クーの迷宮(地下40階 殺人蜂・ジュエルゴーレム・ミノタウロス戦)ヤマダタロウの贈り物3
午後は面倒なコアを気にすることなく、ミノタウロス相手に順調な狩りが続いた。たまに現れる『ジュエルゴーレム』も今の子供たちには『衝撃波』の練習台としていい教材となっていた。
「もう全員使えるようになったな」
「後は加減を覚えるだけだぜ」
「ねぇ、ねぇ、探知スキルと一緒に使うと面白いよ」
マリーが唐突に言った。
『衝撃波』と『魔力探知』を同時使用? 何か変わったことがあっただろうか?
子供の発想は時に突飛で、ミラクルだった。
「コアが見える!」
それは驚きの瞬間だった。
マリーの言う通りのことをしたら、今まで見えなかったものが見えてきたのである。
『魔力探知』は広く浅く周囲に張り巡らせるのが常識。それをゴーレムの体内に向けて、大胆且つ巧妙に、先に覚えた密度を高くする感覚で強引にねじ込むと、これまでの常識を覆すものが見えてくるのであった。
衝撃の伝播に伴い、砂金のようなキラキラと輝く魔法の粒子が体内を巡るのが見えた。
それだけでも感動ものなのだが、その粒のきらめきは、唯一異質なコアの外縁をきれいに浮かび上がらせたのだ。
医療従事者が患者の体内に魔力を流し込んで状態を探ることはよくある医療行為。魔物相手に同じことをすることも冒険者には普通によくある話である。
コアを持つゴーレムと対峙した魔法使いなら、当然誰もが一度はやることで、当然、僕もやってきた。そしてご多分に漏れず諦めてきた。
まさか、強引さが足りなかったという結論に至ろうとは、一体誰が想像しただろう?
過去の歴史において、優秀な魔法使いが散々コアの位置を探ってきた。そして『不可能である』というコンセンサスを得てきたのである。
今となっては『一撃必殺』に代表されるスキルの存在も、もっと強引にねじ込むという発想を想定外に追いやってきた要因になっていたと言えよう。もっとも敵に接近して暢気に体内をまさぐるように観察するという行為は自殺行為に匹敵する無法だが。
新しい魔石様々であった。
子供たちは結界を最大限発揮して接近、一瞬の接触でコアの位置を探り、それを破壊する。
「様にならないわね」
フィオリーナの言う通り、行なうは難しであった。
すぐさま振り払われて、アプローチを繰り返す子供たち。
気付いたマリーは天才か?
端から見たら何してるんだという光景に映るだろう。ゴーレムに触れたと思ったら、振り払われて、また接近しての繰り返しだ。
「体内を覗いている間、無防備になるのが問題だよな」
ジョバンニが他人事のように言う。
一度便利さを覚えたら人はそこから逃れられない。わかっていても、やめられない。
子供たちはスリーマンセルでひたすら挑んだ。
そして蚊蜻蛉を払うのに躍起になっていたゴーレムが突如として動かなくなる。
子供たちは晴れやかに額の汗を拭う。
「よっしゃあッ!」
「コア、どこだった?」
「脇の下だよ」
「見えなかった」
「そっちからだと遠いからな」
「ナナーナ」
ヘモジもうずうずしていた。が、お前は『クラウンゴーレム』で試すがよい。というか、お前はもう野生の勘で似たようなことをしていたのではないか?
「ミノタウロス発見!」
通路の角に槌を持った一体を見付けた。
「ミノタウロス、つまんない」の一言で、魔法斉射。
ミノタウロスは呆気なく床に沈んだ。
「師匠。『万能薬』なくなっちゃった」
「ペース速くないか?」
「頑張り過ぎたかも」
マリー以外の子供たちの状態も確認。
みんな使用量が増えていた。
大瓶を薄めて提供した。
扉がある所ではアサシンヘモジが先導する。
「ナ、ナーナ」
『避雷針』を見付けて戻ってきた。
今回、僕の主兵装はライフルなので、僕が破壊していく。消音結界が機能しているので、敵にばれることはない。
「魔法使い、いた」
「『モドキ』持ってる!」
「金貨十枚」
子供たちは一撃で撃破すべく慎重に包囲する。
『モドキ』さえ、無傷で残ればそれでいいと、飽和攻撃。
「おっしゃー」
仲間のミノタウロスが参戦したが、容易く返り討ちにされた。
「やっぱ、全力は気持ちいーねー」
お前ら『万能薬』を補充したばかりだろうに!
部屋を走破して廊下に。
「ゴーレムだ」
「初めからこうすればよかったんだよ」
ゴーレムを『氷結』して足止めしている間に背後に回り込み、コア破壊を目論んだら、ヒットアンドアウェーを繰り返す必要がなくなった。
人数掛けて飛び込まなくてよくなったから、魔力消費も収まった。
「楽勝、楽勝」
何だろう。新しい魔石に触れてから、子供たちの魔力の質が変わった気がする。
一撃が重くなったというか。
うまくいっているときは楽しいもので、子供たちは一階を一気に走破する勢いだった。
が、そうは問屋が卸さないとワンランク上のミノタウロスが早くも登場した。
「火の魔石を落す奴だ」
目の色が、赤く変わった。
『狂気の炎』という呪いを受けたバーサーカー。土の魔石ではなく火の魔石(中)を落す変わり種だ。
こちらの攻撃を物ともせず、涎をまき散らしながら迫ってくる!
「グモオオオオオオオオオッ」
「はい、終わり」
足と首が同時にセパレートした。さすがのバーサーカーも数の暴力には敵わなかった。
子供たちはより効率のいい倒し方を模索する。
「宝箱!」
オリエッタが指差した。
崩れた瓦礫の下に隠すように置かれていた。
「ナーナーナ」
『迷宮の鍵』に反応してカチッと開いた。
「紙だ」
紙ぺらが三枚出てきた。
「地図だ」
地図には番号が振ってあった。手に入ったのは一番から三番。一階フロアを四分割したそれぞれであった。足りないのはこれから攻略するエリア分だ。
切りがいいので本日の攻略はここまでとした。
子供たちを地上に返すと、僕は『クラウンゴーレム』相当のゴーレムと戦うため、再び迷宮に潜った。
砂漠のあれである。砂嵐を身に纏う『サンドゴーレム』である。
「遠見は便利だな」
「そう?」
「ナーナ?」
「嵐の渦のなかまでよく見える」
僕はライフルを構える。今まで渦の外から狙撃なんて考えられなかった。
「『魔弾』装填。『一撃必殺』……」
砂嵐がゆっくり霧散していく。
僕たちは転移して倒した『サンドゴーレム』の足元に立った。
間違いなくコアを射貫いていた。
子供たちも大概だが、自分も負けてないとちょっと対抗意識。
ドロップした品はヘモジの拳大の『虹色鉱石』と山盛りの金銀胴、その他諸々の鉱石だった。
「ナー……」
求めた物は手に入らなかった。
「帰ろ」
子供たちは言われたわけでもないのに倉庫整理をしていた。
「もうさ。この辺いらないよね」
「精製した在庫はあるから、このまま出しちゃう?」
「じゃあ、適当な大きさに丸めて、箱に放り込んじゃいましょ」
「あれ? なんか変だ」
銅を手頃なサイズに丸めていたニコロが言った。
オリエッタが肩から飛び降りて様子を見に行った。
「あ」
「師匠、お帰りー」
「ヘモジもオリエッタもお帰りー」
「手に入った?」
「駄目だった」
「ないなーい」
「ナーナンナ」
ヘモジが『虹色鉱石』をテーブルに転がした。
他の鉱石の塊は僕たちより先に到着しているから、言わずもがな。
「はずれの当たり……」
ニコレッタが『虹色鉱石』を明かりにかざした。
「師匠、こっちの精製お願いしまーす」
「はいよ。そっちの棚は精製終ってるから、いつでもインゴットにしていいぞ」
「え? 全部?」
「そ、全部」
「ほえー」
「みんな!」
ニコロが注目を集めた。
「レア判定が付いたって」
手頃な大きさに丸めた銅鉱石の塊を差し出した。
全員、目が点になった。
なるほどオリエッタの鑑定通り、銅の塊にレア判定が付いていた。
「僕、何もしてないよ」
いつも通り、魔法を使って塊を切り分け、お手頃サイズに丸めただけだと言う。
『鉱石精製』を使って確かめると、取れ立てで普通に不純物が混ざっているし、どこがレアなのか。大元の石もレアではなかったし。
「上にモナさんいるかな」
実際に鉱石を扱うプロに見て貰うのが一番だ。
「レアなの? これが?」
子供たちから渡された銅の塊を見る。
「うーん。少し重い気がするわね」
急いで同じ大きさぐらいの石を持ってくる。
「これでいい?」
ふたつを天秤に架け、表面を削って同じ重さになるように揃える。そしてそれを、水を張ったバケツに落す。
溢れた水の量から、レア判定の石の方が体積が小さい、つまり質量が大きいことがわかった。
その後、切断試験や引張り試験など強度実験を魔法を使って簡易的に行なったところ…… レアでした。
どれも通常品よりいい結果を叩き出したのであった。
「新しい魔石の呪いだ」
「ニコロ、銅の成形担当に決定!」
「やだよ!」
「他のもいけるんじゃね?」
「おっと、それは盲点だった」
「ミスリルでやろうぜ、ミスリル」
「みんなが先にやってよ」
「できたらどうすんだよ」
「呪いだぞ、呪い」
モナさんに礼を言って、その場を後にした。
この件は食後、改めて追求することにする。




