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万能薬様々。戦闘には想定外が付きものです。

 翌朝、歯を磨いていたら、遠くで大きな音がした。

「ナー?」

「掛かったね」

 味方のガーディアンが次々、飛び立っていく。

「先、行くわよ」

 ラーラとイザベルも出た。

「気が早いな」

 地上部隊はしばらく足止めできる。肝心な船は動かせず、空からの敵さえなんとかすれば、残敵掃討のみだ。船も無傷で手に入る。

 僕たちは朝食のパンをかじりながら、空に上がった。


 敵の陣地を囲うように大地にドーナツ状の大穴が空いていた。

「あらー、見事に崩落してるな」

 大軍は予期した通り、既に袋の鼠であった。が、ドラゴンタイプが兵隊を穴の外に少しずつ運び出していた。そしてそれらの兵隊は外側から穴を塞ぐ作業に従事していた。

 内側から穴埋めすれば自分たちの足元が危うくなるだろうから、できまいと思っていたら。ドラゴンが搬送用にも使えることを失念していた。

 両刃の斧をスコップ代わりとは。あれで殴られたくはないな。

 こちらの接近に気付いた敵団は救助作業を中断して応戦してきた。大軍と比べるべくもないが。

 味方の先鋒がドラゴンタイプと接触した。

「制空権を取るぞッ!」

 守備隊のガーディアン部隊の隊長が号令を発した。

「ナナーナ」  

 ヘモジが操縦桿を握った。

 僕もライフルを用意した。

 穴を渡ってきた敵少数部隊に船から砲撃が行なわれた。

 空の上は乱戦、地上は舞い上がる砂塵に包まれた。

 その中にあって一際目立つのはラーラの機体だった。

「イザベルもよく付いていってる」

 とてもこの間までニュービーだったとは思えない。

 彼女たちの活躍で空の上はなんとかなりそうだった。が、地上では想像だにしないことが起ころうとしていた。

 それは一体の『第二形態』だった。

 一際、大きく、派手な身なりをした亀頭が盾を片手に先陣を切り『必中』を付与したバリスタの雨を潜り抜け、投擲可能な射程まで迫ろうとしていた。

「あいつ、転移する!」

 オリエッタの声で、僕も気付いた。でも僕が気付いたのは、繋がる先のもう一つのゲートの方だった。

 折角、閉じ込めたのに解放されて堪るか! おまけに解放される先は高速艇の脇腹だ。

「ナナーナッ!」

 ヘモジが『補助推進装置』まで全開にして、地面に突っ込んだ!

 第二形態はこちらに気付いたが、微動だにしない。

 今までの敵とは違う!

 そう直感した。それはヘモジも同じだった。

 船からの攻撃を第二形態は結界と巨大な盾で凌いだ。

 そして結界を砕いたヘモジの一撃を巨大な斧で受けとめた!

 僕も『魔弾』を撃ち込んだ。

 敵は身をよじり、僕の攻撃をもかわした。

 ゴモゴモと籠る詠唱を遮ることはできなかった。

「だったらァ!」

 魔法陣に向かって『魔弾』を撃ち込んだ。

 魔力のインフレーション。すぐに暴走が起きた。

 第二形態は暴発を防ぐために、さすがに詠唱を中断した。

「ナナーナ!」

 ヘモジが「様ァ見ろ」と機体を大きく振った。

 操縦席の目の前を巨大な斧がかすめた。

「危なッ」

「ナーナ!」

 ヘモジの目がらんらんと輝いていた。

「ナナナ?」

 本気で戦いたがっているのが丸わかりである。

「いいよ。こっちは任せな」

 ヘモジは僕の返事を聞くが早いか、あっという間に飛び降りた。

 そして斧を回収しに迫る敵の前で巨大化した。

 空の上にいるこちらにまで届く大きな砂柱が舞い上がった。

 そして霧散する砂塵のなかから現れたるは、久しぶりに見る巨大トロール。

 初めてヘモジの正体を見た者はさぞ驚いたことだろう。なぜ、こんな所にアールヴヘイムのトロールがいるのかと。どこから現れたのかと。

 だが、それでも目の前にいる第二形態の方が一回り以上大きかった。 

 ヘモジのミョルニルが第二形態の大盾を打ち付けた!

 受け切ったはいいが、盾は陥没した。

 これで知らぬ者もトロールが敵ではないとわかっただろう。そもそも砂塵のなかで閃光を放つ煌びやかなハンマーを振り回すトロールが野生であるはずがない。

 僕は射撃をやめるように後方に伝達した。が、それ以前にやんでいた。

 代わりに地上の残りは任せて頂きますよと、僕は第二形態以外の迫ってくる雑兵に向かった。

『魔弾』はもういらないので、ガーディアン用のライフルに持ち替え、一方的に撃ち込んだ。

 すると上空からも無数の弾丸が降ってきた。

「ドラゴン、終った?」

 オリエッタが空を見上げる。

 制空権を確保できたようだ。

 上空からの一方的な砲撃。

 勝利を確信した瞬間、光の帯が空を横切った。

 ガーディアンが数機、飲み込まれた。

 死んだ?

 大丈夫だ。仲間の機体が墜落する機体を抑えることに成功した。

 見事に半身、溶かされていた。

 新型船から予備のガーディアンが入れ替わりに投入された。

「それにしても……」

 足止めを食らっていた船から放たれたのは紛れもなく『光弾』だった。

 起動に手間取ったか、穴に落ちて傾いていたせいで、砲身をこちらに向けられなかったか。

 二射目がないことからも『光弾』の軸線にこちらが運悪く入ってしまったからだと推察できた。

 それをすぐに察したガーディアン部隊は『光弾』を黙らせに向かう部隊と、地上兵力を殲滅する部隊とに分れた。

 突然、すぐ横で衝撃と共に砂塵が舞い上がった。

 砂塵のなかに第二形態が横たわっていた。

「グウォオオオー」

 ヘモジが仁王立ちしながら吠えた。

 ミョルニルを天にかざして勝利の雄叫びを上げた。

 僕は息絶えた第二形態を覗き込む。

「さすがトロールの英雄だ」

 身体に合わせて巨大化したミョルニルは、黒く頑強な甲羅を完膚なきまで破壊し、第二形態の息の根を止めていた。

「ナーナーナー」

 巨大なトロールが消えたかと思うと、ヘモジが降ってきた。

「ちょっと待ったーっ!」

 ガーディアンの慣性方向と落下方向が微妙にズレた。

 急いで軌道修正。

 両手は操縦桿。小さくなって戻ってきたヘモジのヒップアタックを顔面で受けた。

「ナーナーナーッ!」

 頭によじ登ってヘモジはポージングを決めた。

 僕は自分の顔に回復魔法を施した。

「終った?」

 罠からあぶれた敵兵は片付いたようだ。残るは離れ小島に残された一団だけであるが、それこそが本隊、敵の主力である。

 人同士の戦いなら、ここで白旗が揚がりそうなものだが……

 爆発が起きた。

『光弾』の魔力源の壺が暴発したか?

 こちらが誤って破壊したのか、敵が死なば諸共と暴発させたものかはわからないが。

「被害はッ!」

 味方のガーディアンが何機も巻き込まれたが、まだ取り付いていなかったおかげで、派手に吹き飛ばされただけで済んだ。

 二次爆発を恐れた味方は一旦、敵陣から離れた。

 僕は単独で周囲を旋回した。

 すると船の上にいたタロス兵と目が合った。

 二つ目の砲台の砲手だった。

 最初の爆発で既に片腕を失い、血まみれのその顔に不敵な笑みを見た。

 敵は『光弾』を放った。

 が、光は僕のはるか脇を抜けていった。

 砲身の可動域の限界だった。わかっていて……

 再び誘爆が起きた。

 船の内側から。魔力のインフレーション!

 まぶしくて目を開けていられない。僕は急いで回避した。

 次の瞬間、砲手諸共、何もかもが吹き飛んだ。

 空に舞い上がった瓦礫が敵陣に降り注ぐ。

 僕たちはそれを高みから見下ろした。

 第三、第四の誘爆が起きた。

 これは意図したものか?

「船を調べたかっただけなんだがな」

 皆、後味の悪そうな顔をしている。

「見た?」

 オリエッタが言った。

「ああ」

「ナーナ」

 どさくさに紛れて転移ゲートが開かれていた。

「まだ第二形態がいたとはね」

「ナナーナ」

 しかも二体だ。一団のなかに三体いたことになる。

「時間稼ぎされちゃったね」

 風にそよぐオリエッタの頬毛のように、胸の奥に安堵する自分がいた。

 いずれ駆逐しなければならない相手だとわかっていても…… 人の心は脆弱だ。

 味方はすぐに残敵掃討に移った。が、味方の機体も半数までに減っていた。

 自重以前に、読みが甘かった。味方に遠慮している場合ではなかったのだ。



 僕は負傷者を治療するため、新造船の甲板の上にいた。

 負傷者は多く出たが、幸い死者は出なかった。『万能薬』様々である。

「いい加減、不良品を使うのやめて欲しいわよね」

「本当。ひどい目に遭いました」

 イザベルだけ顔を黒くして戻ってきた。結界を破られた証拠だ。ラーラの顔は汚れていないのだから、油断したということである。

「煤けてる」

 オリエッタが笑った。

「あんた程じゃないけどね」

「これは毛並み! 乙女の黒毛!」

 僕はふたりをガーディアンごとまとめて浄化した。

「そっちは大丈夫だったの?」

「ナーナ」

 ヘモジが力こぶを作った。

 壊れたガーディアンも次々、補助を受けながら戻ってくる。

 最後は様にならなかったけど、結果オーライということにしておこう。

 それより……

「あの第二形態。強かったな」

「ナーナ」

 敵にも個体差があることは既知の事実である。が、今回は想像を越えていた。

「リオ様。患者が終ったら、こっちお願いします」

 今度はガーディアンの回復に手を貸すことになった。

 仮にも『ロメオ工房』のマイスターだぞ。請求は覚悟せよ。

 どうせただ働きになるのだろうなと覚悟しつつ、まだ動きそうな機体から物色し始めた。


 その後、船内はヘモジの話題で持ち切りになった。

 回収班の到着を待つ間、英雄ヘモジは体良く、孫のようにおもちゃにされるのだった。



 回収班が到着し、ドラゴンタイプの解体が行なわれる間、船の残骸の調査が行なわれた。

「蓋を開けてみれば、ただの荷車か」

 単に『タロスの塔』を横にしたような物で、大した機構は組み込まれていなかった。問題は『光弾』の砲台を大量に積み込んでいたということだけだった。

 元々空にそそり立つ塔の素材であるから、軽くて丈夫な物であることは自明の理。タロスたちが引っ張り、ここまで転がして来られたのはわかるが、それでも、最前線の先からとは考えにくかった。

 第二形態もいたことだし。

 だとするとこれだけ巨大な物を製造できる拠点か、あるいは転移するだけの力や設備がまだどこかに隠されているということになる。

 遅まきながら斥候が轍を追った。

 刻々と変わり続ける砂漠のなかで足跡が残っているものか。巨大な車輪が残す爪痕に期待したが、斥候は早々に戻ってきた。

「最悪だ」

 足跡はある地点で忽然と消えていたのである。

 つまり、あれだけの質量を転移させてきたのだ。

 元々異世界であるアールヴヘイムに侵攻するような連中であるから、然もありなん。

 僕たちは連勝を重ねる間に、相手を見くびっていたのかもしれない。

 五十年の均衡を実力だと勘違いしているのかも…… 

 数少ない朗報の一つに、消息を絶ったポイントから『ペルトラ・デル・ソーレ』の団体様が発見されたことを加えておく。

 地道な作業が敵の侵攻を抑えるとはいえ、その大小の格差に思わず溜め息が漏れた。



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