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ガーディアンvs.砲台訓練

「悪いな。こんなことさせて貰って」

「構いませんよ。甲板も熱せられるだけじゃ、勿体ないですからね」

 船に乗り込んできた連中のなかに、まだガーディアンに不慣れな新人が何人かいた。そこで動いている船にタッチアンドゴーの訓練をしたいと、チームリーダーから申し出があったのだ。

 新品は兎も角、修理が終って戻されるガーディアンのなかに自分たちの機体もあるということなので使用を許可した。子供たちも参加したいというので、ついでに仕込んで貰うことにした。


 マリーたち女性陣は今日のところは出番を譲った。涼しいドームのなかから観覧だ。

 当船の上甲板は逆Vの字型になっている。正面の広い甲板からコアブロックを避けるように左右後方に流れている。

「無駄に広いよな」

「そのうちプールだの、畑だの、欲しくなるんじゃなくて?」

 よくわかってらっしゃる。

「ヴィートが来た」

 もしもの時を考えてヘモジが同行している。

 右斜め後方から子供たちの専用機が下りてきた。

 機体各部に二重のホワイトラインが入った青色の『グリフォーネ』が子供たち所有の二番機だ。子供用なので武装はブレードだけだが、しっかりフライトシステムを積んでいる。

 一本ラインの一番機は年長組が、二番機は年少組が搭乗する。単に座席サイズの都合であるらしい。が、それとは別に赤の一本ラインの三番機が存在する。

 無骨なのは嫌だという女子年長組のためにカスタムした愛らしい機体なのだが、モナさんが宣伝も兼ねて普段使いしているので、今回は積んで来なかった。

 そもそもフィオリーナもニコレッタもあまりガーディアンに興味がないので、いらなかったと言えば、いらなかったのだが…… 年少組女子のためにもう一機買う予定ではいるらしい。

 そうそう、イザベルの専用機も赤い『グリフォーネ』だったが、子供の機体と同じ色というのが抵抗あるらしく、早々にワインレッドに染め直していた。

「おー、揺れてる、揺れてる」

「風、強いのかしら?」

「まだ原速だぞ」

「はーい、やり直し」

 子供たちは仲間のミスを笑った。

 ヴィートの乗った機体は加速して船首を越えたところで左に旋回して、後方に消えた。

 次の機体が下りてくるが、同様にうろたえていた。ヴィートよりは増しだったが。最後の一歩分、高度を落とせずにいた。

「巡航でこれでは先が思いやられますな」

 拡声器を使うためにこちらに残ったリーダーも苦笑いだ。

「やった!」

 着地に成功した。が、減速し過ぎて再度、飛び立つまで時間を要した。

 拡声器から罵声が飛んだ。

「意外にうまくいかないものね」

 オリヴィアが言った。

「ガーディアンの操縦も不慣れみたいだからな」

 ジョバンニとオリエッタが地下から戻ってきた。

「ヴィートだけか?」

 ジョバンニが窓の外を見て言った。

「午後からニコロとミケーレも参加するよ」

「トーニオは出ないのか?」

「こっちを覚えるのが先だよ」

「じゃあ、俺も明日にするかな」

「明日はわたしたちがやるのよ。あんたは砲撃の的役よ」

「えー、まじかよ」

「嘘に決まってるでしょ! ヴィート一人だけじゃかわいそうだから、行って上げなさいよ」

「しょうがねーな。一発で決めてやるぜ」


 ヴィートが三度目でなんとか形になったところで、ジョバンニと交代した。ヴィートは一旦休憩である。

 ジョバンニにはオリエッタが同乗した。

 そして宣言通り、一発で決めて戻ってきた。

「当分、自慢されるわね」

 見ていた子供たちは大きな溜め息をついた。


 長めの昼休みを取った。

 速度も最大戦速まで試して、現在は強速で航行中。予測通り、順風満帆の帆船並みの速度を維持していた。

 試験は成功である。

 目下。単位時間当たりの魔力消費量の算出結果から、システムの特性を割り出している。

 簡単な足し引きだが、グラフ化することで見えてくることもある。

「実際動かしてみると、こうも違うものなのね」

 普段こっちの分野は他人任せなオリヴィアも興味を示した。


 この船には可変アーム採用案の名残で『浮遊魔法陣』に若干の可変機構が備わっていた。

 通常、魔法陣は建造費軽減のため、建設段階で最適と思われる迎角に固定される。

 そして推進方向にベクトルが欲しくなったときには船体の方を傾けるのである。普通は魔力が勿体なくてそんな操縦はしないが、戦闘時に使ってくるベテラン操縦士はいる。

 言うなれば、それはフライングボードの応用だ。というより、飛空艇乗りの定石だ。

 だが、この船はオリヴィア曰く、そういった常識をも打ち壊す、技術革新を目論んだ実験船なのである。

 人の金だと思って。

 数基の『浮遊魔法陣』を積んだ大型飛空艇では当たり前になりつつあるトルクコントロールを採用したのも、四基の『浮遊魔法陣』を積んだこの船ならではだった。

 テトさんのようなベテラン操縦士が経験を元に手動で行っていたことを、これからはシステムがやってくれるのだ。

 極端な話、誰が操船しても、推進装置を切ったまま、魔法陣の角度調節だけで前にも横にも動かせるようになるのだ。非効率ではあるが。

 言うなれば、こちらはフライトシステムの応用である。

 そのせいかはわからないが、この船の船足は想定より速かった。原速段階で、通常の船の強速レベルに達していたのである。

 原速の下にもうワンステップ噛ませるか、今の原速を強速と呼ぶかは兎も角、帰ったら速度段階の設定見直しが必要になるだろう。

 通常、経済速度を原速に割り当てるが、そちらももう少し吟味が必要だ。


 そして子供たちは絨毯代わりのフェンリルの毛皮の上で昼寝の真っ最中であった。広いドームの真ん中で堂々とスヤスヤと寝息を立てている。

「ブレないわね」

「まさかフェンリルの毛皮まで持ち込むとは思わなかったけどな」

 船は現在、自動航行中である。ただひたすら同じ高度をまっすぐ飛んでいる。

「帆による航行実験もしておかなくていいの?」

「今の速度を落としたくないからな」

「夜通し走るの?」

「そこまで急ぐ航海じゃないだろう」

「そうね」

「酒樽持ち込んでるの知ってるからな」

「あら、ばれてた?」

「うちの子たちは優秀なんだ」

「ほんと、うちの子になってくれないかしら」



 午後から再びガーディアンの訓練が始まった。ヴィートとジョバンニは笑う側になった。

 そして笑われる側はミケーレとニコロだ。同じ機体を使うのでまずはじゃんけんに勝ったニコロからだ。そして指南役にはヘモジがまた搭乗する。

「おー、うまいうまい」

「一発で決めやがった」

 見事な降下、タッチダウンからの再加速。

 教官も思わず口笛を吹いた。

「意外だったな」

「あいつガーディアン乗りの才能あるんじゃないか?」


 モナさん情報。ミケーレは魔力過敏症の影響下にあった頃からガーディアンに興味を持っていた。今でもモナさんの工房に一番多く出入りしているのは彼だった。彼の目下の目標は『自分たちのガーディアンは自分たちで整備する』だ。一緒にいることの多いニコロは言うなればそのためのテストパイロットのようなものだった。空と工房の往復で自然と機体の機微がわかるようになっていたのだろう。

 一方、ミケーレは駄目だった。

「理屈が先に来るから、動きが一拍ずれるんだ」

「要は乗り慣れてないのね」

「機体いじりの方が好きな奴だからな」

 皆、同情的だった。これも人柄のなせる技か。

 それでも最後はなんとか成功させたが、代わりにヘモジが疲れた顔をしていた。



 居住区の食堂で子供たちはおやつの時間である。他のスタッフもいるので気を使ってのことだ。

 本日のデザートはプリンと甘い紅茶である。

 プリンには生クリームがトッピング、それだけで子供たちは狂喜乱舞した。


 休憩が終ると最後のお仕事に突入だ。

 一番暑い時間帯に交替してくれた商会スタッフにお礼を言って、持ち場を変わった。

 今回、見張り台にはマリーとカテリーナが上がった。操舵もいよいよトーニオの出番である。と言っても自動航行のまま、まっすぐ進むだけなのだが。

 そして午後の本命、砲台組がスタンバイに付く。

 的役はジョバンニではなく、僕が乗った『ワルキューレ』である。

 模擬弾と言っても、そもそもが対ドラゴン用の兵器である。当たれば、装甲が凹むぐらいはする。だから結界持ちが乗り込むのである。

 ヘモジでもよかったのだが、全弾避けられてしまっては逆効果、子供たちのモチベーションは壊滅する。幸い、同乗した連中に砲撃手がいたので、夕食一品と交換に指導をお願いした。

「ドラゴン以上の動きはしないよ」と、念を押して、僕はその場を去った。


 格納庫から昇降機に載って上甲板に出る。まぶしい光が飛び込んできた。

「これはなかなか」

 心地よい見晴らしだ。

 オールグリーン。

 子供たちが大きな窓からこちらに手を振るのが見えた。

『ワルキューレ』を上にではなく、水平に加速させた。ほんの少し甲板を蹴って、いきなりブーストを噛ました。

 見るのも勉強。離陸時が一番敵に襲われ易いんだ。

 そして訓練して難しさを悟ったからこそ、見えてくるものがある。


 まずは基本からだ。

 相対的に停止した状況での的当てである。

 船の速度に合わせて僕は飛ぶ。高度もコースも一定だ。

「さあ、止まった的ぐらい当てて見せろよ」

 まずは正面だ。

 正面担当はジョバンニか?

 砲台が動いた。

 最初の三発は『必中』の誘導はなしだ。迎角の調整も仕事の内だ。諸、腕で当てるのだ。

 いつでも来い!

 砲塔はそのまま、鏃がこちらを捕らえた!

 一発目が発射された!

「残念」

 左肩を大きくかすめた。

 だが、次弾で見事調整してきた。

 三発目でクリーンヒットした。

「まずはよし」

 僕は次の課題のため距離を取った。

 先の三倍の距離だ。子供たちにはこの距離でこちらをマーキングして貰う。『必中』のための視認作業だ。一定時間ロックし続けないと注視したことにならない。

 それに鏃に蓄えられている魔力量には限界がある。『必中』が発動したからといって、安心してはいられない。

 甲板にタッチダウンしたらこちらの勝ち。そうさせないために第二第三の矢で追い打ちを掛ける必要がある。タッチダウンする前に当てられたら子供たちの勝ちだ。

 光通信でスタートのサインが出た。



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