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クーの迷宮(地下39階 土蟹・殺人蜂・ジュエルゴーレム戦) 弓初心者とジュエルゴーレム

「うぎゃあああ。駄目だ」

「硬いよ」

「全然削れない!」

「どこにコアがあるのよ!」

 コアは心臓の位置にある。でも見た目じゃわからん。

「岩飛んでくるぞ」

 子供たちとの約束で、今回は急所を教えないことになっている。

「岩は破壊できるから!」

「自慢になんないって」

 一斉にゴーレムが持ち上げた岩に矢が飛んでいく。そして爆発。

「多少の傷じゃ、再生されちゃうし」

 そう言いながらも子供たちの腕はみるみる上達していった。

「でも使い慣れてきたよね?」

「慣れたって駄目だ。破壊力足んねーよ」

「ナーナ」

 僕たちは黙って戦況を見守った。

 ゴーレムを足止めしていた足元の氷に大きなヒビが入った。

「拘束が解けるぞ」

「力業。これでどうだぁ!」

 溜まったフラストレーションを吐き出すべく、魔法を直にぶち込んだ。

「駄目よ。そんな闇雲じゃ」

「あった! コア見付けた!」

「胸、胸だよ。胸のこの辺!」

「どこだよ」

「心臓のとこ!」

 ラッキーだったな。でもコアは再生してもう見えない。

「集中攻撃だ!」

 弓を斉射するも『必中』スキルでは細かい指示はできない。かと言って『必中』を外してしまったら、非力な彼らでは届かなくなってしまうし、それを補おうとして魔法の矢の威力も半減してしまう。

「くそっ!」

「下手くそな冒険者みたいだぞー」

 からかってやった。

 子供たちはほっぺたを膨らませた。

「むー」

「師匠の馬鹿ーッ」

 誰が馬鹿だ。

「こうなったらもう撃ち尽くす!」

 はい、頑張ってー

 子供たちは廃棄作業に勤しんだ。

「へっぽこ過ぎる」

 オリエッタも耳を寝かせた。

 年相応よりはましだけどな。

「お」

「ナ?」

 トーニオたち年長組が『必中』スキルを使わなくなった。射程が間に合うならその方がいいが、近付き過ぎるなよ。

 命中精度は落ちたが、可能性は増えた。

「矢筒が空になった。矢筒換えます!」

 最初に矢がなくなったのは意外なことにフィオリーナだった。フィオリーナはコンスタントに矢を射続け、仲間のため、ひたすら敵の動きを牽制し続けていたのだ。

 それでも足元の氷は砕かれ、ゴーレムは活動を再開した。

 動きが遅いと言ってもその一歩はでかい。

 子供たちは全力で距離を取りながら再び『氷結』魔法を放つ。

「凍らせる暇があったら、コアを魔法で破壊すればいいのに」

 弓と魔法の射程の違いに彼らの頭は混乱した。前に出ていいのか、下がった方がいいのか、瞬時の判断ができなくなっていた。

「魔法の射程距離まで忘れてる」

「一旦距離を取れ!」

 いい判断だ。

 トーニオが手を上げ、皆を集めた。

「落ち着こう。ここからは魔法だけで行く」

「了解」

「わかった」

「コアの位置はわかってるな。用意!」

 ゴーレムは逃げることなく接近してくる。お互い余力はありそうだ。

「放てーッ!」

『氷の槍』が次々命中して、ゴーレムの胸部を剥いでいく。

 砕けた氷が大気中に四散するなか、ゴーレムがパタリと動きを止めた。

 煌めく氷のなか、ゴーレムは膝を突いて大地に倒れた。

 子供たちから歓声は上がらなかった。

 息を荒げ、額の汗を拭った。

 子供たちはすぐさま作戦会議を始めた。

 フィオリーナの激励で矢を最後の一本まで使い切ると決意を新たにした。

 倒すことは二の次に、レベル上げをはっきり目標に据え直した格好だ。

「じゃあ、最初の氷結が砕かれるまでね」

「その後は――」

「全力よ」

 子供たちのやる気は萎えなかった。

 時間を明確に区切ったのはいい判断に思えた。曖昧な指示は不安と混乱を生む。

「敵を舐めるなよ」

「わかってる」


「見付けた。左、十時の方向。丘の向こう」

「もう一体、奥にいるよ」

「長期戦はまずいかも」

「取り敢えず目視。コアがあるか確認しよう」


 目視でコアは発見できなかった。

 そうなると遠くのゴーレムが厄介だ。

「どうしよう?」

「弓で手前のゴーレムだけおびき寄せればいいんじゃないか?」

 射程が長い分、魔法より安全だ。

 言い出しっぺのニコレッタが矢を射た。

 矢は放物線を描いて飛んでいき、ゴーレムの肩の辺りで爆発した。

「来るぞ!」

「まずはコアを探すぞ」

 子供たちはゴーレムを囲んだ。そして弓ではなく魔法で全身を上から順に削っていった。

「この段階でもう普通のパーティーじゃないよね」

 オリエッタが小さな牙を剥き出しにして欠伸した。

 普通のパーティーに魔法使いはいても二人。ここまで豪勢に魔法をぶっ放せるパーティーは稀有だ。

「あった! 右肘だよ!」

「じゃあ、始めるぞ」

 足元に『氷結』魔法が次々撃ち込まれた。

 子供たちは杖から弓に持ち換え距離を取った。

 そしてひたすら急所の腕を狙った。

 対するゴーレムの再生能力も半端なかった。

「なるほど。普通の冒険者バーティーがゴーレムと戦うとこんな感じになるんだな」

 さすがにここまで非力ということはないだろうが、感心した。


 タイムリミットが来た。

「魔法攻撃に切り替えるぞ!」

 足元の氷が砕けた。

「魔法攻撃開始!」

 するとあっという間に片腕は落とされ、コアは破壊された。

 今度は歓声が上がった。笑顔もある。

「なんか矢がまっすぐ飛んでいくようになったかも」

「嘘付け、まだ山なりだよ」

「前よりはよくなったよ」

「なんか手応え、あったかも」

「本当か?」

「おーい。もう一体に気付かれたみたいだぞ」

 僕は言った。

 子供たちは慌てて振り返った。が。

「なんだ。逃げてくじゃん」

 ヴィートが言った。

 それはどうかな。

「死ぬぞ」

「舐めるなって言ったのに」

 オリエッタとヘモジの視線は真剣だ。

 それもそのはず。ゴーレムが背を向けたのは後ろの岩を拾うためだ。そしてそれはもう宙を舞っている。

「多重結界!」

 子供たちは組ごとに慌てて結界を展開させた。

 幸い岩は命中することなく、子供たちの間の土を穿った。が、不規則に跳ねた。

 敵は次の岩を持ち上げようとまた腰を曲げた。姿が丘の陰に消えた。

「さあどうする?」

「杖に持ち換えろ! 一気に殲滅する!」

 子供たちは前に出た!

 そしてゴーレムが起き上がったところに魔法が一斉に放たれた。

 片腕が破壊されたことで持ち上げていた岩がゴーレムの手前に落ちた。結果、それがゴーレムを守る盾になった。

 子供たちは回り込みながら上半身を砕き、盾の横に回り込むと今度は下半身を狙い始めた。

「破壊した!」

 ヴィートとニコロが同時に叫んだ。

 誰の攻撃が命中したのかはわからない。でもゴーレムは崩れ去った。

「危なかった」

「危なかったね」

 コアはすねにあった。

「『万能薬』飲む」

 ゴクゴクゴク。マリーとカテリーナが一瓶飲み干した。

「ぷはぁー」

「飲み過ぎだろう」

 一瓶丸ごと飲みやがった。

「これ薄めたやつだから」

 それもまた商品開発段階で出た廃棄予定の品だった。

「値段を気にしたら、何したって喉を通りにくい物だけどな」

「量飲めたらお得な感じするから」

「ナーナ」

「そりゃもう薬じゃないって」


 先に倒したゴーレムが宝石になった。宝石は昨日回収した物の半分の大きさもなかった。質は維持できたようだが。

 鏃に加工した魔石の価値と比べたら、大赤字もいいところであった。

 スキル上げを意図していなかったら、凹むレベルだが子供たちは元気だ。

「在庫、後二戦分ぐらいあるね」


 次の相手は嵌め殺し。落とし穴に落として、ありったけの矢を放り込んだ。

 斯くして、在庫は一戦で一掃された。

「最初からこうすればよかったね」

「これって飛べない敵を倒すときの定石じゃね?」

 普通の魔法使いは『ジュエルゴーレム』を落とせる穴なんて掘れないから。一つ掘ったら他の魔法なんて使えないから。

「爺ちゃんもよくやってたけどな」

 斯くして子供たちは弓と空になった矢筒を倉庫送りにして、通常モードに移行した。

「さあ、これからが本番だ!」と、言ったところで『クラウンゴーレム』が現れた。

「でけー」

「コア、見付かるかな……」

 子供たちの死闘が始まった。



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