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帰還の日いろいろ

「先に降りたわよ。畑を見に行くって」

 ラーラが言った。

 荷下ろしを待てなかったヘモジは畑を見に先に上陸していた。

「なんで僕に言わない?」

「気を使ったのよ」

「まあ、いつでも探せるけどさ。一瞬、島に置いてきたかと思った」

「見張り台で鼻歌歌ってたじゃないの」

「だから一瞬だって」

 僕たちは入り江から入室する扉を潜った。

「あれ? 木製だっけ?」

「いつまでも土の扉ってわけにはいかないでしょう?」

 強力な魔法陣が構築してあるから強度は元より腐食もない。

「わたし寄る所があるから」

 ここで寄る所と行ったら大伯母の部屋しかない。

 僕は中庭の吹き抜けの階段を上がる。


「お邪魔してまーす」

 妖精族の団体さんが神樹の根元でお弁当を広げていた。

「ごゆっくり」

 そういえば神樹も随分大きくなった。

 婆ちゃんの中庭に生えている神樹の成木を元にフロア設計してあるのだが、あんなに小さかった幹が今では天井高の半分程まで伸びて、もう梯子を掛けないと枝に触れることもできない。

 羽のある妖精族の子供たちは僕の存在など意に介さず、枝のなかを駆け巡って遊んでいた。

 僕はエレベーターで自室に向かい、荷物を置いて部屋着に着替える。


 夕飯まではまだ時間があるので、今のうちに『万能薬』の補充をしておこう。

 ロールトップから一瓶出すと、納戸に向かった。

「まだ半分、残ってるな」

 小分けする前の大瓶の中身が思った以上に残っていた。

 子供たちの魔力量が増えてきているのか、使用頻度が減ってきているようだ。

 飲み過ぎの心配はもうなさそうかな。

 用意した瓶と交換し、古い物は持ち帰って、ロールトップに収めた。

「姉さんにもう一瓶持たせられたな」

 あの一瓶を除いて、今はすべて熟成中だ。

 自分用の残りに中身を移し、残った分はラーラに処分して貰おう。小分けにして守備隊で消費してくれてもいいし、市場に流してくれても構わない。勿論自分たちで消費してくれても。


 子供たちは食堂で遅めのおやつタイムを楽しんでいた。

「夕飯食えなくなるぞ」

 ピューイとキュルルが胡瓜をボリボリ食べていた。最近、嵌まっているようだ。

 オリエッタが身体から埃をふるい落としながら戻ってきた。

「ヘモジは?」

「豆の収穫してる。育ち過ぎたって」

「手伝いに行った方がいいか?」

「平気。小さな畑だから」

 本日のおやつはバクラヴァ。

 フィロ生地の間に刻んだクルミやナッツなどを挟み込んだペイストリー。焼き上げた後に濃いシロップを掛けたとっても甘い一品だ。手間の掛かるレシピで、あくまで店先に並べるために作った物らしいが、子供たちの顔を見たら、夫人も気が緩んだようだ。

「甘いーっ」

「けどおいしー」

 子供たちは久しぶりの我が家で甘さを大いに満喫した。


「うーん、時間が空いたな」

 夕飯まで半端に時間が空いてしまった。

「魔石取ってくるかな。一緒に行くか?」

 口元をシロップでベタベタにしているオリエッタが見上げる。

「『クラウンゴーレム』?」

「うん」

「寝てる」

「そっか」

 口元を浄化してやる。

 せっかく着替えたけど、もう一度、上物を着込んで家を出た。


「ナ、ナーナ」

 楽しそうなヘモジと坂の途中で擦れ違った。

「ナナ?」

「ちょっと魔石取ってくる」

「ナァ……」

 一緒に行くべきか迷っている。

「早く帰らないと、甘いお菓子食べられちゃうぞ」

「ナーナンナ?」

「大丈夫。夕飯前には帰るから」

「ナ、ナーナ!」

 ヘモジは僕の手を取った。



 いつもの地下道で『クラウンゴーレム』を狩る。

 配置はもう読めているから、動かれる前に仕掛けられた。

 擦れ違った時にはスクラップである。

 我ながら感心する手際のよさよ。効率を重視して弾薬も最初から魔弾を使用。

『一撃必殺』を解放したまま、コアだけを射貫いて行く。

 ヘモジはさらに先の隊列を襲う。

 瞬殺にさらに磨きが掛かる。

 活発に動き回っている魔物と、息を潜めて石像と化しているゴーレムとでは探知する難易度が違う。が、一度配置を覚えてしまえば、アドバンテージはビハインドになる。

「慣れって怖いな」

 一体を倒しあぐねている間に囲まれ窮地に陥るのが常だが、起動と同時にコアの位置を判別、破壊する僕たちに巨人は為す術がない。


 突き当たりまで数回、魔石の回収時間を挟みながら狩り尽くして『闇の魔石』をごっそり手に入れる。これまでの分も含めると既に大サイズ数個分は手に入れた。

 あの反響する地下空間に寄る時間まではさすがになさそうである。

「今日はここまでだな」

「ナーナ」

 ヘモジも久しぶりに思う存分身体を動かせて満足したようだ。



 夕飯は、婦人が腕に縒りを掛けて振る舞った。

 ソルダーノさんも娘の無事な姿を見るために、早仕舞いして帰ってきていた。

 カテリーナのお姉さんズもやってきて、食堂の混沌振りに拍車を掛けた。

 旅の顛末がテーブルごとに語られる。身振り手振りを加え、皿までひっくり返して、怒られながら。

 ラーラから既に報告を受けている大伯母はうるさそうに溜め息をつく。

 僕はそれを見て笑った。

 ヘモジはそんな僕を見て笑い、オリエッタはその隙にヘモジの皿に忍び寄る。

 腹が膨れるに従い、饒舌な口も無口になっていき「もう食べられない」と終幕を迎える。

 子供たちは自室に戻り、大人たちは上のリビングで飲み会だ。今夜はお姉さんズも一緒だ。

 僕は辛抱できず、ひとり入り江に向かい、壊れた『ワルキューレ』に乗って倉庫に向かった。


 そして修理作業を始めるのである。

「明日はなんとしても新型の開発に着手しなければ」

 明日は子供たちも含めて全員、完全休業。帰還が遅れたときのために予備日に当てていたので、そのまま休日として活用することにした。

 みんな働き詰めだったからちょうどいい骨休みになるだろう。

 適当に繋いだ部分を切断して改めて接合作業を行なう。

 基本、素体はゴーレムのそれであり、コアユニットが無傷なら問題ない。義足を付ける要領で骨格を付け足していく。歪んだパーツは新品と交換、なければ製作し、組み直していく。予想だにしない方角からの外力による破断なので、歪みは大きいが、損傷箇所は思った程広がっていない様子。

 神経となる魔力伝導ワイヤーを改めて繋ぎ直していく。長過ぎればそれだけ魔力を無駄にするし、微少ながら反応速度に影響するので、適切に。三流技術者のようにゆるゆるな配線は面倒でも決してしない。作業自体は操り人形の糸の調整をするようなものだ。結構楽しかったりする。

 それがすんだら稼働テスト。よどみなく動いたら取り敢えずはそれでよし。ログの解析を並行して行なう。

 その間、外装の仮組み、推進装置の取り付け作業を行なう。外装は損壊部周辺以外はほぼ無傷、修繕が必要なパーツだけ製作して、貼り合わせていく。

 同時に推進装置に伝達システムを構築していく。幸い推進装置に被害はないので結線作業だけだ。

 すべてのパーツが組み上がったところで本組み。

 最終チェックを行なう。

「魔法陣も問題ないな」

 解析データをチェック。元のデータとの差異を検証。物理的な修正が必要なければ、データ上の書き換えで済ませる。

 スラスターが一個、異音を奏でた。回転軸にわずかな歪み。

「よし。完成だ」

 データ的には元通りになった。後は明日、明るくなってからだ。飛んで異常がなければ固定台に収めよう。

 ふともの悲しくなる。

「ヘモジ用の愛機にしてもいいんだけど…… あいつ壊すからな」

 転売する気はない。レア物だし、まだまだ手を掛けてやれるはずだ。モナさんの『ニース』のように。

 無垢なコアユニットがじっと僕を見詰めている。

「浮気者は嫌いか?」

 同じコンセプトなら二機はいらない。

 以前、思い付いたコンセプトをどう落とし込むか……

 推進力をさらにパワーアップ。

 新種の重力魔法や船からの光弾による間接攻撃を如何に掻い潜るか。現状射程外からのロングレンジ攻撃しかないが、別のアプローチも模索しておいて損はないだろう。投下爆弾並みの圧倒的な破壊力。

 速度と加速重視で、機動性はある程度犠牲にしても構わない。新しいコンセプトがある程度はカバーしてくれるはずだ。

 そして今回は飛行システムを搭載しつつも盾装備を考えている。

 光弾を無効化できる機体。そして、敵の力をこちらの力へと転化できるとんでも発想。重力魔法すら手玉に取ってくれよう。

 でもそのためには……

「…… 大量の『闇の魔石』が必要だ」

 


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