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クーの迷宮(地下39階 土蟹・殺人蜂・ジュエルゴーレム戦) タロスの光弾

 いつの間にか、イブ。

「一体、接近!」

 銃口を向ける。

「背中だな」

 既に薬室は空けてある。

『魔弾』装填。

 ドンッと胴体のど真ん中を射貫いた。

「ナーナー」

 殲滅評価もおざなりに、ヘモジは望遠鏡を振り回して次の相手を探す。

「ナナナナ!」

「え、クラウン?」

 フロアに一体じゃないのか?

 サービス回か!

 道は左手を走っている。その奥の低地に頭が見えたらしい。

 気合いを入れて反応を探すとそれらしき反応が見えた。

 僕たちは駆けた。

 そして現場に到着して絶句した。

「ここは?」

 そこは動かなくなったゴーレムの墓場だった。

 狩りの対象なら骸は残らない。だが、ここには異様な景色が広がっていた。

「エルーダにはなかったよな」

「ナーナ……」

 ヘモジは身構え、オリエッタは無言で頷いた。

 光った!

 と思ったら、僕たちが狩ろうとしていた『クラウンゴーレム』が沈んだ。

「なんだ? あの光線……」

 それは瓦礫の奥から放たれた。

「ナナナナ、ナーナンナ!」

 え? 『タロスの柱』の光弾?

 魔力を蓄えた球を雷属性のなんらかの力で前方に押し出し、高速射出するという『魔弾』にも似た遠距離攻撃兵器だ。

「戦後、爺ちゃんも研究してたタロス最強の長距離攻撃兵器……」

 完成するも危険物指定されて、学ぶことも許されなかったが。

「まずいだろう。こんな所にあっちゃ!」

 あれは飛空艇の多重結界すら打ち破る、無数の飛空艇を沈めてきた禁断の兵器だ。

 資料にこんな目撃情報はなかったが……

 それにしても召喚獣のネットワークはどうなっているのやら。

「よく知ってたな」

「ナナナ」

 昔、兄ヘモジが教えてくれた?

「ナーナナンナ」

「え?」

 同じことができるの? 兄ヘモジが?

「ナーナ」

 と言うことは、やる気になればお前にも……

「ナーナ?」

 ミョルニルをくるくる回すが、光線は出てこなかった。

「それはそれとして…… これは偶然?」のはずはない。

「ゲートキーパー、釈明を求めるぞ」

 また光った。

 僕の多重結界が砕かれた。

「ナーナンナッ!」

 ヘモジが身代わりになって吹き飛ばされた。が、ヘモジのミョルニルは弾道をしっかり逸らしていた。

 ミョルニルが稲妻を纏っていた。

「同属性じゃなかったら……」

 ミョルニルが砕けていた?

「ナーナンナ」

 勝手に再召喚して新品になって戻ってきた。

「まさかこうも容易く破られるとは」

 あのアイシャさんが発明した飛空艇用の万能障壁を突破し、山のように飛空艇を鴨にしてきた兵器だけのことはある。

「壊さず手に入れたいな」

「それは多分無理」

「やってみるさ!」

 久しぶりの全力全開だ!

「付いてこい、ヘモジ!」

「ナーナ!」

 オリエッタを山陰に隠し、僕とヘモジは地面を蹴った。

 早速、反応した。

 でも一瞬の溜がある。その間に距離を詰め、ありったけの結界を前方に展開する。

 何枚、貫通してくる? 五枚か? 十枚か? 今度の結界は気合いが入ってるぞ!

 最悪へモジが光弾の向きを逸らしてくれる。

 銃口が見えれば射線も予想できるのだが、瓦礫の山に隠れていて。

「!」

 その瓦礫を薙ぎ払い飛んできた。

 反応する間もなく結界が砕かれた!

 信じられない高速弾!

 爺ちゃんたちも最初はこれが光魔法の一種だと、光線だと考えていた。でも弾道が微かに放物線を描くことに爺ちゃんたちは気付いた。

 実際ヘモジが弾いて見せたわけだし。もし本当に光魔法なら、ミョルニルで殴って軌道を逸らすなんてことはできなかったはずだ。

 だからなんだって話だけど。

 射程限界があったとして、肉弾戦のこの距離でなんの意味があるのか。それにあの破壊力。

「力比べで勝つしかない!」

 三枚…… 四枚目が一瞬で砕かれた!

 でも、もう敵の光弾に威力はない。五枚目の結界に当たって消滅した。

「五枚か……」

 ドラゴンのブレスかよ。

 正体を見せろッ!

 それは僕たちがよく知る物に似ていた。弦のないバリスタだ。自由に向きを変えられる台座に砲身と思われる筒が載っている。それを台座と一体化したゴーレムが操っていた。

「ヘモジ!」

 言わなくてもわかっていた。本気になったヘモジは闘神の如き、ひらめきを持っている。

 狙うはゴーレムの形をした装置。

 砲身にあらず。装置の後方にはケーブルが伸びていて大きな壺が繋がれていた。魔力反応の大部分はアレだ。爺ちゃんたちの昔話通りなら、あそこに魔力が溜め込まれている。

 あれの原理も知りたい……

 ヘモジは台座と一体化したゴーレムを破壊した。

 やった! 手に入れた!

 そう思った瞬間、魔力反応が急激に増大した。

 壺が爆発する!

「間に合うか!」

 ヘモジと砲身部分を地面ごとまとめて転移させた。

 しかし、転移した先にまで爆風が迫っていた。

「オリエッタッ!」

 一瞬、姿が見えた。

 僕の胸に跳び込んできた。

「ナイス、タイミング!」

 このままもう一度跳躍だ!

 出口は…… 草原のどこか。記憶に一番鮮明に残っていた景色。

 ゴーレムたちが闊歩する…… 最初に草原を見下ろした場所。午後のスタート地点だった。


 僕たちは草むらから大空に舞い上がる巨大な雲を見た。

 そして暴風が草原を駆け抜けた。

 ゴーレムたちは立ち止まり、一斉に振り返る。

「これは……」

 最上級魔法に匹敵する破壊力だ。

「『地獄の業火(インフェルノ)』か『雷光暴嵐(テンペスト)』か。迷宮大丈夫か?」

「大丈夫じゃありませんね」

 突然、背後から声がした。

「ヤマダさん?」

「はい。その分身とでも言いましょうか」

 この迷宮の管理人だ。

「なんですか、あれ?」

「すみません。あれはこちらのミスです」

「ミス?」

「この迷宮が短期間で造られたことはご存じかと思いますが。四十階層以降にあれを仕込むかどうか、当方もまだ決めかねておりまして、後回しにしていたところ…… すっかり忘れてしまって」

 ヤマダタロウに似たそれは頭を掻きながらそう言った。

「他の冒険者が遭遇していてもおかしくないと思うんですが? 何か意図でも?」

「『クラウンゴーレム』を一分以内に討伐できた猛者に限定して出現するようにあらかじめ設定してあったので、処理を後回しにしておいてもしばらくは大丈夫だと思っていたのですが、さすがですね」

「そりゃどうも」

「でも、アレは駄目ですね」

「そうなんですか?」

「『タロス』も碌な物を造りませんね。あれでは冒険者が死んでしまいますよ。とんだ欠陥品です」

『ゲートキーパー』に対抗する『タロス』にもレベルがある。進化した『タロス』はまさに空間を渡る化け物らしく、ゲートキーパーでも手を焼く存在らしいが、未開のタロスは彼らにとってただの監視対象だ。怖いのは潜在的能力を内包したその進化にある。『タロス』はそれぞれの世界で独自に進化する。いつ自分たちを上回る力が出現するか。

 故に早期発見、早期駆除が大切なのだ。

「それはお持ち帰りして頂いて結構ですよ。残りは当分封印しますので」

 これは技術供与というものではないのか?

「いいんですか?」

「口止め料です」

 タロスが新たな進化個体を生み出したことで、こちらが劣勢になると考えたのだろうか。それともこちらの対抗策に興味が?

 まあ、爺ちゃんも解き明かした技術らしいし、大戦時に回収した骨董品は今も世界中に拡散している。時間の問題なら、一気に最前線に持ち込んだとしても、とでも考えたのだろう。

 要はテコ入れである。


 何事もなかったかのようにゲートキーパーは消え、迷宮は元通りになった。

「誰かに見られると困るからな」

 回収した砲身部分を即席で造った硬い箱に封印して倉庫に転送した。

 そして午後の部をもう一度やり直す。と、言っても一瞬だ。

 僕たちは爆心地まで転移した。

「元に戻ってる」

 ゴーレムの墓場も消えてなくなっていた。

 代わりに綺麗な湖ができあがっていた。

 僕たちは街道に沿って再び前進する。

「爆発で一掃されたか」

 さすがに消えた魔物まで再生させる気はなかったらしい。このフロアの日付変更線を越えるまでリセットはお預けのようだ。

 それならそれで、こちらも転移するだけだけど。

 視界に収まる範囲で転移できそうな場所を探る。

 混乱激しい大地の先に、山裾の傾斜にぶち当たった街道が左右に分岐する場所が見えた。


「ええと……」

 標識を覗き込む。さすがに『出口方面』とは書いていない。

 そこで資料を参照する。

「左ははずれ。右が正解らしい」

 僕たちは右手に進んだ。


「これはまた……」

 伏兵が待っているぞと言わんばかりの地形だな。

 山を真っ二つにしたかのような深い渓谷。ゴーレムに正面から来られたら逃げ場はない。

「『土蟹』なら挟まるね」

 プククッと自分の冗談にオリエッタは笑う。

 問題は休眠中かどうかだ。

 僕たちは慎重に歩を進めた。


「やっぱりいた!」

 みんなもうお腹いっぱいだ。あんな大爆発の後でゴーレム戦など些細なことだ。

「でも通れないから」

「寛容さが欲しいね」

 銃口を向けてドカン。

「ただの的にしか見えなくなってきたな」

「あれでも上級者向け迷宮の中堅」

「銃がない時代だったら大変だったろうな」

「それを言うなら『一撃必殺』」

「ナナーナ」

 正規の使い方ではないが、急所がわかるのは有り難いことだ。

「動いた!」

 反対側にもいたか。

 でも怖くないんだよ。その遅さでは。

「あ」

「それ反則だから」

 岩を持ち上げた。

「ナナーナ」

 まだ急所を調べてないのに!

 銃で腕を落としたら、ゴーレムが岩の下敷きになった。

「フッ」

 コアは分離した腕の方にあった。

 ゴーレムは再生を試みるが、ヘモジがコアを叩きつぶした。


 似たようなことを三度程繰り返し、渓谷を脱した。

 山の陰から日の当たる場所へ。

 銀色に煌めく川の流れ、その両岸に鮮やかな花たちが咲き誇っていた。

「ご褒美だ」

 僕たちはちょうどいいサイズの岩に腰を下ろした。

 そして橋に掛かる丸太橋を横目に最後の確認をする。

「間違いない。あの先が出口だ」

 クッキー缶を開けながら、本日の収穫を調べた。宝石が玉石混淆で二十三個。屑石はヘモジとオリエッタの鞄に二杯分。魔石(大)が六つに、転送した例のあれが一つだ。

「なんだかんだ言って、このフロアは儲かるよな」

 だからこそ多くの冒険者が足踏みをする。そして立ち止まる。そのための動機付けにはちょうどいいフロアだ。

「とどめの四十階層」

 次は心をへし折る巨大迷宮が待っている。

「鞭の前の飴だね」

「それって意味ないよな」

「ナーナ」

 四十階層攻略は恐らくラーラたちも一緒だ。結晶キーごとに割り振られるプライベートエリアだ。みんな同じフロア領域を利用した方が話が通るし、お互いのサポートもし易いはずだ。

 攻略は別々でも、最初の一歩は足並みを揃えないと。うちの婆ちゃんみたいに孫に手を貸せなくなる。

 子供たちと三十九階層をクリアしたら、後続が追い付いてくるまでお預けということになるだろう。

 戦力的には完全にオーバースペックだが。

 一息入れて、僕たちは最後の橋を渡った。



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