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クーの迷宮(地下40階 以下省略)バーサーカーだって怖くない

「うぎゃあああ」

「何これ! 強過ぎだよ」

「結界をちゃんと張ってりゃ大丈夫だ」

 子供たちは北通路にいるバーサーカーと戦っている。

「攻撃は通る! ゴーレムより楽だぞ」

「落ち着いて!」

「前に出るな。距離を取れ!」

 押さえ込めず、踏み込まれては薙ぎ払われるの繰り返し。ひたすら守勢に回る展開。

「撃たなきゃ倒せないぞ」

「結界が間に合わない」

 薙ぎ払いを往復されるだけで軽く四、五枚持っていかれる。それも数人まとめて一遍にだ。前衛は二撃目を恐れて散り散り、後衛がそれを追い掛け、差し込まれ、互いに補強し合うだけで手一杯だった。

 反撃を試みれば、ミノタウロスは怒り狂い、そいつを集中的に攻撃してくる。狙われた当人は青ざめるしかないが、その間に態勢を……

「駄目かも」

「ナーナ」

 陣の中央に入り込まれては合流もままならない。

「仕切り直すか」

 僕はミノタウロスを結界で囲んだ。

 ほら、ちゃんと見ろ。攻略のヒントだぞ。

 先日、僕も剥がされたから、いつも以上に気を使う。多重結界で破壊と再生をのらりくらり繰り返してもいいのだが、今の子供たちには逆効果に思えた。

 しっかり一枚で抑え込んで力を誇示しなければ。子供たちに安心を担保してやらないと。

「ナナーナ!」

「落ち着いて」

 ふたりが子供たちの間を飛び回り、なだめてくれる。

 子供たちはミノタウロスを遠巻きにしながら集結し、陣を立て直す。

 ミノタウロスが棍棒を床に叩き付けた。

 僕が結界を傾け、打撃を受け流したのだ。

「頭に血が上った相手など御し易かろうに」

 余程手が痛かったのだろう。ミノタウロスは悲鳴を上げた。

 そして耐えきれず、棍棒を手放した。

「僕がとどめを刺しちゃっていいのかな?」

 ふらふらになっている子供たちが我に返った。

「や、やる!」

 子供たちは自分たちの結界を最大限にしてミノタウロスを押し込んだ。

 もう僕の結界は不要だ。

 結界を解くと、子供たちはミノタウロスの顔面に強力な一撃を見舞った。


「ミノタウロスなのに……」

「この階のミノタウロス、強いね」

 確かに規格外が混ざっている。

 オリエッタにレベル確認を依頼した。さっきのバーサーカー、どう見てもこのフロアの適正レベルからかけ離れていた。とは言え。

「一緒になって脳みそ沸騰させてたら勝てるものも勝てないぞ」

 苦言を呈することは忘れない。

「ふぇーい」

「作戦会議していい?」

「魔力の補充も忘れるな」

「わかった」

 バーサーカーは通路一本に一体程度しか出ないが、倒せなければそこで詰みだ。この先進んでもいいことはない。

 さあ、考えろ。もっとやりづらい敵を相手にしてきただろうに。

 子供たちはひたすら連携の確認をしている。倒すことはできたのだから、後の問題はそこまでのプロセスをどうするかだけだ。どう立ち回る? 結界の配置一つで戦術も変わるぞ。 有無を言わさず先制攻撃か? 初撃を躱してのカウンターか? 


 子供たちが選んだのは鏃玉だった。

 翻弄してくる相手には翻弄で返す。結界で手一杯なら、攻撃は魔法以外で。

「その手があったか」

「ナーナ」

 忘れてた?

 オリエッタもヘモジも感心した。

 再び接敵したとき、子供たちは結界に比重を置きながらも、鏃を次々お見舞いしていった。

 バーサーカーはどこから飛んでくるかわからない鏃に翻弄され、前進を阻まれた。

「ナーナ」

「結構使える」

「さすがにこの数は……」

 前後左右上下、あらゆる死角から飛んでくる攻撃を捌くのにバーサーカーは手一杯になっていた。

 こうも容易く攻守が逆転するとは。これが勝敗の妙というものか。

 鏃が振り回される棍棒に接触したらしたで、その都度、握る手に衝撃が加わっていく。

 握力が下がれば、怒りにまかせて振るうことも敵わず、内包する怒りは焦りや苛立ちへと成り下がる。

 そうなってはもう子供たちの敵ではない。本気の一撃を顔面に食らうのみである。


「勝ったぞー」

 子供たちが両手を掲げた。

「おおおおおッ!」

 感極まって雄叫びを上げた。

「やったね」

 手を握り、抱き合い、目に涙を浮かべる。

 また一つ……

「ほら、みんな。喜んでないで、鏃、回収しなさい。なくなっちゃうわよ」

 マイペースな者もいる。

「ドロップアイテムじゃないんだから、簡単になくならないよ」

「あんたは外し過ぎよ」

「動きが速いんだから、しょうがないだろ!」

「マリーとカテリーナはちゃんと当ててたわよ」

「威力主体だもんな」

「今回の戦闘スタイルに合ってなかっただけさ。気にするな」

「でも一番遠くに飛んでったの、ヴィートのだよ。なくす前に気にした方がいいよ」

「どっち!」

「あっち」

「あわわわわっ」

「これが魔石だったら……」

 ニコレッタが何を考えているのか。わかるよ。

「でも使い捨てになっちゃうのよね」

 魔石の鏃はバラバラになろうがなるまいが、魔力が切れたらそれきりだ。

「使い回しできればいいのにね」

「新しい魔石は?」

「あれだって同じよ。爆発させちゃったら終わりでしょ」

「普通の魔石使うより勿体ないよ」

 爆発させなきゃ使えるんじゃないだろうか? 例えば『氷結』とか。

 確信がないのでこの時は黙っていた。

 が、当然、子供たちも思い至るわけで、こちらをじっと見る。

「後で魔石を提供しよう」

「やった!」

 次のステップに進むのは、もっと『魔鉱石』で作らせてからにしようと思っていたのだが。

 必要は発明の母とも言うし。術式の見本をいくつか用意しておこうか。


 狩りは順調に続いた。色気を出して返り討ちに遭うこともあったが、その都度修正して、前に進んだ。

 歩みは遅くても、濃厚な時間が過ぎた。

「ようし、広場で休憩だ」

 みな、泉のプールの縁に腰掛け、水筒を取り出した。

 本日もパウンドケーキ。

 ヘモジとオリエッタも昨日より美味しそうにケーキを頬張った。



 昼までもう一働き、通路の残りを制覇させて、子供たちは帰らせた。

 僕とヘモジ、オリエッタは『闇の魔石』調達のため再び四十層に戻ることに。

「どうせ、流れ作業だし」

 何度、ここを訪れたことか。

 湧きポイントはほぼ固定。順調に狩りを進めた。

「お、今日は十一枚だ」

 階段を下りてすぐの宝箱から、本日は金貨十一枚せしめた。

 人数分の魔石を調達すると僕たちも帰路に就いた。



 既に昼の団らんは終局に向かっていた。

 たくさんのパンとジャムの瓶が所せましと並んでいた。

「どういう嗜好?」

「給食のレシピ開発にご協力下さいませ」

 ラーラが白々しく皿を並べながら言った。

「これは?」

 皿と一緒にコインが二枚、ヘモジとオリエッタの分を合わせると六枚、目の前に置かれた。

「ご意見に添えないことがございますことを、あらかじめお断りさせて頂きます」

 なるほど。食べ終わったらコインを並べて、順位を付けていくわけね。

 今のところ苺が一番人気のようだ。次点はミルティッロとアランチャ。ブルーベリーとオレンジだ。

『ピーナッツバター』と手書きされたメモの上にコインが集まっているのはご愛敬である。メモの隅には『無効票』と追記されており、大人たちの抵抗の跡があった。

「ジャムだって言ってるのに!」

 ラーラの視線はヘモジとオリエッタの手元に落とされた。

 パンの代わりにスコーンもいいかなと、つい我が儘が頭をよぎった。


 午前の狩りでお腹いっぱいになった子供たちは、集中力が持たないとの理由で、午後の狩りを珍しくキャンセルした。

 代わりに『闇の魔石』を使ったリサイクル可能な鏃作りを行なうことになった。

 その前に、恒例の倉庫整理。転送ゲートの周囲に転がっている回収品整理だ。

 その間に僕は『紋章学』の書籍を傍らに置いて、参考資料の製作に取り掛かった。

「人手があると一瞬だな」

 なかでもバンドゥーニさんのために回収しておいた大剣が子供たちの視線を集めた。

「小物ばかりでよかったね」

 相手が巨人の類いだとどうしても装備品等は廃棄することになる。が、鉱物の塊もそれなりに集まっている。決して軽くはないはずだ。

 参考資料を選びつつ、僕は『闇の魔石』を鏃の定型サイズに加工していく。

 予定通り、一人二個ずつ、行き渡りそうだ。


 子供たちはアイデアを出し合った。

 やはり守備的にも効果が見込める『氷結』魔法が一番人気である。炎系の魔法は延焼を誘発する恐れがあるので、優先順位は低い。風の魔法の嵐系も同様。切断系はそもそも仕込む意味がない。対アンデッド用に光属性も検討されたが、汎用性を優先して却下された。

 自分たちが使えない属性をストックしておくのはいいアイデアだとは思うが。余裕ができたら、ぜひとも採用したい。四十一層はレイスが相手でもあるし。

「『氷結』は魔力消費多いんだよね」

 他に候補が浮かばなかったということで、今回は『氷結』が採用された。

「この中に収まるかな」

 マリーとカテリーナが心配そうな顔をする。

 その予想は正しい。『氷結』魔法はそもそも範囲魔法であり、単発魔法に比べて非効率にできている。多くの標的を巻き込むことで帳尻を合わせているわけで、それを単発でということになると言わずもがなである。

 魔石に閉じ込めた魔力だけでどれ程のことができるのか。

 不足を覚悟しての作業となる。


 語彙が増せば、複雑さも増す。僕は不都合を指摘しながら、子供たちの要望に答えていく。

 子供たちが仮想敵に定めたのはバーサーカーである。ハイパワー、ハイスピード。相手として不足はない。

 でかい相手をどこまで押さえ込めるか。威力が増せば、飛距離や追従性が犠牲になる。流れ弾が味方に当たることも想定すると効果範囲はできるだけ狭く。

 発明とは矛盾との戦いだ。限界の狭間で子供たちの調整は続く。

 そして一つの完成形をみる。

 飛距離ゼロ。感知発動型の置き型鏃。

 こうなるともう鏃とは呼べない。

 でも子供たちはこれを罠として使用することを企んだ。『味方を巻き込まない。威力を極限まで上げる』という命題をクリアーすると、こういう帰結になるべくしてなった。

「こうなると鏃サイズである必要がそもそもないんじゃないか?」

「そうだよね」

 敷設型の魔法陣はある。でも再利用できるとなると…… 希望が膨らむね。

「自重する?」

 子供たちはその有効性に気付いている。

「楽しそうではあるけど。修行にならないからな。保険で持つぐらいにしておこうか?」

 案は案として、今は軌道修正。



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― 新着の感想 ―
[一言] 闇の魔石製の鏃に光の魔法を刻むのを計画していますが、使用する魔石自体の属性と術式の属性で干渉が起こったりはしないのでしょうか? 特に闇と光とか水と火とか、相殺してしまいそうな属性同士の場合・…
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