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我が家の総意と出立準備

 数日後、アンドレア様を中心とするヴィオネッティー家の御前会議ですべてが結審された。

 爺ちゃん連中曰く、今まで通り、ヤマダタロウ氏がしてきた開発の一環だと思わせておけばよい、だそうだ。特別なものだと思わせるから横槍が入るのだと。

 結果、中海を越えての前線基地建設という、過去何度も繰り返されてきた愚行にカムフラージュすることになった。

 補給線などを考えれば長続きしないことは過去の歴史が証明している。『銀花の紋章団』も自前で橋頭堡を建設したことはなく、これが最初のチャレンジとなる。

 タロスの大襲撃にも耐えうる防衛能力を持つことが迷宮建設の必要条件だったが、ゲートキーパーが認めた都市は五十年経った今でも数える程しかない。奪われる可能性を考えるとなかなか踏み切れないのが現状だ。ここメインガーデンのような大都市でさえ、前線に近いという理由で迷宮建設は保留され続けている。

 今回はその条件に反し、逆のプロセスを辿ることになる。まず迷宮である。こっそり運用するので気付いたときにはどちらが先かわからない状況を作り出すつもりであるが、当面は『銀花の紋章団』の基地ということで部外者お断りを貫くつもりではある。

 周囲を認めさせられるだけの町造りが完了したら一般解放ということになるだろう。

 補給のほとんどは迷宮から調達できるとのことなので、補給線を気に掛ける必要はないとのことだったが、干上がらないためには必要充分な量を迷宮から調達しなければならない。

 迷宮のマップ情報もない状況からのスタートであるから、当分の間は当てにしないで貰おう。

 さらにタロス対策と称してエルフの隠れ里戦術が取られることとなった。許可なき者は味方だろうと到達させない徹底ぶりである。

 当然の如く、異例の事態に王家も口を挟んできたが、最前線への定期的な補給など莫大な資金援助を求めたら、勝手にしてよいとお墨付きが貰えた。

 ヴァレンティーナ様の勝ち誇った顔が目に浮かぶ。

「よって一任する」というお達しがヴィオネッティー家全体の総意となった。


「いいのかしら?」

「いいんじゃない」

「ナーナ……」

「お腹減った」

 ヤマダタロウ氏から『迷宮の鍵』を頂いた。迷宮のなかにある隠し扉や鍵の掛かった宝箱を開けられるレアなアイテムである。これ自体が究極のお宝と言ってもいいだろう。これを一つ持ってるだけで収入は激増する。爺ちゃんたちが一財産築いた最大の理由はエルーダ迷宮の鍵を持っていたからとも言える。婆ちゃんが扉ごと破壊するという方法もあるにはあったらしいが。

 それと「好きな場所に設置するといい」と言われて何の変哲もない杭を一本貰った。象徴としてのギミックだと言われたが、何のことだか。

 取り敢えず迷宮の入口にしたい場所に設置するように仰せつかった。後は何もかも任せて貰って大丈夫だと太鼓判を押して貰った。解体屋や商売人も連れて行かなくて大丈夫だと言うのだから一体何を考えているのやら。



 さらに数日後『太陽石』に関する驚くべき報告が上がってきた。なぜ今までわからなかったのかと思うくらいセンセーショナルな内容だった。

 そもそも我ら人類になかった概念であったから、仕方がないとも思うのだが……

 なんと『太陽石』は鉱物でありながら生物だというのである。魔力のない世界では結晶化して身を守りつつ、適した環境に備えるという不思議な生物らしかった。日に当たることで微弱な魔力を発していたのは生命活動の一環だったのだ。

 ヤマダタロウ氏は「別世界の生き物で、タロスの身に寄生してこの世界に付いてきてしまったのだろう」と予測した。

 そしてそれらは一塊にされたことで安息の地を得たと勘違いし、仲間を呼び寄せるシグナルを発したのではないかと。別世界のタロスはそれを手掛かりにしてこちらを探り当てたのではないかと結論付けた。

 とんだ斥候である。


 結晶を解いたところで害のある生物ではないそうだが、シグナルを送られては叶わない。王宮の宝物庫に収められていた『太陽石』はすぐさま廃棄が命じられた。

 が、命じられた担当官は苦悩した。

 外刺激にとことん強く、高温の炉で溶かす以外にこれらを殺傷することができなかったからだ。

 しかも鍛冶屋たちは神聖な炉で生き物を焼き殺すことなど断じて許さなかったから、どこも炉を提供しなかった。

 せめてオーブンで事が済めばよかったのに。

地獄の業火(インフェルノ)』で焼き殺す案も出たが、膨大な魔力が却って『太陽石』を活発化させるとしてこれも却下された。

 捨て場所に困った担当官は最終的に迷宮を廃棄場所に選んだ。

 生態をさらに詳しく調査した後でゲートキーパーが責任を持って別の世界に送り届けてくれることになった。

 ただ送った先でシグナルを出されても困るので、これまた一計を案じなければならないらしい。一種の絶滅危惧種だとはいえ、世界の安寧を考えるならこのまま滅びて欲しいくらいである。気の毒だが解決策が見出されるその日まで、魔力のない過酷な世界に放置するのが得策のようである。

 他の世界には信じられない生命体がいるものだと甚だ感服させられた。


 ミズガルズでも同様の処理が行なわれることになった。が、こちらの事態はもっと深刻だった。

 何せ『太陽石』をこのままにしてはおけないとわかったところで、そのほとんどがどこに埋まっているかわからないのである。いつかこの世界に魔力が満ちたときシグナルを発せられたらどうなることか。その頃タロスが近世界にいなければいいが、それは希望的観測と言わざるを得ない。

 費用を掛けて捨てるために採掘しなければならなくなった。今までは放っておいても勝手に掘り返してくれていたが、これからは資金を掛けてノルマとして、こなしていかなければならない。

 掘り尽くすことは可能なのか? そもそも生物なら繁殖はどうなっているのか? 意思はあるのか? 寿命は?

 問題山積であるが、取り敢えずの危機は避けられた。

 爺ちゃんは精製できないことにとうの昔に気付いていたそうで、収集癖は発動しなかったらしい。

 どうしてそのとき鉱物ではないと報告しなかったのかと周囲に責められたそうだが、知っていると思ったとケロリとしていたらしい。

「お爺ちゃんらしい」

「雷、二、三発落ちたんじゃないかな?」

 僕たちはお腹を抱えて笑った。


 ただ、今回の事件の切っ掛けを作った連中が何を意図して『太陽石』を大量に放置していったのか、そもそもどこで手に入れたのかは未だ謎であった。尋問は今も続いている。

 少々時間が掛かり過ぎている気がするが……



 世界が動揺している間も僕たちはマイペースだった。

「いいの?」

「ああ、この前の礼だ。売れちまう前に押さえておいたんだ」

 僕たちは東の港にいた。

「さすがにこのサイズだと解体スペースはないけどな。生活空間も格納スペースも充分だろ? 痛みもないし掘り出しもんだぜ」

 それはソルダーノさんの輸送船に比べて一回り大きい二十メルテ級の船だった。全長の半分は荷台だが、戦闘用の船だから頑強さは比べるべくもない。因みに姉さんの『箱船』は八十メルテ級だ。

「おまけに砲塔が二門付いてるぞ」

 船で戦う気はないのでなくてもいいのだが…… 楽したいときには使わせて貰おう。

「馬力があるから、カーゴも引っ張れるぞ」の言葉で購入を決心した。

 カーゴを引っ張る気はないが、余力があるなら後で色々改造できるというものだ。



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