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バーン

遅くなりました(汗)

 二日後、砦に戻った僕たちは子供たちに囲まれた。

 まだ、朝日も昇っていないのに。

「お帰りなさい」

「タロスの船どうだった?」

 早めの朝食が始まった。

 大伯母も欠伸しながら現れた。

 大伯母に報告する形でラーラが説明し始めた。

「今日は学校か?」

 スープを運んできたヴィートに尋ねた。

「ずっと学校だった」

 不満たらたらだった。

「じゃあ、迷宮に潜るか」

「いいの!」

「その前に、あれ、持ってきなさいよ」

 大伯母が僕に向かって、長い指をひょいひょいと曲げた。

「あれ?」

 一瞬、考えた。

「あ」

 リュックのなかに入れたままだった。

 急いで一階に向かい、新しい魔石を七つ持って戻ってきた。

「よろしく」

 大伯母の目の前に置く。

 子供たちは目を丸くした。

「七つも取ったの?」

 子供たちがヘモジとオリエッタにこそこそ尋ねた。

 これでも半分なんだけどね。

「合成してみてどうだった?」

「え?」

 大伯母の口角が上がった。

 しまった! 今の反応でばれた。

 それ以上突っ込まれることはなかったが、報告を入れねばなるまい。


 食後、子供たちは嬉々として探索の準備を始めた。

「そうだ」

 僕は子供たちのために用意した魔法陣を全員に配った。

「何?」

 子供たちは紙を透かしたり、斜めから覗き込んだりした。

「今日から魔法の矢の鏃を…… 投擲用に使うんだけど、量産して貰う」

 きょとんとしてる。

「例の方法でな」

 僕はニコロを指差した。

「あ」

 気付いた子供たちの顔が、ぱっと明るくなった。

「なんで?」

「なんで?」

「いいの?」

 僕はことの詳細を道すがら語った。


「みんな土の魔法のレベルは、もう上がらないだろう?」

「ずっと『穴熊』みたいに頑張ってたからな」

 思えば、この砦の基礎を造ったのは子供たちだ。

「理想を言うと、今すぐ『鉱石精製』スキルを手に入れて欲しいところなんだけど」

「『紋章学』を勉強しないといけないんだよ」

「その通り。極めないといけない」

「いつになることやら」

「だからだ。学校の授業の進度をただ待っていたのでは時間が勿体ないと、僕が判断した。これからは座学とは別に、実践で『紋章学』のスキルを少しづつ身に付けていって貰おうと思う」

「それがこれ?」

「初歩の初歩だ。理解できるか? だましの類いは一切入っていないから、素直に解釈して貰って構わないぞ」

 普段使っている詠唱魔法の方が遙かに複雑なのだが、年少組は渋い顔をした。

「完成品の使い方も今日中に教えるから、倉庫で鏃を少し作ってから、探索に行くことにする。今日の探索は面白くなるぞ」

「ほんと!」

「じゃあ、がんばる」

 年少組は張り切った。

「安請け合いしちゃって」

 ニコレッタが呟く。

「大師匠から魔力の使用制限食らったろう?」

「平気よ。気にしなくたって」

「魔法をぶっ放すだけが、魔法使いの戦い方じゃないことを教えてやるよ」



 倉庫に着くと早速、鉄の塊を『魔鉄鉱』にする作業を始めて貰った。

「鏃のサイズは?」

 ヘモジが自分の投擲用の鏃をテーブルに置いた。

 鏃の形にするのは、大人の事情だ。兵器に関する決まり事に抵触するので、あくまで魔法の矢に使う物だと言い張るためである。爺ちゃんが昔考えた詭弁であるが、今となってはただの慣例に過ぎない。投げ易く丸く作ったとしても誰も咎めたりはしないだろう。

 ただ矢にするのでなければ、路傍の石と間違って暴発事故なんてことにもなりかねないので、使用後は不発であったとしても暴発しない状態にすることが暗黙の了解になっている。つまり使用できる素材は、含有する魔力が抜けてしまえば無害な石ころになる魔石のみということになる。

 誰もが武器の一部として注意を払うであろう矢の形にするのであれば、魔力を通せば繰り返し使える『魔鉄鉱』の鏃が魔石より重宝するケースもあるが、投擲で使うのであれば、しばらく放置すれば勝手に消えてくれる迷宮のなか限定ということになる。必ず回収できるならその限りではないが。

「魔法陣の内容は段階的に難しくしていこうかと思う。今、必要なのは数をこなすこと。今日は時間がないので取り敢えず、一人十個。人数分、揃えて貰うぞ」


 三十分後、不器用な数人がうまくいかずに泣き出しそうな顔をする場面もあったが、なんとか数を揃えることができた。

「では次の工程を説明する」

 子供たちが輪状に僕を囲んだ。

「『魔鉄鉱』が『ミスリル』程ではないにしても、魔力に対して融和性があることはもう知ってるな?」

 子供たちは頷く。

「そこで、みんなには今作って貰った鏃に魔法陣を刻んで貰う。そして普通の鉄の鏃と何が違うのか、実際に体験して貰う。鉄の鏃の方は既に僕が作っておいた」

「それって……」

 本筋からは外れる。が、今を逃すと教える機会がなさそうなので、この場で行なうことにした。

「これ、見本にしていいの?」

 話の腰を折られたくないので、僕は黙って頷いた。

「『魔力の通り易さ』とは何か? よく耳にする言葉だけど、実際それがどういうことを意味するのか。しっかり体験して欲しい」

 魔法陣を噛み砕いて説明する。

「今日のところは基本の『加速』を誘発する術式と『必中』を付与する術式だけだ。魔法陣の一番内側のここ、基本部分になる」

「この円のなかだけ?」

「できるだろう?」

「普通に彫ればいいの?」

「転写してもいいぞ」

「そんなのできないよ」

「なるべく綺麗にな。できたら持っておいで。使えるか確認するから」

「はーい」


 程なくして鏃が人数分、テーブルに置かれた。

「間違っても魔力通すなよ。発動するからな」

「わ、わかってるよ」

「箱でも作って、入れておく?」

「投げる直前まで持たない方がいいもんな」

「革袋でもいい?」

「これ自体に魔力が含まれているわけじゃないことはわかるな?」

「わかる!」

「護符の扱いと一緒だ」

「虫除けの護符、高いよね」

「今そういう話、してないから」

 護符は外部からの魔力供給を前提にした、魔法陣を記した紙に過ぎない。

「使うときはどうするの? 魔石と一緒?」

「ちょっと違うな。投げるとき必要な分の魔力を込めなきゃいけない。当然、使うのはみんなの魔力だ」

「そうなの?」

「他にないだろ」

「込め過ぎても平気?」

「問題ない」

 やればわかるだろう。魔力を端から含有している魔石と、そうでない『魔鉄鉱』では使用方法が異なることを。当然、そのための術式にも差異が出てくることも。

「投げる瞬間、どれだけ魔力溜めればいいか、わかりますか?」

「勝手に吸い取ってくれる感じだな。逆らわないで、くれてやるといい」

「へー、便利だ」

「そういう術式が組んであるんだよ」

「この円のなかに?」

「円の縁だな」

「結構、細かい」

「細かいと言っても、手から離れてしまったらもう魔力供給はできないんだから、限度はある。命中したときに『爆炎』とか『氷結』とか発動するような複雑なことは基本できないからな」

「基本ね……」

「ふーん」

 したり顔でこっちを見るな。

「いずれ魔石にも刻んで貰うけど、まずはここからだ」

「宝石は?」

「緻密な術式を刻むときの定石ではあるが、鏃にするには費用対効果がね」

「だから付与装備にしか使わないんだ」

「魔力供給も着ている人からすればいいわけから、魔石である必要もない?」

「必ずしも、そうとは限らないけどな」

 魔法発動型の指輪などはその典型だ。魔法の素養がない者でも扱えるのは、魔石に魔力が込められているからだ。後は大規模魔法を使用するときの魔力供給源としてあらかじめ仕込んでおく場合とか。

 その場合、迷宮産のアイテムでない限り、使い切った魔石は廃棄されることになるのだが……

「なんにしても術式に必要な魔力は発動時、使用者自らが込めるしかない」

「普通の鉄でもいい気がしてきた」

 成果はご(ろう)じろ。

「的になる木の板を用意するから、少し休め」


「師匠、遠過ぎない?」

「ちゃんと魔法陣を刻んでいれば問題ない。『必中』も掛かっているから、投げるときはしっかり目標を捉えておくように! 投げ終るまで絶対に余所見するなよ。そっちに飛んでいくからな」

「了解!」

 まずリーダーのトーニオが投擲位置に立った。

 的は倉庫の最深部、到底、子供の腕力で届く距離ではなかった。

「好きな方からでいいぞ」と言ったので、トーニオは最初に鉄製の方を選んだ。

 大きく身体を弓なりに逸らして、踏ん張りと共に腕を振り抜いた。

 手元から離れた鏃が凄い勢いで飛んでいった。

 遠くでカーンと木の的に当たる音がした。

「すげー」

「届いた」

 ジョバンニもヴィートも感心した。

 そして自作した『魔鉄鉱』製を握り締める。

「あ」

 投げる瞬間、声を漏らした。

 バーン。耳をつんざく爆音と共に遠くの的が吹き飛んだ。

「……」

 一同絶句。

「何、今の?」

 トーニオが自分の手のひらを見詰めた。

「それが『通り易い』ということだ」

「もう一回やっても?」

「後がつかえてるから手短にな」

 ヘモジが的を掛け直すのを待って、再開だ。

 同じことがもう一度起きた。

「軽く投げただけなのに……」

「俺の番だ!」

 ジョバンニも鉄製の鏃から始めた。

「うほぁあ」

 おかしな声を出した。

「魔力を込めるタイミングが」

 ただ投げた格好になって、石は目標半ばで落っこちた。

「焦らなくていい。ゆっくりゆったりだ。魔力が充分に込められていれば、ちゃんと届くから」

 二回目は大きく振り絞って、山なりに投げた。つもりが、鏃は一直線に飛んでいった。

 カーンといい音を鳴らした。

「あが……」

 ジョバンニ、絶句。

 次に投げる『魔鉄鉱』製を固く握り締める。

「とおりゃぁああ!」

 気合い一発投げた!

 バーンという音と共に的が割れて吹き飛んだ。

「師匠…… もう魔石いらないんじゃないすか?」

 ジョバンニの顔が引きつった。

「パラメーター変えたら、もっと凄いことになるんですよね?」

「今から楽しみだろ?」

 ジョバンニはとろけそうな笑みを浮かべた。



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