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アンビリーバボー

「タイミングは自分で調整しろよ」

「おっしゃ。やるぞー」

 子供たちは頑丈に補強した的目掛けて、無数の曲線を描いた。

「おぎゃ!」

 マリーが奇声を発した。

 失投し、的から右に大きくズレたところに投げ込んだのに、距離半ばで軌道修正、的まで一直線に飛んでいったのだった。

 実際、経験すると唖然とするらしい。

「ほい。ほい」

 気を大きくしたのか、手持ちの二個をコースを変えて、同じように大暴投して見せた。

 同様の結果になって、マリーは満足げだった。

 それを見ていたジョバンニは馬鹿をやった。

「遅延させ過ぎ」

「馬鹿なの?」

「馬鹿だよね」

「いいんだよ! 今は試しでやってんだから」

 マリーより腕力があることを想定せず、遅延を遅く設定したせいで、軌道修正が間に合わず、的から離れた壁を叩いて、跳ねまくった。

「そうそう、トライ・アンド・エラーは学びの基本よ」

「そうね。まず馬鹿を治さないと」

 フィオリーナが上げて、ニコレッタが落す。

「お前らなぁ……」

 本当に仲がいい。うらやましい限りである。

 それぞれ、手持ちを上書きしては自分の用途に合ったタイミングを模索する。

「僕は加速する奴」

 ミケーレはそう宣言して通常通りに投げた。

 一投目はスパーンと小気味いい音を出した。

 二頭目は何やら手の振りを考えている。

 裏投げ? チコレンジャーかよ。

 ニコロは慎重に角度を決めて投じた。

 踏み出した足の位置、モーション、曲げるタイミング、方向、一投ずつ吟味しての投擲である。

「わかんね」

 四投目で考えることをやめた。

 おい。

 術式の上書きに手間取ったカテリーナが一周目の殿である。

「むん!」

 思いっきり山なりに投じた。当人の全力であった。

 それでも『必中』は発動し、見事に的を貫いた。

 二発目、三発目もしっかり命中した。

 同じことをしているかに見えて、遅延発動のタイミングを微妙に変えてきている。

 検証実験の見本のようだった。フィオリーナのテコ入れがあった模様。誘導性能と威力のバランスを鑑みる見事なものであった。

 マリーとの会話が漏れ聞こえた。

「ヒドラアタックは九本首が最強だからね。目標はふたりで九個同時投げだよ」

 お前ら、四個ですら同時に持てないのに何考えてるんだ。ふたり合わせて四本首ぐらいにしときなさい。


 その後、熱中し過ぎた僕たちは夕飯に遅れ、全員デザート抜きになった。



 食後、こっそり単独で迷宮に戻り『クラウンゴーレム』から新魔石を回収した。

 既に合成してある物と一つに合わせて『ワルキューレ』の収納に仕舞い込んだ。

「ぐふふふふ」

 秘め事は楽しいのぉ。

「おや?」

 んんん?

 保管していた通常の魔石の一部が空になっていた。

「まさか、誰か勝手に使ったんじゃ」

 一瞬、猜疑心が頭をよぎる。が、原因はすぐに判明した。

「……」

 新魔石と隣り合っていて、たまたま触れ合っていた魔石だけが魔力を吸い出されているようだった。

『解析』魔法で石のステータスを覗いた。

「やっぱりだ……」

 隠蔽のために魔石のストックのなかに無造作に放り込んでおいたが、どうやら接触していると勝手に吸収してしまうらしい。

 この間使った残りしかないと思って、合成するときまったく気に留めなかったが、明らかに魔力残量が増えていた。

「お」

『解析』魔法のレベルがたまたま上がった。

「これはちゃんと管理しないといけないな」

 僕は頭陀袋のなかに新魔石を放り込んで、普通の魔石をわざと袋に接触する状態にしておいた。

 これで魔力が吸われるようなら考えなくてはいけない。

「大伯母への報告が増えたな」

 残りを遠ざけ、空になってしまった魔石を間引いて、格納庫のハッチを閉じた。

 タロスの船のことが一瞬、頭をよぎった。

 お互い『光弾』を用いた砲撃戦となると、通常兵装は役に立たなくなるかもな。

 運用には第二形態が複数必要になるようだが。飛距離を伸ばすためにバリスタに使う石も大きな物に変えていく必要が出てくるかも……

 問題は防御だよな。

 魔石の重要度が増してくるな。

「でも新しい魔石は入手困難だし。アールヴヘイムにも流さなきゃいけないだろうし」

 でもまず、あの誘爆し易い壺をどうにかして欲しいところであるな。

 小口の扉を閉じて施錠した。


「ん?」

 冒険者ギルドの方が何やら騒がしい。

「こんな時間になんだろう?」

 既に深夜を回っている。僕は事務所を覗いた。

 すると先行組のパーティーが何やら受付に持ち込んでいるのが見えた。周囲には野次馬が屯している。何してるんだか。

「ただの魔石じゃないのか?」

「だったら大騒ぎするかよ」

 僕は直感した。それが新魔石のことだと。

 まさかこうも早く発見されるとは! これこそ大伯母に早く知らせないと。

「まじかよ」

「魔力を吸収するだって?」

「吸収した魔力は普通に使えたわよ」

 魔法使いが自慢げに解説する。

「どこで手に入れたんだ?」

「んー」

 そりゃ、秘匿情報ってもんだろう。

「どうせ戦えばわかっちまうことだからな」

 ばらすのか? なんで?

「レイスだ」

 え?

「ゴーストの…… あれか?」

「そうだ」

「アンデッドだぞ!」

 レイス。ゴーストの仲間で悪霊である。肉体と分離した生き霊が戻れなくなった存在だと言われている。エルーダにおいては四十一層に出没する魔物で、冷気攻撃を主体とし、病気などの状態異常を併発させる典型的なゴーストタイプである。しかも、起死回生の『生命吸収(エナジードレイン)』は即死攻撃にもなり得る凶悪なものであった。

 が、問題はそこではない。

「なんでアンデッドから魔石が出るんだよ? ほんとか?」

「そういや、大戦前はレイス以外のアンデッドからも魔石が出てたんだよな、普通に」

「本当すか?」

「『闇の魔石』だろう?」

「見たことないや」

「五十年前だぞ」

「まだ生まれてねーや」

「言われてみれば、見なくなったのはあの頃からか」

「周囲の魔力を吸収したら、すぐ消えちまう奴だったからな」

「迷宮から持ち出せないんじゃから、ないも同然じゃ」

「どうでもよかったから、誰も困らんかったな。却って面倒がなくなって、清々したわい」

「触れたら魔力持っていかれるしの」

「マジすか?」

「こんなときに冗談言ってどうする!」

 ジェネレーションギャップが起こっていた。斯く言う僕もその一人だった。

「魔力を吸収するって点では一致してるな」

「間違いないのかい?」

「他の魔物から出た物とごっちゃにしたとかさ」

「俺たちに聞かれても、出たから出たとしか…… そもそも『闇の魔石』なんて存在自体、知らなかったし、な?」

 そう言ってリーダは仲間たちに同意を求めた。そして回収した石を証拠とばかりテーブルに転がした。

 まさかな……

 その凶悪さから最も警戒される魔物ランキング上位に常に数えられるレイス。ここでは人気者ランキング上位に一気に駆け上がりそうである。

「必要な物は『銀の粉』と、銀のナイフ、銀の鏃……」

 どれもレイスの実体を押し留めておくためのアイテムだ。レイスは姿を消すことで攻撃を無効化するスキルを持ち、隠れている間は無敵状態となる。が、先のアイテムに触れると実体化したまま消えることができなくなる。その間にタコ殴りにして倒すのだが、体力が少なくなると起死回生の『生命吸収』を仕掛けてくる。体力のない者は事と次第によっては、そのまま帰らぬ人になる可能性があるのである。

 悪霊対策用の装備は既にあるが、より強固な物を専用に揃えるのが常である。少なくとも『生命吸収』に備えて、レイス以上の体力を常にキープしておかなければならない。子供たちには素通りして欲しいフロアだったのだが……

「よう、若大将」

 野次馬のなかに以前、片腕を治療したジェフリーズさんのパーティー『グランデアルベロ』の面々がいた。

「これ、あれだろう?」

 どうやら新魔石の噂は水面下で流れていたようで、僕が既に情報を掴んでいることが前提になっていた。

「まだ公開情報になってないんだから騒がないでよね」

 それも明日には解除になるだろう。レイスは強敵だが、ただ仕留めただけで出たというし。つまり回収の難易度が一気に下がったことになる。

「まさかレイスから出るとはね」

「拾ったこっちがビビるっての」

 お互い溜め息をついた。

 僕も属性をまったく考慮していなかった。

「大伯母たちが今調べてるけど、見た感じわからないよな」

「『闇の魔石』復活…… あり得るか?」

 僕が回収した物は『クラウンゴーレム』から回収した物であるし…… どう考えても闇属性ということは…… 地下一階のゴーレム…… そもそもゴーレムは魔石を落さない……

 まさか、ゴーレムそのものが闇属性だった?

 迷宮の管理人がなんらかの理由で闇属性の魔石の出土を差し止め、今になって改良版を世に出したということか?

「あるかもな」

「うへー。世紀の大発見じゃねーか」

「あ、そうだ。普通の魔石とくっつけておくと、魔力吸い取られるから、注意した方がいいよ」

「マジですか?」

 早速、試す者が現れた。

「ほんとか?」

「時間を掛けてゆっくりとだよ。気付いたときには空っぽになってる」

「なんだ」

「おお、すげー。補充できたぜ」

 別の冒険者が魔力を消費したところに、新たに魔力を補充してみせた。

 そっちは僕も検証済みだ。

「誰か『認識計』持って来い」

 まるでおもちゃを宛がわれた子供のようだった。大の大人が右往左往。

「闇属性の魔石か…… 闇属性自体、謎だらけだからな」

「おーっ、マジで減ってる」

「こっちは増えてる。あ……」

 新魔石を覗いていた男が言い淀んだ。

「なんだ?」

「どうした?」

「これ…… 『闇の魔石』決定みたいだぞ」

 男は申し訳なさそうに新魔石を指差した。

「はあ?」

 共通のコンセンサスができ上がったということか? それとも『認識』スキル的に既に想定済みの案件だったのか。

 なんと『認識計』が石を『闇の魔石』と命名したのだった。

 僕の未熟な『解析』は兎も角、オリエッタも気付かなかったことを考えると個人的な認識レベルでは認知されない要件だったのだろうか?

「違ったら、修正大変だぞ」

「お、俺のせいじゃねーぞ。『認識計』が勝手にやったんだ」

「昔の『闇の魔石』が進化したのかも知れないわね」

「五十年の時を経て、屑アイテムが大進化!」

 個人的にはゲートキーパー押しだけどな。

「悪いけど、この件は大伯母の意見を聞いてから、開示する方向でいいかな?」

「そうですね。こちらとしても判断しかねますし」

 冒険者ギルドにしても手に余る案件だろう。世紀の大発見になるかもしれない一大事。ここは識者のお墨付きが必要な場面である。その点、大伯母は元『魔法の塔』筆頭というネームバリューがある。

「石はどうします?」

「算定基準が出るまで買い取りはできませんよ」

「サンプルはもう大伯母に渡してある。近いうちにメインガーデンから回答があると思うよ」

「一応こちらからも報告を入れておきます」

「じゃあ、俺たちは解禁まで荒稼ぎさせて貰うぜ」

「敵はレイスだぞ。準備を怠るなよ」

「誰に言ってやがる」

「もう日を跨いでるぜ。行くか?」

「四十一層は昼夜反転だぞ。今、行ったってレイスは草葉の陰にしかいないぞ」

「くわーっ。タイミングわりーな」

「出土がこの迷宮だけとなると…… 一般開放、急いだ方がいいんじゃねーか?」

「ここは前線だぞ」

「いっそ、解放しない方がいいかもな」

「独占できりゃ、とんでもない値が付くぜ」

 そんなことした日には余計な争いが増えるだけだ。ここは冒険者ギルドの規範を尊重するのが正解だ。『来る者は拒まず、去る者は追わず』である。

「一体でもいい! 潜ろうぜ!」

「おーよ!」

 バタバタと血気盛んな冒険者たちは出ていった。

 残ったのは僕と『グランデアルベロ』のみである。

「アイテムショップ。銀商品、増やしておいた方がいいですね」

「そうします」

 ギルド職員も苦笑い。

「こっちも帰って大伯母に報告しないと」

 僕は職員と『グランデアルベロ』の面々に手を振ってその場を去った。



6/20 『闇の魔石』について、前作で即出だとの情報あり、大修正しました。

フラグ回収だと息巻いていたのに。こ、これでごまかせ、いや、帳尻合いましたかね?

 教えてくださった方、ありがとうございます。分量が分量なので探しても見付けられず……

 以後注意致します。

 ところで…… ゴーレムが魔石落したとか風の噂で聞いたんですが(ぼそ


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