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クーの迷宮(地下40階 以下省略)晴れのち噴石

 僕は手元の石塊の残りをさらに砕いた。『虹色鉱石』が他に大小一つずつ出てきた。

 子供たちは土の魔法で対処していたが問題なさそうだった。横着して石塊を砕く作業は金槌サイズのミョルニル任せにしていたが。

「結構魔力使うね」

「道具揃えた方がいいかもね」

 鉱脈筋相手となるとやはり土の魔法では効率は悪いようだ。


 洞穴をぐるっと見て回った感じ、表層部分にある物は大方回収できただろうか。

「こうして見ると狭いと思っていた洞穴も広く感じるな」

「こんなことしてたら終んなくなっちゃうよ」と、ニコロが発する。

「一番楽しんでたの、あんたじゃないの」

 というわけで、先を急ぐことにした。

「あっという間に二十個、採れたね」

 年少組はご満悦だ。

「宝石は数じゃないわよ」

 フィオリーナのませた台詞に諭される。

「それはそうだけどさ」

 僕たちは道々に散在するミノタウロスを倒しながら洞穴を探った。そして大量のスカを掴まされながら、終盤ようやく宝箱に出会った。

 前回のようなヘマをしないように、ヘモジは慎重に距離を取り『迷宮の鍵』を作動させる。

 カチッと音がした。

「ナーナ」

 どうやら本物のようだ。先日の大当たりを期待して蓋を開ける。

「おおー?」

 本日は『虹色鉱石』尽くしとなった。苦労しなくても両手いっぱい分の『虹色鉱石』が手に入った。

 現金の方がよかったんだけどな。

 なんとか予定時間内にルート一本分を消化できた。

「さて午後からはミノタウロスの大群に対処して貰うわけだが」

「大丈夫、任せて」

 僕たちは家路に就いた。



「うぎゃぁああああ」

「あ、あっちからも来るよ!」

「結界で足止めして」

「おっしゃー、倒した!」

「次、こっち!」

「もう魔力がないよ」

「あと少しよ。がんばって」

「これでも食らえ!」

 集団対集団の真剣勝負。

 一枚も二枚も上手な子供たちは序盤優勢であったが、敵の無限湧きとも思える随時投入で徐々に劣勢に追い込まれていった。

 が、その残敵もようやく打ち止め、優劣は再び逆転した。


「疲れたー」

「鏃、全部使っちゃったよ」

「拾える物だけでも拾っておきなさいよ。次だってあるんだから」

「ふぁーい」

 ついこの間まで一体を相手するにも右往左往していたのに……

 より強い相手と対峙した経験が、多少の相手には動じなくさせるんだよな。

 今の子供たちには精鋭でさえ雑魚に思えているのだろう。集団のなかにバーサーカーがいないことは幸いであった。


 三波目の衝突を繰り返す頃には先読みができるようになってくる。敵の出鼻を挫きつつ、確実に応戦、ダメージコントロールもローテーションで難なくこなす。

 大技の範囲魔法を打ち込む余裕も出てきた。

『雷撃』一閃、死体の山だ。

 お前たちは大伯母か。

『知ることはとば口なり』

 魔法の格言、様々だ。

 大伯母の『雷撃』と比べて「威力がまだまだ」とか言わないように。

 さて快進撃も対戦相手の消滅と共に終焉を迎える。

 そして、残るは例の門番のみ。

 結界があるとわかっていれば対処は容易い。ヘモジのように突撃しなければいい。

 そして地下エリアに入るわけだが。


「今回は一体だけを相手して貰う。同時に複数が起動してしまうが、それはこちらで対処する。戦闘中、通常結界に加えて、消音結界を張るように。この空間は音がやたらと反響するから、遠くにいる他のグループまで起きてしまうからな。そこは怠るな」

「はい!」

「盾を持ったゴーレムと戦うのは思っている以上にやりづらいぞ。今回はそのことを身を以て体験して欲しい」

「『クラウンゴーレム』か。ただでさえ面倒臭いのに……」

「そう思うなら、他の『クラウンゴーレム』を起こすなよ」

「そっちこそ悲鳴上げないでよね」

「落ち着いてやれば大丈夫だよ」

 みんな配置に就いた。

 まずはヘモジが余分な敵を排除するところからだ。

 僕は消音結界を一番近くの隊列に丸ごと被せた。それだけで敵は反応した。

 頷いて合図するとヘモジは敵陣に飛び込んだ。

 僕も衝撃波を食らわせ、敵の動きを止める。


 一体だけ残した『クラウンゴーレム』を引き連れて、ヘモジは跳ねるように戻ってきた。

 戦闘を引き継いだ子供たちは足元を凍らせ、猛烈な勢いで接近、盾を避け、三方から『衝撃波』を放った。

「右胸ッ!」

 コアを発見すると、二撃目を以て、撃破した。

 言うは易し。一瞬のことであったが、子供たちは肩で息をする。『身体強化』を始め、諸々の魔法を一瞬に集約した、ある種、捨て身の攻撃だった。

「よくやった。満点のできだったぞ」

 子供たちの顔がパッと明るくなった。

「石を回収したら次行くぞ」

 どうやらイベントには間に合いそうだ。昨日と同じ事が起こるか、それだけが心配である。


 長居すると、残りがいつ動き出すかわからないので、取る物を取ったら外に出た。そして『殺人蜂』のいる突き当たりまで進んで、いよいよ正解ルートに挑戦だ。

 地上戦で時間を取られた分と『クラウンゴーレム』戦をはしょってできた時間を合わせて、ほぼほぼ昨日と同時刻になりそうだった。

「なんか、急に気が抜けたね」

「のどかだ」

「でも坂道は疲れるよ」

「師匠、一気に転移しないの?」

「上に屯所がある。そこまで行ったら休憩だ」

「ふぁーい」

 大人の足でもきついのだ。子供の足では尚のこと。『身体強化』を維持するだけで魔力も気力も減っていく。


 口数が減って視線が落ち始めた頃、目の前に物見櫓が現れた。

「着いたぞ。見付かる前に――」

「ワンワンワンワン!」

 昨日の反省を踏まえてか、巨大な番犬が今日は門の前で待ち構えていた。

「熊!」

「でかい!」

「熊?」

「犬じゃない?」

「犬?」

「犬なの?」

「鳴き声は犬だった」

 門が開いて、巨人が一体、出てきた。

「ミノタウロスだ!」

「櫓の上を先にやった方がいいんじゃないか?」

「み、みんな、戦闘準備だ!」

 突撃してくる一体は後にして、まず櫓の上の弓兵と犬を屠った。

 斧を振り上げ、突進してきた巨人は横合いから『衝撃波』の直撃を受けて谷底に落ちていった。

「容赦ねーな」

 ジョバンニが言った。

「偶然だから!」

 カテリーナが顔を赤らめた。

「正義は勝つ!」

 マリーとヴィートは拳を握り締めた。

「あ、そ」

 残りは呆れた。

 それにしても例の一体はまだ穴掘りしてるのか?

 開け放たれた門から堂々と入場し、穴を掘っている一体を発見する。

 子供たちは躊躇なく攻撃を加えた。

 先に攻撃してきたのはそっちだから的な状況だったので、遠慮はなかった。

「『虹色鉱石』発見したーッ」

 先日同様、籠のなかに落ちていた。

「よーし。みんな頑張った。少し休憩するぞ」

「はーい」

「やっと休めるね」

「おやつ、おやつ」

 子供たちは掘っ建て小屋の床を掘り炬燵風に掘り起こして椅子とテーブルを拵えた。

 僕はこれから起こることに備えて周囲の強化を始めた。

「師匠、何してんの?」

「ん? ちょっとな」

 天井と壁の補強を始めた、そのときだった。

 大きな衝撃が小屋を震わせた。

 子供たちが悲鳴を上げる。

「何!」

「何が起きたの?」

 吹き飛んだ屋根の一部から巨大な雲が立ち昇るのが見えた。

「何あれ?」

 子供たちは全員立ち上がり、軒下から空を見上げた。

 そして大きな石が目の前に。

「うわっぷ!」

 弾けた土塊が子供たちを襲った。

「そんな所にいると死ぬぞ」

「危なかった。汚れるとこだよ」

「結界張ってて、よかったね」

「お前ら俺の後ろに隠れたろ!」

「マリーたちはこうなることを予期していたのです」

 三人寄れば三重結界。機転はよし。

「立ちんぼしてたヴィートが悪い」

「そこのチビ三人。もっと奥に入れ」

 ジョバンニにたしなめられた。


 空は陰り、噴石が山のように降ってくる。

 辺りはあっという間に灰色に染まり、降り積もる音は賑やかだった。

 子供たちは怯えるどころか跳ね回って喜んでいた。

「凄いね」

「凄いよね」

「これが火山噴火……」

「なんで石が降ってくるの?」

「俺に聞くな」

「噴火すると、こうなるんだね」

「師匠、知ってたの?」

「噴火する前から建物強化してたんだから知ってたんでしょ」

 ニコレッタが横目で僕を見る。

「驚かせてやろうと思ってね」

「すっごく驚いた!」

「わくわくする」

「なぁ、なぁ。落ちてくる石、撃ち落とそうぜ」

「駄目だ。大人しくしてろ」

「ちょっと手伝いなさいよ」


 おやつの準備が終った途端、子供たちは大人しく席に着いた。

「今日のおやつは…… 名前わすれた」

「クロスタータだ。タルトの一種で、フラーゴラとアルビコッカのジャムかな?」

 一ホールを八等分した物を、それぞれ一つずつ。今回、夫人は需給の都合上、二ホール作ったようで、ラーラたちの分も切り分けられた模様。普段の一ホールを十二等分した物より多く見えるが、ホールの直径を考えると量的にはあまり差異はなかった。

「凄く得した気分」

「単純だな」

「いいじゃん。別に」

 飲み物はアイスティーだ。自分で冷やすんだけどね。

「いただきまーす」

 ドスンと近場に石が落ちた。

「びっくりした」

「これって、やむの?」

「やまなきゃ、ゴールまで行けないじゃないの」

「道ぐちゃぐちゃになるね」

「いじめだよ。いじめ」

「少しは子供に気を使って欲しいよね」

「さすがに足場が悪過ぎるからな。途中までショートカットだ」

「ピュイ?」

「キュルル……」

 ピューイとキュルルが召喚された。

「ナナナ」

 ピューイとキュルルの皿には全員からカンパが寄せられた。

「ピューイとキュルルにも見せたいもんね」

 非日常の景色は良かれ悪しかれ興奮するものだ。しばらくピューピューうるさかったが、楽しそうで何よりだった。



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