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年少組がんばる

「師匠ーっ」

 みんなが纏わり付いてきた。

「魔法、ぶっ放さないと欲求不満で死んじゃうよ!」

「迷宮行きたい! 迷宮行きたい!」

「迷宮行きたい! 迷宮行きたい!」

「迷宮行きたい! 迷宮行きたい!」

「修行に連れてって!」

 カテリーナまで。

 学校では事故防止のため魔法の使用が厳しく制限されているらしい。我が家の子供たちには厳し過ぎる設定のようであった。

「まあ本来なら、狩りの日だし」

 勝負勘が鈍るのもなんだしな……

 連絡要員としてヘモジは連れて行けないから、普段以上に注意が必要だが。

「オリエッタは?」

「ヘモジと畑じゃない?」

「しょうがない。置いていくか。装備を調えろ」

 子供たちが嬉々として装備を調えている間に、僕は置き手紙を書いておく。

 全員の装備チェックを済ませて、いざ出陣だ。

「『土蟹』だからな」

「一撃でぶっとばす!」

「頼もしー」

「そういえば給食の時、ヴィート、窓から顔出さなかったな?」

「トイレ行ってた」

「後ですごく悔しがってた」

 みんな笑った。

「うるさいな、もう」



 そしてわずか数時間ではあるが、狩りの再開である。

「あれ? 師匠の『転移』進化してない?」

 スタート地点からの最初の転移で、ミケーレにそう指摘された。

「そうか?」

 他の子たちは首を傾げた。

「午前中は多分あっちを探したから、今度はこっちな」

 僕は方角を指しながらそう言った。

「『多分』て何?」

「見境なく転移して回ったからな」

「迷子かー」

「取り敢えず見付けるまで跳ぶぞ。しっかり付いて来いよ」

「了解!」


 ミケーレ以外の子供たちも僕の転移の違いに気付いたようで、口々に感想を述べた。

「なんか、なめらか」

「ぎゅーって感じがなくなった」

「ほんと、ふわっとしてた」

 感覚的で何を言ってるのか、よくわからなかった。

「しっかり警戒しろよ。他の魔物もいるかも知れないからな」

 そういえば転移先の状況が手に取るようで、いつもならヘモジを先に突入させる念の入れようだったのに、今回はなぜか警戒を怠った。

「……」

 怠った?

 自分でも無意識だったからはっきりしないが……

 いないことがわかっていたような気が……

 単なる気の緩みだったのか。

 目標を確認できなかったので、次に跳ぶ山の頂を見る。

「ゴーレムだ」

「どこ?」

 僕の囁きに子供たちが慌てた。

「どこ? 感じないよ!」

「あ、いや……」

 僕は先の山の頂を指差した。

 探知能力に優れたニコロとミケーレでさえ首を振った。

「ちょっと警戒しながら行くぞ。結界、しっかりな」

 術式を展開している術者が、先に顕現できないのがもどかしい。

「う、うん。わかった」


 予言通り、飛び込んだ先に『ジュエルゴーレム』がいた。

 が、幸いこちらは探知圏内に入ってはいなかった。

「すげー。なんでわかったの?」

「ほんとにいたよ」

「やっぱり進化したんだ」

「すごいねー」

「師匠、おめでとう」

「ありがとう…… かな?」

「凄ーな。俺も大きくなったら転移魔法、極めるぜ」

「転移先が見えたの?」

「なんとなくな」

「それで、どうするの?」

「何を?」

「ゴーレム!」

「ゴーレムは魔石を落とさないからパスだな」

 子供たちは周囲を念入りに探した。

「『殺人蜂』いた!」

「いらねぇー」

「『土蟹』いないね」

「次行こう、次」


 三度目の跳躍。

「『土蟹』発見!」

 今度は転移先に『土蟹』がいる感覚はなかった。が、麓にそれはいた。

 この微妙な距離の違いが、探知できる範囲の境界なのか?

「やっていい?」

「狙えるか?」

「こっちに呼ぶから」

 そう言ってミケーレが雷を落とした。

 森の鳥たちが一斉に飛び立った。

「来るぞ!」

 ヴィートにニコロ、カテリーナが攻撃態勢に。マリーとミケーレは後方に下がり、防御結界を広範囲に展開した。

『土蟹』は向きを変え、こちらにドスンドスンと近付いてくる。

「大人だって普通、ビビるもんだけどな」

 子供たちの笑顔ったらない。以前は巨大な『土蟹』に青くなる程びびっていたくせに。今は全力を出せることに嬉々としている。

「撃てーッ」

 ヴィートの合図で『氷結』魔法が三連射された。

 マリーとミケーレも反撃を警戒して結界の出力を最大に上げた。

 が、その結界に触れることなく、巨体は前のめりに倒れ込み、森のなかに沈んだ。

「反応なし!」

「やった!」

 子供たちはハイタッチを交わした。

「よし、行こうか」

 僕は骸のそばにゲートを開いた。


 前衛三人は『万能薬』を舐めた。そして回収までの間、次の役割分担の確認を行なった。

 今度はヴィートが後衛に回った。代わりにミケーレが前衛に上がり、陽動が必要ならマリーが、合図はニコロが担当することになった。


「おーっ!」

 特大には届かなかったが、良質で大きな石が手に入った。

 年少組だけでもやれたと、飛び跳ねて喜んだ。

「でも、まだまだだよ」

「うん。がんばろうね」

 頼もしい限りだ。

 こんなことなら午前中から誘えばよかったかな。

「師匠、次行こう」

「はいよ」

「早く、みんなまとまって」

 いつも当てにしている年長組がいないせいか、顔付きが違う。

 ほんと頼もしい。頼もし過ぎて口元が自然とほころんでしまう。


「おっしゃーッ。二体目を撃破!」

 攻撃のタイミングをすっかり会得したようだ。

 魔石の回収までの退屈しのぎに、僕は子供たちに商会で貰ったカタログを見せた。

「どうだ?」

「うーん」

「この大きいのも盾になる?」

 子供たちはカタログを中心に円陣を組んだ。

「機能的には可能みたいだぞ」

 難しい文章を解説するため、僕も円陣の一部になった。

「『ニース』に持たせたら、格好よくない?」

「どんくらい大きいのか、これじゃ、よくわかんないよ」

「ここの凹みに普通の盾が収まる感じだ」

 僕は描かれているイラストを指差した。

「うーん」

「僕たち魔法でどうにでもなるもんね」

「これって『浮遊魔法陣』二枚付けられるってこと?」

「魔力消費を考えなければ、できるんじゃないか」

「これって師匠の『補助推進装置』に対抗して造ったのかな?」

「そうかもな」

「実物見ないとなんともね」

 マリーが生意気な口調で言った。

 それを聞いたカテリーナはくすりと笑った。

「おじ様、そっくり」

 どうやらソルダーノさんの口癖のようだ。

「じゃあ、この件は保留と言うことで」

 ちょうど巨大な塊が消滅した。

「探すぞー」

 茂みを掻き分けながら、魔石が落ちた辺りを探索した。


「おかしいな」

「この辺なんだけど……」

 オリエッタがいればすぐ見付かるのだが。

『解析』魔法を使って、周囲を見渡す。

 僕に倣って子供たちも『解析』魔法を使った。

「あー、あった!」

 マリーが頭上を指差した。

『土蟹』の腹に押し潰された木の絡んだ枝に土色の魔石が嵌まっていた。

『土の魔石(特大)』だ。

 無事発見。

「わ。『解析』レベル上がった!」

 ヴィートが飛び跳ねた。

 違いがわかる程、変化があったのか。うらやましい限りだ。

「後でしっかりオリエッタに確認して貰っておけよ」

 ヴィートは無言で大きく頷いた。

 こら、僕を覗いても何も見えないぞ。

「人のステータスを勝手に覗くなよ。ばれると殴られるぞ」と、言い終わる前にげんこつを落としておいた。



 結局、予定より一時間粘って三時間程、狩りを続けた。

 そして魔石を五つ手に入れた。うち特大は一つ。

 それ以外に『クラウンゴーレム』を一体討伐。急所位置だけ助言して、子供たちに頑張って貰った。


 最終的に子供たちに魔石が足りていない旨を伝えて、回収品を僕が買い取る形にした。対価を何にするか尋ねたら「じゃあ」と言うことで、カタログのフライトユニットをねだられた。

「いらなきゃ、転売しちゃえばいいよね」

「モナ姉ちゃん、欲しがるかな?」

 モナ姉ちゃんは廃品回収業者じゃないぞ。

「今度、北の森にでもキャンプしに行く?」

「たまには野宿もいいかもね」

「お菓子いっぱい詰めるね」

「でもガーディアンに全員は乗れないよ?」

「盾に乗ればいいじゃん?」

「だったら船の方がいいんじゃ」

「実物見ないとなんともねー」

 つくづくいらない装備に思えた。



 白亜のゲートを潜ると、ちょうど目の前に大伯母一行がいた。

「なんだ、結局潜ったのか?」

「ねだられちゃってね」

「『土蟹』五体も倒したんだよ」

「楽しかったねー」

「むぅ……」

 ジョバンニが恨めしそうに年少組を見下ろした。

「お前ら、明日、道案内代われ」

 明日は全員学校である。

「明日はこっちも休みだ」

 大伯母が言った。

「こっちは十階層、一気に走破したわよ」

 ラーラは元気だった。

 イザベルはさすがに口をつぐんでいる。

「後二日もあれば追い付けるわね」

 年長組は沈んだ。

「ほら、さっさと帰るぞ。家に着くまでが遠足だ」

 曲がった背を起こし、トーニオは虚勢を張った。遠足って……

 年長組は万能薬を舐めて、重い足取りで歩き出した。

 残されたのは荷運び用のガーディアン。帰ってきたのに空荷とは。この面子でなぜ? 他の冒険者たちはさぞ不審に感じたことだろう。

「これは僕が置いてこよう」

 回収品の確認もしておきたい。


 工房に荷運び用のガーディアンを収めるついでに、地下の倉庫に送った魔石を確認する。特大魔石は午前の分も含めると、八個は確保できそうだ。反応炉の分は取り敢えず充分だろう。

 僕は上に戻って、終業までモナさんを手伝って帰路に就いた。


「そう言えば、レンタル中の『ルカーノ』はいつ返って来るんですかね?」

「半年契約だから当分戻ってこないわね」

「工房用の借りちゃって問題ないですか?」

「事前にわかっていれば、なんとでもなります。いざとなったらわたしの愛機で」

「それはさすがに」

 僕たちは笑いながら家の玄関を潜った。



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