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クーの迷宮(地下40階 殺人蜂・ジュエルゴーレム・ミノタウロス戦)本番はここから

 四十階層に入ると、僕たちは今朝来た高台に出た。持ち込んだ糸玉は三つ。全部『籠』に入っている。

 巨大な建造物を眼下に収めながら僕たちは大きな石橋を渡り、迷宮の入口、大きな両開きの扉の前に立った。

 結晶キーを差し込む台座は既になく、大扉の鍵も開いている。

「ナーナーナ」

 覗き込むと、足元に石畳の階段が現れた。階下へと延びるその壁面には火の魔石の燭台の明かりが煌々と燃えていた。

 エルーダの場合、地下一階、地上四階建ての建造物であったが、四階層が別空間に想定されていたので実質、地下を入れて四層という造りだった。

 いずれ発見されるであろう地図情報によって、その辺の呼称は統一させていくことになるだろう。エルーダ準拠なら変更なしだ。既に四層が採石現場と化していることはわかっている。五層もあれだし、ほぼ変わらないものと想定する。

 問題があるとするなら地階である。外観から察するに下に深くてもおかしくなさそうだが、迷宮のなかにまた深い迷宮など作る必要はないだろう。が、こればかりは潜ってみないと。

「ドキドキする」

「今更かよ」

「いいだろう、別に」

 ヴィートとジョバンニがヘモジの小さな背中に付いていく。

「いるよ」

 ニコロの声に、全員が足を止め、敵が通路の角から首を出すタイミングに合わせて詠唱を始める。

 そこにミノタウロスが警戒する様子もなく角の生えた牛頭を晒す。

 攻撃が放たれ、すべてが頭に命中した。

 いくら顔がでかいからといって、あんまりだ……

 無傷の胴体が硬い廊下に倒れ込んだ。

 落とした斧が音を立てたが、周囲に音が反響することはなかった。

 消音結界も何気に使いこなすようになったか。

 廊下の先に見える扉をヘモジが覗きに行く。

 ある程度倒してから魔石の回収をしたかったが、序盤も序盤。敵ものんびりしたものだった。

 退屈しのぎに子供たちはでかい斧を解体し始めた。

「この宝石、売れる?」

「うーん」

「スカスカっぽい」

 数人が『解析』魔法を掛け合った。

「安物っぽいね」

「師匠行きだね」

 ミケーレはそう言って、拳大の石を自分のリュックに仕舞い込んだ。


 ミノタウロスは土の魔石(中)になった。

「普通だ……」

 何の感動もなく僕たちは先を進んだ。

「ナーナ」

 通路脇の小部屋の開いた扉の先にミノタウロスが二体いた。

 子供たちは舌舐めずりしながら魔法を放った。

 一体は前回同様、仕留めたが、もう一体はなぜか魔法が届かず、霧散して怒らせただけになった。

「グモォオオオオ!」

 怒ったミノタウロスは駆け寄りながら大きな斧を振り上げた。

 床が揺れる。

 が、子供たちは振り下ろされる前に結界でミノタウロスの身体を押さえ込んだ。

 今度は無事、魔法が使えたようだ。

 ミノタウロスが接近してきてくれたのが功を奏したか?

 子供たちがしくじることを想定し、ヘモジはミノタウロスの後ろを取っていた。

 が、そのヘモジが後ろを振り返る。

 ヘモジも魔力の流れに違和感を感じたようだ。急いでその場を離れた。

「避雷針があるな……」

 子供たちがもう一度魔法を放つと今度は有効打となった。首のないミノタウロスがもう一体、床に転がった。

 僕は近くにあるはずの避雷針を探した。

 すると奥の柱の影に避雷針が立っていた。

 恐らく向かいの扉から入ってくる者を狙ったものだろうが、たまたま一体が作動スイッチの効果範囲内にいたようだ。

「びっくりしたなぁ、もう」

 子供たちは即座にミノタウロスに限り、物理効果のある『土槍(グランドスピア)』に攻撃手段を統一した。ゴーレムにはあまり効果がないので、その時は避雷針を先に潰すことにする。

「宝箱!」

 オリエッタが突然、叫んだ。

「わっ、びっくりした」

「ごめん……」

 オリエッタがすまなそうに指差した。

「ここ?」

 小さな頭が小さく頷いた。

 崩れた壁の向こう側の隙間にあった。

 埃を被った箱には鍵が掛かっておらず、中からは睡眠薬がいくつか出てきた。『目くらまし香』でも使う投擲用の器を作って使うこともできるが、使用することはないだろう。

 リュックに収めて次に向かった。

 本日のマッピング担当はじゃんけんに負けたジョバンニであったが、尺度を丁寧に計算する必要があるこの手の迷路では頼りなかった。そこで開始十分、今夜のデザート一品と交換に早々ニコレッタと交代していた。

 子供たちは今後のために、化粧柱の間隔や燭台の間隔などを紐で作った定規で計りだした。

「手慣れたもんだ」

「ナーナ」

 オリエッタも首を縦に振る。

 これまで通ってきた通路に沿って一部屋目が記され、宝箱が出た位置も記録された。いずれ上の階に行けば、宝箱から正確な迷宮内の地図が出るので、それまでは暫定的に必要な物だし、細かい備考を記すのは重要なことだ。

 反対側の扉を行くか、廊下に戻るか選択となったが、子供たちは協議の結果、扉を行くことにした。

 ヘモジが扉を開けると、同様の部屋があった。が、ミノタウロスはいなかった。

 そして同じようにある次の扉を開けた瞬間、ヘモジが吹っ飛ばされた。

「魔法使いタイプだ!」

 正確な名は『ミノタウロス・スペリア』だ。上位のミノタウロスという意味だが、序盤にしてもう登場するか。

「ナーナ……」

 敵は斧の代わりに丸い水晶を持っていた。

「あれが『魔石モドキ』だ。魔法を撃たせるな。値が下がるぞ」

「ヘモジの(かたき)だ!」と、言っている間にヘモジが自分で片付けた。

「ナーナンナ!」

 大して効いちゃいないだろうに、自分よりでかいミノタウロスの頭を蹴飛ばした。

 結界から頭を出すからだ。

「これが……」

「うん○……」

 ニコロとマリーが水晶のような物に近付いた。

「ただの石だって」

「でも思ったよりでかい」

 そりゃ、ミノタウロスが手にする物だから、通常の魔石と同サイズだと思う方が間違ってる。彼らにとっての手鞠サイズは人を圧殺できるサイズだ。

「金貨十枚の意味がわかった」

 子供たちは納得した。

 当然、ポケットには収まりきらないので、転送することにした。そのまま売り付けるか、砕いて加工するかは後で決めることにする。

 ミノタウロス本体がちっぽけな魔石に変わると、子供たちは残念そうな顔をしてリュックに収めた。

「理不尽……」

「せめて魔石(大)は欲しいよね」

「かわいそう……」


 扉の先は通路らしき所に繋がっていた。

 少し先まで行くと、丁字路が待っていた。

「どっちに行こうか?」

 左に曲がれば、恐らく来た道に戻れると思われる。右はまだ未知のエリアだ。ここは一旦、左に曲がって、通路に囲まれたエリアを確定してしまいたい。

 戻る途中、左側に扉があった。マップを参照する限り、さっき通ってきた二部屋と同等の部屋があるはずだ。

 ヘモジは結界から頭を出さないように、慎重に扉を開けた。

 ヘモジが「一体、いる」と指で合図した。

 扉の隙間を開けると中の様子が探知スキルでも確認できるようになった。扉がなければ、避雷針がなければ、もう少し情報を容易に取得できるのだが。この迷宮には他のフロアにはない緻密さがある。

 避雷針の有無を確認すると子供たちは『土槍』を敵に放り込んだ。

 避雷針がないことを確認したのだから他の魔法でもいいのだが、ここは意思統一を優先させたらしい。

 僕たちは骸が魔石に変わるのを待たずに、続く扉をそっと開けた。

 全員が頷いた。反応は三体。避雷針の気配はない。

「ナーナーナ」

「魔法使いが一体いる」

 魔法使いを最優先。その後は近場からだ。三等分した力で一体に当たるか、一体ずつ順次対応するか。先程は半分の力で二体を同時に仕留められたが。

 何事にも最初はあるが、今はそれを試すときではないと判断。二体を同時に倒し、残る相手を全員でということになった。

「三、二……」

 魔力の増大、と共に放たれた槍は宙を一足飛びに飛び越え頭を穿った。

 そして三体目に手の空いた者から随時、魔法が放たれた。

 三体がほぼ同時に床に沈んだ。

「ナァ……」

 ヘモジも呆然。

 子供たちは「どうだ」と言わんばかりのどや顔だ。

 日進月歩だな。

「うまくいったね」

「見た、師匠?」

「見た、見た」

 ここは肯定するしかない。

 子供たちは一度に二本、槍を創作したのだ。そして一本ずつ投げたのである。まあ、二本が限界だったみたいだが。

「次一体だったら、三人でやってみよう」


 だが、待っていたのはジュエルゴーレムだった。

「ミ、ミスリル!」

「違うから」

 ヴィートにニコロがツッコミを入れたところで戦闘開始!

 まずは目視でコア探し。

「部屋暗いな」

 明かりを灯せば気付かれる。

「駄目だ」

 子供たちの実力ではまだミスリルは望めそうにない。

「師匠にあげる」

「別にミスリルにこだわらなくても。必ず出る物でもないし」

 でも子供たちは首を振った。

 今のところ、子供たちがあのゴーレムに対抗しうる手段は『なんちゃってゲイ・ボルグ』のみだ。損耗が大き過ぎてミスリルが出る可能性はないに等しい。

「じゃあ、急所を教えてやるよ」

「そうじゃなくて!」

「ミスリルが出るとこ見たい!」

「ちゃんとやれば、出るって確証が欲しいっていうか……」

「じゃあ、出るまでな」

 今度は頷いた。

「見たことなかったっけ?」

「インゴットになったやつしか見たことない」

「丸いの見たことあるよ。石ころみたいなの」

「ゴーレムから取れるのはそれかな」

「丸いやつ?」

「そ」

「それをインゴットにするんだけど。あ、ミスリルが手に入ったら修行再開な」

「修行?」

「インゴットにする修行だよ」

「あーうー」

「きっとなくなっちゃうよ」

「なくなってもスキルは上がる」

「でもギルドにも必要だよ?」

「全部をやれとは言わないよ。言ってやりたいけど、今は物入りだからな」

「ナーナ」

 ゴーレムが逃げるとヘモジが言った。

「じゃあ、やらせて貰うぞ」

 僕はライフルを構えて、一発を右手首に命中させた。

 子供たちは命中した箇所がわからなかった。

「外れた?」

「ちゃんと命中したぞ」

 ゴーレムは自重を支えきれなくなって膝から崩れた。



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