クーの迷宮(地下43階 イフリート戦)欠片探し
「カークス来た!」
「ナーナナー」
ヘモジが突貫していった。
一撃で倒さず、数発受けてから倒した。
「ナーナ」
カークスの装備品を剥ぎ取って戻ってきた。
「ナナーナ」
「なんだこりゃ?」
それはどこかで見たことがあるような、ないような。
「ラッ!」
オリエッタが驚きの余り後ずさった。リュックの蓋を押し潰してバランスを崩し、足を踏み外してぶら下がった。
「落ちるー」
僕はしゃがんでやった。
「どうした?」
「ランタンの欠片!」
「欠片?」
ただの金属片かと思ったが、言われてみれば、このつるつるの金属…… この模様…… 爺ちゃんの家の台所にあったような…… なかったような……
「間違いないのか?」
「『ランタンの欠片』!」
ヘモジが見え易いようにオリエッタの眼前に向けてかざした。
「『伝説のランタンの欠片。集めると奇跡が、てんてんてん』」
「まさか『ウェスタのランタン』を手に入れるために欠片集めが必要だとか?」
僕たちは歩いてきた道程を振り返る。
「ナナーナーナナ!」
「そうだな。ここからは殲滅だ。殲滅あるのみだ!」
「ナナーナッ!」
ヘモジは欠片を放り投げると、準備運動に腰振りダンスを始めた。
「欠片、捨てるな!」
僕とオリエッタは慌てて欠片を拾いに走る。
「馬鹿ヘモジ」
欠片を抱えたオリエッタごと回収して肩に乗せた。
「取り敢えず、通り過ぎてきたカークスの住処を襲撃するぞ」
転移して後戻り。
僕とヘモジは電光石火の如く勢いで巨人の群れを沈めていった。
『無刃剣』『雷撃』『衝撃波』に剣技も交えて、問答無用である。
ヘモジはスーパーモード。勝手に消えて、どこ行ったかわからない。
「回収できない所まで行くんじゃないぞーっ!」
叫ぶも時既に遅し。
「ナーナーナー」
遠くから微かに返事が聞こえた。
「欠片は幾つ集めるんだ?」
「八個。『八分の一』て、書いてあるから」
目の前からカークスの集団が。
『無刃剣』で先頭集団の首を刎ねた。
後続の足が止まった。次の瞬間、僕の剣の切っ先は喉元に。
戦う相手がいなくなったので、屍の山をあさった。
ついでに魔石も回収することに。
「ヘーモジー。生きてるかー」
「ナーナナー」
「あっちだって」
持てない魔石を既に一箇所に集め始めていた。
「お、二個手に入れたか。こっちも二個手に入れたぞ」
欠片はこれでもう五つである。
「嵩張るな……」
ランタンはただでさえ嵩張るわけで、それを八分割されてはね。
頭陀袋に放り込んでリュックのフックに吊した。
先の収束ポイントに戻って、残りはまだ見ぬ相手から回収しようということになった。
「カークス以外からは出ないのかな?」
「さあ」
「ナーナ」
そうこうしていたら洞窟を見付けてしまった。
「うーん」
今度は陸地を行く。
「カークスの団体はいないかな」
頑張って索敵範囲を拡大する。が、それらしき反応はなし。
「トカゲだ」
「あれは出すかな?」
背後に転移したと同時にヘモジが殴り倒した。
「ナナナ」
「持ってなーい」
だろうな。
「集団発見! 多分、蟻」
「確かに」
密集度合いが違う。
「蟻からも出ないかな」
「出たら楽勝」
「ナナーナ」
今のところ見ていない。か、見落としている。
数が数なので、出るならとっくに見付けていたはずだが。
転移して目的の集団前に。
「『氷結烈風』」
広範囲に氷結魔法を展開して一気に凍らせた。
地上部分にいる勢力は精々三分の一。
残りの反応は巣穴のなかからだから、閉じ込めておきたかったのである。
巣穴の入口はしっかり氷で塞いでいる。奴らが横穴を開けるか、溶かすかして這いだしてくる前に……
「ないなーい」
「ナナーナ」
「カラスじゃないんだから光り物を集めたりしないか」
襲ってから気が付くとは。彼らに嗜好品を集める脳みそなどなかったのだ。
「飲み込んでるかも」
「そういう場合どうなの? 引き剥がさないと一緒に消えるんじゃないか?」
「やってみる」
何を?
オリエッタは骸の山をスキルを使って調べ始めた。
が、すぐに首を横に振った。
どうやら飲み込んだ火蟻はいないようだ。
「やっぱり溶けるの早いな」
「ナーナ」
「巣穴から出てこられる前に脱出するぞ」
「魔石は?」
「今日はもう充分過ぎるだろう?」
「勿体ない」
「ナナーナ」
鞄をパンパンにして何言ってやがる。
「ほら行くぞ」
氷の栓を破って最初の一体が出てきたところで、僕たちは転移した。
再び洞窟を発見した。
「うわっ。嫌な所にあるなぁ」
完全に嫌がらせだ。いくら心理的なストレスを与え、正解ルートから遠ざけるためとはいえ……
溶岩の沼の畔。湖面ギリギリの高さに入口がある。
「カークス発見!」
「……」
「……」
ヘモジも黙る。
湖面ギリギリにある洞窟の手前のわずかな岩場に巨人を見付けた。
「この沼、なんか釣れるのか?」
「釣りしてるわけじゃないから」
額に肉球張り手。
お前、その手。煤けた地面を歩いた手じゃないか。
ヘモジを見たら、笑いをこらえているのが見て取れた。
僕は額とオリエッタの手足を浄化した。
「ナナナ」
面白かったじゃないよ。
「さて、念願のカークスだけど。さすがに溶岩のそばまではな…… なるべく安全な場所に引き寄せたいが」
「自然に寄ってくると思う」
「ナナーナ」
「それもそうだな」
全部で五体。こちらを見た途端、最初の一体が雄叫びを上げる。
一斉に駆け出した。
岩を乗り越え、砂地を蹴る。抉られた部分はきっと湖面より低いに違いない。
遠い間合いから勢いに任せて巨大なハンマーが振り下ろされた。
振り切られる前に結界で押さえ込んだ。
そして……
「ナナーナーッ」
腕をへし折り、上段から叩きつぶした。
そして二体目も勢いよく飛び込んできた。但しターゲットは僕からヘモジに。
僕が今度は頭を吹き飛ばした。
ヘモジは口角を上げ、三体目を殴る態勢に入っている。
続け様にやられた味方を見て怖じ気づいた後続は勢いを緩めた。
瞬間、洞窟のある岩肌に叩き付けられていた。
最後の一体が逃げようと踵を返した。がミョルニルのとどめの一撃が振り下ろされた。
叩き付けた反動でヘモジは高く舞い上がる。
「ナァアー」
楽しそうに空中で三回転して、スタッと着地を決めた。
溶岩の塊が餅のように膨れ上がって弾けた。
「……」
「あと半メルテだった」
着地点から溶岩まであと数歩。予想外に飛び過ぎた模様。
血の気が引いたヘモジは逃げ帰ってきた。
「あった!」
オリエッタは欠片を持ち上げた。が、重過ぎて尻餅をついた。
「熱ッ」
飛び跳ねた。
「付与装備がなきゃ、尻焼けてるぞ」
「ナナーナ」
死に掛けたお前が笑うなよ。
ふたり揃って僕の肩の上に退避してきた。
「これで六つ」
僕たちは魔石も回収して目の前の洞窟に入った。
「火蜥蜴だ」
どうやらこの洞窟は火蜥蜴の巣窟らしい。
火を吐かれたら面倒なので、遠距離主体で安全に倒しながら進んでいく。
その前に三人揃って万能薬を舐める。
そろそろ休憩を入れたいところであるが、如何せん環境が悪い。
道は幾つもの分岐に別れていて無駄に歩かされたが、難しい仕掛けはなかった。
入口だけが凶悪なだけだった。
魔物の巣窟になるだけあって、若干過ごし易いかもしれない。
「宝箱見付けた!」
久しぶりの発見だ。というか、このフロアで最初の宝箱である。
宝箱ははずれルートにあることが多いとは言え、今日は運がない。
いつも通りヘモジに任せた。
「…… こ、これは」
「出た!」
「ナナーナッ!」
ランタンの欠片が八個、一気に揃ってしまった。
早速、頭陀袋の中身と新たに手に入れた二つを一まとめにした。
すると欠片がボヤッと輝きだした。
「ナナ?」
ヘモジが欠片と欠片を合わせた。
するとそれは一つに合わさった。
「ナーナッ!」
「なるほど」
立体パズルのピース合わせが始まった。
また一つ、また一つと一塊になっていく。
そして最後の欠片がはまると、それは途端に輝きを増した。
『ウェスタのランタン』の完成であった。但し、炎は宿っていない。
代わりに涼やかな音色が聞こえてきた。キン、キンと涼やかな音がどこからともなく。
頭陀袋をぶら下げていた所にランタンを吊り下げ、僕たちは出口を目指した。
「音が大きくなってく」
「ナナ?」
ふたりはランタンをチラチラ覗き込む。
「こっち?」
分岐を音の鳴る方へ進むと、迷うことなく洞窟の出口に達した。
「これってもしかして」
「聖堂に」
「ナーナ?」
音のする方に聖堂があるに違いないと確信した。
音は距離が離れると聞こえなくなるようで、ヘモジは離れては戻ってを繰り返した。
「敵も寄ってこなくなったな」




