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クーの迷宮(地下40階 以下省略)ミノタウロス奮戦するも、ヘモジに勝る物なし

 先日の続き、長い廊下に連なる居住区画の先に石柱に囲まれた広場があって、その中央に泉が湧いている。ここに敵が来ないだろうことは先日確認している。故に転移ポイントに選んだわけだが。

 まず安全地帯でオリエッタの装備を剥がす。

 オリエッタは身体を何度もブルブル振って毛並みを揃え、身体をほぐした。

 脱いだ装備は専用の袋に収めて、僕のリュックに放り込む。すべて猫サイズの一品物。小さくても一財産である。

 それが済むと、泉の縁に腰掛け、代わりにリュックから取り出したおやつを縁石の上に並べる。

「パウンドケーキだ」

 ヘモジが僕の水筒を取り出し、入れ子になっているコップを並べ中身を注いだ。コップは最近、ソルダーノさんの店で購入した物である。

 水筒の中身はウーヴァジュースだった。

 ずっしり重めのケーキが口のなかでしっとりほぐれる。

「うまうま」

「ナーナンナ」

 ふたりは無心で頬張った。

 振り返り、泉に立つ石像を見上げる。

「ミノタウロスの像か」

 斧を掲げた精悍なミノタウロスの戦士像である。角がやたらとでかかった。

「こんなミノタウロスいたら笑う」

「ナナ?」

「さあね。強いかどうかは手合わせしてみないことには」

「ナナナ」

「そのときは譲るよ」

「ジュース、お代わり」

「はいよ」

 ここを中心に道は四方に延びている。ここがこのフロアのマップ中央である。

 見付けた地図のそれぞれ二辺が廊下部分となる。地図が二枚合わさって、合わせ目が廊下一本分という計算だ。

 故に、ここからは二方向の半面のみが確定部分、一方向が完全空白地帯となる。


「片面をまず攻略するか」

「ナーナ」

 パン屑を散らす。

「運がよければ地図ゲット」

「そう言うこと」

 昨日、通ってきたルートは北の外縁にある入口から外周部を右回りで四分の一周し、長い東廊下を通ってここ中央広場に至るものであった。

 故にまず北廊下の片側から始めることに。

 通路に入るとミノタウロスの戦士と魔法使いが待ち構えていた。

「ナーナ?」

「どうぞ」

「ナナナ」

 食後の運動とばかり、ミョルニルをブンブン振り回しながら近付いていく。

 戦士が気付いて、斧を振り上げヘモジに迫る。魔法使いも詠唱を始めた。

 交錯する巨大斧とミョルニル。

 弾き飛ばされたのはミノタウロスの方だった。返すミョルニルが、魔法使いに振り下ろされた。

「いつ見てもシュールだ」

 ヘモジが弾き飛ばした一体に僕は剣を突き立てた。

 部屋からもう一体が飛び出してきた。

 ヘモジは透かさずミョルニルを叩き込む。

 部屋から出てきたミノタウロスは斧でミョルニルを受け止めるが、部屋のなかに押し戻された。

 トコトコヘモジが扉に迫る。

 小人を蹴り出そうと蹴りが飛んできた。

 が、足の甲をヘモジが床に打ち付けた。ミノタウロスが悲鳴を上げた。

 部屋のなかに崩れるミノタウロス。

 ヘモジは暴れる両足に前進を阻まれ、追撃できない。

「ナナーナ」

「はいよ」

『氷結』で凍らせた。

 一度に三体。出会い頭、注意と、記録。

 魔法使いの杖から『魔石モドキ』を回収して転送。骸も魔石になったところで、最初の部屋の探索に入った。

「宝箱」

 部屋に入って、右奥の空き部屋。

 オリエッタが覗きに行く。

 武器庫?

 並んでいるのは当然、人には持てないサイズの武具ばかり。

 小さく見える宝箱を叩きつぶす気満々でヘモジが接近する。が、カチッと鍵が開く音がした。

 中から大剣が出てきた。風の魔剣であった。

「当たりかな?」

 僕は使わないので、バンドゥーニさん用に残しておこう。さっさと倉庫送りにした。

「こっちにも宝箱」

「ナナナ」

 いきなりヘモジが叩いた。

 ミミックだった。

「なんでわかった?」

「ナナーナ」

 動いたらしい。

 オリエッタとふたり、未熟なミミックと揶揄した。

「おー」

 骸が大量のコインとアクセサリーになった。

 マップにない側の部屋だったので、簡単なマッピングと、ミミック情報を。

「次の部屋に行こう」

 次の部屋は向かいの扉の先である。

 完全な空き家だった。

「埃しかなかった」

 オリエッタがくしゃみする。

 廊下をさらに進み、隣の部屋に。

「いる」

 オリエッタが姿勢を低くした。

 ミノタウロスからしたら、あまり意味のない動作だろうなと思いながら、姿を確認する。

 天然の突起がある堅木でできた痛そうな棍棒。

 涎ダラダラ。様子がおかしい。

 ラリってるのか?

 ぎょろ目がこちらを捉えた!

「見付かった?」

 充血した真っ赤なぎょろ目が、僕たちを捉えて放さない。

「バーサーカーだ!」

 棍棒が振り下ろされた。

 床が陥没して、大きく揺れた!

 僕は結界で破片を防いだ。

 一瞬で懐に入られ、衝撃が降ってきた。

 一枚持っていかれた!

 こりゃ子供相手だと、三枚は逝くな。

 ヘモジが土手っ腹にカウンターの一撃を叩き込んだ。

 うずくまるミノタウロス、筋肉が盛り上がり、怒りが益々、増強されていくようだった。

 部屋を破壊しないように加減した結果だろうが、それにしてもだ。ヘモジの完璧な一撃を耐えきるとは…… なかなかどうして。

『無刃剣』を頭に叩き込んだ。

 兜が斜めに割れて落ちた。

 反応するのかよ。なんて反射神経だ。

「ナナーナ」

 ヘモジのやる気が増していた。

 こいつからは土の魔石ではなく、火の魔石が手に入るはず。

 宝箱はなかった。

 さらに隣の部屋を覗いた。こちらは空だった。でも宝箱が…… 二つ並んでいた。

 どっちがミミックだ?

 念のため僕も結界アンド破壊モード。

 合図と共に僕とヘモジは一歩前に踏み出した。

 二つとも当たり、ミミックだった。しかも攻撃対象を、対面している相手ではなく、クロスして不意を突いてきた。

「ナ、ナーナ!」

「その意気はよし!」


 壊れた宝箱が二つ、足元に転がった。そして消えた後には、普段よりもよい物が落とされる。

「……」

「なんでだーッ!」

 オリエッタが僕たちの代わりに吠えた。

 それもそのはず、二体のミミックが残した物は地図がそれぞれ一枚ずつ、合わせて二枚のみだった。

 このフロアの地図情報は揃ったが……

「一枚ずつって、何!」

 オリエッタの怒りは収まらず。

 三人で騒いで、大笑いした。

 なんて馬鹿馬鹿しい。

 他に宝箱がないことを確認して、部屋を出た。

「ナーナ?」

「そうだな」

 少し戻って廊下に並ぶ左右の扉を当たり直すことにした。


 部屋のなかで爆発が起きた。

「今度は何?」

「ナーナ?」

 ミノタウロススペリアがこちらの侵入に合わせて、魔法を放ったのだった。が、手前の壁に爆炎魔法が当たって自爆、黒焦げになっていた。

「コントかよ」

 魔法を放ったミノタウロススペリアは床の上に転がっていた。朦朧とする頭を振りながら起き上がろうとするもヘモジの一撃で昇天した。

「締まらないな」


 魔石は通常の土の魔石だった。『魔石モドキ』はでかいのを一発放たれてしまって、魔力残量が半分ほどに減っていた。

 他の『魔石モドキ』と管理を分けるのも面倒なので、今回は回収しなかった。こんなときに例の魔石があれば吸わせてやるんだけどな。


 無人の部屋が二つほど続いた。

 そして三つ目。見るからに凄い武器を携えたバーサーカーがいた。

「ナナナナ!」

「あの武器……」

 まがまがしい赤。持ち手から刃先まで朱色に染まった両手斧。明らかに一品物だった。

「絶対回収!」

 オリエッタが珍しく所望した。

 あんな馬鹿でかい斧、何に使う?

 でも結論は出ている。

 僕は結界を拡張、敵を力尽くで押さえ込んだ。

 そこにヘモジが突進、身体を反らしたミノタウロスに撃ち込んだ。が、後退りしながらも、耐え切りヘモジのミョルニルを躱した。

 そして反撃が小人に。

 動きが違った! 武器の付与のせいだと直感した。

 僕は『衝撃波』を鼻面に放った。

 一瞬できた隙。

 でもそれでヘモジには充分。

 顔面を打ち付けられた敵はのけぞったまま動かなくなった。

 大きな武器がドスンと埃を巻き上げながら床に落ちた。

 僕は風の魔法で埃を払いのけた。

 赤い刃先が怪しく光る。

「ナーナ?」

「どうするんだ?」

「リオネッロが溶かす」

「素材にするのか?」

 オリエッタが大きく頷いた。

「付与とかなくなっちゃうけど」

「それ、ミスリル」

「はあ?」

「ナア?」

「赤くてわからなかった」

「ナナーナ?」

「大当たりだな」

 四十層でミスリル装備か。

「でも刃先だけ」

「なんだ」

 赤かったのは強化付与が素材同士の結合部で断絶していて、うまく伝わっていなかったからで、要するに不良品だ。魔力源である魔石との間でおかしなループができ上がっていた。ミノタウロスが見よう見まねで造ったわけではあるまいに。

 素材に戻すとオリエッタが言うように刃先はミスリル製だった。でも……

「刃先、薄ッ」

 ミノタウロスサイズだし、大斧の刃先部分だけでも充分だと思ったら、ミスリル部分は本当に先端の先端、指一本分の幅しかなかった。

「騙された」

 オリエッタの尻尾も垂れ下がった。

「でも、面白い趣向だ」

「貧乏ミノタウロスめ」

「いや、むしろミノタウロスのなかではお金持ちだったんじゃないか? 技術は伴わなかったけどな」

 先を急いだ。

 扱えない武器に興味が湧かないのはヘモジだけではない。

「いっそまとめて来てくれればいいんだけどな」

「壁が厚いにも程がある」

 ただの石壁にそんな効果があるとは思えない。

「むしろ持ち場を頑なに死守する姿勢を褒めるべきでしょう」

「角で耳が塞がってるんだ」

 扉が開いていた。オリエッタと顔を見合わせる。

 これで中に敵がいたら……

「怠慢というものだな」

「ナーナ……」

 ヘモジが踏み込んだら、魔法が飛んできた。

「働き者だった!」

 オリエッタが感心した。

 追撃はなかった。

 ヘモジがけほけほ煙を吐きながら戻ってきた。

「魔法使いだけだったか?」

「ナーナ」

 僕たちは部屋に踏み込んだ。



 いろいろ問題山積ですが、面白おかしくなんとかします。当時どういう理屈で書いていたのか思い出せれば問題ありません。今回は入れ込めませんでしたが。

 ご協力ありがとうございました。


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