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新型高速船、始動する?

 頭を狙ったのに、羽を撃ち抜いた。

 幸い尺骨に当たって折れたので結果オーライだ。

「なんだ? 照準がずれてる?」

 いや、改修したときの挙動のずれがまだ残ってるんだ。

 ヘモジは接近戦ばかりだから、修正に必要な情報が集まっていなかったのだろう。

 コアが学習してくれるのを待つか、手動で調整するしかないので、今は無視して次を狙う。

「ナーナー」

 別の一体がこちらの後ろに回り込んだ。生物じゃなきゃできない挙動。

 距離を取るため、一度切った『新型補助推進装置』を再稼働させる。

 そして急激な旋回と錐揉みターン。

 敵がいい距離に離れた!

 ライフルを連射する。

 目標がそれて結界が何度か七色に発光するが、最後は血飛沫が舞った。

 さすがの『ドラゴンを殺せしもの』の称号でも、弾道のそれた攻撃まではカバーしてくれない。

 でも、これで戦力的には五分のはず。


 味方数機が遠方で一体のドラゴンタイプを囲い込んでいた。

 銃弾の雨を左右から食らった敵は、眉間にブレードを突き立てられ落ちていった。

「ナーナ」

 ヘモジも感心する連携の妙。

 手慣れたものだ。

 金属音がした。

 上空で別の獲物を追い掛けていた味方機の翼がもがれた。

 一番近くにいた僕はとどめを刺さんとするドラゴンタイプの脇を抜け、その腕を掴んだ。

 牽制に銃弾をばらまいた。

 獲物をかっさらわれたドラゴンタイプは怒り心頭、弾幕を気にすることなく、突っ込んできた。

 が、称号持ちの一撃は命中コースに入ると容赦なく発動する。

 結界と鱗で弾けると高を括っていた敵は慌てた。

 今のうちだ。

「落ちてきた奴らにとどめを頼む!」

「わかった」

 ギリギリまで高度を落とすと、手を離して再び、上空へ。

 味方機はなんとか着陸に成功、ドラゴンの襲撃コースから急いで逃げる。

 出力全開!

 こちらも回避だ。

 大口を開けた奴の顔面が擦れ違う。

 全力回避!

 こめかみに銃弾を食らわせた。

 でかい頭が遠ざかる。が、なびく尻尾が遅れて迫ってくる。

 当たることを覚悟したが、運よく衝突は回避された。

「あといくつだ!」

「ナーナ!」

「五つ!」

 味方も頑張っている。

 下方から味方に迫る一体を発見。さらに下方から接近する。

 でかい下腹部に銃弾を撃ち込んだ。

「あ、くそッ」

 当たらなかった。

 一番柔らかい腹部を狙ったのだが、うねる尻尾に防がれた。

 でも、それで充分、気がそれた一瞬に味方の特殊弾頭がとどめを刺した。

「残り四体!」

 味方が尻尾に弾き飛ばされた。

 衝撃で操縦士の意識が飛んだのか、機体は凍ったかのように動かなくなった。

 味方の二機が離脱して、落下する味方を追い掛けた。腰には旧来型の『補助推進装置』

 あれなら追い付ける!

 僕は追い掛けようとするドラゴンとの間に強引に割り込んだ。

「お前の相手はこっちだ!」

 たまたま弾倉が空になった。

「『魔弾』装填! 『一撃必殺』ッ!」


 頭を丸ごと吹き飛ばした。

 弾かれた味方機は両機に支えられ無事ソフトランディングに成功した。

 残り二体。

 ようやくチェックだ。ここで味方の手柄を奪うのもどうかと思う。ここは合いの手を入れるだけにして、傍観することにしよう。

「敵の増援なーし」

 オリエッタが周囲を見渡す。

「ナナーナ」

 ヘモジはよく見えないから接近しろと言う。

 一体、また一体と大きな塊が大地に落ちていった。

 そして青い空に信号弾が上がった。


 皆は待機だが、僕は手を振って来た道を帰る。

 味方の船団が見えた。

「光通信」

 敵の数と、すべて排除した旨を伝えた。

 護衛の戦闘船は数隻を残して転進。代わりに回収船の増援を求める通信が胸壁の見張りと交わされた。

「ううむ……」

 機体が若干重い気がする。それを推力でぶん回している感じだった。総重量はほとんど変わらないはずなのに…… 調整が甘いということだろう。もっと乗ってやらないと。

 工房のハッチ前に下りると、モナさんがハッチを開けて待っていてくれた。もしものために待機してくれていたようだ。

「問題ありません」

「そう。よかった」

 ふたりで機体を台に固定させて『出力調整。弾数確認』と記したメモを装甲にバンと貼り付けて、帰路に就いた。


 全員、食事は済んでいるのに食堂で待っていた。

 僕は深い溜め息をつく。

「来襲、ドラゴンタイプ、十……」

「十三」

 オリエッタが正確な数を答えた。

「討伐は無事完了。今、回収部隊が向かってる。以上」

「大猟だ」

 子供たちが騒いだ。

「砂嵐か」

 大伯母が言った。

「恐らく。地上部隊はいなかったからね」

「砂嵐の度に突破されては叶わんな」

 大伯母が頬杖をついた。

「さあ、リオさんもモナさんもこれから食事ですからね」

 夫人の合図で全員、散っていった。

 僕たちの分の配膳が終わり、モナさんと若干、遅い夕飯を取った。

「そうだ。船が完成したそうだぞ。一度試験飛行させてはどうかとオリヴィアが言ってきた」

「ほんとに!」

「じゃあ、明日…… は迷宮に潜らないと」

 学校が外の子供たちにも解放されたことで、授業をこちらの都合で先延ばしすることはできなくなった。子供たちの迷宮探索は一日置き。でなければ休日だ。

「たまには休め」

「休みの日に限って何かしらあるからな」

「なおさら休め。それに試運転しないと、この後の段取りに影響する」

「じゃあ。明日の迷宮探索はお預けってことで」

「子供たちと一緒に一度最前線を見てくるといい」

「はぁ?」

「ついでに今回の襲撃を伝えてこい」

 一日どころか数日かかる。

「あさっての授業は?」

「他の子たちには、あの子たちが既に学んだ内容からテーマを出しておこう」

「別に子供たちは置いていっても」

「絶対行く!」

 散っていったはずの子供たちが顔を出した。

「置いていったら承知しないからね!」

「だ、そうだ」

 明日は他に製作サイドからオリヴィアと技術主任が同乗する。あと前線への帰還組が少々と、補給物資と修理、新調したガーディアンが既に格納庫のなかだ。



「技術主任のベルモンドだ」

 オリヴィアに技術主任を紹介された。

「よろしくお願いします」

 制作段階で既に何度か顔を合わせている。

 僕たちは握手を交わした。

「彼は飛空艇のエキスパートよ。遠慮なくなんでも言い付けて頂戴」

「了解」

「早速ですが、船体バランスの調整をしたいのですが」

「浮かせればいいんですか?」

「はい。積み荷による偏重を『浮遊魔法陣』の出力と角度調整で制御します」

「はぁ…… そんなことが」

「飛空艇用に開発された技術ですが、流用は可能かと思いまして」

『浮遊魔法陣』を単基しか積んでいない通常型の飛空艇には無用の長物だ。むしろ魔素が薄いせいで『浮遊魔法陣』を複数積まざるを得ないこっちの世界の中型以上のランドシップにこそ有用だ。

「バラストを積まなくて済むのは助かる」

 積めばそれだけ余計な魔力を消費することになる。

「それより、よろしいので?」

 ベルモンド氏が視線を上に向けた。

「ああ見えて、船の扱いには慣れてますから。海を越えてきた経験もありますし」

 ほとんど風任せだったが、一通りはバンドゥーニさんに仕込まれている。あの歳で全員ガーディアン乗りだしな。

「でも、さすがに港では危ないか」

 僕たちは展望ドームを支える主柱から枝のように伸びる梁の先、操縦デッキを見上げた。そこにはトーニオとフィオリーナが待機していて、操縦方法を確認していた。

「どうだ、やれそうか?」

 下から声を掛ける。

「慣れが必要だよ。こんな大きな船、いくら見晴らしがよくたって、死角だらけなんだから」

 確かに展望フロアは前面強化ガラス張りで普通の大型船に比べて前方視界は確保されているが、それ以外はまるで見えない。

「なんのために探知スキルがあるんだ」

「ああ。そっか!」

「実際動かすときは見張りも立てるし、空に上がってしまえば気も楽になる。それでも気になる部分は遠慮なく言うんだぞ。まだ試験段階なんだから改良の余地はあるからな」

「りょうかーい」

 何もしていないマリーとカテリーナが答えた。

 ピューイとキュルルはフロアに置かれている植木鉢の葉を試食して、オリエッタに怒られていた。


「こっちはどうだ?」

 特殊弾頭搭載、広角旋回式・三連装砲台を操作するのはジョバンニとニコレッタ、それとヴィートである。

 装置はワイヤーで繋がれた双眼鏡に似た物で、目標を視認、発射する意思を込めると発射する仕掛けになっていた。

 砲塔の起動等、初期動作は今、ニコレッタが座っている座席の操作盤で行うらしい。

 素晴らしい。

「端末は『認識照準器』と名付けたので、以後、そう呼称するように」

 オリヴィアは自慢げに言った。が、発案者は僕だ。

「無駄に魔力使ってるね」

「おー、砲塔が旋回した」

 聞いちゃいない。

 結局、砲台は上部前方と左右に三門、下部後方に一門の配置となった。

「下、見えないのはどうするの?」

「その照準器を付けたまま、見える場所に行って、そこから指示すればいい。でも席を離れるときは遠隔切り替え用のボタンを押すことを忘れないように」

「これか!」

「連携が重要になるわね」

「装置で目標を注視してくれれば『認識』したことになるから。あとは『必中』効果が付与された鏃が勝手に目標を追い掛けてくれるわ。簡単でしょう?」

「じゃあ、射程も重要ね」

「その『認識照準器』に目盛りがあるでしょう? その一目盛りの幅が大体ドラゴンサイズになってるわ。敵影がちょうど収まる位まで近付いたら、射程内よ。普通にバリスタ撃つより簡単だけど、動く相手に当てるのは難しいからね。あ、そうだ。装填のタイミングは身体で覚えるように」

「甲板に出て、魔法でやった方が早い気がする」

「まあ、そう言うな。これも趣味だからな」

「じゃあ、しょうがないね」

「そうだ。しょうがない」

「あんたたちねぇ……」

「三連射できるんだから、当たるよ、きっと」

 ヴィートが言った。

「結界に引っ掛けてから撃ち込む方が早そうだけど……」

「ブレスの直撃は避けたいんだ。魔力消費が半端ないだろう。いくら魔石が潤沢だと言ってもな」

「しょうがないわね。存在自体冗談みたいな船なのに」

 ニコレッタに一本取られた。

 みんな笑った。



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