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クーの迷宮(地下32階 オーガ・無翼竜・クヌム戦) 下見する。前編

 資料によると三十二階層は三部構成になっているようだった。

 前半はオーガが占有する地下迷宮、中間は無翼竜が跋扈する草原地帯、後半は本命、羊頭が治める市街地エリアに分れているらしい。

 クヌムの町の隠し通路の先に縄張りがあった無翼竜の群れが、今回は中間エリアにいたりと、エルーダとの違いが見られた。

 最たるは、それぞれが敵対関係にあって、オーガが無翼竜狩りをしていたり、無翼竜が草原を闊歩する羊頭を襲撃したり、羊頭がオーガの迷宮を襲ったりして、やったやられたを繰り返していることだった。

 地下一層のゴブリンとフェンリルの勢力争いを見るようであった。

 記録では襲撃の結果がしばらくそのエリアの勢力図に影響するとある。目下、無翼竜が劣勢で草原地帯の半分がオーガのテリトリーになっているらしかった。

 ここに子供たちがいたら、きっとオーガを全滅させてやると言い出していただろう。

 放っておいても町を治める羊頭がオーガの接近に危機感を抱き、討伐に乗り出すのだろうが、そこに影響を及ぼすのが冒険者ということになる。

 クリアのために羊頭をほとんど殲滅させる必要があるこちらとしては、勢力圏の変遷は気になるところだ。


 前半の迷路は内装が若干生活臭がする物に変わっていたが、前の階層を踏襲していた。

 樽が転がっていたり、食いかけの食卓があったり、朽ちた本棚に獣の骨が飾られていたりと知性がわずかに感じられる無頼漢のアジトであった。

「罠発見」

 踏むと炎が出てくる踏み板の仕掛けがあった。

「確認するか」

 わざと側にあった金属のコップを蹴飛ばして音を立てた。

 すると奥のオーガが気付いて飛んできた。

 酔っているわけではないだろうに、やたらと樽や家具につまずいていた。

「戦う前にまず整頓しろよ」

「集中すると他が見えなくなるタイプ?」

「単細胞にも程がある」

 今回、子供たちがいないから光源は増やさず、壁の松明を唯一の光源としている。

「なるほど」

 飛んできたオーガは隻眼だった。

 誘導が見事に成功して隻眼のオーガが踏み板を踏んでくれた。

 炎とまぶしい光が噴き出した。

「ウグゥワァアアア!」

 オーガが炎を浴びてのたうち回る。

「死ぬ程ではなかったか」

 剣でとどめを刺してやった。


 昨日に比べて格段に罠の数が多かった。

 が、半分の仕掛けは理性を失ったオーガ自らが解除してくれた。

 朗報と言っていいのか、即死するような罠は一つとしてなかった。

 昨日あると思われた罠部屋が、こちらに移ってきていた。

 迷宮の規模が半減しているせいか『増援』の規模が思った程ではなかった。それでも面倒なことこの上ないので、最初の一部屋以外は記録するにとどめた。


 より最短を目指そうと思ったが、結果的に情報の一本が最短ルートのようであった。

「同じ道を行くのも能がないな」

 道を一本大回りしてみることにした。が、それでも無翼竜が屯する出口付近の草原地帯まではすぐだった。

 昨日の今日だったので無翼竜はスルーしておいた。

 これで明日またどういう影響が出るか。

「お前らの幼少期は明らかに反則だ!」

 叫んでおいた。

 そして――

「ここからが本番だ」


 草原の一本道の街道を抜けると城壁が見えた。

 誰かの手によって半壊して閉じることができなくなっている門扉に羊頭の門番がふたり。城壁の上にも数人。

 面倒臭いので衝撃波で一蹴しておいた。

「門扉の再建をし易くしておいてやったわ。がっはっはー」

「寂れてるね」

 これも冒険者の影響か?


 街路は広く、多層構造で入り組んでいた。高所に上がれば狙撃ポイントになりそうな場所がそこかしこにあった。

 当然そこには敵が潜んでいる。

 路地の陰に隠れてマップを確認。取り敢えずの目標を定める。

「第一エリアは道の右側」

 マップが入り組んでいてわかり辛い。自分でマッピングし直す必要があるな。

 この辺りは絶好の迎撃ポイントなので冒険者ものんびりマッピングしていられなかったに違いない。

 クヌムは遠距離攻撃主体の魔法使いだ。ただ姿を消しての近接もあり得るから高を括っていると足元を掬われる。

 しかし『魔力探知』だけが探知スキルではない。わずかな息遣い、衣擦れ。

 隠遁合戦なら負けはしない。

『無刃剣』で頭の上にいる一体を倒した。

 周辺の敵は気付かない。

「狙撃するか……」

 魔法より射程が長い銃を追々使うことになるだろうが、今は移動が先決だ。

 ここはアサシンモードで。

「宝箱発見」

 オリエッタが囁いた。

「覚えておいて」

 今は回収できない。

「わかった」


 町の一角にざっと十体程。ちょっとした関所だ。


 増援を呼ばれることもなく、数分で片が付いた。

 ここでようやく魔石と装備品、宝箱の回収タイムである。

 クヌムは人の身長とさして変わらぬ魔物だ。装備品の流用が可能な有り難い敵である。特に杖の先の宝石は質もよく、役に立たない術式を消して研磨し直しても再利用できるだけの大きさがあった。

 宝飾品もそれなりの物が手に入る。

 何より美味しいのはこいつらから回収できる魔石だった。水の魔石(大)が取れるのである。人並みの身体でも内包する魔力がそれ程あるのだ。

 道中見付けた宝箱が三つあった。このフロアはエルーダでも利益率の高いフロアになっていた。宝箱に罠がないとわかっていたから、なおさら冒険者に人気があった。

 ただ羊頭に返り討ちに遭うケースも少なくなかった。クヌムはそれ程に優秀だったのだ。オーガとやり合っているからと言って一緒にするとあっという間に逃げ出す羽目になる。

「お宝ザクザク」

 とまでいかなかったが、オリエッタとヘモジは腰振りダンスをした。

 宝箱を『迷宮の鍵』で開けると金銀銅の硬貨や、宝飾品がそれなりに出てきた。量的には三つ全部開けてワイバーンの巣の箱、半分程度だ。

「目新しいところはなさそうだな」

 景色は違えど町並みは似たようなものだった。

 行くべき場所もなんとなく察しが付いた。

 目の前の高台にある二軒。そこがこのエリアのリーダー格がいる詰め所になっている。

 敵の数が半端ないが、行かなければ鍵は手に入らない。

 鍵は『迷宮の鍵』があるから必須ではないかもしれないが、もう一つ攻略には抜け道を記した地図がエリアごとに必要なので、どのみち行かねばならない。

 明日子供たちを引率する身として、下調べは完璧にやっておきたい。

 目視できるだけでも十体程がいた。

 裏手全域にも配置されているはずだからざっと四、五十。

 これだけの魔法使いを一度に相手にするのは大変だが。

 ヘモジと左右に分れて狩り始める。

 ふたりでやれば半分で済む。

 見付かるまで目視で見える敵を遠くから狙撃する。

 こちらを察知できない敵は右往左往する。

 裏手から増援もやってきて、気付くまでに二十体程仕留めた。

「入れ食いだな」

「ナーナ」

 敵が来る。

 銃を剣に替え、迎え撃つ。

 隠遁合戦だ。

 結界にぶち当たる敵の首を掻く。

 僕の動きに敵は付いてこられなかった。ヘモジの動きはなおのこと。

 異常を察知した残りの敵も続々押し寄せる。

「水流くる!」

 こちらの結界が目視できる瞬間。

 敵の集中砲火を浴びる。

 が、敵の水魔法は僕の結界を破壊することはできなかった。

「悪いな。僕の結界はドラゴンの結界より優秀なんだ」

 まるでこっちが悪役のようだった。魔王降臨みたいな。

 ヘモジはミョルニルを振り回し建造物ごと敵を次々押し潰した。

 そしてじわじわと高台に迫る。

 そしていよいよ建物のなかに。

 このなかに敵のボスクラスがいるはずだ。


 威力の上がった『水球』が目の前で弾けた。

 名持ちではないが、装備はワンランク上等な物を着込んでいた。角も他の者より立派だった。

 ヘモジが結界のなかに逃げ込んできた。

 安全を確保したところで。深呼吸、瞬間スーパーモード。

「まぶし!」

 拳が敵ボスの顔面を捉えていた。

「……」

「ナナーナ」

 すぐさま装備品を漁った。

「ナ?」

「ん?」

「持ってない?」

 側近らしき敵の懐も漁ったが、目的の物が見当たらない。

「もしかして鍵いらなくなった?」

 その辺の情報は希薄だった……

 ない物はしょうがない。先を行こう。

 詰め所の宝箱には街中の物よりいい物が入っているはず。

「開けるぞー」

 カチッ。

「あ、鍵だ」

 管理人による改善(改悪?)が見られた。

 宝箱一個分、報酬が減ったな……

「どうせなら地図も一緒にしてくれればいいのに」

 オリエッタが言った。

 まったくだ。



 地図を取りにもう一つの詰め所に向かった。

 もう面倒臭いので銃を撃ちまくった。

「あ」

 結界で弾きやがった。敵のなかにも当然、結界持ちが。

 通常弾が効かないなら……

『魔弾』を放り込んでやった。

 建物が大きく損壊した。

「加減、間違えた」

「魔石一個損した」

「ナーナ」

「でもいい感じ」

「ナナーナ」

 ヘモジも最初からスーパーモードで駆け出した。



「地図ゲット!」

「おおーっ」

「ナーナ」

 みんなで手を叩いた。

 羊皮紙に書かれていたのは予想した通りこのエリアの地図だった。

「代わり映えしないな」

 地図に記された場所に隠し通路に繋がる隠し扉があるはずだ。そこに専用の鍵を差し込んで次のフロアに向かうのである。エルーダとまったく同じ行程だ。


 そう思ったこともありました。

「また鍵がない!」

 二つ目のエリアに無事至った僕たちは次のエリアの詰め所二つも無事陥落させた。

 が、あるはずのそれはなく、隠し扉の位置を示した地図があるだけだった。

『迷宮の鍵』を使えば開くかもしれない。でも、このまま有耶無耶にはできない。

 だって他の冒険者は『迷宮の鍵』などなくてもクリアしたのだから。


 後で聞いたら、皆、力押しで扉を破壊して進んだと言う。スキル持ちが正面から解錠したケースもあったそうだが、それはほんとの一例に過ぎなかった。

「『完全回復薬』と『万能薬』あっての蛮行よね」と受付嬢は苦笑いした。

 今となっては扉は破壊可能オブジェクトで罠もそれなりのものだとばれてしまった。

 勿論、誰でも破壊できるわけではないし、それなりと言っても備えを怠った者には即死級と同義だ。蛮行を行ったのはどれも実力のあるチームだということを忘れてはいけない。

 一般の冒険者にもたらされる恩恵があるとするならば、それはただ最初に試した連中程、度胸を要しないということだけであろう。


 そんなことなど露知らない僕たちは意地になって探し回っていた。

 そして鍵が詰め所の一室の窓際にこれ見よがしに置かれたオルゴールのなかにあることを発見するまで小一時間を要した。

「疲れた」

「ナーナ」

 オルゴールはオリエッタが一度確認していた。

「ごめん」

 しょぼくれた。

 でも僕はそこに『認識』スキルをも惑わす仕掛けを見た。それは鍵の形に切り取り線が入った三枚のブリキの板だった。それがオルゴールの内側の底面と側面に貼り付けられていたのだ。

 クヌム恐るべし。

 むしろ発見した自分たちを褒めたいくらいだった。

 加工する手間もあるし、お腹も減ったので一旦戻って昼食にすることにした。



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