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月下の宴

 昼食を終えると、右手に海岸線、左手に砂漠の景色を見ながら、子供たちはガーディアンを持ち出し模擬戦を始めた。そこにモナさんとイザベルが加わって指導、遊びは本格的なものになっていった。

 生身のときの動きができればと思っていると、足元を掬われる。なぜなら今の彼らには翼が生えている。フォーメーションは立体的になり、互いのポジションは容易に交錯する。ライフル弾は目標を逸れても消えることはなく、同士討ちを誘発する。かといって慎重になり過ぎると手数が減る。今まで以上の連携が必要になってくる。なのに、機体性能は常に『身体強化』マックスだ。

 それにしても『ニース』の動きは面白い。

 他の機体に比べて動きがどうしても平面的になるのに、あの大盾がいい味出してる。モナさんの巧みな操縦も相俟って子供たちは翻弄されるばかり。今回は盾とライフル装備だが、長物を持たせたら、ヘモジ並みのアタッカーと化すだろう。ミスリルによる機体軽量化と『補助推進装置』との相性は思った以上の成果を上げている。が、如何せん、魔力をドカ食いするから普段使いはできない。

「優先的に『闇の魔石』を回すか……」

 ん? 今、突然、ひらめいた。

 僕は、モナさんを呼んで手元にある『闇の魔石』を空にすべく、消費して貰うことにした。

 モナさんは豪快な動きで子供たちを散々やり込め、休憩時間に入って空になった魔石を僕に返してきた。

 さて、実験だ。

 僕は『闇の魔石』を離れた甲板の上に置いて、そこに向かってまとまった魔力を放った。エテルノ式によるピンポイント照射である。

 通常魔石を使った実験で証明したとおり、触れていないものからは魔力を吸収できない。だが魔力を直接ぶつけた場合、どうなるのか? 勿論、破壊する意志は持たず、吸収させる意図を持って放った魔力をだが……

「どうだ?」

 回収して残量を見る。

 胸躍る瞬間。血の気が一気に増す感覚。太陽の照り返しで茹だった身体に更なる熱気をもたらす新たな発見。

「増えてる!」

 微量ではあったが、これにより外部からの魔力贈与の可能性が出てきた。

 僕はオリヴィアの技術スタッフを呼んだ。

 そして姉さんまで巻き込んで、間接魔力充填の魔法陣構築を行なった。


 即席の魔法陣を展開した甲板に、空の『闇の魔石』を搭載した機体をタッチダウンさせる。接地と共に魔法陣が発動し、魔力が機体に照射される。

 そして魔力を満たした機体は再び飛び立っていく。

 替えの魔石があれば、操縦士がその場で補充すれば事足りることだが…… これって何かに使えないか?

「今は必要ないけど『闇の魔石』がこれからもっと普及するようになったら…… 案外使えるかもしれないわね」

 オリヴィアが言った。

「例えば、ガーディアンの固定台に設置して、船から魔力供給ができるようにすれば、魔石を一々交換しなくて済むようになるわ」

「将来的には港に設置して船ごと充填するとか」

「そうなったら凄いかも」

「普通の魔石は? いらなくなっちゃうの?」

「一元管理できるようになるってだけで、不要になるわけじゃないわよ。砦の結界障壁や防壁用に使っている大元のシステムや船の反応炉にはこれまで通り普通の魔石を使うわけだし」

「街灯の魔力補充用の仕組みが流用できるのは有り難いわね」

「需要が出るまでは、おいおいね」

「開発もこれからだと思えば」

 一個の魔石に魔力を満たすために、今回は十倍近い魔力が無駄に消費された。

「ただ間接的に供給可能とわかっただけでも御の字よ」

「なかなかこの船から卒業できないわね」

「この船で実験するのか?」

「どうせ普段、遊ばせてるんだから」

「と言うわけで」

 オリヴィアはスタッフに視線を送った。

 暇を持て余していたスタッフは部屋を一室占領し、新たな商品開発に着手することになった。

 甲板の魔法陣はさっさと撤収、通常に戻した。


 夜はなぜかその甲板に出て、バーベキュー大会を行なうことになった。つい先日やったばかりだというのに。

「うまうま」

「ネギ塩ちょうだい」

「他のたれも使いなさいよ」

「腸詰めもう食べていい?」

「まだ生だって」

「お肉もっと薄いのがいい」

「うるさいわね」

「だって顎痛くなるんだもん」

「お酒、もう足んないわよ」

「飲み過ぎですよ!」

「小姑か。ニコレッタは小姑か」

 姉さんとイザベルとモナさん、商会スタッフだけでもう一瓶を空にした。

「師匠、なんとかして!」

「凍らせろ。骨の髄まで」

「ちょっと、ほんとにやったら殺すわよ!」

「飯ごう炊けたよ。お米食べる人ー」

 星空の下で気の置けない連中と大宴会。

 明日の決着が付いたら姉さんは旅立ってしまう。だから今夜が最後の夜だ。どうせ理由を付けてちょくちょく戻ってくるのだろうが、取り敢えず笑顔で見送ろう。


 食べたら眠くなるのが法則。子供たちはドームフロアの絨毯の上で力尽き雑魚寝する。

 姉さんたちは焚き火の元でのんびり酒を酌み交わしながら井戸端会議だ。

「ランキングの速報値が入ってきたって聞いたけど」

 イザベルが話題を振った。

「今回は南部が優勢だって聞きましたけど」と、普段着姿のモナさん。

「速報値なんて当てになんないわよ」

 ラーラとオリヴィアは酒の代わりにウーヴァジュース。

「でも今回、ずっと交戦してるじゃない?」

「膠着してるだけよ。押し返せてないってことはスコアに繋がってないってことでしょう?」

「守ってるだけじゃ、差は付かないのよ」と、姉さんは飲み干したグラスを僕に押し付けた。

「押し返せても、その先がないことが問題なのよ。うちやリーチャの所みたいに敵の懐深くまで入り込む余力も地の利もないんだから」

「真っ平らな砂漠平原が広がってるだけですものね」と、オリヴィアがクラーケンのマリネの皿に手を付けた。

「守るには不向きな地形ってわけね」

「うちがもう少し前に出られれば、牽制になるんでしょうけど」

「そうすると上がりを求めて南部も前進せざるを得なくなって」

「結局、兵站が……」

 全員が珍味の皿に手を出した。

「地道に転移ポイント潰しをすることが、結果的に一番楽で安全な手段になるわけね」

 入り組んだ地形の北部は陣取り合戦には最適だ。要所を取れば、面をそのまま制圧できるからだ。

 中央の我がギルドはこのままだと北と南に引き裂かれることになる。

 僕はお代わりのグラスを冷やして姉さんに手渡した。

「南に要所になるポイントを造れればいいんだけどな」

「今のところめぼしいポイントがなくてね」

「どうすんの?」

「状況は一見膠着しているように見えるけど、実は敵の補給線は段々間延びしてきているのよ。ドラゴンの羽があっても敵はもう直接、前線に兵を送れなくなってきている。いずれ前線を大きく引き下げることになるでしょうね。そのときがチャンス。そのときが来たら、あんたたちの自慢の破天荒さでどでかい要塞でも拵えてやったらいいわ」

「破天荒なのはリオネッロだけだし」

「そういう意味では『太陽石』の秘密を暴いたリオさんの功績って大きかったんですね」

「ミントに感謝よね」

「あれは今、何してるんだ?」

「頑張って雑貨屋してるわよ」

「聖地巡礼の方も儲かってるみたいです」

「ソルダーノさんの店の方にもちょくちょく顔を出してるみたいよ。ソルダーノさんが儲からないって嘆いてたわ」

「超小口のお得意様ですものね」

 みんな、たまらず笑った。

「今度、甘い物でも差し入れして上げようかしら」

 夜も更けてくるとさすがに寒くなってきて、続きは室内でということになった。が、室内の暖かさが眠気を誘ったのか、明日も早いからと解散することになった。

 装備を脱ぎ散らかして転がっている子供たちを横目に、室温調整用の魔石の魔力残量を確認する。朝まで充分保ちそうだったが、満タン充填した『闇の魔石』と入れ替えた。

 システムの監視に使っている魔石にも充填しようと思ったら、誰かが補充した後だった。

 フィオリーナかな?

 僕はヘモジとオリエッタを探した。


「やっぱり……」

 見張り台の椅子の上でヘモジがオリエッタのボディプレスを受けて伸びていた。

 ふたりとも器用な格好で寝てるな。

「風邪引くぞ」

 ふたりを担いで下りて、子供たちのなかに転がした。


 風呂に入っている姉さんたち以外、起きているのは僕だけになったが、警戒を怠っているわけではない。

 船は海上にあり、ドラゴンタイプだけを警戒していればよかったのだ。

 しかもそのドラゴンタイプはタロス兵を二体背負って、日中飛び続けている。かなり疲労を蓄積しているはずだ。だとすれば、夜ぐらい羽を休めているにちがいないのだ。彼らの任務を考えると強行する意味などない。その証拠に彼らは未だ砦に辿り着いていない。ドラゴンタイプだけなら、こちらから出迎える必要などそもそもなかったのだ。


 姉さんたちも私室に入って眠りに就いた。

 僕は操縦席に身を横たえ、暇に飽かして新しいガーディアンのデザインを考える。

 敵は重力を操る新種と、いずれ移動手段となりえる可能性のある武装船とその取り巻き。

 新種の方は数が少なくなってきているという噂もある。

 少なくとも兵団と一緒に運用されるケースは少なくなりつつあるようだ。ほぼ単独。転移ポイントの番人として採用される傾向にあるという。

 恐らく、敵も味方の損失を看過できなくなってきているのだろう。少なくとも士気は上がるまい。

 船の方は目下『浮遊魔法陣』のないただの棺桶と化している。が、問題は光弾の砲台が漏れなく付いてくる点である。

 移動手段はドラゴンタイプと兵士による牽引で、それ自体はお粗末なものであるが、如何せん光弾が待ち構えているとなれば、今までのように発見即、殲滅とはいかなくなる。

 船という名の輿を中心とした複合体が相手。ロングレンジからの攻撃は基本中の基本。それに加えて光弾を躱せるだけの機動力、ドラゴンタイプを複数相手にしても持ちこたえられるだけの持久力。

「魔力消費が増える一方だな」

 それに指揮官クラスの戦闘能力の高さも気になる。

「以上の点を踏まえて、それでも無双するとなると……」

 ロングレンジライフルは外せない。

 だが、ドラゴンタイプとの戦闘ではアサルトライフルの方が取り回しがいい。

 ヘモジがさっさとブレード戦に移行してしまうのも、その取り回しの悪さが原因だ。

「あいつはアサルトライフルでも捨てるけどな」

 連射性能を如何に上げるか。威力は弾丸の方で調整するにしても……

『ニース』の今日の動きが脳裏にチラつく。

 あれを『ワルキューレ』の後継機でやろうとすると……

 それから航続性能。光弾が相手では、味方の船も接近しづらくなるだろう。

「どうするかな」

 開発とは矛盾とのせめぎ合いだ。

 高高度からの特殊弾頭投下が一番簡単なんだろうけどな。



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