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何か光ったよ

 遅くなりました。m(_ _)m

 弟子たちは爆睡する。

 出された宿題を前にテーブルに突っ伏している。

 起こそうとすると、姉さんに遮られた。

「眠くなって当然よ。快適過ぎるもの」

『左舷、何か光ったよ』

 見張りのミケーレとニコロはしっかり仕事をしていた。

 姉さんとほぼ同時に探知スキルを展開させた。

 邪魔になるので咄嗟に展開するのをやめて、姉さんの作業結果を待った。

「反応はない。岩か何かに光が反射しただけだろう」

『ふぇーい』

 僕は窓から外を見渡す。

 確かに怪しい影はない。

「ちょっと見てくるか」

「わたしが行く!」

「俺が行く!」

「僕が……」

 子供たちは目を覚ました。犬が「散歩」の一言で踊るが如し。

「行って、よし」

「やった!」


 ヴィートとカテリーナがじゃんけんに勝利した。ヴィートは兎も角、カテリーナだけでは不安なのでニコレッタを付けた。

「全員、警戒配置に付け」

「一番機、発進」

 青い『グリフォーネ』が甲板を滑るように飛び立った。

 続いて赤い二番機が。

 ヘモジとオリエッタにも行って貰った。

 船は既に速度を落とし残骸との位置をキープしている。

「問題なさそうだな」

「普通に飛んでる分にはわからないって」

 ジョバンニとマリーが両舷の見張りに向かった。


『周辺、異常なし』

 ニコロの声だ。

『こちらも異常なし』

『同じく、異常なーし』

 ジョバンニとマリーの声が続いた。

『三連装砲台一番と四番、一応、ロック外しておくわよ』

 フィオリーナの声だ。

『了解』

『『認識照準器』被る?』

 ニコロが聞いてきた。

『まだ作動させてないから、大丈夫よ。でもその前に、装置番号確認』

『えーと、一番』

『了解』



 それは残骸だった。

 光った物は僕たちがこちらに移ってくる遙か以前に大破した船体の一部だった。

 姉さんの側近のひとり、ベルタさんという年齢不詳のエルフが、積み荷扱いになっていた修理済みの『スクルド』に乗り込んだ。

 子供たちが船籍を確認したところ、少し調べたいと言って出ていったのだ。

「砂に埋まっていた物が出てきたのだろう」

 歴史上、迷子になっていた一隻なのだと姉さんは言った。



『ニコレッタが来た。交替してブリッジに戻る』

 ジョバンニが見張りを替わって、砲塔の操作盤に戻ると言った。

『後方の見張りに入ったよ』とヴィートの声が。

『マリーちゃんと合流した。はぁ、はぁ』

 戻ってきた三人がそれぞれ見張りに就いた。

 ヘモジとオリエッタは操縦士のいなくなったそれぞれのガーディアンの上にまだ残っていた。

「子供たちの機体に乗れるのか?」

「遠隔操作の調整は前に一度しましたよ」と、振り返ればモナさんが。

「手伝えることあります?」

「今のところはまだ」

『警戒解除!』

 天からトーニオの声が降ってきた。

 傍らにはいつの間にか姉さんが立っていた。

 ベルタさんの『スクルド』から光通信が入ったようだ。

『船尾警戒、解除します』

 ヴィートの声が伝声管から伝わってきた。

『了解』

『こっちも』

『どっちだよ』

『右ー』

『左も解除。後よろしく』

「ヴィートとカテリーナは戻る前に機体を格納庫に」

『わたしも行くー』

「マリーはチョロチョロしない!」

『はーい』

『ナナナナーナ』

 ヘモジの言葉は伝声管じゃ伝わらないだろうに。

『こっちでやっとくって』

 窓越しの解説ご苦労。

 オリエッタとヘモジが操縦する機体が、エレベーターに載った。

「じゃあ、わたしは格納庫に」

「お願いします」

 モナさんが地下への階段を下りていった。

『スクルド』も戻ってきた。

「少し傾いてない?」

 ベルタさんの『スクルド』がアプローチに入ったのだが、機体が水平より左にやや傾いていた。

「あの子の癖なのよ」

 古い機体に乗っていたせいで、右手の銃火器とバランスを取ろうとして左を下げてしまう癖が付いてしまっているらしい。『スクルド』にはバランスをその都度、調整するシステムが採用されているので、操縦士が一々姿勢を気にする必要はない。むしろ学習機能のせいで悪い癖が付く。

「『スクルド』はその場に停止。現在エレベーターが稼働中です」

『了解。待機します』

 子供たちがゾロゾロ戻ってきた。そして、でかい窓に張り付いた。

『スクルド』がエレベーターに載って沈んでいくところだった。


 ヘモジとオリエッタも戻ってきた。

 何も言わずミケーレとニコロのいる展望室に向かった。

「ん?」

 時計を確認すると交替時間になっていた。

 ベルタさんの帰還と同時にニコロたちも展望室から下りてきた。

 船は船首をルートに戻し、加速した。

「原そーく。ヨーソロー」

「砲台のロック完了」

「喉渇いた」

「食堂行ってきまーす」

「はいよー」

 昼食の時間である。ゾロゾロと居住区への階段を下りていく。

 モナさんも現れた。

「全機、異常なし」

「了解です」

 僕はブリッジに上がった。

「ご苦労さん。代わろうか」

 トーニオとフィオリーナを下ろした。

「ヘモジ、オリエッタ、寝るなよ」

『ナーナ』

『退屈』

「辛抱しろ」

『ナー』

『タロス来い、こーい』

 まあ、頑張ってくれ。



 大き過ぎる船は操縦してても面白くない。僕は早々に自動航行に任せて、読書を始めた。

「師匠、交替だよ」

 トーニオが戻ってきた。

 展望室にはマリーとカテリーナが上っていく。

「自動にしてある。向きもこのままでいい」

「はい。で、師匠」

「ん?」

「僕にも何か本を一冊」

「これ読むか?」

 トーニオは字面を見てすぐ首を振る。

「どんなのがいい?」

「もう少し易しい魔道書があったら……」

「わかった。食べたら持ってくる」

 景色はずっと変わらない。青い空。砂塵渦巻く黄色い砂の波。

「いっそ加速したくなるよな」

 今回は光弾の実験があるため魔石をなるべく温存していく方針になっている。一発で反応炉を空にするのでいくらあっても足りないのだ。せめて僕自身が新種と対峙していれば、手の抜きどころもわかるのだろうけれど。今は全力で殴ることしかできない。


 昼食はパンとステーキとコーンスープ。デザートはシャーベットだった。

 子供たちはブリッジ下の絨毯部分で今は昼寝の時間だ。

 僕と姉さんたちは入れ替わりに食堂へ。

 フィオリーナとニコレッタが食器を洗う音が聞こえる。

「水をあんなに使って大丈夫なんですか?」と、お客さんの一人が言った。

「あの子たちは魔法使いだ。全員、冒険者見習いだが、実力は既に見ただろう?」

 姉さんが言う。

「直系のお弟子さんでしたね」

 それだけで納得するから怖い。

「それにしてもあの『グリフォーネ』はなんです? 機動性がオリジナルとは明らかに違いましたよ」

「あれが暇に飽かして改造しまくったんだ」

「今回の航行目的の一つになってましたね」

「『スクルド』に技術移管の予定は?」

 僕に聞いてきたので「『ワルキューレ』と『スクルド』の使える技術を移管しただけだから、それはありません」と答えた。

「新型のロングレンジライフルはわたしが試させて貰うぞ」

 姉さんが言った。

「僕がやるに決まってるでしょ。僕はまだ新種とやり合ってないんだから」

「わたしが白黒付けてやる」

「今後の開発のために必要なんだ。僕がやる」

「普通は新種とは当たりたがらないもんなんだがね」

「なんとも……」

「ふたりともしっかりヴィオネッティーなのね」

 ほら、呆れられた。

「うぬぬぬ。じゃあ、光弾の砲台はわたしがやる!」

「なんでそうなる!」

「どっちか、よこせ!」

「どういう理屈だ!」

「じゃあ、わたしたちも」

 カウンターの向こうからフィオリーナとニコレッタが顔を出す。

「子供は駄目!」

「操船はわたしたちがしてるんだから、光弾はわたしたちがやるのが筋です!」

「静かに飯食わせて下さいよ」

 付き人のなかでただ一人の男性、オラーツィオさんが抗議する。

「お前も技術士官だろう」

「技術士官はそもそも戦闘要員ではありません。現場を見られる、それだけで充分です。でも検証データを隠すのはなしですよ」

 技術屋として気が合いそうだが、僕のなかの戦闘担当の部分が……

「じゃんけんだ!」

 付き人のなかから大きな溜め息が漏れた。

「負けません!」

「僕がやらなきゃ意味がないんだって!」

「じゃーんけーん」



「騒ぐだけ無駄だったわね」

 ニコレッタが食器を乾燥させ、フィオリーナが浄化を施すと、子供たちの手が届く高さまでしかない食器棚に戻していく。

 結局、姉さんは見ているだけになった。

「リリアーナ様って、グーの確率が多いのよね」

「本人、気付いてないわよね」

 フィオリーナとの会話のなかでニコレッタが暴露する。

「エルフは容姿を褒められることに辟易してる人が多いから、チョキとかパーを出して指が綺麗だとか言われるのが嫌な人が多いのよね。無意識なんだろうけど、そういうエルフは大概グーよ」

 ニコレッタが持論を展開させた。

「さすがニコレッタね」

「あんまり腹黒くなるなよ」

「失礼ね。これも処世術なんだから」

「そうよね。じゃんけんに負けて、ご飯のお代わりができなかったときなんか、本当に悔しそうだったものね」

「仕方ないでしょ。お腹が減ったままだと何もできないんだから!」

 なるほど孤児院は立派な競争社会だったわけだ。

「それより、師匠。いつまで食べてるんですか。みんな行っちゃいましたよ」

「そうだった! トーニオに本を持っていかないと」

「ここは任せて、さっさと行って下さい」

 僕は急ぎ上階に戻り、ブリッジ後方にある自分用の個室からトーニオでも読めそうな本を選ぶ。

 前回持ち込んだ物で新しい物は何一つなかったが、どれにしようか。


 取り出したるは『積み上げ式、楽しい魔法陣ドリル』という名の錬成集。

 なんとレジーナ・ヴィオネッティーとハサウェイ・シンクレアの共著である。ハサウェイ・シンクレアは他ならぬアイシャさんのペンネームである。ふたりのライバルの手による最先端の実用書。『紋章学』の名著であり、魔法学院の初等部から高等部まですべてを一冊に網羅した力作である。

 パズル感覚のお遊びから始まって『魔法の塔』の採用試験レベルまで、一生使える教材となっている。

 子供たちが実際に詠唱で使っている術式は実戦用の略式が多く、教科書には載らない内容がほとんどだ。それ故、基本が疎かになりがちなので学校にも通っているわけだが。

 ヘモジとオリエッタが眼下のフロアを通り過ぎていく。

 展望室には昼の休憩を終えたヴィートとジョバンニが入っていった。



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