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クーの迷宮(地下40階 殺人蜂・ジュエルゴーレム・ミノタウロス戦)避雷針を擦り抜けろ

「金塊だ。前よりいっぱいある」

 そりゃあ、三十八層や三十九層と一緒にしてはいけない。一撃で倒せているから気付かないだろうが、その分、強くもなっているのだから。

「あ」

 マリーが石ころを拾い上げた。

「はずれだ」

 ミスリルかと思った塊は銀鉱だった。

 一周して最初の部屋の並びに出た。今度は廊下を通って、先程の分岐を…… その前に直進か。並びの扉も廊下を挟んだ向こう側まで続いている。

 トーニオは直進を選んだ。入口から近いエリアから攻める気らしい。

 扉を開けるとミノタウロスが複数。

「食堂だ」

 巨人サイズの椅子とテーブルが並んでいる。壁に積まれた樽も超危険物だ。

「小人になったみたい」

 視界を遮る障害になってくれるのはいいが、たまに飛んでくるから厄介だ。

「三体いる」

 テーブルの下から足の数を数える。

「狙いづらいな」

 背の高いテーブルと椅子が視線を遮る。

「こういうときはこうするんだ」

 僕は『氷結』で手前の一体を凍らせた。そのまま昇天させることも可能だったが、接近して足に触れ、雷を身体の内に流し込んだ。

 子供たちはすぐさままねた。

 だが『氷結』魔法は威力不足。足元を凍らせ、動けなくはしたが、口を黙らせることはできなかった。

「グモォオオオ!」

 雄叫びはもう一体を呼び寄せた。

 凍らせた相手に撃ち込むはずだった『雷撃』を接近してくるミノタウロスにぶつけて黒焦げにし、凍らせた一体は強引に『氷結』し続け、黙らせた。

「ユニークな倒し方だったな」

「どっと疲れた」

「最初から頭狙えばよかった」

「全部凍らせられると思ったのにな」

「凍らせたじゃん」

「『氷結』を瞬時にってのは範囲が広がるほど難しくなるからな」

 テーブルと椅子で戦場がカオスになる前に片付けられただけでよしとするか。

「宝箱あったよー」

 ニコロがカウンターのなかで見付けた。

「宝箱はちっちゃいよな」

「でかかったら、それだけ財宝をいっぱい入れなきゃならないだろう」

 トーニオが冗談を言った。

「あー、そうか」

「そうだね」

 ニコロとミケーレは納得した。

「ケチだね」

「……」

 さすが商人の娘と言うべきか…… 元お姫様は絶句する。


「ナーナ」

 鍵担当が解錠すると、中には綺麗なお皿やカップがびっしり詰まっていた。

「割れ物注意だ」

 自作した箱に移し替えて、倉庫に転送だ。この手の物はよく売れる。在庫にならない優良アイテムだ。ミノタウロスが使うには小さ過ぎるけどな。

「師匠、これ飲める?」

「ん?」

 子供たちが巨大な樽のコルクを捻ったら、真っ赤な葡萄酒が落ちてきた。

「中、入ってるんだな」

「試しに持ち帰ってみるか?」

「無理だと思うけど」

「酔うかな?」

「危ないから駄目!」

 舐めようとするヴィートをニコレッタが止める。

「毒だったらどうするの!」

「それ以前に子供は飲んじゃ駄目だから」

 フィオリーナがふたりの背後で腕組みをする。

 その横でヘモジはゴクゴクと喉を鳴らした。

「ナーナ……」

「まずいってさ」

「ちぇッ。商売になると思ったのに」

「これ一樽で何樽分かな」

「ギミックだよ。どうせ」

 一樽転送してみようかとも思ったが、まずいと言うのでやめておく。


 先を急ぐことにした。

 先程の四部屋分ほどの広い食堂を横断し、反対側の扉を抜けると、先刻見送った通路に合流した。

 ここは戻らずに、先を行くことにした。

「うっ」

 子供たちを制止させた。

「避雷針のスイッチだ!」

 今回は障壁を応用した薄い魔法の膜ではなく、通路を塞いでいた一本の木材に仕掛けられていた。

 ヘモジが気付かず、作動させてしまった。

「ナァ?」

「こんなの気付かないよ」

 罠とはそういう物だ。

「新手だ」

 本来気付かなければいけなかったオリエッタが不服そうに頬を膨らませた。

「原始的なトラップだ。裏を掻かれたな」

「注意する」

「普通、こんな通路の途中に仕掛けるかな……」

「この先に何かあるんだろう」

「『土槍』よ」

 フィオリーナの言葉に子供たちは頷いた。

「いや、ゴーレムだ」

「ゴーレム……」

「まだ作動してない」

 右に折れる丁字路の向こう側、道を挟んだ先の右側の凹みにそれらしき影が並んでいた。

「避雷針は?」

「避雷針はどこ?」

 見える場所にはなさそうだ。

「『魔力探知』を使え。遮られる場所があるから」

 ナイスな、アドバイスだ、トーニオ。でも……

「加減しろよ。寝てるゴーレムを起こさないようにな」

「待ち伏せなんて嫌らしい」

 お前らだって潜伏してるだろうが。

「あったよ。あの角、曲がった所」

 丁字路を曲がった先のようだ。

 偵察部隊のヘモジとオリエッタが戻ってきた。

「ナナーナ」

「避雷針の方は敵いないって」

「ゴーレムは何体いた?」

「ナーナンナ」

「四体!」

「はぁあ?」

 子供たちの顔が急に険しくなった。そしておもむろに僕を見た。

「やれるだけやってもいいですか!」

「さっきと言ってること、違うじゃないか」

「全部は倒せないと思うので、そのときはお願いします」

「思ったら負けだぜ」

 ジョバンニがトーニオの肩に手をやった。

 やること前提かよ。

「やるなら最後の一体までだ。結果は気にしなくていい。戦いに専念するように」

 確かに三体を同時に相手する好機であるが。がっつかなくてもこの先いくらでもあるんだけどな。

「ナーナーナ」

「ん?」

「一体ずつ引っ張れるって?」

「なーんだ」

「もう、早く言ってよ」

「でも、そのためにはまず避雷針を壊さないとな」


「気付かれそう……」

「そっとよ、そっと……」

「早く行ってよ」

 何も全員で行くことないだろうに。

「ナーナンナ……」

 警戒しながら角を曲がる。

「これ壊せばいいのかな?」

「音立てないでよ」

「消音結界張る?」

「だから魔法は無理だって」

「てことは僕たち今、結界……」

「いいから早く!」

「ええい、ままよ!」

 師匠から借りた解体用のナイフはアダマンタイトの『ゴリアテ工房』謹製品だ。避雷針のポールもスパッと切れる――

 ガラガラガッシャーン!

「なんてこった」

「ナーナ!」

 ゴーレムが次々起動した。

 避雷針の妨害は止まったが、丁字路の角をゴーレムが曲がってくる。

「これ、切れないよ!」

「魔力を通したら、吸い取られないうちに切れって言っただろうに!」

「あ、また起きた」

 僕の声に、一番奥で起きずにいた一体も反応した。

「ナーナ?」

「…… 少し押さえつけておいてやろう」

 結界で最後の一体だけ押しとどめた。

 行き止まりで応戦することになった子供たちは絶体絶命だ。

「三体ならなんとかなるだろう」

「でもコアの位置が」

「あ、そうだった」

 ヘモジ、頼んだ。


「楽勝だったね」

「まさか倒した死体が通路を塞いでくれるなんてね」

「時間、稼げなかったら、危なかったよ」

「そうか? 足元を凍らせるぐらいの余力はあったぜ」

「さすがジョバンニ兄ちゃん!」

「でも最後の一体が来てたらやばかったかもな」

 幸い前半の二体のコアは露出していた。すぐには見付からなかったが、そいつらの骸が防波堤になってくれたおかげで次の一体のコアを探す時間ができた。

「ナ?」

 言わぬが花ということもある。

「なんだかんだ言っても全部倒せたよね」

「でもミスリルが……」

「大量の鉱石で満足しておくんだな」

「はは…… 鉄と鉛ばかりだけどね……」

「普通のパーティーなら脱出案件だぞ。贅沢言うな」

「ナーナ」

『なんちゃってゲイ・ボルグ』は息を合わせなければいけないから時間が掛かる。既に奇跡的な速度ではあるが、緊急対応にはやはり不利だ。そろそろ次の手を教えてやった方がいいかもしれない。努力には見返りを。向上心には目標を。

「あったよ」

 オリエッタが宝箱を見付けた。


「げっ!」

 開けてびっくり。

「ミスリルだ」

 箱の底に一振りのナイフが横たわっていた。

「触るな!」

 ヘモジが手を止めた。

「呪われてる」

「まじで?」

「折角ミスリルなのに」

 呪われているといってもマイナス補正が付いているだけだった。

 僕は知り合いから教わった解呪魔法を施した。

「治った」

 オリエッタが素っ気なく言った。

「ただのミスリルナイフになった」

「付与しなおす?」

「この手のアイテムは解呪すると結構、化けるもんなんだけどな」

 素材以外はほんと普通のナイフだ。

「師匠って何者?」

「呪いは教会じゃなきゃ解けないのに」

「その教会の知り合いから教わったんだよ。ああ、言っておくけど」

「わかってます」

「光魔法は内緒なんでしょう」

「そういうこと。転送するから、まとめてくれ。それから――」

 僕は年長だけでなく年少組にも『ジュエルゴーレム』討伐に『衝撃波』の使用を薦めることにした。年長組は既に使える魔法だが、魔力量がネックになっていて使用する機会があまりなかった。

 今となっては『なんちゃってゲイ・ボルグ』の魔力消費量とそう変わらない。

 発動時間短縮。コアを一々探さなくても仕留められる方法をそろそろ教えてやってもいいだろう。

「『衝撃波』で倒すんですか?」

「次にゴーレムに遭ったら実演するからな」

「りょうかーい」



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