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デッド・ラインズ・プライマー  作者: ポモドーロ


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策士失格

 再会してまだ間もないというのに僕たちは別れを口にしなければならなかった。

 一月も経っていないのにいつでも会える人だったから、今度いつ会えるかと思うと名残惜しくてたまらない。

「何、すぐ会えるじゃろう。お主がしくじらなければな」

 エテルノ様が召喚したのはガーディアンではなく、飛竜程もある鳥の形をした大きなゴーレムだった。

「長老、飛んだ!」

 オリエッタを初め、みんな目を丸くしながらエテルノ様を見送った。

 彼女もまたお騒がせな人であった。爺ちゃんの仲間はみんな変だ。

「まともなハイエルフはレオぐらいだな」

 レオは姉さんの母親であるアイシャさんの甥だ。

「人間世界に馴染んでる段階で、あれも充分変わり者よ」

 ラーラが容赦ない評価を下した。

 確かに腰の低いハイエルフなんて存在自体稀だけどね。

 僕たちはビフレストを経由せず、このまま予定を変更していよいよ東に舵を切ることにした。

「『万能薬』も魔石も充分だ」

「ナ、ナーナ」

「『十年は戦える』だって」

 ほんと戦えちゃいそうで怖いよ。

 これなら王女誘拐失敗の報が敵陣に知られる前に包囲網を抜けられるだろう。

「人には自重しろって言う癖にさ、自分たちは全然自重しないよね」

 そう言いながらラーラは最後までエテルノ様に手を振り続けた。


「船の影が見える」と村の見張りが知らせてくれた。

 確認すると最初に撒いた船のようだった。メインマストが折れているというのに随分早い到着だ。魔石をさぞ大量に消費したことだろう。

 盗まれた書類が余程大事なのか、懲りていないのか。

 僕たちは村の人たちに手を振りながら桟橋を渡った。

 向かい風は今や僕たちの味方である。

 船首をやや北に向けながら順風満帆で逃げを打つ。取り敢えずは距離を取り、途中で南に舵を切ることになるが、明日の風は明日吹く。風向きが味方してくれることを今は祈ろう。

「今日一日は取り敢えず、このまま行きましょう」

 ソルダーノさんが言った。

 風を切って走るのは心地よい。ほぼ最大船速だ。もはや追い付いては来られまい。

「速い、速い」

 オリエッタたちが髪を乱しながらはしゃいでいる。

「落ちるなよ」

 積み荷で重くなっているせいもあってか、船の姿勢も安定している。

「そろそろ」

 置き去りにした二隻目と擦れ違うタイミングだ。僕たちは遠くの地平線を凝視する。

 オリエッタの鼻や耳でも探知できないようだった。

 あの酔っ払い共は救助されたのだろうか?

 船首を真東に修正した。

 敵にとっても予想し易いルートだけれど。かと言って今、奇をてらったコース取りをしても折角のアドバンテージがなくなるだけだ。地図を見ても障害になりそうな地形はなさそうだし。このまま追いかけっこを継続しながら姉さんたちと合流するのが一番安全な選択だろうが、敵が姉さんたちに貼り付いていて、こちらが現われるのを待ち構えている可能性も否定できない。

 はてさてどうやって裏を掻いてやろうか。

 タロスを誘導する部隊はメインガーデンのさらに南、自分たちの拠点との間に来もしない味方のために向かっている最中だろう。

 取り敢えず追跡してきた二隻は撒いたものと考えよう。


 照り返す甲板が騒がしい。

 覗き込むとマリーが黄色い声を上げながらはしゃいでいた。

「ナナーナ、ナーナ」

 大きなたらいに贅沢に水を張り、ヘモジと一緒に水浴びをしていた。

「アレどうしたの?」

「村で買ったみたいですよ。洗濯用に」

 ヘモジとマリーがたらいのなかでじゃぼじゃぼやっている。オリエッタはキラキラ光る飛沫を避けながら、その周りをぐるぐる回っている。

「日陰でやらないと、すぐお湯になるぞ」

 二階から声を掛けた。

「ナーナ!」

「ヘモジちゃん動かそう!」

 一生懸命引き摺ろうとするが、中に水が入った状態では無理だろう。

 甲板に飛び降りて、一旦宙に水を持ち上げてやっている間に、ふたりはたらいを動かした。

「熱い、熱い!」

「ナナナナナ!」

 ふたりは甲板の上で踊った。

「そりゃ、裸足で甲板は熱いだろ」

 婦人がコンテナの上に掛けてある幌を少しずらしてふたりの頭上に掛けた。

 婦人と顔を見合わせて、遊ぶのも一苦労ですねと笑った。

 折角甲板に下りたので、格納庫の様子を覗きに向かった。そこでは女三人衆がガーディアンの整備をしていた。

「スラスター、装着完了!」

『ニース』の背中の折れた角が真新しい純正パーツに交換されたところだった。

「純正はちゃんと補強してあるのね」

「推力上げ過ぎなのよ」

「小回りを利かせるためにわざとやってんの!」

 機敏に機体を振り回すためにわざと横滑りを多用しているからだ。スラスターのある機体だからできる芸当であるが、セオリーからは大きく外れる。その分負荷が掛かるから先の事例のようにポキリといくのである。純正とはいえ彼女の無茶にどこまで耐えられるか。

 基本、技師として雇っているので、先のレースのような機敏な動作が求められる状況下で投入したくはない。彼女の腕は飾りにしておくのが理想である。

 ラーラの機体のセッティングも終わっているようだった。新しいパーツを増装しても隣りの『ニース』に比べると一回りも二回りも小さい。こちらは残すところ実際に飛んで微調整を繰り返すだけだろう。

 問題はイザベルである。

『グリフォーネ』を架台に載せたまま、各部を動かす練習をしていた。

 彼女の素の戦闘スキルからするとセッティングは近接戦闘用をと言いたいところだが、如何せん操縦は初心者だ。しばらくは飛び回ることに専念して貰って、感覚を身体に染み込ませて貰わないといけない。飛び道具もあまり使ったことがないようだから、こちらも照準器のゲージの読み方から始めなければ。

「実践あるのみよ!」

 おいおい。

 当分は偵察任務に就いて貰うとしよう。



 忙しい一日から解放され、ようやく涼しい宵の口に差し掛かる頃、予想外の事態が起こった。

「これは……」

 過小評価していた。

 敵が既に作戦失敗の報を受け、次の行動に移っていたとは思いもしなかった。

 眼前に見事なまでの包囲網が形成されていた。船艇は十隻を超え、距離はまだあったが、包囲は徐々に縮まりつつあった。

「オリエッタ」

「魔法使いがいる」

 嗅覚も聴覚もはぐらかされたか。

 こちらに優秀な探知スキル持ちがいることを見越して妨害用の結界が張られていたようだ。

 目の前のすべての船艇に魔法使いを配置しているとしたらスポンサーのルカーノ諸島連合は随分戦力を奮発したことになる。魔法使いというのはどんな国でも虎の子だ。失ったときのリスクを考えると、このような些末な戦闘に投入するのは。余程盗まれた資料が気になるのだろう。

「ナーナ」

 そうだな。僕の失態だ。

「油断したつもりはないんだけど…… たぶん追っ手がもう一隻隠れていたんだろうな」

 その一隻に増援を呼ばれた挙げ句、包囲されるとは…… 策士としては失格だ。

「大目玉よね」

 船端に頬杖ついてラーラが呟く。

「他人事じゃないだろ」

 ここに姉さんの母親であるアイシャさんや爺ちゃんの姉のレジーナ様がいたら……

「『地獄の業火』のなかで反省会だ」

「敵に回すと人間が一番厄介」

 オリエッタ、お前が気付けって話なんだぞ。

「タロスいない」

「それは残念」

「ナーナ」

「ちょっと! 何落ち着いてるのよ! どう考えても降伏するレベルじゃないの!」

 モナさんが言った。

「十一隻か…… 半端だな」

「どこにあれだけの艦隊隠してたのかしらね?」

「ギルドに見付からず逃げ回っているだけのことはあるってことか」

「一隻くすねる?」

 オリエッタがラーラの視線を跨ごうとしたところで首根っこを吊し上げられた。

「いらないわよ。あんなでかい(まと)

「あの……」

 ソルダーノさんも心配そうに口を開き掛けた。

「問題ないわよ。安心して」

「問題ない。なーい」

「ナーナ」

「『万能薬』も魔石もたっぷり補充したばかりだし」

「ドラゴンより楽勝」

 一番厄介とか言ってなかったか?

「あれを叩けば、敵勢力は相当弱体化するはずよ」

「当分動けなくなるはずだ。余程大きな造船ドックでも持っていなければ、あのサイズのホバーシップは容易く建造することはできないからね。潤沢な鉱脈を持っていたとしても…… 『浮遊魔方陣』はアールヴヘイムの専売特許だから。調達するのは難しいはずだ。精々年間で一隻。多くて二隻が限界だろう」

「どちらにしても奴らの数年間の努力が無駄になることは確定よ」

「なんでラーラを捕まえようとするの? 王女様だから?」

 マリーが素朴過ぎる疑問を本人に尋ねた。

 今回はラーラというより、盗んだ資料が目当てだと思うが。

「決まってるでしょう。わたしが正義で、奴らが悪だからよ!」

 いやー、いくら何でもそのごまかし方は……

「王女様を誘拐して、自分の所の王女様にしちゃおうとしてるのよ。そうすればみんな逆らえなくなっちゃうでしょう?」

「ふーん」

 さすがお母さん!

「わかった! 悪い奴なんだね」

「……」

 ラーラ、お前が正しかった。


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