表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/553

シュガービート&ニューライフ

 午後はまた迷宮に潜り、サイクロプスの相手をした。

 が、今回、ニューエイジ族と接触することはなかった。少なくとも街道沿いにはいなかった。

「どうする? 時間いっぱいまで狩るか?」

 決断を促したら子供たちは考え込んだ。

「今日はこれくらいにしとく?」

「どうしようか?」

 早く家に帰りたい気持ちと、もう少し見て回りたい気持ちとが交錯した。

「こんなときは……」

「牧場だァ!」

 はい、決定。

「アイスミルクのアイス大盛りで!」



 時間が早かったので、まだ行商人の多くが軒を連ねていた。

 子供たちは本日の報酬を手に駆け出し、思い思いの買い物を始めた。

 僕は土の魔石(大)を小さいサイズに両替して貰った。

 これでしばらく神樹も安泰だ。


「チーちゃん達にお土産買った」

 マリーたちが戻ってきた。

 子供同士のお土産にホールチーズですか……

「牛乳も買ったよ!」

 ミケーレが言った。口のなかからミントの匂いがした。飴を貰ったようだ。

 職員が子供たちの身長サイズの牛乳缶が載った荷車を引いてきてくれた。

「師匠、これ見て!」

 ヴィートとニコロが駆けてきた。

「砂糖、売ってた!」

 その手に大きな頭陀袋が握られていた。

「練乳だァ!」

 ミケーレが叫んだ。と、同時に口のなかの物が飛び出した。

「あう……」

 草の上に落ちたそれを浄化してまた口に放り込んだ。

 浄化魔法をそういう使い方したことなかったわ。ちょっと感心した。

 そのミケーレも「いや、砂糖だから」と、額にチョップを浴びていた。

 ご利用は計画的に。

「砂糖売ってたんだ」

 トーニオも感心して袋の中身を覗き込んだ。

甜菜(てんさい)も売ってたよ」

 ニコロの口から爆弾情報がこぼれた。

「ナ!」

「そっちを買って来いよ!」

「ナナナナナ!」

 ヘモジが猛ダッシュした!

「いよいよ我が家でも砂糖作りかな……」

 ヘモジがあるだけ全部買ってきた。と言っても、買ってきたのは種で、その袋はヘモジのリュックのサイドポケットに収まる程度の物だった。


 子供たちは余ったピエトラを片手に眠り羊の賭けレースに参加した。

「最終レースだってさ」

 眠り羊を使った相変わらずゆったりとしたのどかなレースだった。

 ヘモジが配当二十倍をゲットした。

「魔石いらなかったな」

 案の定ヘモジは換金したピエトラを全部土の魔石(小)に再度、換金し直した。


「送るぞ」

 荷車以外、全員の買い物品をまとめて地下倉庫に転送した。

 そして僕たちも。



「なんだこりゃぁああ!」

 広い倉庫に子供たちの声が反響した。

「師匠!」

「ここしばらく、整理してなかったな」

 ワイバーンの巣の宝箱の中身や、素材にしようと放り込んだサイクロプスの装備品などがゲートの周りに散乱していた。

 その最後尾には先程買った甜菜の種の袋が……

「ナナナ!」

 ヘモジは急いで回収すると大事そうにリュックに収めた。

 そんなに焦るならリュックから出さなくてよかっただろうに。

「腐る物から整理しないとな」

 食料品や牛乳缶を家まで運ばなければ。

 こぞって空いた保管箱に納め始めた。

「荷運び用のガーディアンは?」

「まだ返ってこない」

「新しい奴、モナ姉ちゃん造ってくれたかな?」

「ちょっと見てくる」

 整頓作業にあまり参加できないマリーとカテリーナが専用エレベーターで工房に上がっていった。


 そしてすぐ戻ってきた。

「これ使っていいって」

 まだ出来上がっていなかったようだ。

 中古のガーディアンと一緒にエレベーターが降りてきた。

「モナさんまだいたか?」

 ふたりは頷いた。

「ガーディアンがいっぱい並んでた」

 まだ商品になっていない『補助推進装置』を付けられるのはこの工房だけだからな。


 中古のガーディアンだったが、役に立ってくれた。

 さすがにマリーとカテリーナの操縦では危なっかしかったので、トーニオに代わって貰った。

 僕は子供たちの様子を横目で追いながら、精製した素材を棚に収めていく。

 女子はオリエッタと一緒に宝飾品を整理し、男子はその他諸々の雑貨を棚に運んだ。

「師匠、この棍棒は?」

 放り込んだ本人がなぜ放り込んだのか覚えていなかった。

「あれなんだった?」と、オリエッタに尋ねた。

「建材が足りないって言ってた?」

「ああ、そうだった!」

 子供たちが倒した相手から適当にくすねておいたんだった。

「二、三本あるから弾いといてくれ」

「りょうかーい」

「どこに使うの?」

「対岸の耕作地に水路造ってるだろ? そこに架ける仮橋用だ」

「橋造るの?」

「馬車が通れるようにな。石橋だって言ってたな」

「ふーん」

 関心があるような、ないような返事だ。

「師匠、これ」

 宝箱の中身で素材にした方がよさそうな物がどっさり運ばれてきた。

「練習用にするか?」

「えーっ!」

 木箱に放り込まれたそれは作業場のそばに置かれた。


「ようし。今日はもう終わりにしよう」

「ふぁーい」

 持ち帰る物だけ持って、僕たちは倉庫を後にした。

 ヘモジのリュックには甜菜の種。

 甜菜は栽培が難しいと聞く。そもそも砂漠で育つのか?


 買ってきた砂糖はラーラを始め女性陣に大いに喜ばれた。セーブ気味の甘味の消費速度に拍車が掛かるかも知れない。

 モナさんは一緒に戻ってきたが、我関せず、さっさと風呂に入った。


 夕食は夫人が買ってきた耐熱皿(ギュベジ)を使った鍋料理だった。

 ハンバーグのような大きな肉団子がぐつぐつ音を立てながら野菜いっぱいのトマトスープに浮いていた。それと挽肉いっぱいのドライカレーだ。

 窓の外はいつの間にか日が落ちていて、明かりが灯る夜の景色に変わっていた。遠くに酔っ払い予備群の喧噪も聞こえてくる。

「カーテン閉めますわね」

 大伯母が帰ってきた。

「いい匂いがするわね」

 そう言って食堂に入ってきた大伯母を皆、無意識に直立して出迎えた。

「大師匠、ありがとう」

 打ち合わせしたわけでもないのに、子供たちは大伯母の手を取り、僕の目の前の席まで導いた。

「ちょっと、なんなの?」

 大伯母が困った顔をする。

「我が家の大工の棟梁の腕に感じ入ったみたいよ」と、ラーラがからかった。

「誰が棟梁だ」

 僕も敬意を込めて駆け付け一杯、大伯母のグラスにワインを注いだ。

 すぐさま大伯母の前にぐつぐつ煮込まれた料理の皿が並べられた。

 それからモナさんも合流して、いつもと同じ賑やかな団らんになった。

 各々、今日起きたことを話した。

 そしてデザート。取って置きの(フラーゴラ)のホールケーキだ。

 子供たちは飛び上がって喜んだ。

 大伯母は苺だけつまんで、皿を子供たちに差し出した。

 全員で等分にしたのでは一口分にしかならないので、一人が総取りすることになった。熾烈なじゃんけん大会が始まった。

 その影でヘモジは大伯母に甜菜を植えるための温室を造る話を持ちかけていた。

「ほんとに甜菜の種なの?」

 ラーラが聞いてきた。

「そうらしいけど」

「本物。間違いないから」

 オリエッタが太鼓判を押した。

「砂糖買えたんなら、甜菜はいらないんじゃないの?」

「いつ来るかわからない行商人を待ってられないだろう。それに砦の需要までは満たせない」

「やり過ぎて商人の不評を買うのはどうかしら?」

「ここが生産拠点になれば喜ばれるさ」

「どれだけ作る気なのよ」


「それであっちの方は?」

「本隊に斥候を出したのはつい昨日よ。何もないわ」

「海の方も特に何もないそうよ」

 イザベルが言った。

 敵が災害級だと最初に接触した段階で味方が壊滅なんてこともあり得る。先んじなければ、なんとしても。

「狙いがなんなのか、結局わからないんだものね」

「迷宮探索に集中できないんだよな」

「明日は?」

「サンダーバード」

「また、どうでもいい奴ね」

「羽根の依頼でもなきゃな」

「あってもやらないでしょう」

「千年大蛇いるかな?」

「それを調べるのがあんたの仕事でしょう」

「頑張れ、オリエッタ」

 くしゃみで返された。

「お大事に」

「誰か噂した」

「寒くなってきたかな」

 大人達の飲み会に場所を空けるとしよう。

 僕はオリエッタとヘモジを抱えて部屋に戻ることにした。

 子供たちは広くなった居間でまだ遊んでいた。



 翌朝、ゲートに並んでいるとき、妙な噂を聞いた。

 それはかつて滅びた橋頭堡の情報で、今その廃墟に人が出入りしているというものだった。既に砂に埋まっているものと思っていたが、それはここから北に四日、内陸に二日程入った場所にあるらしかった。

 何を基準にした一日かわからないが、事実ならカテリーナ達の故郷旧王都の廃墟とを往復するキャラバンに見付かっていたとしてもおかしくない。

 陽動かもしれないと警戒しつつも、確認作業が行われるということなので、僕たちは地下三十階攻略である。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ