最前線にて
あーっ! 投稿されてなかった……(汗
誠に申し訳ありません。
前回分を本日、定時。本日分を明日、定時に投稿いたします。
m(_ _)m
一度撤収したはずのドラゴンタイプが大きく旋回して二度目のアタックを仕掛けてきたところを、めったに襲われない方角にいた連中が慌てて発砲。とどめをしっかり刺してくれればいいものを、倒しきれずにこうなったわけだ。
「あの船の魔力に引かれたのかもしれないわね」
姉さんが言った。
「偶然だよ」
「反応炉の出力も最小にしてたしね」
ヴィートとニコロが串に刺さった肉を頬張りながら言った。
僕たちはたくさんのテントが並んだ空き地で昼食を取っていた。
持ち込んだ補給物資と回収したドラゴンタイプの肉で宴会が始まり、空き地は大勢の人で賑わっていた。
「ドラゴンが丸焼きになってるし」
さすがに丸ごとは食べられないだろう。コンテナサイズに解体された部位の内の一つである。それが吊され、直火に掛けられジュージューと焼かれているのである。
そして焼けた外側を削りながら食べるのだ。
「顎が……」
欲張って分厚いステーキよりさらに分厚い肉を噛みしめながらミケーレがぼやいた。
「なんでそんなに分厚く切るのよ」
ニコレッタに突っ込まれるも「分厚い肉は人を幸せにするから」と返した。
「とても幸せそうには見えないけど」
フィオリーナに突っ込まれて、渋々厚切りステーキを二枚に下ろして貰うことにした。
「これでも、いつものステーキより厚いから」
フィオリーナが気を利かせた。
「もっと薄くしてやるよ」
ジョバンニが介入した。
「やめて!」
皿を持って逃げた。
遠くでは落ちてきたドラゴンの回収作業が続いている。
僕たちが通ってきたルートに解体用のドック船が入って、クレーンで引き上げる作業を行っていた。
ダラリと脱力したドラゴンの全長は長かった。
「壊れた屋根をみんなで修復するの?」
マリーが姉さんに問うた。
「ここにも大勢、頼りになる魔法使いがいるからな」
それらしき人たちがガーディアンと共に集まり始めていた。
「わたしたちもやりたかったな」
「ここんとこ、魔法使ってないからムズムズするんだよね」
「師匠、私たちの船も屋根掛ける?」
「明日帰るのにいらないだろう」
「ぶー」
「それじゃあ、ちょっと手伝って貰おうかな」
アマーティさんが言った。
「何するの?」
「壁の補修よ。タロスに削られた壁を直していく作業なんだけど」
「壁って?」
「この先にある絶壁よ」
「そんな話はいいから。砦の話を聞かせなさいよ」
「わたし、まだ砦に行ったことないんですけど」
姉さんの取り巻きたちが言った。
「あんたは来月でしょう」
「わたしなんて再来月なんだから、文句言わない」
隅っこでヘモジとオリエッタが静かにピューイとキュルルと一緒に食事を取っていた。肉ばかりじゃいけないと自分のサラダボールから野菜を与えていた。
「お代わりしてくる」
トーニオが立ち上がった。
すると炊き出しが「スープができたぞー」と声を上げた。
大きな鍋を持った人たちが大勢やってきて列を作り始めた。
「鍋?」
「一人一人並んでたんじゃ、食べる側も配膳側も大変だからね」
「うちも並ぶ?」
トーニオが振り返る。
「大丈夫よ、今来るから」
配膳係が鍋を一つ持ってきた。
「クラムチャウダーになります」
そう言って置いていった。
「ギルマスの特権?」
「違うわよ。前もって頼んでおいたのよ!」
それで持ってきてくれるんだから特権か、お得意様、あるいは袖の下だ。
「ここでは料理の責任者はそれぞれの船の料理長が担っているのよ。だからわたしが指示できるのは精々『箱船』の料理長だけよ」
「じゃあ、これは?」
「サービス。忙しくて料理に気を使っていられない人たちもいるでしょう?」
「福利厚生の一環よ」
「食中毒になられても困るしね」
「これがサービス!」
「それにドラゴンが捕れた日はこうするって決まってるのよ」
「砦もやろうかな」
「師匠がやらなくても、みんな勝手にやってるよ」
「毎日が肉祭りだって、バンドゥーニさん、言ってたし」
美味しいスープに舌鼓を打ちながら食事を終えると、僕たちは我が家の荷運び用のガーディアンによく似た運搬用のガーディアンの荷台に乗って、断崖絶壁を下った。
全員、ぽかーんと口を開けて壁を見上げた。
「斧が刺さってる……」
タロス兵が投擲していった斧がそのまま断崖に突き刺さっていた。それも無数に。
錆が入り始めている物もあった……
「あっちにもあるよ」
「槍も刺さってるし」
「鼬ごっこなのよ」
どれだけ強肩なんだ。
見渡しても隠れる場所などない程に整地されている。
「どうやってタロスは接近してくるんだろう?」
「第二形態と盾持ちを乗せたドラゴンタイプ数体による奇襲よ。降下した兵隊が盾でバリケードを築いている間に第二形態がゲートを開いて味方を呼び込むまでがセオリーね」
「今日みたいな天気のいい日には仕掛けてこないから、安心して」
「この間の砂嵐は最悪だったわよね。スポットを三カ所も作られちゃって」
「気付いたときには、この有様よ」
この大量の武器はそのときの物か。
「陣地の後ろに降下されたりはしないのですか?」
フィオリーナが尋ねた。
「兵隊を積んだ状態だと、ドラゴンタイプも高くは飛べないのよ。動きも緩慢になるし」
「仮に第二形態を積んだまま突破されたとしても、転移障害してあるからね。近くに味方を呼ばれる心配はないわ。降下してきた連中とやり合うことにはなるけどね」
「それに…… あんたたちの師匠が敵のゲートを逆手にとって敵の拠点を潰したことがあったでしょう? それがトラウマになってるみたいでね」
メインガーデンの一件か。
「敵も近場ではゲートを開こうとしないのよ」
「僕たちの船の転移ゲートは機能してるよね」
ヴィートとニコロが顔を合わせた。
「こっちも特殊弾頭を使ってるんだから、完全に使えなくしたら困るでしょう? ターゲットはあくまでタロスが使う規模の転移ゲートだけよ」
「だってさ」
子供たちが僕を振り返った。
なんだ? 僕が何かするとでも思ったか?
姉さんとアマーティさんがクスクスと笑った。
「落とすよー」
子供たちが壁を緩めて刺さっている斧を落とそうとした。が、何かが引っ掛かって落ちてこない。
僕は刺さった斧の背に早速、転移して確かめると、石化した木の根っこに食い込んでいることがわかった。
まだ土属性扱いにならない化石のようだ。
斧の方をなんとかしないと駄目か。
『鉱石精製』で刃を細らせて、緩めることにした。
「落ちるぞー」
「はーい」
「いつでも、いいよ」
ズルッと抜けて、足場が落ちた。
斧は落ちて跳ねきれずに地面に転がった。
僕は転移して地上に降りた。
「こんなので殴られたらたまんないよな」
ジョバンニが金属部分を溶かして欠片を手に取った。
それを見ていた子供たちも普段しているようにインゴットサイズの塊にちぎるように丸め始めた。
「軽い気がする」
マリーが言った。
「これくらい?」
カテリーナがこねこねしながら、定型サイズを模索する。
周りにいた大人たちは目を丸くした。
金属を粘土を捏ねるように丸める子供たちが目の前にいたらそりゃあ、驚くだろう。
「この子たち…… なんなの?」
取り巻きたちはさすがに言わずにいられなかったようだ。
「周りに砂しかないと魔法使いもこうなるってことよ」
姉さんが代わりに答えた。
「なりませんよ!」
「ミスリルも操れるよ」
「半分以下になっちゃうけどね」
常識はずれな発言だった。
大抵の魔法使いはミスリルを変形させることすらできない。そもそも高価過ぎて扱えない。損失を抑えるために下位物質でとことん鍛えてからチャレンジすることになるので、半分以下になっちゃうレベルでチャレンジするなど以ての外だ。
「アマーティ、気にするな。レジーナの一派に普通の魔法使いなどいないからな」
レジーナ一派とは大伯母のお眼鏡にかなった特別な者たちという意味だが、こいつらは僕の弟子で、ただ僕に付き合っているだけだ。そもそも将来魔法使いとして生きるかどうかも決めかねている。
「ガーディアンに積んじゃっていいの?」
「いいわよ。あ、でも入れ物」
「作るから平気」
地面を削って収納箱を幾つかこしらえた。
どうでもいいけど、お前らの仕事は壁の補修ではなかったか?
「おーい」
姉さんを見るとお前がやれと頷かれた。
「しょうがないな」
壁に手を押し当て、一気に壁の表面を緩めた。『鉱石精製』様々だ。
ボロボロと壁に突き刺さった武器が落ちていく。干からびた木の根っこもボロッと落ちた。
壁に残った武器も刃先を溶かして落としていく。
粗方片付いたら成形。そして凝固。
ピカピカつるつるの壁が数メルテ先まで形成された。
それを壁に手を当てたまま移動しながら行った。
「子供たちが普通じゃない理由がわかった気がするわ」
「確かに。普通じゃいられないわね」
「あれが、師匠じゃな」
とは言え、壁は果てしない。
半時程働いて、残り時間は資源の回収に当てた。
壁の強度は五割増し。傷は付くだろうが、もう刺さったままということはなくなるだろう。
「このまま弟君にいて貰えないかしら?」
「あいつにはあいつのやるべき事がある」
「レジーナ様に、ラーラ様。何気に戦力充実してますよね」
「砦が落とされると、我々もここにはいられなくなるからな」
「それはわかりますけど」
「それより増援だ。ガーディアンを寄越させろ」
夕方、涼しくなると子供たちは宿題をし始めた。どうやら前線を見た感想を作文にする課題をラーラ先生に出されたようだ。
夕飯の準備は僕と商会クルーが行った。
生ハムにペペロンチーノ、ソーセージとロースト肉。昼間こってりした料理を食べたので、あっさり済ませることにした。デザートも甘さ控えめ、チーズケーキだ。
たくさんの明かりが、窓の外に灯り始める。ドームフロアに並べたテーブルをそのままに、シーツをかぶせて今夜はクルー全員揃っての晩餐だ。
「無事、目的地に到達したことを祝して」
乾杯の杯をオリヴィアが掲げた。
「かんぱーい」
大人たちはワインを、子供たちはウーヴァジュースを飲み干した。
翌朝、僕たちは錨を上げた。姉さんたちに挨拶を済ませると僕たちは船の針路を反転させた。
「微速前進。面舵いっぱーい」




