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襲撃の夜2 

 話は戻る。

「偵察からの情報だと迎えに来た船は南の海に消えたそうよ」

「小型船でね」

 イザベルの発言にラーラが一言添えた。

「なるほど」

 海を横断できないとは言わないが、普通はしない。ここは母船が海上に控えていると考えるべきだろう。

「なおさら西から来そうだけどな」

 僕は西からの侵攻を捨てきれずにいた。

「西の運河は物資搬送のメイン回廊ですからね。輸送船に潜り込んでいた経験があるなら、西側の警戒網のきつさは知っているでしょう。それに運河の関係で大型船の併走もできませんから」

 それまで黙って聞いていたソルダーノさんが言った。

「隠れている網の方が凄いんだけどね」

 理解者にラーラは片目をつむってみせた。

「船で来るとは限らないんじゃないか? それこそ入り江から小舟で」

 それをやったらさすがに大半は人払いの結界に引っ掛かると気付いて口を閉じた。

 非常口の扉がノックされた。

「はーい。ただいま」

 夫人が扉を開けに向かった。

「動きました」

 伝令の声が吹き抜けを通してこちらにも聞こえた。

「じゃあ、行ってくるかな」

 僕は銃を手に取り席を立った。



「敵は?」

「西から来ます」

 ほれ、見ろ。敵も馬鹿じゃなかった。裏の裏は表なんだよ。

 石段の途中からフライングボードで飛び立った。

 索敵しながら村を抜け、湖畔を南回りに飛んでいたら、我らがタイタンが二体南門で暴れていた。

「西門じゃないのか?」

 守備隊の最後尾にいた団員たちに声を掛けた。

「こっちは今さっき襲われたんでさ。でももう終わりですぜ」

「タイタンの投石であっという間だ。これからガーディアンを投入して残敵掃討に移るところさ」

「二方面作戦?」

「そうなりますかね」

 敵の方が一枚上手だったか? そもそも二手に分れる戦力が隠れていたことに驚きを禁じ得ない。

「うちの使ってるゴーレムがタイタンだって知らなかったのかな?」

「かも知れねぇです」

「あんなでかい物、下見に来た連中が気付かないはずないんだけどな……」

「ただの木偶とでも思ってたんでしょうな」

「もしかして陽動のつもりだった?」

「ああ、なるほど! それなら無理な特攻も理解できますな」

「でも瞬殺されてちゃね」

「ですな」

 ノリのいい隊員さんたちだった。が、呼ばれてすぐ門の向こうに消えた。

「じゃあ、本命を絞めに行きますか」



「弟君が来たのね?」

「アマーティさん?」

 髪の長い姉さんの側近がそこにいた。

「来てたんですか?」

「ついさっきね」

 前線からついさっき来て、駆り出されたのか?

「来る途中、南門が襲撃されてましたよ」

 西の堰から少し距離を置いた所で迎え撃つ準備をしていた部隊に動揺が走った。

「大丈夫なのか?」

 別の隊員が割り込んできた。

「もう終りかけてました」

「何しに来たんだ?」

「陽動?」

「伝令『敵、運河入口に到達』!」

 続きの言葉を待っていた一同はおかしな間を訝しんだ。

「どうした?」

「結界に引っ掛かって減速しているようです。隊列がうまく組み直せていないとのことです!」

「あそこはまだ結界の範囲内じゃないぞ」

 みな呆れ顔だ。ここまで用意周到にしておいて『人払い』の余波に当てられるとは。

「案内がなきゃ、普通はそうなりますよ」

 側にいた若いメンバーが笑った。

 潰すなら今だけど、事後処理を考えると、できるだけ誘い込みたい……

「アマーティさん、来たとき人払いの結界起動してました?」

「ええ、いつも通りよ」

「やっぱり、ここを突破できる操舵士に限りがあったか?」

 ガイドの明かりを消してしまえば夜は特に何も見えなくなるからな。

「ずいぶんお粗末な連中だな」

 お粗末だから、引き時がわからない。当然、諦めも悪いはずだ。


 西の入り江から侵入してきた連中は罠を見通せる船を先頭に隊列を組み直し、ゆっくりとではあるが確実に前進してきていた。

 こちらは既に南門の戦闘も終り、堰を越えたところで包囲殲滅する準備を整えていた。

「西に防壁、造る気はないの?」

「天然の防壁がありますからね。それに壁はあくまでタロスと防風、洪水対策用ですから」

「必要充分ではあるのよね」

 今回の夜盗が探索スキルの高い連中だということは容易に想像できた。おとりである陽動部隊ですら壁まで到達できたのだ。馬鹿にできる程の素人集団ではない。ただ、こちらの侵入者たちはスキル的に劣化版、あるいは出涸らしだと言わざるを得なかった。

「人払いが怖くて密集を解けないんだろうな」

 一網打尽にしようとずいぶん待っているのだが、なかなか現れてくれない。もしかしてこっちが誘いなんじゃないかと思うぐらいに。時たま入る伝令にみな耳を傾ける。

「まだ、半分かよ。根性入れろや!」

 挙げ句、敵の侵攻を応援する者まで。

 僕は一足先に堰を越えて様子を見に行くことにした。


 確信ある者にとって障害にならないところが、人払いの結界の悪い点であり、いい点でもあった。それはあたかも詳しい地図を持つ者と持たざる者の差のようなものであった。

 持たざる者は疑心が疑心を生みやがて動けなくなる。

 そもそも流通を妨げないための策であり、その効果を狙っての配備であったが、それは妨害する対象がタロスだったからだ。一見さん即殲滅、二度、三度はないという大前提があったからだ。


 結論から言おう。

 彼らは仲間割れしていた。これ以上は進めないと判断した者と、大丈夫だから付いてこいと言う者に分裂して小競り合いを始めていた。

 待っても来ないはずだ。

 騙されていない者たちだけが必死に前進を試みようとしていた。

 彼らは先発した陽動部隊が倒される前に何が何でも挟み撃ちにしたいと願い、焦っている様子だった。だから作戦行動中であるにもかかわらず、罵詈雑言を大声でわめき散らしていた。

 結局、少ない兵力を更に割くという愚行に及ぶことになった。

 僕は敵船の船底死角に潜んでいた味方の偵察隊と合流し、前進する彼らをこのまま行かせるように進言した。そして頃合いを見計らって『浮遊魔法陣』を破壊して貰うことにした。

 前進を決めた船は中型船が四隻。追従する小型船が二隻だった。そしてその倍の数がその場から後退し始めた。

 僕はそのまま運河を下り、後退し始めた連中を始末することにした。


 殿に毛色の違う大型船が一隻、運河に詰まっていた。その前方でまた小型船同士がやり合い始めた。後退したい連中が挟み撃ちになった格好だ。

「一体何をやりたいんだ!」

 さすがに部外者の僕でも怒りたくなる。

 大きな音がして、そばに浮いていた小型船が一隻沈んだ。

 大型船からのバリスタ攻撃だった。

「運河が傷付くだろうが!」

 大型船は明らかに前に出たがっていた。

 これはやりづらい。小型船は兎も角、運河で大型船を座礁させると流通に影響が出てしまう。

 逃げ出していく小型船が大型船の右舷脇腹を通り過ぎる。

 仲間がやられた腹いせに船舷にありったけの火力を撃ち込んだ。

「よくもやってくれたな、この野郎! 指揮官面しやがって!」

 小型船は死角に入っていることをいいことにやりたい放題しながら後方に下がっていく。別の小船がまたそれを見習った。

 指揮官があの大型船にいることはわかったが、一体どういう統制をしているんだ。

 魔石の備蓄がないのか大型船の結界が段々怪しくなってきた。

 大型船の護衛船が逃げる小型船に発砲。裏切りの代償を支払わせた。が、別の小型船に頭から突っ込まれてこちらも大破した。

「どうなってるんだ?」

 もうめちゃくちゃだ。

「くそー、前がよく見えねー」

 そう言えばまだ結界の影響下にいたんだったな。

 やがて大型船も火を噴いた。

 歓声が上がった。

「ここで落ちて貰っては困ると……」

 満足した逃亡組はなんとか離脱したかのように思われた。

 が、まだここは人払いの結界の中であった。進路を見誤り接触、あるいは明後日の方角に去り、見えない敵と砲撃戦を繰り返しては仲間の脇腹やマストを貫いていた。

 何組が離脱できることやら……

 コースを外れた連中も早々に排除しなければ。

 僕は勝手に動き回られないように沈没船から起動し始めたガーディアンを潰して周った。


 上空のけりはそうこうしているうちに付いたようで、静まり返った。

 大破していた大型船が動き出した。

「そっちじゃないぞー」

 船は進路を外れて南西方向に曲がり始めた。

「ぶつかる!」

 運河の縁に船舷が当たった。既にボロボロの船体がメキメキと押し潰される音がした。

 ボンっという大きな音がして、甲板上部が吹き飛んだ。赤々と火柱が舞い上がった。

 バリスタに仕掛けておいた魔法の鏃が運河の壁にぶつかった拍子に暴発したのだった。

 船が大きく傾いた。

「うわぁあああ。なんだ! 何が起きた?」

「砂嵐で何も見えません!」

「ブリッジ!」

「大変だ。操舵士がやられた」

 爆発で舞い上がった破片がブリッジに突き刺さっていた。

 見えていた者が亡くなったらしい。

「先行部隊の合図はまだか!」

「探せ! 誘導灯はどこだ!」

「くそぉ、どっちに進みゃあいいんだ!」

「後退だ。後退しろ!」

「ここまで来て戻れるか!」

「何言ってるんです! ここを突破できてもこの状況では捕まりに行くようなものです」

「味方が既に戦ってるんだぞ。見殺しにする気か!」

 今度は船内で口喧嘩が始まった。

 もうどうにでもなれ。

「そのまま行けば結界の外には出られるよ」

 僕が見逃そうと思ったその時、業を煮やした守備隊のガーディアンがやってきた。

「こちらは『銀花の紋章団・クーストゥス・ラクーサ・アスファラ要塞砦守備隊』である。貴様たちの仲間は既に全員、拘束した。速やかに武器を下ろし、投降せよ!」

 ガーディアン部隊が颯爽と隊列を組んで現れたが、敵にその勇姿が見えていたのやら。甚だ疑問であった。



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