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クーの迷宮(地下40階 以下省略)平和的利用と物々交換

「成功だ!」

 形を残したまま魔法だけを発動させることに成功した。

 ただ、氷塊のなかから石を回収する作業は面倒であった。

「これ毎回するの?」

 子供たちは眉間に皺を寄せる。

「『氷結』魔法は却下だな」

『氷結』魔法には使い捨ての魔石を使うのが、適切であるという結論に至った。

「『雷撃』にしておくか」

「無難だねぇ」

 回収とバーサーカーに対する有効性を鑑み、そういうことになった。


「まぶし過ぎるーっ」

 完成品を投げまくった結果、一斉投擲はよろしくないという結論に達した。

「戦闘開始前に投げ込んで、麻痺を誘う感じでいいんじゃない?」

「目眩ましにもなるしね」

「戦闘中は普通の奴がいいよ」

 普通の奴とは『魔鉄鉱』製のことである。

「よーし。鉄一杯あるし、量産開始だぁ!」

「おー」

 子供たちはひたすら鏃を作り続けた。それぞれが各々の目的に合わせて、何種類もの鏃が創作された。

「これ、一番」

「こっち、二番」

「あれ? 一個足んない」

 飛距離優先、命中精度優先、威力優先。それぞれ小袋に分けて腰袋に。

「重い……」

 いくら手のひらサイズでも素材は鉄だからな。一人三十個も腰にぶら下げたら。

「背、縮むぞ」

「じゃあ、師匠が預かって」

「なんでそうなる!」

 重量軽減効果のあるリュックに放り込めば、この程度なんともないが、現在僕たちは空手である。

「転送しといてやるよ。後でリュックにしまっとけ」

「やった!」

「了解です」

「これも持ってく?」

 一人二個、配給で作った雷属性の付いた鏃である。

「これは使うときに配るわよ」

 フィオリーナの判断で一つの袋に。そして何も言わず僕の手に。

「パラメーターは全部同じか?」

「はい。利便性を重視しました」

「麻痺してくれたらラッキーぐらいで」

「師匠!」

 マリーとカテリーナが耳打ちしたいから、かがめと言う。

「あのね。置く奴、作って欲しいの。それでね――」

 かわいい声でごにょごにょと囁かれた。要求は再生可能な水属性の敷設型魔石、それも丸いの、であった。

 僕は隠しておいた『闇の魔石』の塊から必要分を剥ぎ取り、幼女の注文に応えた。

 何に使うのかは、内緒にされた。


 翌日の校庭で、それは置き型の噴水として持てはやされた。

 なんと石を、土の魔法で作った背丈ほどのポールの上に載せ、発動。『流水』魔法で滝を作り、水浴びをするという、実に平和的な魔道具に化けた。

 ちびっ子たちは自分で魔力を注いでは、ポールの先端の皿に載せ、噴き出した流水に身をさらす。

 きゃあ、きゃあと黄色い声が楽しそうである。

「まさか即席の噴水を作るとはね」

 熱い日差しの下ではさぞ心地よろしかろう。

「言ってくれたら、もうちょっと持続時間を長くしてやったのにな」

 直接水魔法で、とは言ってくれるな。それはそれ、これはこれだ。子供たちの笑顔が証明している。

 僕はバルコニーから嬉々として遊ぶ子供たちを見下ろした。



『闇の魔石』をなぜか落とす『クラウンゴーレム』の分布調査。重要案件を抱えて、本日は四十層の下見である。

 午前中、西側通路を完全走破し、三階フロアに上がる階段に達する。予想通り、西通路から南下しての発見であった。

 この先には姉さんたちと攻略した、絶景が望める小部屋から始まる既知のルートが存在する。 

「問題は現在地と、判明しているエリアとの位置関係だな」

 さすがにわからない……

「五体いる!」

 オリエッタが言った。

「あそこに固まってる!」

「あそこだけか?」

 オリエッタは頷く。

「てことは?」

「ナーナ」

「あそこが出口か……」

『避雷針』のせいで隠れている可能性は否定できないが、五体が群れていた場所は出口扉の前だけである。

「ということはバルコニーがある部屋はあの辺りで…… 三階は思ったより狭いか?」


 そんなに甘くはなかった。

 目の前に目標があるのに進めば進むほど、目標から離れていくのである。

「もう壁ぶち抜くか?」

「駄目。面倒なの来る」

「ナーナ!」

 そこ、やる気、出さない。

 迷宮を不遜に破壊すると『闇の信徒』という名のセキュリティーシステムが作動する。レイド級の怖い魔物が降臨するのだ。

 倒せれば御の字だが、できなければ隣接するフロアに移動、徘徊されるので、他のパーティーの迷惑になり兼ねない。最悪、迷宮封鎖にギルド職員総動員。Sランク投入。迅速に処理できなければ、もれなく悪名と共に莫大な罰金が付いてくる。過失なら一度は許されるようだが。


「避雷針、面倒臭い」

 ヘモジの気分をオリエッタが代弁する。

 ヘモジが動けなくなる程ではないが、やはり嫌な感覚が付きまとう。特に魔力を供給される側のヘモジはその辺を繊細に感じている。

 手数のない子供たちならいざ知らず。僕は通常弾でも剣でもどうとでもなる。

 見通せるなら楽勝だ。

 僕はライフルを構えた。

「ナナーナ」

 ヘモジは殲滅モードで舌舐めずりする。

 僕が『避雷針』を破壊するのを合図に猛烈ダッシュ。

 ボーッとしているミノタウロスを薙ぎ払う。


「ふー」と大きく息を吐きながら、ミョルニルを腰のホルダーに収める。

 ほんと、チビじゃなきゃ、格好いいんだがな。

 瞬殺ばかりしていては子供たちの参考にならない。

 任意にサンプルを抽出して、僕も手合わせをする。

「前回も戦ってるけど」

 やはり鎧が上等な物になっているだけで、バーサーカーのような劇的進化は見受けられなかった。

 怖いのはむしろ魔法使いの途中参戦だ。見晴らしのせいで、近接戦闘中にいきなり魔法を撃ち込まれるケースが何度かあった。

 監視役のオリエッタが常に周囲を見ているので、後手に回ることはないが。たまに黙ってクッキー食ってるからな。


 ぐるーっと遠回りする形で目的の場所にようやく到着した。

「『クラウンゴーレム』いなかった」

 いたのは『ジュエルゴーレム』ばかり。

「ナーナーナ」

 この先にもいないことは、ほぼ決定である。

「さあ、四階層への扉を目指すか」

 ぐーぎゅるるる。ヘモジのお腹が当人も驚くほど大きな音を鳴らした。

「ナー…… ナ」

 両手をお腹に当てて、覗き込んでも何も見えるわけもなく。

「健康な証拠だな。少し休むか? 出口もすぐそこだし」

「ナーナ」

「そうする」

 前回、侵入に使った見晴らしのいいバルコニーのある部屋に入る。

「お、パニーニだ」

 野菜がどっさりサンドしてある奴がヘモジ用だ。

 オリエッタの分は生ハムサンド。どうせ食べ切れないので、僕と半分こだ。

「本日の飲み物は……」

 水筒から注ぎ込む。トポトポトポ…… 甘い香り。紅茶だ。

「全部食べたらお昼入らなくなるからな」

 一応、ヘモジに警告しておく。

 当然、ヘモジが気にするわけもなく。綺麗に平らげた。そして時間ギリギリまでだらけた。

 先が読めるとこうなるわけだ。

「ナナーナ!」

 元気百倍! 涎を拭いて、立ち上がる。

 そうそう、頑張って腹減らしてくれたまえ。

「高みの見物」

 オリエッタは僕のリュックに尻を押し込んだ。


 目新しいことは特になく、姉さんが弓で倒した連中を銃でこなしながら、扉に向かった。

 そして扉の前に屯する五体のミノタウロス。

 ヘモジが綺麗に平らげて、何事もなく両開きの鉄の扉を開いた。

「眩しい」

 緑に囲まれた採石所を見下ろした。

 石工のようなミノタウロスが闊歩している。

「どうしようかね」

 さすがにこのエリアを一日ですべて回るのは不可能に近いが。かと言って前回のように転移して横着するのは目的にそぐわない。

「よし。気合いを入れて、端から回るか」

「その前に、糸玉設置する」

 肉球で叩かれた。

「そうだった」

 前回は勢いのまま、通り過ぎたからな。

 現在地は高台にあり、問題なさそうである。

「じゃあ、午後からはジャングル探検だ」

 まともに回ると迷宮一階層分、ありそうだ。



 子供たちは給食。僕は納戸に荷物を置いて食堂に。

 話し声が聞こえる。

 姉さんとオリヴィアだ。珍しい取り合わせだ。

「お帰り、リオ」

「ただいま」

「ナナーナ」

「お帰り、ヘモジちゃん」

「何、話してた?」

 オリヴィアに話を振った。

「あんたの船を安上がりに量産する方法よ」

 笑顔のポーカーフェイス。嘘か、真かわからない。

 姉さんの顔を横目で見るが、ヘモジに夢中でそれどころではない。

 オリヴィアを黙って見据える。答えをよこせ。

「人員輸送のために専用の船を建造しようかって話」

 姉さんのように船を前線に置いて移動するようなケース、相乗りができなければ移動がままならない現状。それに加えて、新たに発見された下級ダンジョンのある島、南北部との将来的な人的交流を考えて。

「駅馬車のでかい感じか」

「まあ、そんな感じね」

「自分が面倒臭いだけだろう?」

「あんたの『ワルキューレ』を徴発してもいいんだけど」

 姉さんは無視するとして……

「いいアイデアかもな。手前味噌だけど、あの船なら物流もこなせるし。維持費は半端ないけどな」

「『闇の魔石』は?」

「早々出ないんだよ。レイスから出る石だってこんなもんだぞ」

 心なしか小さめに、指先で示した。

「肉祭りに必要な食材の買い付けを依頼されたのよ。歓迎会用のね」

「じゃあ、送迎会はそろそろ?」

「来週出立する」

 わかっていたけど。またしばしの別れか。

「やっぱりあんたの『ワルキューレ』持っていこうかしら。埃、被ってるみたいだし」

「被ってないから!」

 確かに、工房のラインナップに正式採用されてからというもの、改良に時間を割くこともなくなってきたことは事実だ。それは完成型からかけ離れていく道でもある。

「新しい機体の開発に着手すべきかな……」

「終ったばかりじゃないの。急がなくても……」

「完成品になるまで五年、十年掛かるんだよ。没になる可能性だってあるし。『ワルキューレ』だって、ぽっと出の機体じゃないからな」

 ゼロからの出発。完成型から遠ざかるのではなく、近付けていく作業の方が面白い。

「新しいコアユニット、買おうかな」

「高く付くわよ」

「現金ないんだよね」

「今ある『闇の魔石』分でいいわよ」

「拳ぐらいしかないぞ。子供たちにも配ったばかりだからな」

「あの噴水面白いわよね。何度でも使えるなんて……」

「噴水?」

「あら、知らないの?」

 ベランダに連れ出されて、校庭を覗くように促された。



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