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クーの迷宮(地下39階 土蟹・殺人蜂・ジュエルゴーレム戦) 敗走者は迷走す

 全身を望遠鏡で目視するもコアは見付からず、隠遁スキルを駆使して偵察を試みた。が、やっぱりなかったとうな垂れる。

 やるしかないな。

 今度のコアは鳩尾の奥。表面を剥いだだけでは発見できないだろう。同じ場所に二、三発撃ち込まないと。

「長期戦必至だな」

 教えてやりたい気持ちが湧き上がるが、子供たちの真剣な顔を見ると邪魔したくないなとも思えた。

 子供たちは作戦会議を長めに行なった。

 何が効率的か、どうすれば早く片付けられるか、必死に思案した。

 どうやら『クラウンゴーレム』の大きさを侮っていたようだ。

「まずどこまで削れるか試してみないと」

 悩んでいても仕方ないと、撤退の算段までして、威力偵察を開始した。



 そして今、彼らはおやつ休憩を取っている。

「おいしい」

 マドレーヌの甘さが、疲れた身体を癒やしてくれる。

 久々の完全敗走。

 子供たちは脱出用の転移結晶を使って外に脱出し、今はフロアのスタート地点まで戻ってきていた。

「くそー」

「見付かんねー」

 彼らは全力を出し切ったが、結局コアを見付けられず、敗走する羽目になった。

「やっぱ、弓スキル上げないと駄目なのかも」

 ん? どういうことだ?

「お前ら、何か意図して弓スキル上げてたのか?」

「……」

 子供たちは言うべきかどうか、互いに顔を見合わせた。

「師匠の『一撃必殺』 それって弓スキルだよね」

「世間ではそうなってるな」

 もしかして『一撃必殺』狙い?

「違うの?」

「間接攻撃なら弓じゃなくても大丈夫だぞ。自分の場合は『魔弾』だったしな。条件が合うなら何を使ってもいいはずだ。投擲でも、勿論魔法でも」

 子供たちの呆けた顔といったら……

「そうなの?」

「さっきまでの苦労は何だったんだーッ」

「誰だよ、弓だって言った奴」

 男共は大袈裟に天を仰いだ。

「そっか。『一撃必殺』が欲しかったのか?」

「だって、それがないと俺たち……」

「誰に聞いた?」

「大師匠の部屋で勝手に見た」

「『スキル大全』か?」

「そんな感じ」

「エルフ語、よく読めたな」

「半分意味わかんなかったけど」

「『弓』は読み取れたんだ?」

 子供たちは頷いた。

「あの本は禁書だ。ばれたらお前ら一生監視対象だぞ」

 大伯母のミスだ。そんな希少本、子供の手が届く所に置いておくなんて……

「……」

 わざとか。

「大師匠、何か言ってたか?」

「何も」

「でも、なんか機嫌がよかったかも」

 好奇心旺盛な弟子に気概でも感じたか?

「あの本はな。エルフ語じゃなくて、古代エルフ語で書かれてるんだ。ほんとはな」

「そうなの?」

「でもエルフ語だったよ」

「それじゃ、見たことにならないな。よかったな。監視対象にならなくて」

 子供たちは憮然としながらも、真剣な眼でこちらを見詰めた。

「ああいう本は封印がしっかり施されているから、ちゃんと解読して読まないといけないんだ。つまり、お前たちでも読めた部分っていうのは、さほど重要ではない部分ということだな」

「うわーっ」

 ジョバンニが頭をかきむしった。

「余計落ち込むーッ」

 子供たちは意気消沈した。疲れがどっと小さな肩にのし掛かる。

「そもそもお前たちは順番が間違ってる」

 子供たちは上目遣いに見上げた。

「まず聞かないか? どうすれば取得できるか、使ってる本人に」

「え?」

「教えてくれるの?」

「なんで教えないと思うんだ?」

「だって必殺技じゃん」

「そりゃ、レアスキルだけど、弓使いのベテランは結構、持ってるぞ。難しいのはむしろ近接用の『一刀両断』の方だ」

「教えてくれますか?」

 改まってニコレッタが聞いてきた。

「当然だ。でもその前に食え。お茶も冷めるぞ」

「忘れてた!」


「条件は簡単だ。一撃で魔物をひたすら倒し続けること。それだけだ」

「それだけ?」

「残念ながら何体倒せばいいかはわかっていない。僕自身、範囲魔法で大量に葬ったこともあるし、連続で狩り続けたこともあるけど、正直どう作用したか、今もってわからない。わかっていることは早ければ半年、適性がなければ覚えられないケースもあるってことだけだ。ただ、強い敵を相手にした方が習得が早いという情報はあるな。兎に角、運なのか、何かの蓄積なのかはわからないけど、本に書いてある内容はそんなところだ。お前たちなら、そのうちほっといても取得できると思うから無理しなくてもいいと思うぞ」

 子供たちは複雑な顔をした。

「早くて半年……」

「習得できないこともあるんだ……」

「スキルが欲しいのは一撃で倒したいからなのに!」

「なんなの」

 何なのって言われてもね。

「スキルというのは結局のところ、積み重ねた経験の発露だと思うわけだよ、僕はね」

「でも、これから敵はもっと強くなるんだよ」

「この手のスキルは狙って取れるもんじゃないぞ」

「それは持ってるから言えるんだよ」

「ラーラはずっと僕と一緒に冒険してきたけど、未だに習得してない」

「でも『一刀両断』持ってるもん」

 よく知ってるな。

「だからさ。それはラーラの努力なわけだ。諦めずに、より険しい道を進んで手に入れたんだ。世の中にはいろんなスキルがある。みんなもそのうち自分にあったスキルが手に入るさ」

「納得いかなーい!」

「人事だと思って!」

「今は魔法の腕を磨くことが最短距離だと思うぞ。それと日々の鍛錬だ。結局、地道な努力が早道になるもんなんだよ」

「でもあれは無理だからッ!」

「このままじゃ倒せないから!」

「普通の冒険者はあれをどう仕留めているか知ってるか?」

「なんとなく……」

 ヴィートの言葉に皆、頷いた。

「ひたすら攻撃するんだ」

「そりゃ攻撃するよ」

「相手の魔力をすべて奪うまでな」

「……」

 子供たちは目を見開いた。

「そして再生できなくしてから破壊するんだ」

「それだと報酬、少なくなっちゃうよ…… ね」

「しかもレイドを組んでるしな。急所がわかっていたとしても、普通はそうするしかないんだ。あいつはそれだけ硬いんだよ。高価な魔法剣を使って、刃こぼれ覚悟で殴りかからなきゃ倒せない相手なんだよ。それでも手に入る回収品はお前たちが手に入れる物以下だ」

「……」

「普通に破壊できてたよな? 急所の位置さえわかってたら、お前たちなら倒せてたよな?」

「それは……」

「お前たちに足りないのは辛抱と――」

「と?」

「観察眼かな」

「観察眼?」

「お前たち忘れてないか? コアから分離したゴーレムの破片はどうなるんだっけ?」

「あっ!」

「コアにくっつこうとする!」

 はい、正解。

「追い掛ければ、コアの位置が予測できるはずだろう?」

「おっきいから、忘れてた!」

「そういうのを『敵に呑まれる』って言うんだ」

「逃げ回ってたもんな」

 曇った瞳に光が差し始めた。

「やれるかも」

「じっくり見過ぎて、踏み潰されないでよね」

「それあるかも」

「その時は尻ぶっ叩いてやるよ」

 元気を取り戻したようだ。

「じゃあ、リベンジ行くぞ、みんな!」

「待って、まだ食べ終ってない!」

「お茶も冷めてるし」

「じゃあ、あと五分!」

「冷めても美味しいよ」

「美味しいのはわかったから」


 と言うわけで転移を重ね、最後に逃げ出したポイントに到着。

「…… いなくなった」

 完全回復した巨人は待っているはずもなく、どこかに行ってしまったようだった。

「暢気にお茶啜ってたら、そうなるわな」

「ぐぞー、このやる気はどうすればいいんだーッ」

「うぬぬぬぬ!」

「逃げやがってーッ」

 逃げたのはお前らだけどな。阿呆な男子が騒いでいるのを横目に「じゃ、正規ルートで」と、女性陣はあっさり前進を選択した。

「ほら、早く来なさいよ」

「待って、今行くから」

「なんでお前らはそう淡泊なんだよ!」

「いないもんはいないんだから愚痴っても仕方ないでしょ」

「何やってんだか」

 オリエッタもリュックから首だけ出して呆れた。

「ナナーナナー」

 ヘモジは鼻歌交じりで周囲を見渡していた。

「蟹、はっけーん」

「スルーしていいの?」

「好きにしろ」

「じゃあ、スルーで」

 結晶キーは既に手に入れているから、相手にする必要はない。

 子供たちが足を止めた。

「なんかやってるよ」

「戦ってる?」

 相変わらず索敵能力はずば抜けている。山を越えた先にある反応の乱れを察知していた。

「これってさっきの奴じゃない?」

「でも何と戦ってるのかな?」

「大きさから言ったら、これじゃね?」

 頭上をのっそり通り過ぎていく『土蟹』をジョバンニが指差した。

「師匠!」

「ん?」

「あっちにも『土蟹』いるよ!」

「なんだ、なんだ?」

「お互い不干渉じゃないのか?」

「面白そうだから行ってみようぜ」

 その判断が既に常人離れしてるんだ。

「師匠、早く」

「はい、はい。運送屋でござい」

 僕はゲートを開いて、目の前にそびえる山の頂きに跳んだ。


「戦ってる!」

 なんで戦ってるのか、どちらから仕掛けたものなのか定かではないが、『土蟹』と『クラウンゴーレム』が殴り合っていた。

「蟹の子供でも踏ん付けたかな?」

「そんな馬鹿な」

 ゴーレムが殴り返した。

 お互い硬過ぎて、傷も付かない。

「なーんか、長引きそう」

「あっちからも来たよ!」

『土蟹』の増援が集まりつつあった。

「このままだとゴーレム囲まれちゃう」

 自分たちを撤退に追い込んだ相手に同情とは。

「このままだと多勢に無勢だよ」

「と言っても肩入れする気にはならないけどね」

「もういいよ。先進もう」

 ニコロの言葉が全員の気持ちを表わしていた。

「きっと勝負付かないよ」

「だね」

「『土蟹』も無駄なことするよ。食べられないのに」

「…… ほんとになんで殴り合ってるんだろうな?」

『クラウンゴーレム』や『土蟹』を倒せない冒険者への救済策とも思えないが。

 昼も近いことだし、僕たちは遅れを取り戻すべく先を急いだ。



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