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ゴーゴーイースト

「あれ」

 オリエッタが遠くを指差した。前回の面目躍如か、遠くから成り行きを見守っていた敵の偵察艇らしき船を見付け出した。

「なるほど……」

 身内の監視か。愚連隊を完全に信じていたわけではなかったようだ。

「また、応援を呼ばれると厄介だ」

 追尾してこの辺りの拠点を突き止めたいところだが、待ち合わせに遅れると姉さんがうるさいのでね。

「砲撃準備!」

「やるの?」

「練習だよ、練習!」

 船の砲台も使ってやらないと。

「確実に沈めなよ。でないとまた増援呼ばれるから」

「なんでわたしが!」

「練習だって言ってるだろう」

「さっき謝ったじゃない!」

「考えるより慣れろだよ」

「ほら、イザベル。敵、逃げちゃうわよ」

 かつて『アローライフル』と呼ばれた特殊な鏃の付いた大きな矢を撃ち出す小さなバリスタのようなライフル銃があったが、それを簡素化して床に設置した物だ。

 爺ちゃんの世代は機密保持を優先させるため付与魔法を鏃にすべて刻み込んだが、ミズガルズにおいては発射用の砲筒に必要最小限の付与を施し、特殊な鏃は破壊力にのみ特化したほぼただの鉄の塊と化していた。消費の激しい世界で魔力を補うためには設置型にするしかなかったとも言えるだろう。

「『必中』付いてるんだから向きと距離さえ間違わなければ必ず当たるよ」

「それを早く言ってよ!」

「お夕飯、サービスしますよ」

「ほんと?」

「そうですね。デザートにケーキ二つ用意しましょうか?」

「が、頑張ります!」

 さすが婦人。年の功だ。


 結界に阻まれつつも、なんとか敵船を沈めることに成功した僕たちは進路を再び東に向けた。

 いくら敵が迅速でもあの大量の負傷者とスクラップを短時間で始末できるはずがない。今度こそギルドの網に掛かる番だ。

 本当の戦場なら魔法使いだけでも息の根を止めておくところだが、こっちにはお子様がいるのでね。

 全くもって結界に飛び込んできた馬鹿共のことが悔やまれる。マリーが変なトラウマ抱えたらどうしてくれる!

 敵船団には『装備破壊』のおまけが付いた雷撃をことあるごとに叩き込んでおいた。大して痺れやしなかっただろうが、後で後悔するがいい。ギルド職員が馬鹿じゃなきゃ、素の状態の魔法使いに遅れを取ることはないだろう。

「まさかこれ程とは……」

 ソルダーノさんが展望ラウンジに戻った僕の顔を見て言った。

「ガーディアンいらないんじゃないですか」

「さすがに砂漠を走り回るのはね。やっぱりガーディアンがないと」

「王女様ってもっとおっとりしてるもんだと思ってたけど」

 モナさんが言った。

「どういう意味よ」

「あの命中率は鬼よ、鬼」

 緊張感から解放された女性陣はラーラを取り囲んではしゃぎ始めた。

「リオ兄ちゃん、凄いね」

 マリーが水を持ってきてくれた。

「ありがとう、マリー」

「ヘモジちゃんも凄かったよ! 大きくなる魔法。ドーン、ドーン、ドーンって!」

「ナナナナ!」

 興奮冷めやらぬマリーであった。

 魔法ではないと水を差すのもなんなのでそういうことにしておいた。

 ところで、お父さんのグラスがないようだが……


 地平線の隅に達したところで船を一旦停止した。

 あの偵察船にガーディアンが残っているか、次にどう出るか、しばらく遠巻きに様子見することにした。

 こちらに来るようなら、敵の拠点がこちら方面にあるということだから、そのときはまた考えないといけない。

 が、伝令は出てこなかった。

 代わりに砲撃を聞き付けてきた船団のガーディアンが三機やって来た。

 合流したか……

 ところがしばらくして空に何発もの銃声が轟いた。威嚇のために空に向けて撃ったようには聞えなかったが……

 どっちが撃った?

 こっそり覗いていたことがばれて、愚連隊の機嫌を損ねたか? 何様上官風を吹かせて、階級制度に疎い連中の反感を買ったか? それともガーディアンを奪取すべく……

「雲行き怪しいかも」

 様子を伺っていたオリエッタが観察するのをやめて、手摺りから飛び降りた。

 もう溜め息しか出ない。

「ソルダーノさん」

「了解」

 誤った情報をよこした連中に怒りの矛先が向くことはよくあることと、オリエッタは吐き捨てながら、猫なで声で婦人にミルクとクッキー缶を催促した。



 その後、僕たちは何ごともなく前線への正規航路に乗った。

 翌日には地平線に冒険者たちの船影を見ることができた。東に向かう長い列だ。

 その間、マリーは水を冷やして凍らせる『氷結』魔法を覚え、お父さんの晩酌に氷を添えることを覚えた。

 魔法の入門書『きみも魔法使いになれる。魔法学入門編』を補給物資のなかに入れておいてよかった。変化に乏しい砂漠のなかで、お母さんの読み聞かせで日々、マリーは成長している。

「お母さん、ずるいんだよ。マリーより先に覚えちゃうんだもん!」

 文字がまだ読めないマリーを思う親御心。婦人は日々、仕事の合間にエルフ語の辞書と格闘しているのである。母は偉大だ。

 一方、父親は酒の水面に浮いた氷に娘の成長を見て感涙していたが、翌日ひどい二日酔いにうなされる羽目になった。それで『万能薬』を不本意ながら口にすることになる。

 こっそり飲ませたヘモジのケロッとした顔とは対照的に、ソルダーノさんは酔いが覚めても青ざめたままだった。二日酔い程度で使用してしまったことに酷く後悔していた。

「我が家では食べ過ぎでも飲んでいるから大丈夫」とオリエッタの通訳付きでヘモジが正当性を主張した。

「アールヴヘイムでは常識なんでしょうか?」と疑問を投げ掛けられて、僕は一瞬、言葉を失った。



 航路に乗って四日目、タロスとの遭遇戦が起きた。

 朝っぱらから僕のおでこを肉球が叩く。

「敵、来た! 敵!」

 遠く砂丘の尾根に沿って艦隊行動を取っていた冒険者の一団がドンパチを始めていた。

「タロスか!」

 オリエッタの顔を覗いたら、砂丘の先ではなく朝焼けの空を見上げていた。

「まさか…… ドラゴン!」

 ドラゴンタイプか!

 みんなを叩き起こした。

 僕は早々に空に舞い上がった。

「こんな内陸まで……」

 メインガーデンからまだ数日の距離だ。

 僕たちが寄生していた一団の向こう側に別の船団がもう一つあって、彼らが朝食の的になっているようだった。

「お鉢が回ってくるとは思いたくないけど……」

 南の朝焼けの空に大量のガーディアンが既に舞い上がっていた。

 ドラゴンが火を吐いた。

「おおっ!」

 端から見るとやっぱりブレスは凄いな。

 どうやら先の船団はドラゴンの占有を主張したようだ。

 手前の船団が尾根を下りてきて、僕たちの進む進路に謝りながら割り込んできた。

 無断で寄生させて貰っているのだからお構い無用なのだが。僕たちの船は速度を落として船団の最後尾に就いた。

「ドラゴンだってよ」

「気を付けろよ。奴らは気まぐれだからな」

 最後尾の大型船の甲板で作業している気のいい船員が話し掛けてきた。

「放し飼いはやめて欲しいですよ」

「まったくだ」

 飼い主のタロスに不満をぶつけつつ、僕たちは笑いながら距離を取った。

 流れ弾ならぬ、流れブレスが手前の砂丘を真っ赤に焦がした。

「何やってんだ、あいつら」

「もっと段取りよくやらんか!」

 空はてんやわんやの大騒ぎだ。

 地上のことなど構っていられないか。ネチネチやってたら日が暮れるぞ。

 そこに地上から特殊貫通弾が撃ち込まれた。

 ドラゴンの多重結界すら突き抜ける馬鹿高い高価な砲弾だ。代金の一部は開発者である爺ちゃん、ひいては我が家に入ってくるのだが。誰もが買える代物ではない。

 それがドラゴンの首を捉えた。

 頭の部位はどれも高く売れるから、うまく避けてとどめを刺したと言いたいところだが。

「まずいな」

 落下した先に味方の船団があった。

 ドラゴンが最期の意地を見せたとも言えるが、錐揉み状態で中型船が固まっていた場所に落下した。

 砂の高波が船団を揉みくちゃにした。

「あーあ!」

「ありゃ儲けなしだな」

 被害甚大。

「ポイントが入ってもあれじゃな」

 新しい年が始まったばかりだと言うのに。戦力激減。出鼻を挫かれた格好だ。

「ありゃ、シューズの所のだろ?」

「最近調子よかったんだがな。今年は無理だな」

 ドラゴンの解体作業もあることだし、しばらくこの地に足止めのようだ。


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