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検証

「!」

「なんと!」

「敵の攻撃ですか?」

「同じことが採掘場でも起きていたと考えられる。恐らくこちら側で起きた衝撃の余波が向こう側にも影響したんじゃろう。何がどうしてかはまだわからんが、向こう側に繋がる穴もすんでのところで塞がってくれたようじゃ」

 ヤマダタロウが言葉を裏付けるように頷いた。

 曖昧な表現だが、僕の『プライマー』のことを知っている一部の者はそれが原因だと気付いている。が、『無双』のなんたるかも知らない者はラーラの一撃のせいだと誤解するだろう。

 僕の一撃は想像以上にあちら側の世界に影響を与えたようだ。

 あの魔力の流入具合から察するにアールヴヘイム以上に魔力の濃い世界だったに違いない。

 まさか入口がもう一つこの世界に開こうとしていたとは想像だにしていなかったが。爆発の余波で消滅させられたのは運がよかったと言わざるを得ない。

「じゃが、その採掘場で違法に採掘が行なわれていた証拠が見付かった」

「盗掘ですか?」

「それはまだわからんが『太陽石』じゃ。報告にない大量の備蓄を見付けた」

「ターの村の『太陽石』は掘り尽くされたはずだ」

 ルカーノ氏が言った。

「保管場所として利用されていただけかもしれんぞ」

 パオロ・ポルポラ氏が茶々を入れる。

「その辺りは現在、調査中です。兎に角、素性のわからないルートが存在していたことは事実です。現在、関係者を拘束、尋問しております」

 ギルマスの秘書官が態度を諭すように答えた。

「それで、それとこれとなんの関係があるのですか?」

 カー・ニェッキ氏がひとり挙手して、すまなさそうに尋ねた。

「今回のタロスの出現ポイントがどこだったかわかるかね?」

「俺たちがいた港区だ」

「何隻も沈められたからな」

「ギルドの資材保管倉庫じゃ」

「……」

「まさかそこに『太陽石』が保管されていたからとか言うつもりじゃないだろうな?」

 ポルポラ氏が言った。

「城門がブルーノの船で塞がれた一件は聞き及んでおろう。あれには『太陽石』五十カトーラが積み込まれておった」

「五十カトーラ!」

「ありえねぇ。ちょっとした鉱脈、丸々一つ分じゃねーか」

「枯れたはずの鉱脈から追加でそれだけ発掘されたとは考えにくいですね。別口でしょう」

 ブリッドマンが言った。

 姉さんは黙ったまま成り行きに任せている。

「いくらこの町でも捌けんだろ?」

「ましてやギルドのお膝元だ。横流しなど……」

「そもそも現物を持って町の門を潜ろうなどとは普通考えないでしょう。そんなリスクを負わなくても砂漠のど真ん中で取引すればいい」

「となるとやはり見付かることを前提に運び込んだとしか……」

「難破させるつもりだった船にわざわざ積載していた段階で真っ黒だろ?」

「最初は盗掘を密告しようとしている者の、手の込んだ演出かとも思ったのじゃが」

「密告に五十カトーラはねーよ。爺さん」

「そこへタロスの襲撃が重なり、今回の一件か……」

「何もないとも言い切れませんね」

「ターの村とこの町との共通点なんぞ、他に何がある?」

「採掘は昔から行なわれています。このような事態が起こったことなど」

「『太陽石』がビーコンの役割を果たしていたとしたらどうでしょう?」

 ヤマダタロウが口を挟んだ。

「ビーコン? なんだいそりゃ?」

「そうですね。暗闇を照らす灯台の明かりのようなものとでも言いましょうか……」

「採掘は昨日今日始まったわけじゃないんだぜ?」

「過去にこれだけの量が集まったことはあるのでしょうか?」

「ございません。過去、採掘量は全体でもせいぜい年間三カトーラ程に過ぎません。増して一箇所になどということは」

 秘書官が言った。

「弱い光も束になればということでしょうか?」

 カー氏の言葉にヤマダタロウは頷いた。

「『太陽石』はただ魔力を生み出すだけの石ではない可能性があるということか……」

「原因はまだわからねぇってことだな」

「取り敢えず早急に緻密な調査を行なわなければなりません。答えが出るまではすべての採掘場を停止させなければ」

「厄介なことになりそうだぜ」

「あの……」

 僕は手を上げた。

「なんだ?」

「何かね?」

「『太陽石』を多く保有している方々に注意喚起が必要かと」

「『太陽石』なんて高価な物を買える連中なんて貴族か商人ぐらいだろうが、五十カトーラなんて量を保有してる奴なんか……」

「大変だッ!」

「アールヴヘイムが危ない!」

 ラーラの実家、王家の宝物庫には『太陽石』が大量に保管されている。五十年分の蓄財がどれ程になるかは知らないが、間違いなくどこよりも大量に集積されているはずだ。

 今回の一件で感度を上げているかも知れない敵に見付かる可能性は否定できない。

「サンプル、欲しいな」と呟いたら、姉さんに呆れられた。


 すぐに警告文がギルマス名義でアールヴヘイムに送られた。どこぞの小型高速艇も城門を飛び出し、ビフレストに向かった。

 速報はすぐにヴァレンティーナ様の耳にも届くだろうから、僕はアンドレア様に事の詳細を記した手紙をギルド通信で送ることにした。

 長文かつ秘匿文書扱いで結構な料金を支払った。

「爺ちゃんは『太陽石』集めてないだろうな」

「集めてないわけないじゃない」

 ラーラが空笑いした。

「爺ちゃんならきっと精製もしてる」

 オリエッタが窓口の花瓶の花の匂いを嗅ぎながら不吉なことを言った。が、否定できないところが不安なところである。

「ナーナ!」

 ヘモジも胸を張った。

「保証しなくていいから」

「一応知らせておこう」

 僕は心配になって爺ちゃん宛にもう一通、特急でしたためると窓口に提出した。

 散財も散財である。


「ソルダーノさんたちの船、もう戻って来てるわよね」

 ギルド事務所を出るとラーラは壊れた町並みを見詰めながらそう言った。

「泊まる所、大丈夫かしら?」

 宿屋が倒壊していなければいいが。仮に倒壊していなくとも、家を失った者は多い。宿屋は今頃、予定外の客で大変な事態になっていることだろう。

 この際引き払って貰って、屋敷に招いた方がいいかもしれないな。


『アレンツァ・ヴェルデ』の観覧船が港に戻ってきていた。

「入港したのは今し方だって」

 ラーラがヘモジを肩に乗せて桟橋から戻ってきた。

「じゃあ、もう宿屋かな」

「オリエッタの出番!」

 肉球が僕の頭を叩いた。

「あっち」

「はいよ」

 やっぱり宿屋の方角だ。

「迂回しないと駄目ね」

 目の前の桟橋が壊されていた。

 大型船の荷下ろし場の床は目立たないが、結構な高さがあって、飛び降りるなら捻挫ぐらい覚悟する必要があった。砂地に下りたら下りたで、登り口を探さないと…… 階段か梯子を探すが、復旧作業を始めている人足たちの長い列ができていた。

 ざっと迂回ルートに目を通すと、結構な回り道になることに気付く。

「最短距離を行こう」

 僕は魔法を使って桟橋があった場所に簡単な橋を架けた。材料の砂はいくらでもある。

「おお、なんだこりゃ?」

「魔法か!」

「橋だ! 橋ができた!」

「仮だから! 重い物、持って渡らないでよ」

「足場掛けりゃ、大丈夫だ!」

「板ッぱち持って来い! 分厚いのだ!」

「作業し易くなるだけでもありがてえ」

「こっちも頼まぁ!」

「歩きづらくてしょうがねぇんだ」

「横着したばかりに……」

「わたしも手伝うから、チャチャッとやっちゃいましょう」

 ラーラは嬉々として魔法を披露した。

 恩恵を受ける人足たちもそうでもない者もその度に喝采を送った。

 魔法騎士がまるで土木技師の達人のようだ。

「魔力使い過ぎるなよ。魔力薄いんだから」

「わかってるって」

「ナーナ」

 ヘモジが『万能薬』片手に追い掛け回す。

 この程度のことで飲むなよ、勿体ない。



「すっかり夜になっちゃったわね」

「誰のせいだよ」

 冷えた空に星が瞬いている……

「結局、桟橋の修理だけじゃなく、仮設住居まで造らされちゃったわね」

 安請け合いしたのはお前だろうに。

『万能薬』の消費が想像以上に半端ない。こちらの世界では魔力回復も遅れ気味だ。

「でもいいじゃない。忙しいのはみんなが生きてる証拠よ」

 それぞれの小さな仮設の窓には暖かそうな明かりが灯っていた。ギルドも今夜の冷え込みを見越して総出で薪の配布を行なっている。

 立ち上る煙突の煙が暖炉のぬくもりを思い起こさせる。

「ソルダーノさん!」

 すっかり忘れていた。

「あっち」

 オリエッタが指差した。



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