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前線到着未満

「全砲塔、リフトアップ!」

「速度は?」

「このままでいい。間に割り込むぞ!」

「こっちはいつでも行けるよ!」

 ジョバンニが『照準器』を着けて外を見遣る。

「まだ射程外よ」

「敵を引き剥がすのが先だろう」

 ニコレッタと言い合うが、視線は仕事をしている。

『接続した』

『こっちも準備完了』

 見張り台に上ったニコロとミケーレからも合図が届く。

「ニコロは左砲塔。ミケーレは右よ」

『わかった』

『こっちも準備いいよ』

「マリー?」

『わたしもいるよ』

「カテリーナ!」

『オリエッタもいるから。こっちは任せて』

 あいつら、いつの間に……

「照準器ないでしょ!」

『だからオリエッタがいるの』

『後ろは任せて』

「危なくなったら、ちゃんと逃げるのよ」

『わかった』

「僕はどこに行けばいいのさ!」

 マリーたちに仕事を奪われたヴィートが叫んだ。

「こっち、手伝って」

 全部の砲台の装填作業をしているニコレッタが言った。

 特殊弾頭は銃で言うところの弾倉に三発分ずつ収められている。その弾倉を砲塔にセットすることで一門につき三連射が可能になる仕組みになっているのだが、弾倉を弾薬倉庫から運び出すための昇降機を使うためには砲台が定位置になければならない。で、最初にまとめてやっておく必要があるのだ。

 模擬弾との換装は済んでいるのだが、何門かは清掃で空にしたままだった。

「大丈夫かな?」

「大丈夫よ」

 トーニオもフィオリーナも苦笑いだ。

「高速艇は?」

「転進してきます」

「結界は?」

「問題なし。作動してます」

 トーニオが答えた。

「魔力供給も問題ありません」

 フィオリーナが水晶を覗き込む。

「うちのスタッフにやらせてもよかったんだけど」

 オリヴィアが望遠鏡を覗き込む。

「戦闘は別会計だろう?」

「身銭切るのはどうせお姉さんでしょう?」

「その姉さんに上納するのは僕たちだ」

「俺たちは出なくていいのか?」

 同乗している冒険者が言った。

「敵は一体だ。ヘモジ一人でおつりが来る」

 そのヘモジが飛び立った。

「射程に入った! 師匠、撃っていい?」

「装填完了!」

「一番砲塔。照準合わせ、発射用意」

「一番、用意よし」

「撃て」

 正面の砲塔から鏃が大空に放たれた。

 綺麗な弧を描いて飛んでいった鏃は一度だけコースを変えると、そのまままっすぐ飛んでいった。

「よし!」

 ジョバンニがこぶしを握るのとほぼ同時に爆音が空に響き渡った。

『命中を確認!』

 空に黒いシミができた。

『健在! まだ飛んでる!』

『しぶとい!』

「第二砲塔。照準合わせ」

『いつでもいけるよ』

 ミケーレが声を上げた。

「撃て」

 右砲塔から二の矢が放たれた。

「師匠!」

 ジョバンニが撃たせろと言う。

「許可する」

「一番、第二射発射!」

 二発目の後ろを三の矢が大きく迂回しながら飛んでいった。

 敵の注意を引きつけることに成功した以上、これ以上接近しても意味はない。

「転舵、面かーじ」

 射程を維持したまま、遠巻きに旋回する。が、ヘモジがもう取り付きそうだった。

 後はヘモジ任せだ。

 と思ったら、第二の矢も第三の矢も目標に命中した。

「やった!」

「一の矢が既に効いてたみたいね」

 巨大な肉の塊は砂原に落ちていった。


「まさか、試験飛行でドラゴンの回収までさせて貰えるなんてね」

 オリヴィアが皮肉った。

「分け前はちゃんと出すよ。でも、この船、解体まではできないんだよな」

「現場で切り分けて、ガーディアンで運ぶしかないわね」

「格納庫に空きあったか?」

「補給物資で半分埋まってるけど、大丈夫でしょう」

「甲板は?」

「甲板にはあれを載せなきゃでしょう」

 ドラゴンに壊された小船が数隻。

「高速艇、並びます」

「足りなきゃ、あっちにも積んで貰いましょう」

 高速艇が追い付いてきた。

 ヘモジも戻ってきて、上甲板に降り立った。

 代わりに同乗していた冒険者たちが次々出ていった。

 周辺警戒と壊れた船等の回収作業である。

 高速艇からもガーディアンが飛び立っていく。

「手慣れたものね」

 こんなことは日常茶飯事なのだろう。

「砲塔収納。見張りはそのまま、待機」


 船団は通常の交代要員を積んで、砦を目指していた。

 これからバカンスが待っていたのに、気の毒な結果になった。

 話し合いの末、船団は壊れた船とガーディアンを置いて、このまま砦を目指すことに。高速艇は護衛役を兼ね、当初の予定通り砦まで同行することになった。

 高速艇のクルーにとっては前線に戻らなくて済む理由ができたので、都合がよかった。

 ガラガラだった甲板は、あっという間に手狭になった。

「小型船、三隻。ガーディアン六機、収納完了」

 敗因はガーディアンを小出しにしたことだった。

 全機、飛ばしていれば、こんな事態にはならなかったのに、とは後の祭りである。

「逐次投入なんて」

 悪い見本の典型だったが、こればかりはたらればだ。

 倒せると判断したからそうした。それだけだ。外野が口を挟む問題じゃない。

 だが、焼けた船に乗っていた乗組員の多くが重篤。今は薬でケロッとしているが、三人が間に合わなかった。そして墜落の衝撃でガーディアン乗り二人も帰らぬ人となった。

 遺体は彼らの船で砦に運ばれ、家族の元へ送り返されることになるが、指揮官は姉の元へ申し開きに行かねばならない。運ぶのは当然、この船。彼には僕の部屋で缶詰になって貰うことにした。


 楽しかった航海が急に重苦しいものに変わった。

 体中に毒が回ったかのように皆、鈍重になった。

「ほら、みんな元気出しなさい。わたしたちは昨日今日戦場に出てきた新兵じゃないでしょう! 砦だって戦場だったでしょう? ドラゴンで倉庫をいっぱいにしたわよね? わたしたちは大人のオプションじゃない。師匠の弟子よ。大師匠の孫弟子よ! ほら、みんな! 子供がしょげてたら、大人はなおさらつらいわよ」

 フィオリーナが子供たちの背中を叩いて、一生懸命励ました。

 子供たちはフィオリーナが大好きだ。そんな彼女が気丈に振る舞うとき、奮い立たない奴はいない。

「今日のお昼ご飯は何!」

 ミケーレが素っ頓狂な声を張り上げて、僕を振り返った。

「肉うどんとおにぎりのセットだったかな?」

 子供たちの目が輝いた。

「白いちゅるちゅる?」

「太いパスタのやつ!」

「つけ麺?」

「冷たいの?」

「温かいのでもいいよ。透き通ったお出汁、おいしいよね」

「おーッ。おにぎり爆弾。一人いくつ? はずれ爆弾入ってる?」

 爆弾は入ってない。

「食い付くとこ、そこなの?」

「この間、はずれ引いたのジョバンニだったよね」

 空元気もろばれだったけど、それは同時に頑張る姿だった。子供たちが頑張っているのに奮い立たない大人もいない。

「我々の昼食はどうなっていますでしょうか?」

 普段のベルモンドさんは決して昼食を催促するような人ではない。みんなを先に食べさせて、最後にこっそり片隅で食べるような人だ。

「同じ物に決まってるでしょう。船のバランス調整が済んだら、みんなも休憩よ」

「はずれおにぎり、二倍にしておくね」

 食堂へ下りる階段から首を出して、マリーとカテリーナが大声で叫んだ。

「今日のはずれって何?」

「激辛カレーのジュレだったかな?」

「よかった、匂いでわかる」と、側にいた獣人のクルーが安堵した。

「あいつら魔法使いですよ」

「消臭魔法はお手のものね」

「まじかーッ」

 ドームにいる大人たちがやっと笑顔を取り戻した。


「あ、俺たちドラゴンスレイヤーになったんだ」

 食堂に顔を出した僕の顔を見て、ジョバンニは自分たちの手でドラゴンを倒したことに今更、思い至った。

 感激の余り、かじり掛けのおにぎりを皿に落とした。

「あ!」

 子供たちの視線が集まった。

「またはずれ引いたね」

 おにぎりのなかから潰された具が覗いた。

 ヴィートの発言に我に返ったジョバンニは吠えた。

「あーッ!」

 遅れてきた辛さに悶絶した。

「辛さの調整したの自分だったよね」

「ご愁傷様」

 ニコレッタとフィオリーナが満面の笑顔を浮かべた。

「し、死ぬ。み、水、水をくれ……」

「そっか、わたしたち自分たちの手でドラゴンを倒したのね」

 生ある者に祝福を。

「早々とはずれがなくなっちゃったわね」

 死した者には安寧を。

「これで一安心」

「師匠の分、今、出すねー」

「み、水。ジョッキで……」

「毒耐性上がりそう」

 オリエッタの一言で、食堂は爆笑に満たされた。



 翌早朝、僕たちは目的地に辿り着いた。

 途中、色々あったが、高速艇が要する日程とほぼ同等の四日で到着できた。

 消費した魔力は想定の七割。風向きがよかったのか。

「もう一日短縮できそうかな」

 肩の荷が下りた。

 通り過ぎやしないかとヒヤヒヤしていたので、前線が見えたときには大きな溜め息が出た。

 夜は休んでもよかったが、残りの行程が中途半端だったので、今朝はフライング気味に暗いうちから走り出したのだった。

 先方は朝餉の準備をしていた。何本もの煙が地平線から立ち昇っていた。

 とは言え、このまま突っ込むわけにはいかないので、合流する手前で減速した。

「通信」

 光通信で所属と用件を伝える。

 接近許可と同時に空にガーディアンが上がってきた。

 旗竿には『銀団』の旗の他にヴィオネッティー家の旗と商会の旗も掲げてある。

 すぐわかるだろう。

「舵中央、半そーく、ヨーソロー」

 マリーがフロアに現れた。

「あれ? 船動いてる」

「おはよう、マリー」

「師匠! おはようございます」

「おはよう」

 フロア中の大人たちが一斉に声を掛けた。

「みなさん、おはようございます」

「他の連中は?」

「まだ食べてる」

「前線が見えるぞ」

「ほんと!」

 窓に張り付く。

「煙しか見えない」

「おはようございまーす」

 ニコレッタとカテリーナが現れた。

「前線が見えるって」

 望遠鏡を回し見しながら、定位置のフェンリルの毛皮の上に腰を下ろしていく。

 商会のクルーと持ち場を変わる時間だが、これから合流することになるので、このままの配置で乗り込むことに。



眠すぎる。

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