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クーの迷宮(地下36階 ゴースト・オルトロス・闇蠍戦) 早期攻略突然クエスト

 順調過ぎて不安になる。

 こんな時だからこそ不測の事態に陥らないように、僕もオリエッタも闇蠍の動向に注視する。

 闇蠍が接近してくるより先に子供たちは移動しているので、闇蠍は諦めて森に帰っていく。

「回復だ!」

 トーニオが声を掛けた。

 調子がいいときに限って忘れるのが、魔力回復。

 歩を緩めて瓶を舐め、子供たちは進み続ける。

「疲れてないか? 無理するなよ。時間はあるからな」

 逆に気を使ってしまう。

 残り三割を切った今、足を止める理由はなさそうだ。

 オリエッタはリュックのなかから頭だけ出して、突出している闇蠍を見張っている。

 左側の森から別の一体が出てきた。

 子供たちはオルトロスに掛かり切りだ。

 混戦になると面倒だな。

 どう捌くか見てみたい気もするが、ヘモジは冒険する気はないようだ。

 飛んで行って、長く伸ばしたミョルニルで闇の結界ごと粉砕した。

 側にいたジョバンニと親指を突き出し合って合図を交わした。

 僕の出番はなさそうだ。

 嬉しいような、寂しいような。

「案ずるより産むが易しか……」

 僕たちは予定より早く、ゴールの山荘に辿り着いた。



「ゴーストだ!」

「ゴーストいたよ!」

「逃げた?」

 山荘の扉を開けると闇のなかを徘徊していたゴーストたちが、光に追われて一斉に地下へと逃げていった。

「なんだ!」

 急に床下の魔力反応が増大した。

「これは!」

「何?」

「トラップだ!」

 僕が叫ぶより先に、オリエッタが叫んだ。

「ナーナ!」

 ヘモジがミョルニルを抜いた。

 昨日はこんな物なかった。

 床が抜けた!

 身体が宙に浮いた。支える足場が一瞬でなくなった。

 落ちた先にあるはずの地下空間がなかった。

 更なる底へと続く大穴だけが空いていた。

 落下死なんて間抜けな!

 僕は一緒に落ちてきた子供たちを、助かった連中の元に転送した。

「師匠ーッ!」

 ヘモジは残ってる。ヘモジがいれば大丈夫だ。

 自分が無事ならばだが。

 落ちる先を見ることも敵わなかった。浮かんだ身体はまるで融通が利かない。

 転移を試みるが、自分を転移させる時間はなかった。

 結界と回復力に賭けるッ!


 水のなかに背中から落ちた。

 結界のおかげで痛みもなく、意識を失わずに済んだが、咄嗟にリュックから逃げ出したオリエッタにヒップアタックを食らった。

「うごっ!」

「着地成功」

 いてててて、顔に爪はやめろ。

 周囲には水溜まりのクッションがあった。

 押し出され、湧き上がった水柱が、結界の上にバサバサと降ってきた。

 足元の水から凍らせて、僕は水上に浮かんだ。

「敵は?」

 光魔法を打ち上げて周囲を照らした。

 地底湖のなかには魔物の反応はない。畔には人工の足場が巡っていて、武装したスケルトンがこちらを見たまま凍り付いていた。

 ビビって、力を込め過ぎた。

 洞穴内はほとんど凍り付いていた。僕が凍らせたのか、そもそも凍っていたのか?

「装備」

 オリエッタがスケルトンの着ている装備の質に言及した。

「ただ働きせずに済んだな」

 迷宮探索用の装備を持ち合わせていないギルメンにはありがたい土産になるだろう。

 木道に上がると凍った連中を溶かして、装備を剥がして回った。

「これは上物だ」

 転送、転送また転送。

 足場の木道はこの地下空間の周囲を何層にも巡っていた。

「採掘場の跡地か?」

 ピッケルや鉱石の入った箱が散乱している割に、スケルトンたちの装束は戦闘用の物ばかりだった。

「そもそもこのフロアにスケルトンが登場するなんて」

 となれば、これはクエストだ…… 更なる下層にもスケルトンの出番はなかったはず。

 周囲を巡る木道はこの空間の上層にある迫り出した岩場まで続いているようだった。

 凍っていないスケルトンが襲ってきた。

 この辺りの敵は岩場の影に入っていたおかげで冷気に当てられずに済んだようだ。

 が。僕は再び冷気を浴びせ、頭を砕いた。

 坂の上にスケルトンが何体も寄ってきて、不器用に矢をつがえる。

 凍らせた。

 早く合流したかったので、過剰防衛に徹した。

 そして迫り出した岩場の上に辿り着くことができた。

「行き止まりだ……」

 てっきり上に続くルートがあると思ったのだが……

 でも恐らく、ここもいわゆるゴールの一つだ。

 見るからに怪しい。

 床には埃を被った魔法陣。何本もの接地型の燭台が辺りを照らしていた。そして突き当たりには見るからに怪しい宝箱。

 トラップか…… 

 僕は剣の切っ先を床に擦りながら魔法陣を傷付けようと試みた。

 が、魔法陣は傷付かなかった。つまり足を踏み入れることで発動するタイプではなく、既に稼働している。

「これは……」

 足元を崩落でもさせる物だろうと、高を括っていたが、遙かに難易度が高い物だった。

 光り出してわかる。

「召喚魔法陣だ!」

 急いでその場から退避する。

 現れたのは巨人…… いや、違う。巨人サイズの――

「レイスだ!」

 オリエッタが声を上げた。

 レイスとは深層に出てくる『生命吸収(エナジードレイン)』を有する悪霊である。肉体と分離した生き霊が戻れなくなった存在だと言われている。が、普段は憑依した死肉に宿っている。そして憑依している存在が…… 未だかつてなかったパターンだ。

 冷気攻撃を主体とし、病気などの状態異常を併発させる典型的なゴーストタイプだが、憑依している間はゾンビ同様、目視が可能だった。

 注意すべきは、瀕死状態からの『生命吸収』と、憑依を解かれて姿を消されることだった。

『生命吸収』攻撃は起死回生の一撃。生命力(?)がない程に強力なカウンターとなる。が、こいつはそれ以前に。

 拳が降ってきた!

 結界が軋む。

 レイスが肉弾戦かよッ!

 腐肉が飛び散る。

 姿を消されず、瀕死状態にもさせずにこのデカブツを倒さなければならない。が、勝手に傷付いていきやがる!

 このサイズで、瀕死状態になっている状態から『生命吸収』されたら、常人の何倍も体力があったってイチコロだ。

 これは備えがなければ、近付いてはいけない強敵だ。

 こちらは結界や状態異常耐性付与や『身代わり人形』のおかげで逃げずに済んでいるが……

 子供たちが来る前になんとかしておきたい。あいつらには『身代わり人形』をまだ渡せていない。

 結界が破壊されたり、装備破壊されて付与が下がったところに『生命吸収』なんてされたら。確率的には低い話だが。

「さすがに『銀の粉』は持ってきてないぞ」

 レイスが姿を消すと、ゴーストと違って、こちらからは手が出せなくなる。しかも姿を消すときは決まって瀕死状態になってからという凶悪ぶりだ。

 そこで姿を消せないように縛るアイテムが必要になる。それが『銀の粉』であり、銀の武器だ。

 敵は金切り声を張り上げた!

 僕は声を結界で遮断しながら『聖なる光』を発動させた。

 これもまた姿を消せなくする方法の一つだ。ただダメージもついでに入ってしまうから、注意が必要だ。

 巨体は狂ったように暴れ、叫びまくる。もはや攻撃どころではない。

「こう見えて、聖職者予備群なもので」

 消えないでいてくれれば、やりようはある。が、生命力(?)もみるみる下がっていく。

 聖属性の武器も銀武器も持ち合わせていなかったので、今回は火属性魔法で賄うことにした。

「燃え尽きろ!」

 ただの火炎がレイスに纏わり付くと青く高々と燃え広がった。

 長身のせいで炎は天井にまで燃え移り、ガスに引火したかのように広がりを見せた。が、こちらに到達する前に本体は灰になって崩れ去った。

『生命吸収』を使う間もなかったようだ。

「子供たちがいなくて却ってよかった」

 後ろの宝箱を開けようとして気が付いた。

「鍵がない……」

『迷宮の鍵』をヘモジに預けていたことを思い出した。

「師匠ーッ。大丈夫?」

「なんか爆発したよね」

 下の方から子供たちの声が聞こえた。

 上から覗き込むと、ほとり近くの窪みから子供たちが顔を出した。

 どうやら脱出経路はあそこに繋がっていたらしい。

「おーい、ここだー。宝箱があるんだ。鍵持ってきてくれー」

「師匠、見付けた!」

「いたよー」

「左だ。左から回り込め!」

「わかったー」

「今行くー」


「そっちは大丈夫だったか?」

「大丈夫。敵いなかったから」

 あれだけ反応があったゴーストたちが、罠の発動と共に姿を消してしまったらしい。

「ヘモジ、あれ頼む」

「ナーナ?」

「敵なら全部倒したぞ」

「ナ!」

「ボスはレイスだ」

「ナー……」

 エリアボスがレイスだと知って、緊張感が泥のように崩れていった。見るからにどうでもよくなったようだ。

 ヘモジは宝箱に向かい鍵をかざした。

 カチッ。音がした。

 僕が宝箱の蓋を開けるとそこには……

「何、これ?」

「武器だけ?」

 自分たちで足場をこしらえて子供たちは箱の中身を俯瞰した。

「銀装備だ」

 オリエッタが鑑定した物を床に並べていく。

 出てきたのは銀製の武器が五つ。短剣。長剣。メイス。杖。弓だ。そして緩衝材のように敷き詰められていた銀貨がお荷物になるくらい大量に……

「銀貨がこんなにあってもな」

 子供たちもがっかり。

「お宝だ!」

 オリエッタが目をくりくりさせて振り返った。

「どれ?」

「全部! 全部、レイスを一撃で葬れる付与が付いてる!」

「ええええ?」

 全員が回収品に覆い被さった。

 各々が『解析』スキルを掛けるものだから干渉して見られない。


 なるほどオリエッタが言うことは正しかった。こんなとんでも付与は見たことない。

 ただその分、燃費は最悪だった。

 どれも魔石(中)でフル充電して、五回程度しか殴れなかった。

 レイスに手を焼く冒険者にはそれなりに有用かもしれないが……

『一撃で』というのは『生命吸収』を持つレイスを相手するには魅力的なフレーズだ。

「命の重さと金貨を天秤に掛けるべきではないだろうが…… 悩みどころだな」

 売り払うかは保留して、家人の意見を聞いてみることにした。

「他のアンデットにも有効なんだよね?」

「だったら持っていて損はないんじゃない?」

「俺たち、接近された時点で負けだから」

 子供たちが武器を手に取りながら、思い思いのことを口にする。

「重たッ!」

 まず余裕で振り回せるぐらいにならないとな。

 皆、時期尚早だと諦めた。


「さあ、帰ろうか」

「せっかくお弁当持ってきたのに」

「こんな場所で食べたくないでしょ」

「どっか行く?」

「牧場でいいんじゃない?」

「さんせー」

 そういうことになった。



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