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クーの迷宮(地下40階 殺人蜂・ジュエルゴーレム・ミノタウロス戦)みんな一緒3

 飛空艇が壁をぶち抜き、さっきまで僕たちが立っていた場所に突っ込んできた。

 そして大蟹よろしく動けなくなっていた。

「ドラゴンタイプだ!」

 飛空艇を追って、こちらに迫ってくるのが壁の亀裂から見えた。

「これって……」

 五十年前の幻影?

 ドラゴンがブレスを吐いた。

 ブレスは塔に突っ込んで動けないでいる飛空艇に命中した。

 飛空艇の結界はまだ生きていて、爆炎を弾き返した。代わりに特殊弾頭を搭載したバリスタがドラゴンに狙いを定める。

 ブレスの熱波が上と亀裂から押し寄せた!

 僕たちの過剰過ぎる数の結界は容易に降り注ぐ熱風を退けた。

 落ちていくのは特殊弾頭を眉間に受けたドラゴンタイプのみ。飛空艇も健在だ。

 現実なら助けに行くところだが……


 空はハチャメチャになっていた。敵と味方が入り乱れて攻防を繰り広げていた。

 初めて見る飛空艇の勇姿に子供たちの好奇な視線が吸い込まれる。

 塔が再び大きく揺れた。

 爆発は下からだ。

「どうすればいいの?」

 さすがに行き場を失いつつある子供たちは動揺した。

「下だ。他にやることはない!」

 大伯母が気合いを入れる。

 揺れに連動して軋む音にびびりながら、爆発が起きたと思われる下層へと突き進んだ。

 外ではドラゴンと飛空艇が次々、雲間から奈落に落ちていく。が、空の混沌は一向に収まる気配がない。

 五十年前の人たちはこんなに強かったのかと内心感心していると「こんなに当たるわけないだろう」と大伯母がヴィートに何やら言葉を返していた。

 言われてみれば飛空艇の射撃は正確無比で、回避行動も見事なものだった。当時は飛行船や飛空艇の黎明期で、飛ぶのがやっとの時代だったはず。損耗率も高かったはずだ。

 光った!

 霞んだ先に見える別の塔からの光だった。地上に命中して地表がめくれ上がった。

 地上にはタロスの軍勢と、ガーディアンの前身である自立型の人型巨大ゴーレムを盾にした王国連合が対峙していた。

「光弾なのか?」

 実際に使われるのを見たのは初めてだ。

 僕たちの船にもあれを積み込んだんだぞと、言い掛けたところで口をつぐんだ。何せ、それで被害に遭っているのが味方の軍勢だったからだ。

 地上からも光が!

 真っ白で空の上にどこまでも伸びている塔の根元に命中した。

 細くて長い棒切れのような塔が衝撃で空の途中から幾つもの部位にばらけた。慣性でまだとどまっている上部のさらに上方から瓦礫が雪のように降ってくる。その破片と一緒に部位の先端もゆっくり落下していく。まるで大量の石を水のなかに放り込む様。地面は土砂を高く巻き上げ、土煙は津波のように周囲に伝播していく。

 そして最も長い最後の柱が地面に到達する。

 山のように降り積もった瓦礫に先端が斜めに接触、軋みを上げながら大きく傾いていく。

 激突と同時に先端が崩壊。巨大な円柱は尻を大きく振りながら、ついには重力に逆らえなくなって瓦解、大地にひしめくタロス兵を薙ぎ払った。

 壁の亀裂の先に目を奪われながら、僕たちは歩を進める。

 衝撃が来た!

 塔は叫びにも似た軋みを上げた。

 さっきの一撃は語り草になっているアンドレア様の『魔弾』のようだ。ヴィオネッティー家最強の『魔弾』。

 突然、目の前を何かが猛烈な勢いで通り過ぎていった。

 僕は我に返った。

 塔が衝撃で大きく揺れた。

 それは僕たちの頭上、遙か上層から落ちてきた塔の残骸だった。それが今、目の前の地面に激突、土煙を巻き上げた。

 さっき見た景色が、この塔でも起ころうとしているのか?

 僕たちは手摺りにしがみ付きながら、ひたすら階段を下った。

 瓦礫が猛烈な勢いで降ってくるが、幸か不幸か僕たちの頭上には結界を維持したままの飛空艇がまだ残されていた。

 爺ちゃんたちは足を掬われ、瓦礫が降り注ぐ大空に投げ出されたそうだが、その足元には海原が広がっていた。でも今回、それはない。真っ赤な土とゴツゴツした岩場だけだ。投げ出されたら終わりである。

 僕たちはひたすら下りた。いつ倒壊するかわからない足場を蹴りながら。

 亀裂の向こうを明滅しながら過ぎていく影の群れ。

 振動も収まる気配がいよいよなくなってきた。

 子供たちの足がもつれる。何もかもが子供サイズでない。そもそも階段が人のサイズに収まっていること自体、場当たり的であるが。もう限界だ。

『身体強化』を全開にしている年長組ですら息を切らせている。年少組をや。

 揺れはどんどんひどくなる。

 そして僕たちは次のフロアの先を見た。

「ない……」

 フロアは半壊、螺旋階段はその先で終っていた。

 二、三周先に階段の続きが見えた。が、同時に大きくえぐれた壁面が見えた。

 折れていないのが奇跡である。

 猛烈な風が吹きすさび、塔が巨大な笛になったかのようにハイトーンを奏でた。

「脱出する?」

 マリーがラーラに尋ねた。

 マリーは既にラーラに背負われていた。カテリーナもジュディッタの背中の上に。

「ドラゴンが来る!」

 ニコロが叫んだ。

 壁に空いた大穴目掛けてこちらに突っ込んでくる。

 後方から迫る飛空艇がバリスタを放ったのが見えた。

 バリスタはドラゴンを追尾しドラゴンを吹き飛ばした。

 が、その肉片は僕たちの足元を捉えた!

 かろうじてこらえていた穴の空いた壁面は悲鳴を上げ、膝を屈した。ねじれて、僕たちがしがみ付いていた螺旋階段は大きく振られた。

「キャーッ!」

 子供たちは悲鳴とも歓声とも取れる奇声を上げた。

 天地がひっくり返る!

 子供たちの手をしっかり握り締めながら、もう片方の手で螺旋階段の手摺りを必死に握り締める。

「落ちるーッ」

 ラーラはマリーを背負っていた。ジュディッタもカテリーナを。子供たちがしっかりしがみ付けばしがみ付く程、顔を赤らめる。それでもふたりは必死にこらえた。

 そのうち天地は再びひっくり返り、僕たちは壁や螺旋階段の手摺りに身体をしたたかに打ち付けられた。

 それぞれが結界を張っていたせいで子供たちに別状はなかった。むしろ被害は大人たちの方に出た。

 ラーラとジュディッタは咳き込み、イザベルは肩を脱臼した。

 殿は大丈夫だったかと後ろを見ると、大伯母はしれっと、ヴィートはきょとんとしていた。

 どうやら大回転に巻き込まれなかったらしい。宙に浮かんで景色が一周したところで着地したそうだ。

 もしかして明文化不可能と言われている『浮遊魔法陣』を詠唱したのか?

 大伯母が菱形のアクセサリーを僕にちらつかせた。

 あんな小さな魔道具に!

 ミケーレが咳き込んだ。

「大丈夫か?」

「大丈夫。埃吸っただけ。むしろ、足がもうガクガク」

 僕たちは天地が逆さまになった柱の内側にいた。

 瓦礫の上に突き刺さった柱に斜めに寄り掛かる、僕たちが通ってきた螺旋を今度は下りて行くことになる傾いた円筒。螺旋階段はもはや階段の役目はしない。等間隔に置かれた障害物だ。

 姉さんに「どうにかしろ」と言われて、僕は手摺りの床高分を瓦礫で盛り上げ、整地して、フラットな床面を作り出した。

 振り向くとお姉さんズやラーラまでもが固まっていた。

 大伯母に触発されたかな。

「ナーナーナ」

 ヘモジが斜めに傾いた床を滑り降りた。

「ずるいぞ、ヘモジ」

 年長組が自分の尻に、自分で作ったソリを敷いてヘモジを追い掛けた。

「俺たちも行く!」

 ヴィートを先頭に年少組も躊躇なくソリを拵えて、滑り降り始めた。

 僕は一斉に滑り降りようとする年少組を押えて、間隔をおいて下りるように促した。

「着いたぞー」

「ナーナー」

 地上に辿り着いた年長組の声が微かに聞こえた。

 年少組も順番に距離を取りながら降りていった。

「何を考えている!」

 大伯母が隣に立って、呆れとも叱責とも取れる溜め息を漏らした。

「わたしたちにもここを滑れと?」

「あ!」

 僕が下まで行ってゲートを開ければよかったのか!

「こういうところは抜けてるのよね」

 ラーラも大概だ。

「女性に対してのデリカシーがないのよね」

 姉さんの言葉に女たちは頷いた。

 僕はいたたまれなくなって即刻、坂を駆け下りた。

 そして最下層まで辿り着くと散らばるソリを砂に変えつつ、お出迎え用転移ゲートを開いた。

 そして女性陣はローブやスカートの裾を振りながら悠然と現れるのだった。


 子供たちは長い滑り台を如何にして滑り降りたかを語り合い、談笑に花を咲かせた。

「死ぬかと思ったよ」

「あんなに加速するとは思わなかった」

「何事も経験よねー」

 そもそも考えなしに飛び込むなよ。

 ほぼ全員が風魔法を使って減速しながら下りてきたと答えたが、ジョバンニとヴィートだけは加速して走破したと言う。もう少しで追い抜けたのにと別次元の話をしていた。

 そのせいか、出口からだいぶ離れた先にソリが転がっていた。

 そして周囲にはミノタウロスの骸がゴロゴロと。

 ヘモジがご機嫌。お尻フリフリ。

 お前か。

「それにしても――」

「ここまで三時間」

 ラーラと僕は深い溜め息をついた。

「一月は掛かったよな」

「昼までには片付きそうよね」

 僕たちの周りに敵はない。ヘモジが倒したからではなく、第五層がボスエリアだからだ。ボス討伐が主のエリアで、雑魚敵はほぼ出てこない、はずである。

 僕たちは姉さんと大伯母の指示に従い、道なりに進んだ。

「いた!」

 ミノタウロスだ。それも鎧を着込んだ上級兵だ。

「あれがボス?」

「違うだろう」

「気を付けろよ」

「やっていいの?」

「ボス戦前の肩慣らしだ」

「ボス戦を子供たちにやらせる気?」

「ここのボスと戦えるのは一度切りだからな」

 仕組み上、再戦はできない。したければ結晶キーからだ。

「僕たちがやっても意味はないだろう」

「大丈夫なの?」

「もう対策は施されたようよ」

 大伯母が子供たちに囲まれていた。

「まずは、あれからだな」



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― 新着の感想 ―
[気になる点] >マリーは既にラーラに背負われていた。フィオリーナもジュディッタの背中の上に。 フィオリーナってなってるがすぐ後に >ジュディッタもカテリーナを とあるでカテリーナの誤字?
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