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クーの迷宮(地下31階 コアゴーレム・オーガ・無翼竜戦) ピューイ登場

 そして翌日。

「はぁー」

 平常が訪れた。

 三十一階層攻略である。

 子供たちは朝食をこれでもかと口のなかに放り込む。

「おいしい」

「デザート解禁だし」

「あ、忘れてた」

 夫人がからかった。

 朝からフラーゴラのショートケーキが出てきた。

 追加の補給も来ることだし。我慢は無用ということか。



 三十一階層の敵はコアゴーレムとオーガ、無翼竜の登場が予想される。

 あの巨人を見てしまうとコアゴーレムなんてただの積み木に見えてしまうな。

 土属性の魔石が回収できるからヘモジには嬉しいフロアになるだろう。

 混成部隊である難しさはあるが、結界持ちの僕たちが恐れることはない。足止めしながら順に倒していけばいい。

 環境はゴーレムサイズに合わせた典型的な地下迷宮。フロアーの罠は毒矢。トラップ部屋の罠は『増援』だ。


 三十一階層はやはり地下迷宮だった。

「おわっ!」

 ニコロとミケーレが入場早々のけぞった。それほど多くの反応があった。

「うーん。三割増し?」

 オリエッタが首を捻って同意を求めた。

「数の暴力」

 こうなるとオーガの『威圧』は脅威である。

「『威圧』が来そうになったら消音な」

 予習はしているが念を押す。

「無翼竜と、無翼竜に乗ったオーガの接近速度にも注意しろよ。遠くにいると思って油断していると囲まれるぞ」

 オーガの叫び声が通路の先から聞こえてくる。

「予行演習」

 オーガが二体棍棒をぶら下げ徘徊している。

「いきなり二体相手か……」

 子供たちが小声で部隊を二つに別けた。

 ゴーレムより小柄であるが、それでも人の一・五倍はある巨体だ。筋肉質の肌は柔な攻撃を受け付けない。

「よし。一体倒したら『威圧』を受けてみるか?」

 子供たちは頷いて『消音結界』の魔法の確認をする。

 全員が掛ける必要はないのだが、一斉に始めた。

 担当分けが済むと子供たちは頷いた。

「最初が肝心」

 オリエッタの言う通り、久しぶりの攻略だ。集中していかないと。


 耳をつんざく空気の振動が鼓膜を襲っているはずだった。

 仲間を瞬殺されたオーガが涎をまき散らしながら牙を剥いた。

 だが、子供たちはしっかり結界のなかにいる。

 咆哮が止んだら、仕留める気満々であった。

 オーガが棍棒を振り上げ、突進してくる。

 素人ならすくみ上がるところだが、うちの子供たちは武者震いしていた。

「『無刃剣』 横一文字切りッ!」

「ジョバンニ、うるさい!」

 オーガの首がゴロンと床に落ちて、身体が前のめりに床に突っ込んだ。

「ちょっと、報酬が下がるんだから首の皮一枚残しておきなさいよ」

 ニコレッタが武芸の達人に要求するようなことを言う。

「お、おう」

「あまり気を張らずに、被害を出さないことが先決だからな」

 窮屈な戦い方をしているとストレスが貯まるので一応、釘を刺しておく。コアゴーレムのコア探しに比べれば遙かに楽だとは思うが。


 そのゴーレムが彫像のように立っていた。ゴーレムのなかでは小柄とは言え、オーガをも上回る大きさ。

 僕は『一撃必殺』を使えば一発で急所がわかるが、スキルのない子供たちはまずは目視からだ。

「額だよ!」

「切り刻めッ!」

 コアゴーレムの特性を台なしにする安易なコア配置。

「わかりやす過ぎだろ!」


 いきなり金塊が出てきた。

「おー」

 思わず唸った。

「無翼竜と…… これ、オーガライダー?」

「来るよ!」

 無翼竜の背中に乗ったオーガが迫ってくる。

「探知能力高め?」

「いや、ただの巡回だろう」

 慎重にエテルノ式で揺れるオーガの頭を吹き飛ばし、残った無翼竜も難なく始末した。

「ちっちゃなドラゴンだ」

「翼ないと変」

「人はそれを蜥蜴という」

「サラマンダーよりかわいかった」

 オーガを背に乗せられる蜥蜴のどこがかわいいのか。


「背中だ。背中!」

「背中のどこ!」

「真ん中ちょい上」

「違う、もっと下。じゃなくって、もっと上」

 魔物との戦いは長期戦になる程内包する魔力が消費されるため、報酬が下がっていく。

 だが、コアが見付からないと、どうしても長期戦になってしまう。

 さすがにまだ足の裏というのは見掛けないが。


 もたついたが報酬はよかった。

「なんだかんだ言って、急所を一撃だからな」

 硬い身体もなんのそのだ。

 弱い攻撃をいくら放っても、このレベルのゴーレムにあまり有効でないことは子供たちもわかっている。故に一人一撃必殺なのだ。

 今回担当だったマリーが万能薬の小瓶を舐めた。

「あー、これ、おいしい! ヨーグルト味だ」

「え? 何、新作?」

 作った覚えはない。

「ナーナ?」

「いつの間に」

 誰が『万能薬』にそんな仕掛けをした!

「あー、これお店の売り物だ…… 間違って持ってきちゃった?」

 店に『万能薬』は卸してないはずだ。まさか『ビアンコ商会』が何かしたのか?

「それ『万能薬』と違う」

 オリエッタが言った。

「あー、思い出した! おばさんに新しい『魔力回復薬』を試してみてって、言われてたんだった」

 トーニオが言った。

 長期休暇に入る前、人数分の小瓶を受け取って、各自の薬入れに入れておいたらしい。

「ちょっと、トーニオ!」

 リーダーが珍しくフィオリーナに怒られていた。

「回復力は今一かも……」

 マリーはゴクリともう一口飲み込んだ。

「美味し過ぎるのも問題かもな」

「効果薄めで飲み干せるようにして欲しいかも」

 子供たちは自分の薬ケースから問題の回復薬を取り出して優先的に消費することにした。

「『魔力回復薬(小) ヨーグルト味』」

 オリエッタが認識した情報を口にした。

「効果あるのか?」

「銀貨十枚ぐらいするんじゃないの?」

 眼中になかったから値段、知らないや。

 付加価値が付いて、おまけに消費サイクルが早くなるなら、お店としてはウハウハだろうな。

「味は合格点みたいだ」

 他の子供たちは次は自分がと名乗りを上げた。


 鉱石が結構手に入った。宝石もちらほら。

「転送。転送」

「ナーナ、ナーナ」

 オリエッタもヘモジも久しぶりの狩りを楽しんだ。



「疲れたね」

 子供たちはそう言いながら港湾区をはつらつと歩いた。

 リュックにはどっさり土の魔石が。

「毒矢の罠、なかったね」

「こういうときは後で何かあるんだよな」

「その前にお昼、お昼」

 半壊した町の一部もすっかり元通り。否、それ以上に立派な物になっていた。

 迷宮街と呼ばれるようになった地下通路の倉庫群も冒険者たちが持ち寄った商品で溢れ始め、タイタンの足元の入口付近には人だかりができていた。


『決められた場所以外での商売を禁ず』


 タイタンの足に張り紙がなされていた。

 帰宅早々、子供たちは貰った薬の感想を夫人に述べたが、既に情報としては意味のないものになっていた。今ではもうソルダーノさんのお店のヒット商品の一つになっていたのである。

「普通の回復薬バージョンもあるってさ」

 折角、夫人がリサーチ用に配ってくれたのに、無駄にしてしまったことをトーニオは気に病んだ。

「大丈夫よ。宣伝も兼ねて、たくさん配ったから」

 トーニオはごめんなさいと深々と頭を下げた。

 夫人はトーニオの頭を盆で優しく叩いた。

「子供はそんな顔しない! みんな忙しくて迷宮に潜れなかったんだから仕方ないでしょう?」

 トーニオの周りに自然と子供たちが集まった。

 そして今日回収した宝石のなかから一番いい物を夫人にプレゼントすることで、トーニオの罪悪感を相殺することに決めた。

「師匠、加工してよね!」

 そんなことだろうと思った。

「台座はお前たちで造れよ。ちょうど金も取れたからな」

 お昼は辛めのペペロンチーノ。と、こってりとろける角煮が入ったビーフシチュー。

「新しい場所に定食屋ができたんですよ。これはお持ち帰りです」

 改修した土地におしゃれな外食屋ができたそうだ。

「家庭ではできないこの煮込み具合……」

 みんな綺麗に完食した。

「はぁー、おいしかった」

 幸せの極致のなか、子供たちは昼寝を取った。

「そういえば神樹も大分育ったな」

 早くも大人の身の丈程に成長していた。


 午後もまた三十一階層。

 跳んだ先に無翼竜が壁に生えた苔を舐めていた。

「……」

「あのぉ……」

「攻めてこない」

 こっちを見た。

 子供たちとしばしにらめっこする。

 そして急に気付いたように逃げだした。

「逃げた!」

 未だかつてこんな弱腰な無翼竜を見たことがあろうか?

 怒り狂うオーガの群れのなかに消えた。

『威圧』の連弾。連発。オーガはただ闇雲だった。

「上書きしても持続時間が長くなるだけなんだけど……」

 子供たちは根気よく結界で足止めしながら、確実に仕留めていった。

 そして屍の群れの先にあの一体が……

 口元を濡らして、首を長くしてこちらを見ていた。

 壁がなくなるとまた逃げ出した。

 こちらは魔石の回収があるので、警戒しつつも無視しておいた。すると通路の影からチラチラと……

「なんだろう?」

「かわいいね」

 好奇心旺盛な子供のようだ。

「情が湧くと倒せなくなるぞ」

「どうしよう……」

 既に駄目なようだ。



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