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クーの迷宮(地下41階 レイス戦)獲物少なし狩人多し

 夕食の席でみんなの一日の活動報告を聞かされることになった。

 ラーラを始め女性陣はほぼほぼ買い物から。港区に隣接する商業区で欲を満たし、その後はおしゃれなスイーツ食べ歩き、大量の戦利品を持ち帰って、昼食。午後は一転、小船を借りて水上でのんびり。なぜか、でかい回遊魚を持ち帰り、今、目の前の大皿の上に貝と一緒にワイン蒸しにされて転がされていた。 以前ヘモジも釣ったことのある、滅多にお目にかかれない『樽』と呼ばれる高級魚だが……

「これ釣ったの?」

「それはその……」

「海水魚だよね?」

 湖の淡水にいるはずがない。

「近くで釣りしてたおじさんがくれた」

「……」

「…… 奇跡?」

 違うから。

「馬鹿な相棒が間違って買ってきたんだって」

「さすがに家に持ち帰れなかったのね」

「家族サービスか……」

「涙ぐましいわね」

 男子も朝一番に買い物。女子の買い物には付き合っていられないと途中で袂を分かち、地下の公共施設に。図書館には寄らず、雨天用の体育館でボール遊びをし、気付いた時にはもうお昼。屋台で腹を満たして今度こそはと図書館に。満腹感に襲われ早々に居眠り、再び気付いた時には夕方になっていたという。貴重な休日を無駄にしたと大後悔。書籍を何冊か借り出して一旦帰宅。それから開発中の対岸外縁部をぐるりと散歩、していたはずなのだが…… いつの間にか競争に発展し、一周走破する羽目に。

 女子の冷たい視線が少年たちに纏わり付く。

 最後のおまけにニコロとミケーレの口から泥人形発見の話題が語られる。

「なんかすげー格好いいんだ」

「なんか普通じゃないって感じ」

「まだ適当にいじくってる段階だからな」

「ナナナ」

「後で覗く」

 ふたりは既に動かす気満々である。

 細かい仕掛けのことは何も言っていないし、なぜあんな形状をしているのかもまだ内緒である。

 モナさんの食事をするスピードが心なしか増したような。

 モナさん、ひとりフライングするつもりだね?


 結局、僕と夫人を残して全員、いなくなった。

「まさか大伯母まで行くとは思わなかったな」

 夫人が笑いながらティーカップにお茶を注いだ。

「わたしも後で拝見させて頂きます」



 子供たちは勝手に大はしゃぎして、勝手に泥のように眠った。

「またおかしなことを始めたな」

 僕が意図したことに、大伯母はもう気付いたようだった。

 大伯母も酒が進んでいるようで。


 明日、子供たちは学校なので迷宮探索は僕たちだけである。

 昼夜逆転した陰気くさいフロアなので、さっさと攻略してしまいたいのだが。

「地図情報、買うかな」

 思うところは皆同じ。昔から通り過ぎるだけで、なかなか隅々まで攻略の進まないマップであった。

「銀粉を量産しておくか。それとも銀の投げナイフ……」

 土壇場で消えられると怖いので、息を止めるその瞬間まで、こちら側になんとしてでも押し留める必要がある。そのためには銀に触れさせておく必要があるわけなのだが……

『聖なる光』で処理するのが一番お手軽なんだが、それだとご禁制だし、子供たちの参考にならない。

「銀を纏わせるか」

 風魔法を使って銀粉を常に周囲に纏わり付かせておけば、聖なる結界の代わりになる。勿論、落下したりして回収できなくなった銀粉は損失に計上することになるが。

 そのためにも大量の銀粉が必要になる。

 明日出がけに倉庫に寄って、銀鉱石を削って行こう。



「ここも二日目だな」

 銀を削ってくるのを忘れた。

 四十一階層、湖畔を囲うように発展した山間の街。相変わらず街灯が怪しく揺らめいている。

「うぉーら、そっち行ったぞ」

「ちょっとどっちよ!」

「そっちだ、そっち」

「どこよ」

「消えたぞ! 警戒しろ」

「……」

「あれ?」

「うおおおおっ! どこ行ったーッ」

「あんた、声がでかいから逃げちゃったわよ!」

 喧噪が……街の静かな雰囲気が…… 

「冒険者いっぱい」

「ナナーナ」

「お客でいっぱいのお化け屋敷みたいだな」

 興がそがれる節操のなさよ。

「陰湿な雰囲気がなくなったのは、いいことだけど」

 以前、向かった森のなかにも別のパーティーが入り込んでいた。

「まるで観光スポットだな」

 宵の口の寒村に冒険者の反応が多数。

 出口までのルートは既に解放されているようだった。

「どこか一軒家にでもお邪魔しないと敵に会えそうにないな」

「ナナ?」

「あそこにいる!」

 オリエッタが指差したレイスにあっという間に別のパーティーが群がる。

「……」

「ナナナ?」

「冒険者がアンデッドに見える……」

 想定以上に楽な攻略になりそうだ。

 オリエッタが屋根の上から、まだ攻略されていないスポットを探した。

「あった!」

 まだ手付かずの一軒家を見付けたので、僕たちは庭から入ることにした。

「あまり気乗りしないね」

「ナーナ」

「やめるか?」

 空き巣に入る感は否めないけど、冒険者の探索ってのは対象が魔物の住処というだけで、やってることは五十歩百歩だ。

『そう言いなさんな。お茶でも飲んでいかんかね?』

「え?」

「ナ?」

「ええっ?」

 振り返るとレイス…… のような人の影。老人のようだ。

『一時期、この街に疫病が蔓延してな…… それ以来、人の往来もなくなってしまって』

 いや、今むちゃくちゃいますよ?

『見たところ冒険者とお見受けするが、一つ頼み事を聞いてくれんだろうか?』

 久しぶりにクエスト発生か?

 まさか、たまたま訪れた一軒家でこうも都合よく…… ということはあるまい。

 何か原因があるはず。

 これだけ冒険者が訪れていて、この家だけ、ノーマークというのは確率的におかしい。

 人を遠ざけるような結界があるでなし……

 目を凝らしてよくよく周囲を観察すると答えはすぐに見付かった。

「この家…… もしかして」

 上手の高台からは急な斜面と、その土手の樹木に遮られて視線が通らないみたいだった。

 下手側も手前の物件が迫り出していて、恐らく下の道から見上げても目に付かないのかもしれない。

 両サイドは密集していて、似たような物件が軒を連ねていた。三件居並ぶところ、二軒しかないとか、錯覚してもおかしくない。

 作為的な偶然を演出したのは当然ゲートキーパー。あるいは教会側のコーディネーターだろう。

 折角だ。話を聞こうか。

「ナナナ」

「おいしい」

『それはようございました』

 あのなぁ。幽霊に出された物をひょいひょい口に入れるなよ。

 老人の話は続く。

『疫病が深刻化すると、領主や資産のある者たちは対岸の別荘に籠もるようになりまして…… 我が家の娘もたまたま友人の一人にそのような者がおりまして』

 未だ帰らず、幽霊になっても安否を気遣っていると。

『今どうしているのか……』


 それを見てこいというクエストであった。

「単純明快。それでいて興味をそそる話だ」

 他の冒険者も到達していないエリアのようであるし。僕たちは指示に従って対岸を目指すことにした。

 陸伝いに路はなく、対岸に向かうには船を利用するしかなかった。が、生憎、伝染を恐れた領主側が船をすべて対岸に引き上げてしまったのだそうだ。

 ガーディアンを造ることに比べれば、小舟の一隻ぐらいなんと言うこともない。

 湖面は少し冷えるようなので船倉を深めに、船首には携帯ライトを。

 湖面に敵はいないようだが、携帯ライトだけでは光源が心もとないので、防衛も兼ねて『聖なる光』を展開した。

 風向きは難しくなく、海の家の壊れ倉庫から拝借したボロ布で帆を張ると、一発調整しただけで目的の航路を目指して進み始めた。


「ナナーナ」

「おやつ、おやつ」

 すっかりピクニック気分。

 さっきお茶を頂いたばかりだろうに。

 非常用のクッキー缶を開けて、ふたりでボリボリ食べ始めた。

 ザバンザバンと波を切り裂きながら船は進んだ。

 水筒から紅茶を注いで、温める。

「暖かい」

 突然、悲鳴が!

 ほっぺたを膨らませたヘモジとオリエッタが進行方向を振り返る。

「いたんだ」

「ナナーナ」

 漂う幽霊たちが『聖なる光』に次々身投げして消えていった。

「団体さんだった」

 オリエッタは後方の闇を見遣る。

「いきなり来られたら危なかったな」

 レイスではなかったから、簡単には死にはしなかっただろうが。

 対岸には明かりが一つとしてなかった。

「全滅か……」

「ナナーナ」

「そうだと思った」

 大きな別荘が居並ぶ足元の砂浜に僕たちは船ごと突っ込んだ。



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