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クーの迷宮(地下29階 サイクロプス戦)神樹と改築

 隠遁、隠遁…… からの近接『雷撃』!

 大木のような脚に触れ、その体内に電撃を流し込む。肉を食うわけではないので丸焼きにしたところで構わない。が、土属性の相手に雷ではやはり効率がよろしくない。

 残ったレルム族もニューエイジ族も遠目で見る限り、大した違いは見受けられなかった。棍棒を持てば一緒である。

 だから、いちいち確認が必要だった。

 確かなのはオリエッタの『認識』スキルだが、一日分の献身を使い果たしたようで、要所以外では欠伸ばかりしている。自分でやるしかないだろう。

『解析』レベルがまだまだなので、距離が遠いと調整が難しく、気付かれてしまうことがある。安全に『解析』できる距離まで来てしまうと、もう目視でも確認できてしまうので使う意味がない。

 なので、隠遁からの…… 『氷結』!

「よし!」

 凍り付くまでのタイムラグが一瞬あるが、こっちの方がしっくりくる。

 でもタイミングがよかったのか、悪かったのか直立したまま巨人は倒れずにいた。

「立ったままだとよく見えない」

 オリエッタが僕の頭を押さえつけて背伸びする。

「そうだな……」

 氷の立像にしてしまうとアイテム回収に支障が出るな。

「ナナーナ」

 ヘモジは伸ばしたミョルニルのヘッドをサイクロプスの肩ベルトに引っ掛けて横転させた。

 氷像は地面との激突の衝撃で半身粉々になった。

「ここまで凍らせなくても……」

「ごめん、やり過ぎた」


「おー」

 オリエッタが小物を見付けた。

「宝石か?」

「ちっちゃいの。いる?」

「加工できそうなら貰うぞ」

 オリエッタはヘモジに小石を渡した。

「ナーナ」

 ヘモジは小石を空に透かしてから鞄に放り込んだ。

 そして氷像が魔石に変わるのを待った。

 僕はその間マップをしたためる。

 助けろという割にニューエイジの姿が見当たらない。いるのはレルム族ばかりだった。

 見付けたときにはもう手遅れなんてことになっていそうで不安になる。

 仕事を終えてオリエッタが戻ってきた。

「ニューエイジいたか?」

「いないね」と、素っ気ない返事が返ってくる。


「燃えてる!」

 黒い森の向こうに煙が上がっていた。

 あの先にニューエイジの集落があるのか?

 転移して一気に行きたいところだが、目の前の森が視線を塞いだ。

「久しぶり」

「ナーナ」

 ふたり、宙を見上げた。

「落ちるなよ」

「ナーナ!」

「わかってる」

 森の上空に転移した。

 そして眼下を見下ろし、目標を定めて……

「手前に降りる! そのまま戦闘だ」

 村の正門前、降りたところにサイクロプス!

「レムル族!」

 オリエッタが即答した。

「ナーナ!」

 ヘモジが飛び出した。

 着地すると僕もすぐ次の相手に突っ込んだ。

「ニューエイジ!」

「おっと」

 こっちじゃない!

 なら対峙しているあいつがレムル族!

 装備を見て間違いないことを確認。

 衝撃波を放って吹き飛ばした。

 とどめだ!

 剣を突き立てようと跳躍したところに岩の塊のような膝蹴りを食らった!

 ぐしゃりと膝の皿が砕けた。

「そんな蹴りじゃ結界は抜けないよ」

 叫び声が音になる前に眉間に剣を突き立てた。

 ニューエイジはこちらの鬼神振りに気圧されたのか、煙が立ち込める方へと逃げ出していった。

「ああ……」

 回収は、諦めるか。

「後を追うぞ」

 道すがらレムル族だけをひたすら切り捨てていく。

 ヘモジも闘志を思い出したかのように暴れまくった。


 村の藁葺きが燃えていた。

 半数近くの家が既に焼け落ち、焦げた臭いが充満していた。

 組み合った二体のサイクロプスが焼けた家に突っ込んで瓦礫を巻き上げる。

 双方優劣が付かず、膠着状態だった。が、僕たちが助けた連中が次々他の救援に回ったことで勢力バランスが徐々に改善、敵を押し返し始めた。

「ナーナ!」

 薙いだミョルニルがレムル族の脇骨を打ち砕いた。

 戦闘はヘモジに任せて、僕は火を消しつつ、傷付いた連中の回復に務めた。


 そして鎮火とともに、襲撃者の討伐が完了する。

「終った?」

 煤けているかわからないオリエッタに念のため浄化を施しながら、クエストが進行するのを待った。


 が、待てど暮らせどクエストが進行する様子は見受けられなかった。

 出口まで行っても『神樹の宿り木』クエストのプレゼンター、サイクロプスの先祖キュクロプスが出てくるわけもなく。

「まだ終ってないのか?」

「ナナナ」

「壊滅が条件なんじゃ?」

「ええ? 今更」

 途中、素通りしてきた連中もやらないと駄目ってことなのか?

「結構いるぞ」

 僕たちは後ろを振り返った。



 出口がある洞窟前で、毛色の違う一体のサイクロプスが杖を置き、大岩の上に座り込んでいた。

 彼こそが、キュクロプスらしい。

 爺ちゃんたちに聞いていた通りだ。

「ヨクゾ、カレラノキュウチヲスクッテクダサッタ」

 サイクロプスは洞窟の壁を伝いながらゆっくりと身体を動かすと、荷物のなかから木の苗を一つ取り出した。

「コレハホウビダ。トテモキチョウナキノナエダ。ダイジニスルガヨイ」

 双葉が木の枝から生えているだけの鉢だった。

 心のなかで握りこぶしを振り上げた。

「教会にばれないようにしなくちゃね」

 金枝と神樹のセットを手に入れた!

「その前に枯れないように育てないと」

「ナナーナ」

 ヘモジが胸を叩いて任せろと言った。

「今日は大活躍だったな、ヘモジ。ありがとうな」

 頭を撫でてやったら、うれしそうにまたデレた。



「ごめん! 遅くなった」

 帰って早々、食堂に飛び込んだら大伯母が腕組みをして待っていた。

「こんな大事な時期に何を――」

 僕の手荷物を見て固まった。

「……」

「クエストを途中で放り投げられなかったんだ……よ。これ…… お土産」

 いきなり僕ごと結界で覆った。

「ヘモジ来い。木を植える場所を造るぞ!」

 二人して地下に消えた。

「あの、僕は?」

 子供たちの好奇に晒された。


「あの…… お腹空いたんですけど」

 既に一時間、封印されたままの状況が過ぎた。

 僕の魔力を吸って、心なしか木が大きくなった気がしないでもない。

 目の前に食事の皿とカトラリーが並んでいるのに。

「ナーナナー」

 ヘモジがスキップしながら戻ってきた。

「ナナナ」

 結界が解けた。

 大伯母が階段を上ってきた。

「明日家の改築を大々的に行う。取り敢えず、それをよこせ」

 神樹の鉢が奪われた。

 そしてふたり、また地下に……

「ト、トイレ行ってきます」


 内着に着替えて戻ってきたら既に料理が並んでいた。

 僕は席に着いた。

 ヘモジも戻ってきて席に着いた。

 代わりに子供たちが消えた。

 地下に行ったか。

 改装ってどうするつもりなんだろうな。

 爺ちゃんちみたいにはいかないだろう。

「襲撃を気にしなきゃいけない時に、なんて物持ち帰ってくるのよ」

 ラーラが言った。

「しょうがないだろう。クエストだったんだから」

「まさか、二度目があるなんてね。神樹ってそんなにあっていい物なの?」

「知るわけないだろう。で、何か進展あった?」

「ないわよ。メインガーデンから出た船の入出記録とかを取り寄せただけ」

 双子石の記録用紙に文字がびっしり。

 記録をそのまま複写した物か……

 いくら取られたことか。じっと見詰める。

「特別な動きはなさそう……」

「メインガーデンには寄ってないってことか……」

「どこか専用のドックを使ってるってことか? だとしたら大艦隊ってことはないな」

 やっぱり少数精鋭で来るのか。

「他の記録も取り寄せたけど、それらしい人の動きも物の動きも見当たらないわね」

「例の没落貴族の方は?」

「物騒な家は三つ。災害級のユニーク持ちで今こっちに来てるのはそのうち一つだけ。『巨人化(フルングニル)』を持つベルトロット家。一子相伝か、うちやヴィオネッティーみたいに劣化版が一族に派生するものかは知らないけど。アシャールの南の家柄ね」

「災害級のユニーク持ちなら迷宮に籠ればなんとでもなるだろうに」

「下々の後塵を拝するのが嫌な連中はやりたがらないものよ。金や地位じゃ、階層の通行権は手に入らないから」

 僕の皿の煮豆をフォークに刺して口に放り込んだ。

「代理を立てて、後からいいとこ取りするのが常套手段でしょう」

「その代理に給金を払えるなら落ち目とは言わないんだけどな」

「家督を追われた弟妹が冒険者にいれば、問題…… 弟妹?」

「そういう素性の冒険者は結構いるな」

「ちょっと行ってくる!」

 ラーラは部屋を飛び出していった。

「何? 下野した弟妹はノーマークだったのか?」

 詰め所に行ったか。



 翌日、午前中丸々家への出入りが禁止されることになった。夫人も例外ではない。

 子供たちは僕と迷宮だから問題ないが、休暇だったイザベルが溢れた。

「モナの所で時間潰すわ」

 モナさんの工房は『補助推進装置』の取り付け作業で忙しいからちょうどいい。


 そんなわけで僕は子供たちと一緒にサイクロプス狩りに出掛けた。

 昨日の今日でもうお腹いっぱいだったので、特段指示することなく流れに任せた。

 殲滅速度もヘモジの本気とは比べものにならなかったので全滅を命題とはせず、進路上に限った立ち回りにとどめた。

「でかい敵は面倒だよね」

「なんでちょうどいいサイズの敵がいないのかしらね」

 そりゃ、お前たちがそもそも小さいからだと、突っ込みたくなった。

 休憩にはおやつをたらふく食べて、穏やかな景色を満喫した。


「二十体目!」

 結構狩ったな。魔石を回収しながらの前進だが、順調だ。装備を解体した金属素材も集まってくる。

 そして帰宅。

 そこには驚きの景色が広がっていた。

「大師匠やり過ぎだよ……」

 子供たちは言った。



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