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クーの迷宮(地下36階 ゴースト・オルトロス・闇蠍戦) フロア構成、手抜きですか?

「三十六層はメルセゲルが抜けて闇蠍だな」

 食後の紅茶を飲みながら雑談を交わす。

「闇蠍?」

「ユニコーンの天敵よ。大きさはオルトロスよりちょっと大きめね」

「迷宮産は異常なんだ」

「現実にはレベル五十を越える闇蠍なんていないものね」

「ほえー」

 子供たちはプリンをスプーンで掬ったまま、ぽかーんとした。

「闇属性の障壁持ちでね。ゴースト並みに隠れるのがうまい奴よ。昔はスプレコーンの森にたくさんいたらしいけど。最近は見なくなったわね」

 ラーラが言った。

「強いの?」

 子供たちが声を揃えて尋ねた。

「強いわよ。なんてたってユニコーンを一刺しだもの」

「ユニコーンって実在したんだ」

 イザベルが呟く。

「いるわよ。言葉だってしゃべるんだから。念話だけどね」

「ほんとに!」

「ヘモジと一緒だ」

「ナ、ナーナ」

「『蠍の尻尾攻撃は要注意』だって。毒針でイチコロだから」

「結界に触れても毒や状態異常になるわね」

「夜の闇のなかでは凶悪だぞ」

「ゴーストもいるのに……」

 マリーが眉を顰めた。

「こっちは一発が致命傷だからな」

「隠れてたらどっちかわかんないね」

「闇蠍は隠遁能力が高いけど、ゴーストと違って『魔力探知』で見付けられるぞ」

「そうね。あんたたちなら、たぶん見えるわね。索敵スキル、異常に高いから。でも、明るい場所ならそんなことしなくてもわかるから」

「そうなの?」

「闇が見えるから」

「なんだ」

「だったら」

「結界は結界よ。接近される前に倒さないと、どこから飛んでくるかわからない尻尾にやられるのがオチよ」

「接近しないで勝てる?」

「やりようはある。落とし穴掘って水攻めにするとか」

「結界は強い?」

「残念ながら強力だ。おまけに外殻も硬いぞ」

「ナナナ」

「ヘモジは置いといて」

「ナナナナナッ!」

「距離を取って魔力が切れるまで持久戦ってのがセオリーだな」

「魔石を落とさないから、遠慮なく魔力を削れるわよ。毒嚢は魔力残量関係ないし」

「弱点の属性は?」

「闇って言ってるじゃない!」

 ニコレッタにミケーレが叱られた。

「そうだった」

「そう言うこと。光にめっきり弱い」

「さっきの話もあるから光の当たる場所にはめったに出てこないけど。周囲の環境には常に気を配ること」

「あいつら自分たちで穴掘って塹壕、作ったりもするからな」

「ほんとに?」

「日陰にしかいないってことじゃないわよ。隙あらばお構いなしで来るわよ」

「闇蠍自体トラップみたいだね」

 マリーがいいこと言った。

「結界を破壊すればいいんだよ。そうすりゃ、ただの蠍だろ?」

 プリンを食べ終わったヴィートが口を開いた。

「だからそれができるかって話してるの」

 藪蛇だった。

「魔力が回復したり、残っていたら、すぐまた隠れられるからな。倒しきるまで安心しないこと。こっちが結界を張ってる限り、動揺する必要はないから、冷静に」

「勝負は姿を見せた一瞬」

 違うから。

「どうやって結界を破るかね」

「光の魔法で追い払える?」

「ひるむ程度でしょう」

「小さな力でも掛け続ければ、いつか結界を破れる」

「持続系の魔法がお薦めよ。炎の壁とか、ストーム系とか」

「まだ習ってない」

「そうなの?」

「習ったよ。でも使っちゃ駄目なんだよ」

 イメージ先行だから同じような効果は既に使えている。

 ただ集団戦では味方の視界を塞ぐことにもなるし、効果を切りたいときに切れない。持続時間を長くする程、無駄に消費される魔力量も多くなる。

 数の暴力を発揮できる子供たちには今のまま仲間同士で連携を深め合う方がメリットがあると大伯母は考えているのだろう。

「まず動きを止める方法だな」

「落とし穴?」

「迷宮の構造もあるからな」

「師匠はどうしてたの?」

「大概ヘモジがやってくれたからな」

「最初の頃は魔弾撃ちまくってたわよ」

「そうだっけ?」

「ヘモジもまだ弱かったし」

「ナナナ」

「むう……」

「そう心配しなくても、今日より極端に敵が強くなることはないわよ。むしろオルトロスの方が怖いかもね」

 また意味深なことを。

「うぎゃー。どうすりゃいいんだー」

 ほら、パンクした。

 ヴィートがテーブルに頭を打ち付け、大袈裟に頭を抱えた。

「キュルルルル……」

 キュルルが尻尾を引き摺りながらヴィートの頭の上を横断していった。

「……」

「ピューイ?」

 後に続いたピューイがヴィートの頭を前足で押さえ込んだまま、こっちをじーっと見上げた。

 かまって欲しいのかな?

 頭を動かせなくなったヴィートを見て、皆、クスクス笑い出した。

「いつも通りでいいと思うぞ」

 話はここまで。



 翌朝、子供たちは何か吹っ切れたかのように元気だった。

「どうしたんだ?」

「レジーナ様が何かしたみたいよ」

「ふーん」

 なんだろう。新しい魔法でも教えたかな?

「どんな攻撃でもドンとこーい」

 防御系か?

「まあ、元気になったのならいいけど……」

 子供たちは蜘蛛の子を散らすように元気に飛び出していった。

 僕は冒険者ギルドに寄って情報を仕入れてから迷宮に潜ることにした。



「まさかこんなことになっていようとは」

 見渡す限りの丘陵。外周にはどこまでも森が広がっていた。

 エルーダとはまるで違う景色だった。

「まさかゴールまで一直線とは……」

 マップ情報が大雑把だったのはこういうことだったのか。先陣が手を抜いたわけじゃなかった。

 日の当たる中央の丘陵には恐らくゴーストも闇蠍もいない。その代わりオルトロスの群れが陣取っていた。まるで牧草地に放たれた羊の群れのよう。白から黒くなっただけで異様さは千倍だ。

「こりゃ大変だ」

 この安全地帯を出た途端、連戦が待っている。

 大抵の冒険者はこの重圧から逃れるために森に避難する…… でも、そこには闇蠍……

「えげつないな」

 空を見上げると太陽は既に天頂にあった。情報通りだ。

「タイムリミットありか……」

 日が暮れたら、森に隠れている連中も出てきて大混戦になる。

「ナー……」

「……」

 ヘモジもオリエッタも唖然、呆然。僕の肩の上で立ち尽くしている。


 しばらく観察しながら攻略ルートを探っていたらわかってきたことがある。

 オルトロスは一回りでかいボスを中心に幾つもの群れで構成されているということだ。

 仕入れてきた情報でも釣って、群れごとに各個撃破するのが安全だとあった。

 つまり立ち位置さえ間違えなければ一斉に複数の群れに襲われることはないわけだ。

 森から出てきた闇蠍が一体、群れの隅にちょっかいを出そうとしていた。どうなるのか見ていたら気配を察した一群がごっそり動いて、距離を取った。そして『ハウリング』を一斉に放つと、なんと闇蠍が硬直して、闇のなかから姿を現した。

「まじですか」

「ナーナ」

 想定外のことは起こるもので、まさかオルトロスが群れでとはいえ、闇蠍の結界を剥がすとは。

 硬直から復帰した闇蠍は反撃にあうすんでのところで、闇のなかに逃げ込むことに成功し、森に逃げ帰った。

「お前も吠えたら、楽勝かもよ」

「ナナーナ」

「あ、そ」

 吠えなくても楽勝ですか。

「じゃあ、やるか。見ているだけじゃ終らないしな」

 群れの端にいた一体に遠目から雷を落とした。周囲にいた二体も巻き込めた。

 首を地面に投げ出してくつろいでいたオルトロスは一斉に首をもたげて、警戒モードに入った。

「さあ、行ってみようか」

 オリエッタは近くの木の上に退避。ヘモジはミョルニルをホルスターから抜いた。

 こちらを見付けた敵は一斉に駆け出した。誰が最初に餌に取り付くか、競っているかのようだった。

「『雷撃』ッ!」

 大地を抉る稲妻の雨。

 轟音のなかをキャインキャインと勢い余って次々、地面にめり込んでいく。

「グルルル」

「ギャウッ」

 雷の檻を抜けてきた十体程のオルトロスが大口を開けて、ヘモジに飛び掛かった。

「ナーナーッ!」

 ミョルニルを一閃、先頭を走る一体の頭上に振り下ろすと、反動でヘモジは高く飛んだ。

 一団の後方に降り立つと、地面を蹴って、三匹の尻を薙ぎ払った。そしてそのままかかとを軸に一回転して折り返してくる五体を丘の向こうまで吹き飛ばした。

「あらー…… 随分飛んだな」

「飛び過ぎ」

 隣の一団がのそりと首をもたげた。

 やることは同じだが、距離があった。ヘモジの元まで辿り着けたオルトロスはいなかった。

 ヘモジはうな垂れた。

「来た!」

 振り返るとオリエッタが木の上で慌てていた。

「!」

 森の方から怪しい影がオリエッタを標的に定め、日の光を物ともせず、一直線に迫ってきていた。

 さっき逃げ帰った奴か? くみし易しとでも思ったか?

「せっかくだ。こっちも試させて貰うぞ」

『氷の槍』を放り込んだ。

 敵の結界にぶつかって砕け散った。

「なるほど」

 威力を高めて繰り返した。今度は砕けずに吸い込まれていった。

 闇が十発目で四散した。

「うーん。子供たちの一斉攻撃ぐらいか」

 一対一なら余裕だけどな。

 氷結させて息の根を止めた。

「先を急ごう」

 オリエッタが駆けてきて僕の肩に飛び乗った。

「ここが一番安全」


 群れの数は七つ目。

 オルトロスと戦闘を始めると、どさくさに紛れて何度か闇蠍が接近してきた。

 混戦にしないために、急いでオルトロスを片付ける必要に迫られた。

「オルトロスを殲滅する方が大変かもな」


 寄り道なし。まっすぐ進んでゴールの山荘に辿り着いたときには、日はもう傾いていた。

 鍵の掛かっていない不用心な山荘の扉を開けると、いきなり目の前をゴーストが通り過ぎた。

 燃やしたら山荘のなかが一瞬、明るくなった。

 大量のゴーストの気配が一斉に地下の階段を下りていった。

「まさか幽霊山荘とはね」

 フロアの出口は今し方、ゴーストが逃げ込んだ地下室の先にある。

「やだなぁ」

 狭いエリアでの戦闘になると、ゴーストのドレイン攻撃を食らい易くなる。ここを子供たちが大勢でとなると……

「ここはズルするかな」

「ナーナ」

 ヘモジもゴースト相手には力を発揮できないので異を唱えなかった。

『聖なる光』を階下の部屋に放り込んで本日の攻略を強制終了させた。


「早かったな」

 迷宮のなかでは夕刻だったが、出てみれば昼を一時間程過ぎていた。

「明日は弁当にするか、昼を遅らせる必要があるかな」

 時間との勝負になるので、悠長に食べている余裕はないだろう。

 対岸で轟音と共に砂柱が上がった。

「なんだ?」

 子供たちが魔法を使って暴れているようだ。

「また新しい遊びでも始めたかな」



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