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クーの迷宮(地下40階 殺人蜂・ジュエルゴーレム・ミノタウロス戦)ヤマダタロウの贈り物

「ミミックじゃないよな」

 警戒しながら宝箱を開けると、それはただの宝箱だった。

「金貨だ」

 大きな宝箱にコインが十二枚入っていた。

「固定湧きかな」

「箱無駄にでか過ぎ!」

 枚数に若干の差異はあるが、前回と同様だった。このわずかな差異が固定決定とまで言い切れない理由なのだが。もう何度か開ける必要がありそうだ。

 中央に柱が並んだ広い廊下を進むと、壁沿いに『ジュエルゴーレム』たちが控えていた。

「なんか凄く面倒臭そう」

 どいつもこいつもコア破壊を必要とするゴーレムだ。数体ずつの連鎖は必須なのでうまく立ち回る必要がある。

「嫌がらせだよね」

「クラウンは兎も角『衝撃波』の練習台にちょうどいいじゃないか」

「じゃあ、『クラウンゴーレム』は師匠がやってくれる?」

「数が多かったらな」

「おし。じゃあ、やるぞ」

 子供たちは『万能薬』の小瓶を舐めた。


 まず、年少組が誘い出した『ジュエルゴーレム』を囲い込むと四方から『衝撃波』を放つ。

 子供たちのまだつたない一発でもしっかり当てれば『ジュエルゴーレム』サイズなら充分コアまで伝播するはずだが、なにぶん初陣。しかも魔力をほぼ使い切るため、具合が悪くなって、その場に沈み込むようでは困る。

 だからまずは様子見。コアを破壊できる威力は残しつつ、範囲を絞り気味に行なうことに。ただ同時に放つと干渉し合うので、間を置いての攻撃となった。

 まずはヴィートから。

 彼はゴーレムの左側面から接近して『衝撃波』を放った。表皮は陥没したが、衝撃はそこで逃げてしまって、反対側の腕まで振動は伝わらなかった。

 それを見たマリーは自分の番だと飛び出そうとして、ゴーレムの腕に遮られた。

 フィオリーナの結界がゴーレムの攻撃を押さえ込んだ。

「今よ!」

 マリーは力をセーブすることを忘れて、全力の一撃を放った。

 味方に、特に背後を取っていたニコロに瓦礫が降り注いだ。

「ふたりとも何破壊してんだ。それじゃ、意味ないだろう!」

 ジョバンニが叱責する。

「でも破壊できちゃってるし」

 ニコレッタが笑う。

「バラバラじゃねーか」

 そう言いつつ、ジョバンニは飛び出して、マリーを庇うように周囲を見渡す。

 マリーがその場にうずくまった。

 カテリーナが飛んでいき『万能薬』を飲ませた。

「加減を覚えることが先決だからね」

 フィオリーナが背中をさする。

「もっと弱くていい。それより衝撃を相手に浸透させるようなイメージで」

「破壊するのはコアだけでいいんだからね。振動を染み込ませるように伝えるの」

 トーニオもニコレッタも声を掛ける。

「何度も岩場で練習したろ?」

 してたんだ。

「ごめんなさーい」

「ほら、次、来るぞ。マリーは一回休み」

「はーい」

「もう一回、行かせて!」

 ヴィートが挙手した。

 学校じゃないんだから……

「もう少しでわかりそうなんだ」

「…… 別にいいけど」

 ミケーレとニコロ、カテリーナが頷いた。

「無理しなくていいからね」

 優しい言葉が返ってくる。

 一方、こちらの都合など気にしない、ただ鈍足なだけのゴーレムが迫り来る。

「今度こそ」

 ヴィートがゴーレムの死角から一気に距離を詰めた。

 ゴーレムはすぐに気付いて腕を振り回したが、相手はチビだった。

 屈伸が苦手なゴーレムの腕の下を擦り抜けて、敵に触れられる距離まで踏み込んでいた。

「ナーナ」

 ヘモジが感心した。

 次の瞬間、ゴーレムは動かなくなった。

 そしてみんなが息を呑むなか、岩の塊は膝を屈した。

「やった」

 ヴィートの小さな声が聞こえた。

 ドーンという衝撃と共に大きな塊は床に崩れた。

「やったーっ!」

「よっしゃー!」

 両拳を掲げたヴィートに年少たちは駆け寄り、抱き合って喜んだ。

 ヴィートはマリーに駆け寄り、手を取ると「力半分、気合いだけ撃ち込む感じ!」と、実に抽象的なアドバイスをした。

 年長組は今のアドバイスで大丈夫かと苦笑いする。

 僕も同感だった。

 でも思いは伝わった。間近で見ていたニコロとミケーレ、カテリーナに。勿論、マリーにも。


 こういうものは『衝撃波』以上に伝播するもので、子供たちは立て続けに『ジュエルゴーレム』を倒していった。

「こえーっ。うちのちびっ子たち、こぇー」

 ジョバンニがからかった。


 通路に並んでいた『ジュエルゴーレム』は結局、年長組まで回らなかった。

 そして問題の『クラウンゴーレム』がやってきた。

 あれのせいで逃げ道を塞がれてしまうのだが、先手を打ってしまっていいものだろうかと躊躇した。

「ナー?」

 子供たちにも体験させることにした。

『クラウンゴーレム』が前回同様の行動を取った。

 結果、後方の天井は崩され、僕たちは地下に閉じ込められてしまった。


「どうする?」

「うーん。脱出できるようにしとく?」

「念には念を」

「回収できるまで暇だし」

 子供たちは『クラウンゴーレム』は自分たちの担当じゃないからと後方に下がっただけでなく、その間、崩れた天井の瓦礫の撤去をし始めた。

「こら、全部引き受けるとは言ってないぞ!」

「ヘモジちゃんにあげる」

「勝手に『ジュエルゴーレム』で完結するなよ」

「初めて何かするって疲れるね」

 聞いちゃいねぇ。

 どいつもこいつも土魔法だけは既に最高レベル。人海戦術であっという間に脱出口を開通させてしまった。

 どこが疲れてるんだ。

 穴はゴーレムが通れないサイズなので、瓦礫の向こうは即席の安全地帯になった。

「……」

「心配しなくてもよかったね」

「ナーナ」

 想像の上を行かれてしまった。まさかあの瓦礫を貫通させようとは。普通、諦めるレベルなのだが。

「『穴熊』の影響か……」


 ヘモジが倒した『クラウンゴーレム』もアイテムに変わった。

「?」

 金塊と……

「ナーナ?」

 なんだ、こりゃ?

「魔石?」

「ゴーレムからは出ないんだよね?」

 子供たちも寄ってきた。

 オリエッタが『認識』スキルを全開にするも、正体はわからなかった。

 ヘモジが箱に入って、慎重に石に触れた。

「ナナッ!」

 驚いたヘモジは石を遠くに放り投げた。石は床をコンコンと跳ねるように転がった。

「どうした!」

「大丈夫?」

 ヘモジは自分の両手を凝視するだけで何も語らない。

 でも、同じ衝撃を召喚主である僕も感じていた。

「全員、近付くなよ」

 ヘモジが『万能薬』を用意するのを待って、僕はそれに触れた。

 僕はあることを試みる。

 すると石は橙色に光り出した。

「紋章が刻まれてる様子はない…… か」

 僕は石をこねくり回す。

 そうこうしている内に反応は収まった。

「オリエッタ」

 鑑定をもう一度、頼んだ。

 オリエッタは息を呑んだ。

「! 魔石になってる……」

「魔力の含有量は?」

「!」

 オリエッタの目が見開かれた。

「残量一千二百……」

 それは有り得ない数字だった。ヘモジの拳にも満たないサイズなら精々百かそこらのはずなのだ。

「なんなの、これーッ!」

 オリエッタが、子供たちがびっくりする程大きな声で叫んだ。

「誰か、迷宮産の付与付きアイテム、持ってるか?」

「あります! 投擲ナイフですけど」

 フィオリーナが取り出したのは『雷撃』が付与された足止め用のナイフだった。

 僕は付与を発動させながら壁を軽く叩いた。

 するとバチッっと火花が散った。

「よし」

 これで魔力が消費されたはずだ。

 オリエッタに確認すると、魔力残量は満タンから八十分の六十に減っていた。

「二十消費の『雷撃』か。なかなか強力だな」

「魔力切れになったときの護身用にいいかなって」

 ナイフの柄尻に怪しげな魔石を近づけてチャージする。そしてオリエッタに確認させる。

 満タンに戻ったことを確認すると、ナイフはフィオリーナに返した。

 問題はこっちだ。

 今ので間違いなく魔力は消費されたはず。そこでもう一度オリエッタに確認。

「一千百八十…… 減ってる」

「これでどうだ」

 オリエッタが見ている目の前で、魔力を石に流し込んだ。すると。

「……」

 オリエッタが固まって動かなくなった。

「オリエッタちゃん?」

 しばらくしてようやく小さな口が開いた。

「何、これーッ!」

 振り出しに戻った。

「ヤマダタロウ…… やってくれたな」

 とんでもない物を用意しやがった。これが起死回生の一撃。ミズガルズの特産品候補である…… たぶん。

「これは充填可能な魔石だ!」

「魔石?」

 子供たちはこれの凄さがまだよくわかっていなさそうだった。

「光の魔石も充填できるよ」

「あれは吸い上げた魔力を石の性質を使ってそのまま光に変換して放出させているだけだ。その証拠に魔力供給をやめてもすぐには消えないし、何もしなくても人が退散すれば光を失うだろう? タイムラグが生じるのは空間に漂う魔力残滓の影響だし、石の魔力、それ自体が毎回消費されてるわけじゃない」

 勿論、普通に、魔道具に使うように消費することもできるが。

「でも街灯は? 魔力供給する仕事したことあるよ」

「言ったろ? 魔力残滓を吸い上げてるに過ぎないって。魔石に魔力を供給してるんじゃなくて、石の周りに一夜分の魔力を魔道具で充填してるんだ」

「あ、だから結界魔法なんだ」

 フィオリーナが言った。

「ランタンになんで結界魔法が施してあるんだろうってずっと思ってた」

「解読したのか?」

「ううん。発動してるなって感じたことがあるだけ」

 普通、気付かないんだけどな。

「まあ、そういうわけだ」

 この石は……

「しかも残量千オーバーって。通常の十倍」

 規格外だ。

「これで特大魔石造ったら凄いことになるね?」

「しかも魔力の補充もできるんだもん」

「うちの船、最強説?」

「ガーディアンは? ガーディアン!」

「改造し放題か……」

「あ」

「師匠、今、悪い顔した!」

「なんか企んでる」

「企んでない!」

「またガーディアン改造しようとしてるんじゃない?」

「『補助推進』だ! 『補助推進装置』をもっといっぱい付けようとしてるんだ!」

「魔力使い放題だもんね」

「俺たちのガーディアンにも『補助推進装置』付けて!」

「モナ姉ちゃんの『ニース』も大空を羽ばたくときが」

「それはない」

「全否定かよ!」

「そんなことより魔石が値崩れするんじゃ」

「大変だ! 備蓄放出しなきゃ!」

 斯くの如き大騒動が通路の角を曲がれば『クラウンゴーレム』がゾロゾロいる場所で、繰り広げられた。

 それ程にインパクトのある贈り物だったのである。



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