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クーの迷宮(地下35階 メルセゲル・ゴースト・オルトロス戦) クエストだ!

 頭にハンマー一発。つっかえたオルトロスはその場で息絶えた。

 外では建物に入れないオルトロスが個体数の二倍の口で吠えまくる。

 城の壁は漆喰に隠れているが、どこも半メルテ以上の厚い石で組み上げられている。さすがのオルトロスも破壊できないのか。

 二階の桟敷から駄犬の声を聞き付けた兵士たちがワラワラと現れる。


「『メルセゲル・ガーディアンズ、レベル五十五』…… のスケルトン」


 天井の梁の上からオリエッタの声がした。ちっちゃい頭がひょこっと見えた。

 居館の精鋭部隊の登場だ。装備品がワンランク上の美味しい奴らである。

 このままでは広間の中央にいるヘモジが一斉にタゲられる。

『衝撃波』で入口から出てきた集団を吹き飛ばして時間を作った。

 装備のせいか、全員生き残った。

「加減し過ぎた」

「ナナナ」

「ん? 別にいいけど」

 ヘモジが自分がスケルトンの相手をすると言った。

 そりゃ、スケルトン相手には鈍器の方が有利だろうけど。

 なんでオルトロスが嫌なんだ。頭が二つあって即死を狙いづらいからか?

 僕は階段を駆け下り、ヘモジを桟敷に放り投げ、窓に詰まったでかい犬の骸をぶっ飛ばした。

 駄犬の骸が消えた瞬間、次の駄犬の頭が二つ、隙間に飛び込んできた。

「うわっ! びっくりした」

 牙を剥き出しに吠えまくる。

「だから駄犬だと言うんだ!」

 引っ掛かった二つの頭を『衝撃波』で押し潰しながら外に押し返した。

 さすがに同じことを繰り返す犬はいなくなったが、残り五体が窓枠を遠巻きに睨みながら唸っていた。

 が、その中に唸りもせず、気配を消して黙ってこちらを睨み付ける一体がいた。

「ちょっと…… ヘモジ、お前」

 わざとだな。

「ケルベロスが混ざってるじゃねーか! しかも手負いだよ。真ん中の首が一本ないぞ」

 ゲートキーパー何やってんだよ! 首が二本ならなんでもオルトロスかよ?

「あ……」

 もしかして。これはクエストか!

「まいったな」

 どうすりゃいいんだ?

 倒す以外の選択肢なんてないぞ。

 取り敢えず雑魚を一掃するため、周囲の頭にその数だけ雷を落としてやった。

 が、反応がいい奴ばかりで、跳ねるようにして避けた。

 その首たまには意見が食い違うことはないのか?

 反撃に転じようと意気込む駄犬たち。

「でももう跳べないだろう?」

 油断大敵。こちらの一撃を避けて気をよくしてるところ悪いが、地面を凍らせて貰った。着地した瞬間、もう足の裏が張り付いているはずだ。

「もう一度飛び跳ねられるか試してみようか?」

 今度は五体とも稲妻の餌食になった。

 首一つ分、大柄なケルベロスも膝を屈した。

「思ったより呆気なかったな。あっ」

 雑魚だけ掃討するはずだったのに……

「死んだ?」

「お馬鹿」

 オリエッタが木の枝を伝って下りてきた。

「不幸な事故だ」


 ケルベロスの素材は高値が付くのでコアを分離して解体屋に送った。

 一応クエストの兆しを探してみたが、それらしき物はなかった。

 オリエッタが何かを銜えて戻ってきた。

「巣のなかにあった」

「犬小屋か?」

 それはオルトロスやケルベロスがするには小さ過ぎる首輪だった。

 汚れて黒ずんでいたが、洗ったら金色が戻ってきた。何やらメルセゲルの文字が刻まれている。

「これがクエストアイテム?」

 オリエッタは頷いた。

「『騎士の誓い』だって」

「騎士の誓い? これが?」

 付与の類いはなかった。ただの金の首輪だ。

 これがこの先どう作用するかわからないが、クエストアイテムだと言うなら、僕はリュックに放り込んで、ヘモジとのゲームを再開した。

 が、居館のなかはヘモジがほとんど制圧してしまって、大勢が決してしまっていた。

 僕は相手を外に求めた。

「残っているのは裏の城壁周りだけだな」

 居館の庭園を目指すなら攻略の必要のない、城の裏手に向かった。

 尖塔の屋根に転移して身を隠す。

 そして下にいるスケルトン兵一体にとどめを刺した。

 尖塔のなかにいる他の兵士には気付かれていない。

「ちょっと拝借」

 兵士が持っていたボウガンを拝借して別の一体の頭蓋を射貫いた。

「お、なかなかいい弓だ」

 倒れた同僚を見て駆け寄る一体。

 こんなの当たったら痛いわ。

 敵は剣を抜き、カチカチと周囲を警戒する。

 僕は物陰に隠れてボルトを装填し、頭蓋を射貫いてやった。

 敵の矢筒からボルトを補充して、周囲の壁の上にいる他の弓兵たちも倒していく。


「よし、上はもういいだろう」

 上にいる見張りはほぼ倒した。弓を捨てて、螺旋階段を下りる。狙うは兵士の詰め所。もうそこしか残っていない。

 ヘモジが反対側の壁の上で戦い始めた。

 居館の屋根からミョルニルを後方に伸ばして飛び越えた。

 あんなに跳ねてる小人を弓で倒すのは至難の業だな。

 階段を下り切る手前でふらっとした。魔力が枯渇している?

 ヘモジの奴、意外に苦戦していたのか? いや、勢い余ってやり過ぎたんだ。

 万能薬を舐めて、魔力を回復させた。

「ナーナンナー」

 壁の向こうでヘモジが吠えた。

「そんなに一生懸命やらなくても…… 適当に頑張れー」

 僕たちの勝敗はもう付いてる。

 それでも惰性で階段下に隠れている見張りを倒していく。

「ヘモジを言えないな」

 子供たちを連れ歩くならこっちの壁伝いが楽そうだが、既にコース外か。

 壁の傷みが向こうの壁程ではなかった。

「あいつらならどこでも補修しながら進みそうだけど」

 地上に降りた途端、兵隊がゾロゾロと詰め所から出てきた。

「ちょっと、今更、多過ぎないか? でも、この芋荒い状態。これこそ攻城戦の醍醐味だ」

「ナーナナー!」

 ヘモジが空から降ってきた。

 ミョルニルを一閃。周囲があっという間に白骨と装備品の山になった。

 目的の場所はここではないので、サクッと終らせることにした。


「あー、無駄だった」

「ナナーナ」

 数の暴力とはまさにこのこと。倒しても倒してもやってくる。

 ヘモジも僕も地べたにへたり込んだ。

「まだ地下が残ってるんだよな」

「ナナーナ」

「そうだな」

「そうする」

 オリエッタも装備品を物色しながら戻ってきた。


 僕たちは庭園を目指した。そこにある地下墓地への入口を求めて。

 そしてヘモジが言う通り、今度は不戦の誓いを立てて地下に潜った。

 メルセゲルのスケルトンではなくゾンビとゴーストが待ち構えていた。

「暗に燃やせと言われているかのようだ」

「スルーするって決めたから」

 オリエッタの肉球チョップが僕の米噛み辺りにヒットした。

「ゴーストにさえ気を付ければ問題ない」

 ルートは既に知れている。出口まで一直線だ。


『首輪を返して!』

 出口間際、最後の階段を上ろうと足を段差に掛けたとき、声を掛けられた。

 振り向くとそこにはメルセゲルの少女が立っていた。

『首輪を返して! それはわたしがボンゴに上げた物なんだから!』

「首輪?」

 ああ、あれか!

 僕はリュックから金の首輪を取り出した。

 と思った途端、それは金色の光になって塵のように霧散した。

 ワンワンキャンキャンと子犬のかわいい声がした。

 オリエッタはびっくりして僕の肩に飛び乗った。

『ボンゴ!』

『ワンワンワン』

 ケルベロスの子供が闇のなかから駆けてきて、少女の胸に飛び込んだ。

『もうどこ行ってたの? 心配したのよ』

『わんわんわん』

 ケルベロスが嬉しそうに尻尾を振った。

『あなたはわたしの騎士(ナイト)なんですからね。もうどこにも行っちゃ駄目よ』

 そう言って少女は三つあるケルベロスの首の中央の一つに金の首輪を掛けた。

『わんわんわん……』

 少女と子犬の姿が闇のなかに薄れていった。

『ありがとう。お兄さん。これ、あげる。わたしの部屋の宝箱の鍵――』

 もうわたしには必要ないからと声も薄れて消えた。

 ヘモジもオリエッタもぽかんと口を開けたまま立ち尽くした。

「ナナ?」

「いや、今日は帰ろう。箱探しは明日にしよう」



「と、いうことがあったんだ」

 食堂で僕の話を聞いていた子供たちの口もあの時のヘモジのようにぽかんとなった。

「凄ー、幽霊だ」

「幽霊クエストだ」

 ヴィートとニコロが身を乗り出した。

「ゴーストと何が違うの?」

「言葉通じる感じ?」

「何それ」

 マリーとカテリーナが笑う。

「俺、犬系苦手だよ」

 ミケーレが溜め息。

「ケルベロスの真ん中の首がなかったのってさ、成長するに従って首輪が小さくなって、壊死したってことだよな?」

「えーっ!」

「なんでそういう発想になるの!」

「ジョバンニ、サイテー」

「なんでだよ!」

 女性陣に責められた。

「それじゃ、あんまりだよ」

「きっと金の首輪欲しさに欲を掻いた悪者に首を刎ねられたのよ」

「飼い主は死んだのに死にきれずにいたのね。そのケルベロスは」

「再会できてよかったね」

「城が廃墟と化したのと何か関係があるのかもね」

「じゃあ、明日はその宝箱探しだね」

「がんばろー」

「おーっ!」

「なんで俺だけ」

 リアリスト過ぎるんだよ。子供らしい発想しとけってことだよ。

「ほら、固まってないで。配膳するわよ。みんな席に着いて」

 イザベルがワゴンを押してきた。

「はーい」

「ジョバンニ、ジュース樽持ってきてくれる?」

「なんで俺だけ……」

「頼られてるのよ。もっと喜びなさいよ」

 ニコレッタが寄り添った。

「し、しょうがないな」

 チョロいぞ、ジョバンニ君。

 なぜかラーラと目が合った。


 地下墓地の長い階段を抜けると…… そこは霊廟のあるあの小高い丘の上だった。



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