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クーの迷宮(地下43階 イフリート戦)新ウェスタのランタン

 洞窟を出て目の前のルートに沿って進もうとしたとき、音が小さくなった気がした。

「待て」

「ナナ?」

 進んでは戻ってを数回繰り返して確認した。

「小さくなった」

 だが、そうなると気になるのが、この先の進路である。見たところ脇道はない。戻れば洞窟だ。

「進むしかないよな……」

 僕たちは音が小さくなる方に進んだ。

「トカゲ!」

「……」

「襲ってくる気配ないな」

 近付くと逃げていく。

 道は一つの禿山を回り込みながら標高を上げていく。

 音がいよいよ聞き取りにくくなってきた。

 裏手に回った所で忽然と現れたのが洞窟。

「外を進むルートはどこだ?」

 道は洞窟に向かって一直線。脇道はない。道をそれたら谷底に真っ逆さまだ。

 どこかでルートを間違えたか? 

 来た道を振り返る。

 ヘモジもオリエッタも脇道はなかったと断言する。

 もう進むしかない!

「今日はクリアが目的じゃないからな」

 洞窟に踏み込んだ途端、ランタンの音が大きくなった。

 が、道はいきなり途切れた。

「……」

 巨大な縦穴に架かっていたであろう天然の架け橋がごっそり抜け落ちているのだった。

 足元の奈落の底は見えない。

 光の玉を落としてみた。

「ナー?」

 周囲を照らしながら明かりはゆっくり落ちていく。が、それもどんどん暗くなる。

「……」

 やっと弾けて消えた。

「深ッ!」

「ナナーナ!」

 落ちたら死ぬ。

 皆、転移結晶を身に付けているので問題ないが。

「下に降りろというのか? それとも渡れというのか?」

 考えあぐねていたら、周囲が小刻みに揺れ始めた。

「嘘ッ。このタイミングで?」

 ヘモジが僕の肩に飛び乗った。

 いきなり進入禁止エリアが発生して、背後の入口が塞がれた。

「ちょっ! このわずかな足場でどうしろと」

 崩れた足場は一パーティーが乗るのがやっとの広さだ。

 上から剥がれた土砂が降ってきた。

 僕たちは足元が崩れないことを願いながら、防御を固める。

 そこへ予想外の大きな横揺れ!

 咄嗟に足下を軟化させ、足を固定した。腕も一本、床に突っ込んだ。

 ふたりも肩の上で必死に耐えた。

「オリエッタ、遠慮せずに爪を立てろ!」


 なんとか耐え切った。

「奈落に落とされるかと思った」

 別の衝撃が山全体を襲った。

 明らかに地震の類いではない。明確な衝撃だ。

 天井から土砂が降ってきた。

 うつむいた先の足元が急に日の光に照らされる。

 大きな土石の塊が目の前を通り過ぎた。

 奈落に落ちていく。

 何かが山の頂にぶつかって、天井に大穴が空いたようだ。

「!」

 尻尾が見えた。

 ヘモジもオリエッタも口をあんぐり。

「見た?」

「ナーナ」

「あれだな」

「ふんふん」

 オリエッタが何度も大きく頷く。

「ナナーナッ!」

 ヘモジの晴れやかな顔。

「イフリート来たーっ!」

 進入禁止エリアが解除されていた。

 僕たちは外に飛び出した。

 が、時既に遅し。飛び去った後だった。

『認識』スキルに反応しないので、顔合わせというか、尻尾合わせだったと思われる。

 地形ががらりと変わっていた。

「地獄だな」

 癇癪でも起こしたか?

 世界が益々炎上していた。

「道、消えた」

 代わりに崩れた土砂と残骸で新しいルートができ上がっている。

 ランタンの音色が場の空気を無視して心地よく響き渡った。

「子供たちに見せたらはしゃぐだろうな」

 新しくできたルートは下へと向かっていた。大穴を弧を描くように回り込み向こう岸に。そしてさらに瓦礫でできた坂をひたすら奈落に向かって下りる。

 奈落の底に降り立ったそのとき、急に大量の魔力反応が!

「ここで火蟻か!」

 地震に驚いたのか、壁をぶち破り、ゾロゾロと。

「これは当たりかもしれない」

 僕は気合いを込めた。

 そして『衝撃波』を全方位に放った。

 第一陣は殲滅。

 まだまだ第二陣が這い出してくる。

「ナナナ!」

「はい、行ってらっしゃい」

 ヘモジが飛び出した。

 結界ラインギリギリでへばりつく蟻共を蹴散らした。

「『雷撃』」

 雷を団体に放つと、巻き込み事故が発生し始めた。

 第三陣、四陣……

「ちょっとどうなってる?」

「いつまでも湧き続けたりして」

 結界を張ったまま周囲を偵察。逃げ込める横穴探し。

 あれも違う、これも違う。

 人の背よりも高い位置にあるあの穴。

 僕たちは穴の下に移動して、頭上の穴を調べることにした。

 オリエッタでも乗り移れないか。

 足場を拵えて、そこをオリエッタが駆け上がる。

「明かり、明かり!」

 これまでとは明らかに違う反応。

「人工物だ!」

 正解ルートを発見した!

 穴の先、四方を煉瓦が囲っていた。

 僕たちは穴に入ると足場を崩した。そして『衝撃波』を放って一掃すると、急いで穴の奥へと進んだ。


「……」

「追い掛けてこないね」

「ナーナ」

 ランタンの音色は益々大きくなる。光も強くなった気がする。

 奈落の底をさらに果てしなく潜る。

 壁には人工の明かり。光の魔石が燭台に載っている。


 通路の天井がどんどん高くなり、道幅も広くなってくる。

 そしていよいよ。

 青く輝く清浄な地に至る。

 無数の柱が生えた広間の中央に涼やかな噴水がある。

 噴水には水の流れの代わりに青い炎が湧き上がっていた。

「なぞなぞは?」

 探せどもレリーフの類いは見当たらない。

 パズル要素があったエリアの地図彫刻もない。

「もしかして近付けたら終わり?」

 ランタンを中央の青い炎に近付けた。

「?」

 音色がやんだ。

 ボッ。小さな種火がランタンの芯の先に着いた。

 空から得も言われぬ心地よい音色が降ってくる。聞いたことのない楽器の音色。

「子供たちも連れてきてやりたくなるな」

 遅ればせながら、ここらで休憩を取る。

 リュックから飲み物とクッキーを取り出す。環境が環境なので本日は傷み易い素材は避けた。リュックの保存性能を疑っているわけではないが、念のため。

「ナー」

「ほっとする」

 クッキーの甘さが…… 幸せだ。



 探索を再開する。

 今回、聖堂に小難しい仕掛けはなかった。正解ルートのヒントの類いも。その辺の難易度は下げられたのかもしれない。何せエルーダで攻略したのは爺ちゃんたちだけなのだ。

 綺麗な景色はみんなにも見て貰いたいものだし。

「無敵のランタン。無敵のランタン」

「ナナナナ、ナーナ。ナナナナ、ナーナ」

 ランタンを手に、来た道を帰る。

 ランタンの明かりのおかげで周囲を魔法で照らす必要がなくなった。

「ナナ?」

 突然真っ暗になった。

「なんで消えた?」

 ランタンのなかでコロコロ音がした。

 ヘモジがランタンをまさぐると…… パカッと蓋が取れた。

「壊れた?」

「ナァー?」

 コロコロ言っていた原因は台座に嵌まっていた魔石だった。それが外れたのだった。

「えーと……」

「これは?」

「『ウェスタのランタン』…… レプリカ……」

「なんだってーッ」

「ナーナンナーッ」

「難易度が下がったと思ったら、そういうことだったのかぁあ。ただの魔道具に成り下がるとは……」

「がっくし」

「ナナーナ」

 ついでに新品の火の魔石(中)に入れ替えた。中サイズまでは固定具に嵌まるようだ。

 再び青い炎が灯った。

「これでどれくらい点いてるんだろうな?」

 戦闘中に消えたら目も当てられない。どれくらい当てにできるのか、検討開始である。

 屯していた火蟻の姿はもうない。

 いたところでこのランタンの炎の前ではただの路傍の石だ。

「威力も下がってたりして?」

 本物はチート過ぎたからな。

 帰り道…… はなかった。

「転移結晶必須かよ」

 ひたすら斜面を滑り落ちれば、一つ前の洞窟の所まで戻れそうだが。

 僕たちは転移する。

 敵に遭遇しない。

「駄目だこりゃ」

 このフロアの敵はランタンを警戒しているのか、もう寄ってこない。

「他のフロア行ってみるか?」

 ついでに闇の魔石を集めて帰ることにした。

 闇の魔石を落とす『ジュエルゴーレム』がいる四十階層地下通路に僕たちは転移した。



「ナナナーナ!」

 ランタンをかざすヘモジの前に敵はいなかった。敵はあっという間に砂に返った。

「チート健在だ」

 オリエッタの尻尾も垂れる。

「ナナナナ!」

 ヘモジは無双を満喫しているが。

「魔石の魔力残量大丈夫なのか?」

 ヘモジがなかを覗く。覗いただけじゃわからんだろう?

 オリエッタが応援に行く。

「……」

 オリエッタが僕に無表情を向ける。

「どした?」

「チート健在かもしれない」

 オリエッタ曰く、魔力残量は『ジュエルゴーレム』十体以上、時間にして二十分程経ってもまるで減っていなかったらしい。

「魔石を外せば消えるってことは…… 進化したのかぁああ」

 ヤマダタロウ、何、考えてんだ……


 一通り殲滅して、本日のノルマを終了した。



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