もう何もかもバレバレですよ
6/20 前話後書き、転記。
『闇の魔石』について、前作で即出だとの情報あり、大修正しました。
フラグ回収だと息巻いていたのに。こ、これでごまかせ、いや、帳尻合いましたかね?
教えてくださった方、ありがとうございます。分量が分量なので探しても見付けられず……
以後注意致します。
ところで…… ゴーレムが魔石落したとか風の噂で聞いたんですが(ぼそ
暗がりの我が家に帰宅して早々、シャンデリアが輝き出すのを待たず、僕はエレベーターで地下へ下りると、大伯母の部屋の扉を叩いた。
扉は何も言わずに開いた。
「どうした?」
深夜にもかかわらず、大伯母は調べ物の最中だった。
「四十一層のレイスから例の魔石が出た」
僕はお定まりの席に断りなく座ると、ギルドで起きたことを話した。
大伯母はポットに火を掛けながら僕の話にじっと耳を傾けた。
「なるほど。ゴーレム闇属性説か」
そっち? 興味を持つ方、そっち?
大伯母がカップを僕の前に置いて、お茶を注いだ。
白い湯気がカップのなかで舞い踊る。
「闇属性説は昔からあってな」
「そうなの?」
「ゴーレムからなぜ魔石が出ないのか。アンデッドと結び付ける説は以前からあったんだが、いよいよ真実味を帯びてきた感じだな」
大伯母はなぜか嬉しそうだった。
「闇属性の魔石説の方は?」
「『認識計』に名が付くと言うことは、いつかどこかで、誰かが名を付け、一定のコンセンサスを得たということだ」
「てことは発見された前例がある?」
「有史以来そのような報告はないな。表舞台から撤収されたことは事実だが」
「てことは、やっぱり」
「迷宮の管理者様々だな。何が何でもお前を贔屓するつもりのようだ」
「じゃあ、もう決定?」
「当人と話せればいいんだが」
「取り敢えず、どうするの?」
「メインガーデンには知らせてある。結果は明日…… いや、もう今日か。今日中に上がってくるだろう。買い取り価格は当分安定しないだろうが、高値で売り抜けようなどと思うなよ。沽券に関わる」
「売る気はないよ」
「溜め込む方が先だろうしな」
もう何もかもバレバレだよ。
「まあ、後の面倒ごとは背負うべき者たちに任せて、お前は平常に戻ることだ。浮き足立っていると子供たちが動揺する」
『魔法の塔』預かりってことですね。
「ラーラが喜ぶな」
「え? ああ。そうだね」
「この世界の有用性が多少なりとも担保されれば、状況も好転するだろう」
「今度、ヤマダタロウに会ったら礼を言わなきゃ」
「奴らには奴らなりの思惑があってのことだろうがな」
そりゃそうだろうけど。
「ごちそうさま。もう寝るよ」
「ああ、そうだ。ドラゴン装備がもうすぐ届くそうだぞ。知らせが来た」
「思ったより時間が掛かったな」
「子供たちはもうしばらく四十層に足止めしておくんだな」
「四十一層に潜っても、当分芋洗い状態だろうしね」
「下層のアンデッドやゴーレムからも今後、出てくるかも知れんな」
「みんな考えることは同じでしょう。情報はすぐ出揃うよ」
「お休み」と「ごちそうさま」を言って、部屋を出た。
明日、狙っても他の冒険者たちとかち合いそうだな。
四十層を下見する方がいいかとも思ったが、一度だけレイスと戦ってみようかと浮気心が。
「久しぶりに光魔法全開だな」
僕のベッドのど真ん中で大の字になっているヘモジを隅に寄せて、僕は眠りに就いた。
「闇属性って本当?」
テーブルにトドのように身を乗り出すヴィート。
「『認識計』がそう言ってるんだから、そうなんだろう?」
朝から子供たちがざわついていた。
「ほら、みんな。もう、さっさと席に着きなさい」
夫人が子供たちの尻を追い掛ける。
子供たちに誰がばらした?
言わずもがな、ラーラと大伯母の間で成された伝達事項のなかに含まれていた。
大伯母が珍しく既に席に着いていた。夫人の助けで子供の群れから解放されて、内心ほっとしているようだった。
「師匠、闇属性の魔法って何があるの?」
「言われても、すぐには思い出せないな」
死の領域だと勝手に思い込んでいたからな。
「闇属性の認識も今後、変わってくるんじゃないかしらね」
「死霊使いか、ハイエルフにでもお伺いするんだな。奴らの十八番だろう」
大伯母がパンをちぎって口に運んだ。
一番情報を抱えている人間が何をしれっと。
「そういや、うちのハイエルフは?」
「まだ寝てるよ」
「昨日も遅かったみたいですからね」
「前線に戻る前に倒れなきゃいいけど」
いよいよ前線への移動が近い。
「肉祭りの準備も急がないとね。今回は数が数だから」
「ちょうどいいわ。そのとき一緒に『闇の魔石』の情報も公示しましょう」
既に想像以上の事態に発展していた。『白亜のゲート』前は未だかつてない程の大行列ができ上がっていた。
四十一層に入れる者は先行組のまだ一部だけだが、あやかりたい連中が探索を加速させるべく、こぞって入場待ちをしていた。
「駄目かな、こりゃ」
いや、むしろ今のうちに入るべきでは?
オリエッタとヘモジが肩の上で周囲を見渡すなか、僕は当初の予定通り地下第四十一層を選んだ。
四十一層は山間の街を丸ごとそのまま舞台にしていた。
野犬が遠吠えする宵の口、街の中央まで一本の坂道が延びていた。坂を下るに従い脇道は増え、湖に突き当たる頃には湖畔を半周する程までに広がっていた。居並ぶ住居に明かりが灯ることはなく、交差点に立つ街路灯の薄明かりだけが怪しく揺らめいていた。
湖面は波音を立てながら、ほとりの小舟を揺らし、月明かりを攪拌する。
『ようこそ――』
街の名前が風化して消えているウェルカムゲートを潜る。
その前に、オリエッタの装備を対レイス仕様に変えないと。
頭の先から尻尾の先まで宝飾品で輝いた。黄金を着込んだファラオの黒猫のようであった。
これで体力は常にレイスの三倍。状態異常無効化、奇襲にも耐えられる聖騎士もびっくりの対上級アンデッド仕様であるが、着ている本人は苦い顔をしていた。
「尻尾が直角に曲がりそう……」
不満たらたらであった。
「『身代わり人形』も持ったな」
オリエッタの背中の鞄を叩いた。
僕が聖結界を張るのでそう易々と接近されることはないだろうが、命は一つだ。
さて、レイスを探さにゃ。
ゴーストタイプは見付けるのも難儀する。
街道沿いは既に冒険者たちが掃除したようだった。
出口情報がまだないので、彼らは開示されている情報をさらに広げるように展開している。
「こっちは手合わせしたいだけだしな」
他の冒険者が行かなさそうなルートを模索する。
「あの丘の一軒家を目指すか」
間違っても出口なんぞありそうもない場所を指す。
一軒家へと至るであろう森の小径に入る。
「真っ暗」
「さすがに夜歩くコースではないな」
恐らく、外縁の森一帯は明るい日中、レイスたちが逃げ込む場所として用意されたものであろうと推察される。
そうそう、エルーダでは四十一層からは主力の魔物はほぼ一種類と決まっているが、寄せられたマップ情報によると既にここ四十一層では一系統という表現に置き変わっていた。一種類とそれに連なる系譜、亜種、付属する魔物等々。
要するに他のアンデッドも出てきますよ的な。既にスケルトンとゾンビ犬、ゴーストの存在が確認されている。
所詮、下位の魔物だと思って侮ることなかれ、下層になるほどそのレベルは上がっていく。
レベル六十越えのスケルトンなんて生前は勇者ですかって感じである。
では早速。戦闘開始の狼煙を上げる。
かつて『聖なる光・改』と称されていた現「『聖なる光』!」
浄化効果付きの光源を頭上に解き放つ。
森のなかが一瞬ざわめいた。
「ん」
物音がした。
オリエッタの耳もピクリとなった。
ヘモジがミョルニルの鞘に手を掛ける。
「ギィヤァアアアアアアアアアア!」
金切り声が耳をつんざく。
僕は『銀の粉』を撒いた。
どんぴしゃ。干からびた顔が現れ、粉をもろに被った。
「キァアアアアアアアア」
途端に皮膚がただれ、形相が無残なものになっていく。
『聖なる光』と『聖結界』の効果もあって、敵はもはや袋の鼠。
「さあ、昇華されるが、ああッ!」
ヘモジがとどめを刺した。虫食いの枯れ木のように頭蓋が簡単にもげた。
残った身体は糸の切れた操り人形のようにバサッと無機的に草むらに倒れ、そのまま露となって消した。
放っておいても昇華したものを。
ヘモジが草むらを探った。
「ナナナ」
小さな石を拾い上げた。
オリエッタが肩越しに覗き込む。
「さすがに『クラウンゴーレム』程の大きさはないか」
「ナーナ!」
また来た?
森の木々のなかを滑るように次がやってくる。
『聖なる光』に臆さないところはさすがと言えるが。
完全に虚空に消えた。
襲うときは必ず実体化してくるので、その瞬間を待った。
ついでに撒き散らした『銀の粉』も風の魔法で巻き上げておく。
「ナーナ!」
左斜め、いきなり目の前に姿を現した!
今回も『聖結界』が食い止めた。
初撃に失敗したレイスは『聖なる光』をもろに浴びた。
レイスは痛みに耐えかね、虚空へ逃げようと試みるが、既に銀粉が身体に纏わり付いている。
「ギヤアアアアアアアアアア!」
牙を剥き出し、こちらを威嚇する。
「思い通りにならないからって怒るなよ」
またミョルニルが頭を粉砕した。
「ナーナ」
「スカスカ頭だって」
オリエッタが笑った。
「コンスタントに出るもんだな」
サイズは小粒だけど。
「次は手を出さないでくれよ。欠損なしで葬りたいからな」
「ナーナ」
ヘモジはミョルニルの代わりに銀のナイフに持ち替えた。
「結構いるな」
小径を行くとレイスが徘徊している姿を散見できた。
下位の魔物たちは最初の『聖なる光』で昇天したか、逃げて見当たらない。
それでもエルーダより密度が濃いな。
丘の下、森の縁にいた一体のレイスが透かさずこちらを捉えた。
人の身ならばこの坂を上ってこようなどとは思うまいが……
姿を消すということは、奇襲を狙っているということ。
「驚くのはいつもそっちだけどな」
背後に現れた!
「ギァアアアアアアアアアアアアアアアア」
簡単に網に掛かってくれる。
ヘモジが投げた銀のナイフが太股に突き刺さった。これでもう虚空には戻れない。
後は『聖なる光』で焼き尽くすのみ。
日の光を浴びたバンパイアの如く、最期は灰になって虚空に霧散した。
「うーん。余り変わんないな」
頭があってもなくても、石の大きさはさほど変わらなかった。
「戻ろうか」
敵が集まり始めていた。
本格的に掃討する気はまだないので撤収することにした。
「おやつ、おやつ」
「ナナーナ」
脱出し、四十層に跳んだ 。
6/20 前話に続き、若干修正。
前話、五千字、超えたわ。言い訳って言葉が多くなるんだよね(笑
でも改善できたと思うので、よろしかったら前話、修正箇所(ギルド事務所のシーン)だけでも読み直してやって下さい。
今回は大伯母の台詞一行だけ修正かな?
お騒がせ致しました。m(_ _)m




