワー。

「ちゃんと中抜きして軽くしたんだよ」

 ニコロとミケーレが胸を張る。

 全席指定。天井へ上がるための手摺り付き階段あり。前回の反省から長距離移動を鑑み、操作棒を固定するフックも設置した。調整は動かしながら場当たり的に。

「出発進行!」

「うへー、寒ーッ」

 男子は誰も指定席に座らず、震えていても天井に上がっていった。

「上に座席、造った方がよかったんじゃないか?」

「出発する」

 オリエッタが正面の窓枠の段差に座った。

「ナナーナ!」

 天井で見張りをしていたヘモジが叫んだ。

「やばい!」

 オリエッタも身を乗り出す。

「……」

 風がやんだ。

 そして吹雪の勢いも。

 雲が晴れ、斜光がその隙間から差し込んでくる。

 キラキラと輝く雪原。

 感嘆の溜め息を漏らす子供たちを余所に、僕たち三人は焦った。

「どこだ!」

 地図を見ながら、おおよその当たりを付ける。

 僕は舵を切る。出力最大。

 このままではウィンディゴの巣穴を見失う可能性がある。

 先を行くパーティーが足跡を追い掛けてくれていればいいが。

 そこまで詳しくギルドに報告は上げていない。

「見付けた!」

 冒険者の反応だ。

「追い掛けてるか?」

「止まってる。魔石の回収してるかも」

 やっぱりか。まともな冒険者ならウィンディゴ程の大きな魔物の魔石を放置しておくはずがない。

 まあ、回収してからでも、ウィンディゴがきた方角をしっかり覚えていれば挽回もできるが。

 猶予はあまりない。

「追い越すぞ」

 冒険者パーティーを横目に、ウィンディゴの足跡を僕たちは追い掛けた。

「狼、接近」

「何あれー?」

「あれじゃない。近付いてくるようならぶっ飛ばせ!」

「魔石回収しないんだよね?」

「しない」

「じゃあ、いいや」

 完全に観光になってる……

「雪って、いっぱいあると綺麗だねー」

「眩しくて目、開けてらんないよ」

「寒いのに砂漠みたいだね」

 足跡が大きく迂回した。

「なんだ?」

 突然足跡のコースが左に旋回した。

「前回と違う?」

「大変だ」

 女子が窓辺に身を寄せる。

「ナナーナ!」

「そうなの?」

 天井の上の観察班も、ヘモジから知らされたようだ。

「足跡見失うなよ!」

 トーニオの号令が聞こえた。

 足跡は凹凸のある場所をジグザグに進んでいく。

「彷徨っているわけではなさそうだ」

 こちらは浮いているので高度を上げるだけで済んでいるが。足跡を見失いがちだ。

「水の音がする」

 オリエッタが耳をばたつかせる。索敵の邪魔になると帽子は着けてこなかった。

「洞穴発見!」

 天井からヴィートの声だ。

「ウィンディゴ、生きてるのいるよ!」

「やばっ、近付き過ぎた!」

 前回もそうだったが、巣穴近くでは魔力反応が薄い。

 恐らく巨大装置を隠しておくための仕掛けが影響しているのだろう。ウィンディゴがその環境を利用しているとも言える。

 彼らの足は驚く程早い。

 子供たちがもたついている間に、既に射程圏に。

 女子も天井に上がっていく。

 男子は結界で進行を押さえ込んだ。

「何やってんのよ」

 女子の罵声が飛ぶ。

「あいつ足はえーんだよ」

「そんなの、情報にあったでしょ。対処しなさいよ」

「だからやってる!」

 こちらは天板から移動できない。が、敵は変幻自在。雪の凹凸をうまく利用して隠れては、岩を放り投げてくる。

 ソリを大きく旋回させる。

「放てーッ!」

 姿が見えた瞬間、大火力が投じられた。


「お前ら、後先考えてねーな」

 白い雪原が土砂ごと吹き飛んで、白と茶色の入り交じった大穴が空いていた。

「死体はどこ行った?」

「魔力反応はないね」

「ナーナ」

 初戦はこんなもんだ。

「魔石は拾得できずか」

 水の魔石(大)の回収はお預けになった。

 あの細身から大サイズが取れたときの驚いた顔が見たかったんだけどな。

 やはり初見であの足の速さは脅威だったか。

 頭の上では早速、反省会が行なわれていた。

 僕はソリを巣穴に横付ける。

「三体目がいないとも限らないから用心しろよ」

 全員ソリから降りた。

 相変わらず間口の広い穴だな。ウィンディゴが出入りするんだから文句言ってもしょうがない。


「あったけー」

「でも臭い」

 前回の僕たちと同じこと言ってるな、と思わず笑ってしまった。

 奥に行くに従い洞穴は狭まっていき、ウィンディゴの手が届かぬエリアに達する。

「あーっ!」

「宝箱、見つけたー」

「うわっ、でけーっ」

 子供たちが口をあんぐりさせる。

「ヘモジちゃん。お願い」

「ナナーナ」

 ヘモジのために子供たちが段差を拵える。ヘモジはトントンと跳ねるようにステップを上がって行く。

 カチッっと大きな音がした。

「ナナーナー」

 子供たちが一斉に駆け上がった。そして……

「蓋、重っ!」

 ヴィートが持ち上げようとしてもビクともしなかった。

 ヘモジが持ち上げたところに、棒切れを差し込み、ずらして蓋を床に落とした。

「……」

「こないだ持って帰ってきたの…… これか」

 そうだ。綺麗ななめし革とかな。

「なんか入ってる」

 暖房付与付きの野営用テントである。

宝箱から外に出すのも面倒なので、そのまま転送した。

 そこまではよかったのである。


 まさかこの段になって、苦労することになろうとは。

 洞窟の行き着く先が、想像していたより遠かったのだ。

「おかしい」

 洞穴に突入して、既に十分。未だ先は見えない。

「道、途切れてるし」

 突然足場を失った。その代わりに縦穴が。

 昨日、尻尾に出会った縦穴を思い出す。そこまで大きくはなかったが。

 明かりを差すと、すぐ下に足場と横穴が。

 ほっと胸を撫で下ろす。

 全員、拵えた階段を使って下り、横穴に明かりを放り込んだ。

「ようやくか」

 巨大な魔法陣を発見した。

 ヘモジが動力源のギミックを破壊した。

「終った?」

「戻るぞ」

「でかい魔法陣だったな」

「大きかったね」

 ジョバンニとヴィートがそそくさと先を行った。

「町の結界障壁もこんな感じ?」

 マリーが聞いてくる。

「さすがにここまで大きくないよ」

「半分ぐらい?」

「二十分の一ぐらいかな」

 下りてきた段差を上り、長い洞穴を戻ると反応が!

「『髭狼』!」

 トーニオが身構える。

 真っ赤な目が六個ばかりこちらを見据えていた。

「入り込まれたか!」

 連戦に次ぐ連戦になった。

 が、この手の相手は子供たちも慣れっこだ。

 洞窟も狭いから回り込まれる心配もない。

 子供たちの連携が面白いように決まった。

 まったく敵を寄せ付けない手際の良さ。先のウィンディゴ戦はなんだったのかという出来栄えだった。


 魔石を適当に回収しつつ、僕たちは外に出た。

 みんなうめきながら背伸びする。

「あー、疲れたー」

「うーん。いい天気」

「雪、晴れたね?」

 周りには累累たる屍の山。

「回収したら先行くぞ」

「はーい」



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― 新着の感想 ―
[一言] エルーダの時は、あの大叔母が当時の最高装備を身に着けてすら、エルネスト抜きではごく短時間しか持たなかった聖堂の熱さ問題・・・リオネッロの杖にエルネストのそれと同じような能力があって対処できて…
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