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新型機の造り方

 翌朝、早速大騒ぎになっていた。

 僕が眠い目を擦りながら食堂に降りた時には既にフルーツ缶の甘い香りが食堂に満ちていた。

 ヘモジとオリエッタは鼻高々。椅子の上で仁王立ち。

 まさかふたりが大量にがめているとも知らず、皆ふたりに大いに感謝感激していた。

「缶詰ってこういう物だったのね」

「もっと早く気付いていればな」

 ラーラも大伯母もまんざらではなさそうだ。

「以前、売り払ったのは失敗だったわね」

 イザベルは過去に回収した経験があったようだ。

「わたしも噂には聞いていたんですが」

 夫人もいつも以上に笑顔だ。缶詰の存在は婦人会で知ったらしいが。大所帯で消費するには割高だと感じていたのだろう。

「他の缶詰も楽しみですわね」

 それから尋問が始まった。どこで取れたのか、どうやって手に入れたのか。

 気をよくしてふわふわしているふたりは、チョロチョロ口を滑らせていることに気付いていなかった。

 もうがめてることばれてるし…… ほんと隠し事ができない性格だな。

 ここに持ち帰った量と自己申告した回収量が明らかに異なっている。全員が僕の顔を見る。

「冒険者の特権ということで」

「お前はしてないんだろうな?」

 大伯母の手厳しい問い詰めに僕は。

「太りたくないんで」

 痛烈な一言で応酬した。

 ラーラを始め女性陣の恨みがましい視線が突き刺さる。

「場所はもうわかってるし。問題はクエストがなくても対岸に渡れるかってことだけだな」

「僕たちも行きたい!」

「わたしも!」

「それは却下」

「えーっ」

「取ってきて貰えばいいだろう」

「自分たちも別荘地見たい」

「四十一階層と二階層だけは駄目だ。レイスはほんと危ないんだから。最後の領主の屋敷なんて対抗手段をしっかり講じていかないと一瞬で全滅するぞ」

 僕は思い出した。

「そうだ、その件をギルドに報告しようと思ってたんだ」

「缶詰のことも話しちゃうの?」

「そんなことするわけないだろう。注意喚起だけだ」

「そんなに危なかったの?」

「領主の屋敷以外ならやられる前にやれるだろう。それなりの装備と銀粉があればな。けど、あそこは駄目だ。『聖なる光』必須。討ち漏らしも厳禁だ。一斉に攻めてくる数が多過ぎるんだよ。程よく削られた集団の一斉『生命吸収』がどれだけ怖いか。数発連打されただけで多重結界があっと言う間にゼロになる」

「それ以外はいける?」

「まず慣れることだな」

「折角の缶詰フロアなのに……」

 そもそも食料が宝箱から出て来たという話はこのクーの迷宮以外では聞かない。缶詰の登場はまだ最近のことで、いずれもっと周知されていくことになるだろう。他の宝箱からももっと出るようになるかもしれないし。

「でも過酷なフロアだからこその報酬という可能性も……」

「お前に頼むのが一番早そうだな」

 大伯母は席を立った。

「あー、遅刻しちゃう!」

 子供たちが時計を見て一斉に立ち上がる。

「行ってきまーす」

「鞄、鞄」

「宿題は?」

「持った!」

「慌てないで」

「階段落ちないでよ」

「わかってる」

 窓の隙間から嵐が通り過ぎたようだ。

「すいません。お茶をもう一杯」

『聖なる光』を教えてやりたい。が、それをやるには教会のお目こぼしが必要だ。くだらないしがらみだが、そのしがらみはいずれ実力で解きほぐすしかない。こいつになら特別扱いもやむなしと思わせるだけのものを。それは時にお布施であったり、人間関係だったり。



 子供たちが学校で学んでいる間、僕は倉庫に引き籠もり、新型機開発の続きを行なう。

 今日は壁の上に梁を架けて、機体を吊すところからだ。

 重心はコアユニットの中心にと思っていたのだけれど、副腕とフライト装甲は軽くしたとはいえ、ゼロではなく…… 機動性が……

「一度飛んでみるか」

 初めての試みでどうなるか予想も付かない。

 急いで四肢、否六肢に魔力導線を繋いで、動作確認。副腕の動作は港湾のクレーンの物を参考に組み立ててみた。


 夕方、ようやく組み上がった。

「試す時間がないな」

 一度飛んだら今日は終わりだ。

 外装はおまけ。『ワルキューレ』と『スクルド』と『グリフォーネ』の合いの子だ。

 見た目不合格な機体に副腕と装甲、それに盾と錘の付いたライフルだ。

「エレベーター。ギリギリだな」

 運用を考えるともう少し脚は短く、いや、機体自体をもっと小さく。これに引っ掛かるということは『ニース』より背高ということだ。

 大伯母に無理を言って用意して貰った大きさの違う『浮遊魔法陣』。手前の装甲には小さい物を左右に二枚ずつ。後ろには大きな物をそれぞれ一つずつ。

 やはり動きが重い。視線も少し上がっただけなのに不安だ。

 デッキまでは取り敢えず歩けた。

 次は低空で『フライト装甲』の調子を見る。

「装甲展開…… 『浮遊魔法陣』起動」

 うん。副腕の動きはスムーズだ。さすが自分。

 まずは軽く浮いて……

 猛烈な勢いでコアユニットがバランス調整をしている。気にしないと気付かない程の小さな揺れ。前傾になっては修正。左に傾いては修正。後ろに沈み込んでは修正。最適解を探す動作を延々と繰り返す。

 そしてやがて安定する。

 僕は胸を撫で下ろす。

「第一段階クリア」

 じゃ、いよいよ。動かしてみようか。

「最初の一歩」

 怖ーッ。テストはずっとヘモジに任せきりにしていたからな。踏み出した途端、頭から落ちてデッキ下の湖面に沈むこともありえる。

 魔法陣の出力を上げて、浮力を感じながらそのまま前進。

 念のため背中のフライトシステムも稼働しておこうか。

 機体が前に滑り出す。

 一気に前のめりに。つま先の浮力がぐいっと機体を持ち上げて、姿勢を上向きに。

「やった!」

 四分割されたフライングボード。独特の滑り出しだが浮いてしまえば通常のボードと変わらない。

 墜落してもいいようにまずは外周の空き地まで。

「思ったより安定している」

 四枚のボードはそれぞれ逆ハの字型に浮力面を外側に向ける。操縦者の意志は関係なく、最も安定する姿勢を取った結果だ。

 まずは加速。外縁まではあっという間だったが。余裕ができたところで空力を見る。外装があれだから大雑把なものだが。

 今度は外周に沿って右回り左回り。その間に盾の出し入れ、ライフルの展開を試す。ブレは繰り返すごとに学習して揺れは安定していく。重心の変化にも耐えている。


「なんか速くね?」

 周回を重ねるごとに速度が上がっていく。確かに推進力強化は課題だったが『フライングボード』の傾斜と背中の余力が水平方向に期待以上の力を与えている。

 まだ『補助推進装置』付けてないんだけど……

 

 左右が終ったら、今度は上昇と下降。

「あ、上がらないッ!」

 今度は機体形状が足を引っ張る。

 副腕の動きが遅い。安定度が足を引っ張る。ユニットが猛烈に演算を繰り返す。最適化、最適化、最適化。

 挙げ句、後部浮力をカット。機体が後方に沈んだところで急加速。

 これじゃ、ワンテンポ遅れる。

 解の一つではあるが、回避行動には使えない。ここは前の出力を増加させるしかない。が、魔法陣が小さい。最大出力に余力がない。

「くそッ」

 こんなんじゃドラゴンに食われる。

 手動で介入をしながら修正に次ぐ修正。

 ユニットが導き出した最適解は後方装甲の出力をカットするのではなく、装甲を跳ね上げることで空力で強引に機首上げし、装甲の傾きそのままに、斜め後方に強引に浮力を発生させる。

「できてしまった」

 これに『補助推進装置』が加わったら…… 機体はもっと容易く安定させられる。

 このままでもなんとかドラゴンを振り切れるだろうが、魔石の消費の方は…… 無駄な動きと無駄な物を背負っている分、過酷だ。

「幾つあっても足んないわ」

 ブラッシュアップに入るのはまだ先のこととはいえ、頭が痛い。

 長期戦に耐えられるスタミナを、魔力供給をどう改善していくか。魔力吸収できる大技を敵が使ってくれることを期待しながら運用するなど愚の骨頂。

 ここでタイムアップ。魔石残量もちょうどエンプティーだ。

 準備している子供たちに怒られる前に戻ることにする。


「ん?」

 なんかいる。湖に迫り出すデッキに動く影が。モナさんか?

 否、子供たちだった。

 こちらを見上げながら手を振っている。

 どうやら出迎えに来たようだ。

「ちょーっと、邪魔なんだけどな」

 調整中の機体に寄ってくるなよ。

 モナさんが子供たちを母屋のなかに誘導する。

 助かります。

 恐る恐る着地する。起動停止までが試験だ。

 よし問題ない。装甲を収納する。

「おかえりー」

「おかえりなさい」

「なんか形違う」

「格好悪くなってる」

「とんがりなくなってるし」

「頭変わってないよ」

「肩のパーツ『グリフォーネ』じゃない?」

「羽は『スクルド』だよ。変なの」

「あの足みたいなの何?」

「フライングボードだって」

「あれが? 変なの」

「格好悪い。設計の見直しを要求する」

 お前ら遠慮ないな。

 ゾロゾロ従えながら機体を地下に収納する。

「なんかポンコツだ」

「中見えてるよ」

「まだいいんだよ」

「師匠、外装はモナ姉ちゃんに頼もうよ。格好よくしてくれるよ」

 一応、僕もマイスターなんですけどね。

 モナさんだけは感心してくれていた。



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