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決戦の日 後始末

「見事に壊れたな」

 一番高い飛行ユニットの各パーツが、組み立て前のようにバラバラになって戻ってきていた。

 箱に収められた部品のほとんどは原型を留めていたが、歪みから来る過剰なストレスによって要となるパーツのいくつかは取り返しの付かない状態になっていた。

「なまじ頑丈だから弾けるときは盛大だな」

 魔力の伝導ケーブルが引き千切られている。

「切れるかな、普通」

 メインの伝導ケーブルが魔力を通した状況で切断されることはまずあり得ない。

 ゴーレムの関節駆動や『浮遊魔法陣』に魔力供給は欠かせないもの。

 オリエッタは原因を究明すべく、床に並べ始めたパーツの隙間を縫って行く。

 そこに至るまでの伝達経路に不具合があった可能性が濃厚だ。

 オリエッタが立ち止まり、足元の部品を覗き込む。

「壊れてない……」

 敵の攻撃で破壊されたと思っていたコアとフライトシステムの結合パーツが、損傷なく残されていた。

「これは一体?」

 元々オプションパーツであるフライトシステムは運用上、分離できる機構を踏襲していた。

 それは一体型と称する『ワルキューレ零式』であっても管理上、そういう造りになっていた。

 結合部が外れて、魔力供給がカット…… 結界が消え…… そこに気流のうねりが加わって…… 空中分解。


 大体の流れはパーツを並べ直してみてわかった。

「ミスリル製であることに甘えて、安全率を下げ過ぎたかも知れないな」

 ひとえに機体を少しでも軽くするためであるが。

「結界に期待し過ぎたかもね」

 オリエッタの言う通り。

 結界が空力をある程度捌いてくれるから強引な動きも可能なのだ。

 兎に角、これ程ばらけたパーツを砂原から集めてくれた人たちに感謝したい。

「コアはこのままでも大丈夫みたい」

「こら、勝手に魔力通すな!」

「ナーナ」

 ヘモジがお尻を振りながら覗き込んでいる操縦席周りは、さすがに頑丈にできていた。

 それに引き換え、四肢の関節はどれもあらぬ方に曲がったまま戻らない。

「リオさん。ちょっと手伝って貰えます?」

 エレベーターで下りてきたモナさんに呼ばれた。


 地上に出ると敵から鹵獲した機体が大量に並んでいた。

「買ったんですか?」

「古い機体はいらないそうだから、安く譲って貰いました」

 子供たちには人気があるんだけどな。

「見て下さいよ。これ『ニース』の純正ですよ」

 モナさんの自機の予備パーツが三機も並んでいた。

「地下に下ろしたいんですけど、一機、足の関節が痛んでいて、いいですか?」


 僕は片足を引き摺っている機体に乗り込んで、モナさんが動かすもう一体に支えられながらエレベーターに向かった。

「さすがに一度に二機は載りませんね」

 現行機ならエレベーターに二機ぐらい積めなくもないのだが、さすがに大きな『ニース』は無理だった。

「座らせますか?」

「『吊るし』を持ってくるわ」

 愛機の『ニース』を普段固定している架台を持ってくるそうだ。

 モナさんが準備している間に、もう一機をエレベーター前まで運んでおく。


 どちらの機体も大事に乗っていたことがわかる。掃除は元より、駆動部のどこをとっても余計な緩みがない。

「こういう調整が機体を長持ちさせる秘訣なんだろうな」

 それを今度の戦闘に投入して、片腕になったり、足を引き摺ったり。どういうつもりなんだか。

「後から『グリフォーネ』も入ってくるので、奥に詰めますね」

 こちらは転売目的らしい。

 まだまだ現役だからな。

「じゃあ、吊しますね」

 専用の革ロープを機体に巻き付けて肩から引っ張りあげ、直立したところを嵌め具で固定した。

「さすが手慣れたもんだ」



「なんだか、息苦しい」

 大量のガーディアンに見下ろされながらの作業である。

「子供たち喜びそう」

 オリエッタが言った。

「あいつら『ニース』好きだもんな」

「好きなのはモナさんの『ニース』だけだと思う」

 そうかもな。

「ナーナ」

「さあ、お昼までに、パーツを並べるぞ」

 まずは回収してきた部品をすべて並べていく作業からだ。

 足りないパーツ探しと、使えるパーツと破棄するパーツの仕分けのためだ。

 使える部品は取り敢えずそのままに。使えないパーツは後で再生させていく。今の段階で素材に戻すと、足りないパーツがわからなくなる。

 分厚い辞書並みの設計図を見ながら、小さなネジ一本まで探していく。

「三人でやる作業じゃないよな」

 元々三人で組んだんだけどな。当時は『スクルド』を超える機体を造ろうと、野心に満ちていたものだ。

「もっと凄いの造る!」

「ナーナ!」

「そうか、コピーしようと思うからやる気が起きないんだ。そうだ、そうだ。新型機を造る気でやればいいんだ」

 僕は人型に並べたパーツを前に仁王立ちする。

「これより『ワルキューレ零式』改造計画を発動する!」

「おーっ!」

「ナー!」

「まずはこの壊れ易い羽をなんとかする!」

 元々ピーキーだった『スクルド』を扱い易い機体にしようとした結果、細かい羽の集合体になっていた羽パーツ。設計が間違っていたとは思わないが、さらなる改善が必要だ。

 モナさんも頑張ってくれていたが、スタンドアロンの飛行パーツは基本点検のみだ。僕だって先日壊れるまで細かい作業はしていなかった。

 遠隔地では手入れのし易さも考慮しなければならない。『補助推進装置』というおまけが付いたせいでなおさら手入れが必要になってくる。

 これらを再設計し直して、一つのパーツにできる部分は統合していくことにする。

「合金の配合も変えてみるか……」

「ナーナーナ」

「格好よくしろって? 機能が高ければ自然と美しい機体になるんだよ」

「人はそれを機能美と呼ぶ」

「ナーナ」

「そうだな。『補助推進装置』を最初から組み込んだ機体にするか」

「却下!」

「ナーナ!」

 ふたりは反対した。

 ふたりは将来の運用を考え、あくまでオプションにすべきだとこだわった。

 それから考えに考えた結果『補助推進装置』を小型化、吐出ノズルを機体の各部に分散配置することにした。これなら同時に複数ベクトルでの移動旋回が可能になる。

 姉さんの戦闘を見たとき、推進方向だけの加速だけでは物足りなく感じたからだ。

「もっともこんな動き、遠距離主体のタロス戦で必要ないと思うけどな」

 コアシステムの学習能力を使って各部になるべく負荷を掛けないように必要な分だけ出力を回せるようにしたい。

「そんなことできるの?」

「時間はたっぷりある。テストパイロットもやる気満々だしな」

「ナーナンナ!」

 ヘモジは親指を突き立てた。そしてふらついて、足元のパーツを踏ん付けた。

 パキッ。

「……」



「ラーラ、砦に複製師いるか?」

「勿論いるわよ。書類整理に欠かせないもの」

「この部品リスト、複製して欲しいんだけど」

「レジーナ様に頼んだ方が早いんじゃないの?」

「事後処理で忙しいって」

「そっか。捕虜をメインガーデンに移送しないといけないものね」

「姉さん、あれから来た?」

「全然」

「出向いて怒られに行くのもなんだしな」

「忘れてるんじゃない」

「そう願いたいね」

「整備終わり!」

 午後から機体の修理に参加していたラーラはあっさり作業を終えた。

 壊れたのはブレードと腕パーツ。どちらも新品と丸々取り替えて作業終了である。

 量産機の強みだな。替えパーツは倉庫に山程ある。


 ラーラと入れ替わりに子供たちがやってきた。

「ほえー」

 居並ぶガーディアンを子供たちは見上げた。

「これ『ニース』?」

 ニコロが言った。

「元祖だぞ」

「モナ姉ちゃんのと違うね」

「あれはいじくり倒してるから原型を留めてないんだよ」

「俺たちも『グリフォーネ』いじり倒せたらなぁ」

「そのためには勉強だな」

「うへー、やぶ蛇だ」

 ミケーレが言った。


「敵の話聞いた?」

 マリーが箱から出した部品を提示した。

「話?」

 並べる場所を指差した。

「みんな、お爺ちゃんだったんだって」

「お爺ちゃん?」

「敵の兵隊。傭兵以外はみんな年寄りだったって」

 今度はトーニオだ。

「それでどうするか悩んでるんだって」

 ヴィートが言った。

 トーニオのパーツは左膝。ヴィートのは右腕だ。

「みんな昔はこっちでタロスと戦ってたんだってさ。今の僕たちみたいだったって」

「でも負けちゃったんだよね」

「自分たちはまだやれるって、見せたかったんだってさ」

「そんな理由で?」

「お家断絶の話もあったんだってさ。それでやけになったんじゃないかって」

「違うよ。息子に跡目を継がせたかったんだよ。そのためにユニークスキルの有効性をアピールしたかったんだって、ルチャーナが言ってた」

 カテリーナの情報ソースが一番的確なようだ。あの家には隠密がいるからな。

「息子って幾つ?」

「四十歳ぐらい?」

 あのユニークスキルを引き継いでいたとしたら厄介だな。

「タロス討伐を理由に体よく厄介払いされた感は否めないか……」

 老いた家人たちが後人のために身を犠牲にした格好だが、訳もなく付き合わされるこっちはいい迷惑だ。

「大師匠がね。砦を取られていたとしても案外被害はなかったかも知れないって言ってたよ」

「大師匠に会ったのか?」

「水辺に遊び場造って貰った」

「遊び場?」

「水遊びできるように地面固めて、水を引き込んで。滝造って、浅いプール造って、船のマストで日陰も作って、ベンチも造って、みんなで涼めるようにしたの」

 芸が細かいな。忙しいんじゃなかったのか、大伯母は?

「ヘモジが戻ってきたよ」

 ラーラの機体のテストをしに行っていたヘモジが、憮然とした顔して戻ってきた。

「ナナーナ、ナーナンナ」

「なんて言ったの?」

「非常食カビてたって。保管箱の魔力切れが原因だってさ」

「……」

「それ、テストパイロットの仕事なの?」




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