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クーの迷宮(地下42階 ウィンディゴ戦)急転直下、急上昇

「上り坂、向かい風ー」

 オリエッタがずっと状況説明を垂れ流していた。

『浮遊魔法陣』用の魔石の魔力残量は半分を切っていた。

 ふたりは落下防止を新たに設けた屋根の上でおかしなビートを刻んでいる。

 緩やかな上り勾配だが、障害物がないので全力疾走中である。

「このまま眠りたい」

 結界のおかげで風の影響もなく、上はひなたぼっこに最適だ。が、操作棒を操る僕は恩恵に預かれずにいた。

「天井、はずすか?」

「吹雪になったら、いるから」

「ナーナ」

 そうこうしていると再び空がぐずり始めた。

 腹時計では既に昼を回っている。

 切りのいい頃合いがなかなか来なかったので、ようやくかと感じた。

 それにしたってこの距離は徒歩ではつらいよな。

 周囲は再び吹雪に見舞われた。

 ひなたぼっこをしていたふたりも降りてきて、ハッチを閉める。

 寒そうにしているので、部屋のなかの温度を上げてやる。

「来た」

「ヘモジよろしく」

 僕はソリを止めた。

「ナーナ」

 毛布をマントにして、ヘモジはハッチから出ていった。

 僕たちも後を追う。

「日向に慣れると寒い」

 オリエッタが部屋のなかに戻っていった。

 反応が近付いてくる。こちらの背後を狙っているようだ。弧を描きながらドンドン近付いてくるが、僕たちはギリギリまで気付かぬフリをする。

 結界に引っ掛かった!

 ヘモジが満面の笑みを浮かべた。


「狼、接近中」

「今度はやる気みたいだな」

「ナーナ」

「そうだな」

 巨人の足跡が消えてしまっては困るので、急ぎながらの対応になる。

 フロント窓に造った出窓風の足場に、オリエッタが腰掛け、外を覗きながら誘導する。

 僕は操舵で手一杯だ。

 狼の相手はヘモジに任せた。

 といっても敵は追い掛けてくるのがやっとで、たまにミョルニルが地面をぺったんこするだけだった。魔石も回収できないので、ヘモジも無駄な相手はしない模様。

「あった! 洞窟!」

 オリエッタが声を張り上げる頃には追撃はやんでいた。

「ナーナ」

 お腹が減ったと、ヘモジが腹をさすった。

 完全に昼時を過ぎていた。が、こればかりはタイミングだ。足掛かりを見逃せば、もう一日待たねばならない。

「う!」

 中にいる!

 別の巨人がもう一体いた。

 外にある鍋に氷をぶつけてわざと音を立てる。

 氷の大きさを変えて何度もやっていたら、ようやく気付いてくれたようだ。

 巨体が穴のなかから現れた。メスだった。

 既にミョルニルは天に矛先を向けていた。


 僕が遺体の番をしている間、ふたりには奥を調べに行って貰った。恐らく同じ物が待っているはずだ。

 遺体が魔石に変わるか、変わらないかというところで、オリエッタが駆け戻ってきた。

「あった!」

「そりゃ、あるだろう」

「違う、違う」

「何が?」

「あったの!」

「は?」

「出口!」

「はぁあ?」

 僕たちの旅は突然、終焉を迎えた。



「どうしたんです? 皆さん」

 夫人に笑われる程、僕たちは食事をがっついていた。

「ブリザード」

「ナーナ」

「ずっと寒い場所にいたものですから」

 斯く言う僕も温かいスープにほっと胸を撫で下ろす。

 戻ってきたときには、既に昼を一時間程オーバーしていたようで、もう少し遅かったら無人の食堂で冷めた食事を自分で温める羽目になっていたことだろう。

 とは言え、昼食がコーンスープと焼き鳥とツナサラダというのはどうなのだろう?

 寝坊した子供たちの姿も既にない。

 思いがけず時間が空いてしまった僕はまず、ギルドに報告。それから倉庫に向かうことにした。



「まあ、出口を見付けたんですか?」

 攻略が行き詰まっていた四二階層の進展に、窓口を担当していた面々は驚きの声を上げた。

 そこまで行き詰まっていたのか……

 確かに吹雪のなかを徒歩で移動していたら、あの出口には到達できまいと思えた。

 僕たちはまだ一日すら探索していないのだけれど。

 報告のため地図を作製するが、あまり参考になりそうにない気がした。他の冒険者の報告同様、記すべき内容が少な過ぎるのだ。

 まっすぐ行って、突き当たりを東にまっすぐ。それだけだ。

 窓口担当もぽっかり口を開けて二の句も告げず。

 過酷過ぎる環境の半面、針路は至って単純。ただ、巨人の足跡を追うにはこちらもフライングボードぐらいは用意しておかないといけない。

『巨人の足跡を追え』というテーゼが示せたことで、今後の攻略は少し楽になるだろう。

 道標は道にあらず。トリッキーなフロアだった。

 今思えば、なかなか面白いフロアだったな。

 情報料は算出でき次第、口座の方に振り込まれる。

 用が済んだので、アイテムショップを覗いた。

「お」

『缶詰完売』の立て札が立っていた。

 段々認知されつつあるようだった。


「あ、忘れてた」

 解体屋に送った『髭狼』のことを失念していた。僕は踵を返した。


「全部処分していいのか?」

「ええ、四十二階層の新種ということで取ってきただけなので」

「わかった。ギルドには報告しておくよ」

 職員にすべて丸投げして、その場を後にした。



 ようやく作業に移れる。

 午後の残りを新型機をいじくり倒して過ごすことにした。

 徹夜明けの休日を倉庫整理に費やした子供たちの姿はもうない。

 元気にどこかで暴れ回っていることだろう。

「ちゃんと、片付けできたみたいだな……」

 僕は作業場の封印を解く。

 前回の試乗ではシステムは概ね良好だった。ただ上下動に難があった。

「魔法陣の出力限界と、副腕の変形がもたつくからだよな」

『補助推進装置』を組み込むことで、初動の遅さをカバーできるとは思うけど…… そうそう噴かすものではない。

 ちょっと『ニース』を見学に行く。

 お店の看板機体。いつもピカピカに磨かれている。

『ニース』は飛行に関しては完全にボードに依存した機体だから、あまり参考にはならないけど。他人の発想はときにインスピレーションを呼び起こす切っ掛けになる。

 元々スラスターによる姿勢制御に一日の長があるモナさんの設計だ。

「機動力は落としたくないんだよな……」


 この日『補助推進装置』用のノズルの取り付けと、タイミングの演算処理機能を解禁した。

 飛ぶ時間はないので、試験飛行は明日、一日掛けて城壁の外でじっくりと行なうことにした。



 翌朝、子供たちがまだ寝静まってる時間に僕とオリエッタは壁の向こうにいた。

 ヘモジは農作業を終えた頃を見計らって召喚する、否、勝手に再召喚されてくる予定だ。

 現在、僕たちは通常飛行を楽しんでいた。

「さてと」

 これから『補助推進装置』を使っての試験飛行となる。

 まずは課題である急上昇から。

 吐出口は今回、上下動優先で配置した前後部『フライト装甲』に施したそれと、両肩に設けたそれだけだ。

「思ったより快適」

 オリエッタは満足しているが、揺れ出すのはこれからだ。

 装甲を下方にスライドさせながら徐々に角度を付けていく。

 手加減が過ぎて『補助推進装置』が稼働しなかった。

「もう一回」

 一度降下して、今度はやや強引に機首上げだ。

 ぐわんと一気に上がった。持ち上がり過ぎてひっくり返るかと思った。

 繰り返すこと数回。加減を覚えたところでさらに強引に舵を切る。

「おや?」

 背面のシステムが連動し始めた。

 持ち上げられた機体の傾斜に合わせて翼の浮力が対応し始めた。

「もしかして翼の迎角を変えたらもう少しスムーズになる?」

 すぐに砂漠に着地して調整を行なう。背翼の付け根の迎角を通常の機体より寝かせ気味に固定した。

「そうか、起こし過ぎていたから上昇の抵抗になっていたのか」

 でも寝かせ過ぎると浮力そのものを失ってしまう。ということは可動域をさらに広げる必要がある?

 疑問は課題として横に置いておいて、やってみる。


 上昇性能は格段にアップした。が、肝心の浮力が減少。足元の『フライト装甲』に負担が増して、結果『補助推進装置』はオーバーワーク、それ以外の性能もガクンと落ちた。

「うぎゃああああああ!」

 僕もオリエッタも発狂する。

『スクルド』用のオプションパックのままでは如何ともしがたい。翼の大幅変更が必要だ。

 これはもう『ワルキューレ』の翼をもいで……

 我ながら、大事になってきたと後悔する。元の状態に戻して再調整だ。

 現物合わせで可動域を変えていく。

 学習機能でどこまでやれるか。

 僕とオリエッタはひたすら微妙な羽の傾きに目を光らせた。


 ヘモジが駆け付けたところで、一旦休憩を取る。

 砂漠に個室を設け、部屋を冷やしながら、アイランをコップに注いでいく。

「ナナナナナ」

 ヘモジが満足げに浮かれている。

 農作業を随分満喫したようだ。

 僕はコアユニットからログを引っ張り出して確認する。

『補助推進装置』の発動タイミングがしっかり記録されている。無駄な動きが徐々に減ってはいたが、今は頭打ちになっていた。

「これを多いとみるか、適切とみるか……」

 外装もあり合わせだから空力的なスポットも含まれてるんだろうけど。


 休憩後からはヘモジに操縦を任せ、僕は機体の動きを観察することに注力した。

 ピンポイントに結界を施して空力の影響を調べたり、その場で翼の形状を変えたり、日が暮れるまでデーターを取り続けた。


 そして日が沈み掛けたところで僕たちは工房のデッキに降り立った。

「あー、脳みそ溶けそう」

「ナナナ」

「楽しかった」

 そりゃ、お前たちは好き放題してただけだからな。


「なんだこりゃ?」

 地下に降りたら怪しい泥人形が大量に並んでいた。

「ガーディアンのデザイン考えてたんじゃない?」

「これで完成なのか?」

 子供たちの仕業であることは一目瞭然だが、評価に困るな。

「ナナナ」

 僕たちの帰りを待っていたのかな。

「悪いことしたな」

 せめて夕飯に遅れないように帰るとするか。


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