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クーの迷宮(地下26階 スケルトンプルート戦) 燃やす!

 既に奥からキシキシ骨が軋む音がする……

 地下室にある重厚な扉の先に、開ける前からプルートではないスケルトンが徘徊しているのが感じられた。

 エルーダにも雑魚はいた。プルートの装備は着られないけれどスケルトンの物なら可能だ。上層よりレベルアップした分、装備品にも期待できるはずである。

 扉の前で先の大伯母の教えに従い『魔法探知』と一緒に『解析』を唱えた。

「お?」

 敵の装備が見えた。『すね当て』『膝当て』『胸鎧』『ガントレット』……

 ごちゃごちゃだ。

 オリエッタにはもっと細かく見えているのかなと思って見たら、既に腐臭にやられて鼻水を垂らしていた。

「ワーグか?」

 爪でいる方角を指した。

「今、消臭してやるよ」

 僕は結界に『消臭』効果を加えた。

 そしてそっと扉を押し開けた。

 臭いの元、肋骨剥き出しで腐った狼が通路の奥からちんたら現れた。

 やはりいたか……

 強烈な悪臭を放つあいつのせいで、エルーダでは二十六層は過疎フロアだった。スケルトンの装備が手に入るというのにだ。

 噛まれると疫病を貰うし、ある意味プルートより凶悪な存在だ。倒された仲間の腐った肉も食うし、

見ている方が嫌になる。

「ワーグは燃やす!」

 経験から言って、ああいうのは殴っては駄目だ。嫌な感触だけが残る。

「『スケルトンアーチャー、レベル四十四』いる」

 オリエッタが言った。

「アーチャー?」

 こちらに気付かずフラフラしているアックス持ちが目の前を通り過ぎる。

 その奥の二階部分にぼけーっと突っ立ているのがアーチャーだ。

「まずは目の前のウォーリアをやるか」

 ワーグも狼だが、野生の狼程の怖さはない。聴覚も嗅覚も生前の機能はないから索敵範囲の狭い『生命探知』の距離から離れてしまえばこちらを見付けられない。

 仮に見付けられたとしても壊れた足腰では踏ん張りが利かないから、狼特有のフェイントも緩急もない。たまにまともなのがいて、それをフェイントと言えなくもないが……

 兎に角、燃やす!

「ナーナ」

「行くぞ」

 ヘモジが飛び出し、ウォーリアを殴ると同時に、僕はアーチャーを吹き飛ばした。

 気付いたワーグが狂ったように吠えながら突っ込んでくるが、燃やすと言ったら燃やす!

 ゴーゴーと唸る火炎で灰にしてやった。

 これだけやっても他の敵が襲いにくる気配はない。

「罠!」

 オリエッタが僕の頭を殴った。

 それはワーグがいた通路のさらに先にあった。

「作動させるぞ」

 どんな罠か、確認のために発動させる。

「何が出るかな?」

 遠くから氷を圧力板の上に落としてやったら、ブホッと緑色の煙が舞い上がった。

「毒だな」

「毒レベル三」

 体力減衰、毎分二割程度の弱い部類の毒だった。

「ナーナ」

 位置を確認してメモに記す。

 エルーダでは他にも増援部屋があった。

 ワーグが二体、発動した罠に引かれてやってきた。

 一体は既に足を引き摺っている。もう敵の体をなしていない。

「でも燃やす!」


「『スケルトンランサー、レベル四十五』」

 本命は未だ見付からず。徘徊すること一時間。古典的な罠を数カ所と罠部屋一つ。『召喚部屋』ではないので、敵が集まってくる前に逃げてしまえば大丈夫。と思ったが、先のことを考えて、部屋ごと火葬してやった。

 マップをしたため、進路を考える。

 なぜプルートに会えないのか…… ここの迷宮にはいないのか?


「不人気フロアにテコ入れか?」

 上方修正が続いてきたが、下方修正もあるのか?

 そんな暢気なことを考えていたらやけに広い部屋に出た。

 そんな甘い話はなかった。明らかに様相が違う。

「やっぱりいたのか」

 記録を見て現在位置を確認。しばらく行くと地面が揺れた。

 骨だけのくせに…… 見上げる程背が高く、赤く変色した骨の巨人がいた。

「『スケルトンプルート、レベル四十六』」

 吠えもしなければ叫びもしない。ただ振り上げた斧だけは如実に殺意を表わしていた。

「投げてくる!」

 言い忘れたが、二十六層のスケルトンは平気で武器を投げてくる。どうやらここの迷宮でも悪癖は踏襲されているようだ。が、武器を投げるならヘモジも得意だ。しかもミョルニルは決して的を外さない神器だ。

 プルートの腕の骨を粉砕してヘモジの手元に戻ってくる。

「!」

「ナーナンナッ!」

 ヘモジは宙を跳んでいた。

 プルートの頭上より高い位置でミョルニルをキャッチすると一回転、身体をひねり、頭蓋を背骨丸ごと叩きつぶした。

「ナハーッ」

 着地を決めると深く息を吐いた。

 ほんと、他の冒険者には見せられない珍景。

「ナッ」

 ただでかいだけの手斧を見下して蹴飛ばしたら、反作用の返り討ちにあって、尻餅をついた。

「格好悪!」

「……ンナ」

 手を貸してやる。

「はずれ」

 オリエッタも手斧を確認した。

 ふたりにはまるでギロチンだ。

 子供たちにとってもそう差異はない。

「どうしたものかな」

 プルートの武器は言わずもがな重量級だ。爺ちゃんの兄、エルマン爺ちゃんみたいな筋肉馬鹿じゃない限り、これを正面から受けきろうなどと思ってはいけない。重さだけで大抵の力自慢は膝を突く。かと言って躱したりするのも柱や壁などに弾かれて予測不能な動きをするから注意が必要だ。

 基本、投げさせないのが一番だ。が、投げられたら、状況を総合的に判断する。壁際や柱の陰に隠れられないなら離れることだ。チームで戦うときには特に味方の位置に気を使わなければいけない。弾いた先に味方がいることはよくあることだ。

 子供たちの結界の強度も心配だけど……


「武器を手放した愚か者にはしっかり制裁してやる」

 二体目のプルートには武器を投げさせた。

「ちょっと受けてみてみたかったんだよね」

 勿論、結界でだ。

 やはり重かった。

 一重の結界だと当たり方によっては衝撃を吸収しきれないかも知れない。あえて二、三枚犠牲にする方が安定するかな。

 プルートの動きは速い。というより手足が長いので、間合いを詰められやすいのだ。

 投げるモーションに入ったところで懐に入ろうと構えたその頭上に武器を振り下ろされるなんてことはよくあることだ。

 物を投げて素手で襲いかかってくるスケルトンなど笑い飛ばしてやりたいところだが、プルートの拳はそれなりに痛い。脚癖も悪い。棒きれでも持たせてやった方が安定する。その棒もいつまで手元にあるかわからないが。

 物を投げる悪い子たちのためにこの建物の柱は強靱にできているようだ。

 一旦隠れてタイミングを見計らい、懐に入って剣を振る。

 魔法剣でスパッと断絶。膝を折って貰って、頭蓋に一撃。

「…… ふう」

 面白みに欠けるな。大味過ぎる。

 近接主体のパーティーはこの柱をうまく利用するといいだろう。柱が邪魔だと横に薙いでは来ないので、よけるのも容易かろう。床に打ち付けた武器は重い分、わずかな隙ができる。

 全部、僕のパーティーにはどうでもいいことだが。


 腰巻きに嵌め込まれていた宝石を一つ回収する。

「程よく圧縮、手頃な値段」

 加工してオリエッタに渡すと、ありがたみなさそうにリュックのなかにボトリと落とした。


 魔法が飛んできた。結界で弾いたら床が凍っていた。

「ソーサラー」

『衝撃波』を返してやった。

「使えそうな装備はないな」

 杖に氷の魔法が閉じ込められていたので売り物として倉庫に転送した。


「またこの臭い! どこだ?」

「ナーナ!」

「あっち!」

「燃やす!」

 燃やしたら、壁の燭台の油にまで燃え移って、周囲を豪快に照らした。

 徘徊していたアンデッドが一斉に反応した。

 が、油が燃え尽きると闇が周囲を覆った。

 結界に何かぐしゃりと当たった。

「……」

「さ、先を行こう」

 薪代わりに次々燃えて貰っている間に、明かりが灯っている場所まで来た。

 振り向くと武器があらぬ方にやたらと転がっていた。アイテムの回収も面倒なのでそのまま進んだ。


 出口が見付からないまま昼になった。たぶんフロアの八割は制覇したはずだが、ゴールは未だ見えない。午後の残りに期待する。

 回収品は魔法付与が付いた剣が一振りと、弓が一張。宝石は若干。魔法の矢だけは大量に手に入れた。防具に関しては、採点を辛口にしたせいか、要求を満たした物はなかった。

 稼ぎとしてよかったんだか、悪かったんだか……



 家の玄関を開けたら、子供たちがものすごい勢いで駆け寄ってきて、僕にぶつかるように抱き付いてきた。

「大変だよ! 師匠!」

「祠、建てた島に変なのいっぱい生えた!」

「見たことない魚がいっぱいいた!」

「小っちゃい蟹もいたよ」

「水草、いっぱい生えた」

 どうやらナガレの母がお忍びで来たときにいろいろ一緒に連れてきてしまったようだ。

 淡水でも大丈夫なのかな?



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