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続、新造船建造開始

「二階部分だ。ラウンジになる予定だ」

 そこはコアの外装の形状に沿った巨大なドーム空間である。

「広いわね」

 甲板の高さにちょうど合わせて二階の床部分が設置されている。そして頭を出しているドーム部分の前面、丸々半分がガラス張りになっていた。

「子供たちを全員乗せようと思ったらな」

 ラウンジの中央まで進むと中央にある柱を見上げた。

「まるで大樹ね」

 主柱から伸びている周囲を支える支柱が、枝を伸ばした大樹の様に見えるデザインだ。

「あれは?」

 主柱から前面に垂れる枝が見える。

「操縦席だ」

 飛空艇の操縦室に似せて、操縦席を宙に浮かせてある。

 枝の上にはキャットウォークが架かっていて、主柱の中間に設けられた三階部分と繋がっている。

 そこからぐるりとカーブを描いて下りてくる階段を上り、操縦席に至る。

「見晴らしいいわね」

 座席もない、ただパネルだけが置いてある操縦席から窓の外を見て、オリヴィアは言った。

 操縦席は開放的なガラス張りのドームの中央に来るように設計してあり、後方四時から八時の方向まで見通せるようにできていた。

 勿論、船の中枢なので魔法でとびきり強化してある。が…… 所詮は結界ありきのものだ。魔力が尽きればただの強化ガラスだ。

「面白そうね。でも戦いになったら怖いわよ」

「その時はクローシュでもかぶせるさ」

 将来的にはミスリルを挟んだ鏡面装甲に変えていく予定である。

 主柱の中間に設けられた三階部分は後方のドームの壁まで伸びていて、下から見ると今はロフトのようになっている。僕の部屋と操縦担当の控え室を二部屋設ける予定だ。

「あの先は見張り台?」

 三階から主柱に沿って上に螺旋階段が伸びている。

 上にあるのは確かにその通りだが、空を飛ぶ船に今更見張り台もないだろう。単に船の周囲を確認するための展望台といったところだ。

 ロフトの下、二階の後ろ半分は居住施設になる予定だ。調理場、食堂、洗濯場、浴室などがここに入る。

 どうせ飛空艇にない広さを甘受するなら、日の光が差し込む場所がいい。

「下を案内しよう」

 一階に行くには後方と両サイドにある階段を利用する。

 下にあるのはスタッフの個室と生活物資を納める倉庫群だ。仕切りは既に造ってある。

「贅沢な造りね」

 廊下から直接寝室では寂しいので、ワンクッション、寝室の扉の前に広めの共有スペースを設けることにした。コアのちょうど中央、どう使うかは兎も角、男女別で左右に一部屋ずつ用意する。

 共有スペースを囲うように設けた寝室はすべて個室。部屋自体は狭いものだが、寝るだけだから構わないだろう。

 そしてさらに外側、寝室の並びの外をぐるりと一周倉庫が取り囲んでいる。コンテナなどの大きな貨物は船倉の格納庫に収めるので、こちらに並ぶのはあくまで食料や日常雑貨程度である。ほとんど空きスペースだが、将来の人員増に対処するための予備空間でもあるので致し方ない。


 他に見る物もないのでコアを出たら、早々に船倉に潜った。

 今はあちこち穴だらけだからいいが、そのうち移動はゲート任せになる。船のどこにいようが、すべてがあってないような距離に収まるわけだ。

 今は適当に造った足場を伝って下に降りる。

 甲板下には武装がある。

 この船唯一の兵装、特殊弾頭搭載型、広角旋回式・多連装砲台がコアの前方に一基。船尾上部、左右側舷に一基ずつ隠されている。必要なとき以外はこの階に収納されているわけだ。

 いざとなったときに太陽に熱せられて触れませんでは困るだろうし、砂嵐に削られるのもごめんだ。

 装置は天井に外装と一体化した装甲板が載っていて、昇降機でスライド、頭を出す仕掛けになっている。

 こんなことをチビチビ魔道具でやろうというのだから、稼働炉が必要になるわけだ。

 どのみち子供たちに持ち上げろとは言えないからな。

 この長ったらしい名前のこの兵器をわかり易く表現するならば『アロー・ライフル』を束ねた物と言うのが適切だろう。『アロー・ライフル』も爺ちゃんの発明で、銃と魔法の矢のいいとこ取りをした遠距離武器である。魔法情報を大量に書き込める巨大な鏃を銃の原理で撃ち出す筒状の兵器なのだ。これによって遙か彼方にある標的まで誘導が可能になるのである。勿論、鏃に使う魔石の大きさが大きさなので絶大で威力はある。故にお国の許可がいるのは今も昔も変わらない。が、我が家にはナンバリングされた物が既に配給されている。僕個人の分だけでも三つある。王家に何かことあればそれを持って馳せ参じるわけだが、登録ナンバーだけ移動しちゃえば問題ない。通常ナンバーと鏃は紐付けされていて、どちらかが違うと使えなくなる仕組みになっている。が、そもそも爺ちゃんの発明だ。抜け道はある。

 ミズガルズではタロス戦に限り、ナンバリング一つで一隻分の使用許可が下りる決まりになっているので、鏃を買い付ける予算が見合えば積み込むことは可能だ。ただ、普通の貴族は王家指定の工房からしか入手できないので、こっそり購入しようとすると目を付けられる。唯一、我が家は自作できる例外中の例外だ。だからこそ誰よりも襟を正さなければならない。と言うわけで、向こうと連絡が取れ次第、僕のナンバーを使用する旨を本家に伝えておく。

 開通もそろそろだろう。

「さすがに六連装だとは思わないだろうけどな」

 現物はまだないが、土台を置くスペースを前に僕は高笑いした。

 その横で馬鹿にするような視線を向ける女が二人。

「『アロー・ライフル』を連装する意味あるの? そもそも撃つ人間がそばで狙いを定めないと『必中』が発動しないんだから、そんなにあったってしょうがないでしょう? それとも一門ずつ人を並べるわけ?」

「砲口が同じ方向しか向かないんじゃ、同時発射も無理だろう。連射するのが目的だとしても六門は多過ぎだ」

「愚かな発明家の仲間入りかしらね」

「三門ぐらいにしておけ。その分、船が軽くなる」

「じゃあ、前に一門増やすかな」

「下には付けないの?」

「敵の射程も伸びてきてるし、高度が取れないと上からの制圧は無理だからな」

「アレを使えば高高度まで一気に上がれるって言ってなかった?」

「それはガーディアンの話だろ? この船がそんなところまで上がれるはずないだろう? できるなら爺ちゃんがとっくにやってるよ」

「気嚢積むんじゃないの?」

「それでも足りないから五つも『浮遊魔法陣』を積むんじゃないか」

 大きな船は大概重量軽減のために風船を積んでいる。海に浮かんでいる船じゃないんだから当然だ。

『浮遊魔法陣』で事足りるような小さな船ならよかったんだけど。

「『浮遊魔法陣』が機能しない高度でこそ、補助推進が生きるんだよなぁ」

「アールヴヘイムぐらい高度が取れればねぇ」

「ミスリルと飛行石を手に入れるまでは我慢だな」

「さっさと迷宮を突破しろと言うことか」

 結論はうやむやに。そのまま下層の格納庫まで達して、初日の見学は終った。


 奇しくもその日、ゲートキーパーが再稼働したという知らせが、ギルドからもたらされた。

 我が家の『双子の石版』にもアールヴヘイムの家族から、物資を送る旨の知らせが山のように届いた。全員、同じ事を言っているのだと思うが…… もし別々の案件だとしたら大問題だ。急ぎ確認の報を打つ。

 物資が海を越えてくるまで最短でも一月半。当初に比べれは大分早くなっているが、それだとこちらが自力でミスリルを調達できるようになる時期と被る。

 船の建造を一月待つのも手だが…… どちらにしても船一隻を丸々建造するためのミスリルはそう簡単には揃わない。状況を見て少しずつ改修していくことになるだろう。

 爺ちゃんも初めて飛空艇を建造したときはそうだったという。

 商会には建造と同時に、ミスリルへの改修案をまとめて貰うことにした。

「ペンキ。間に合いそうでよかったわ」

 無茶を言う依頼主の肩を引っ張り、耳元に息を吹きかけた。



 ナガレの母に出会った翌日、次の攻略のために、二十六層の出口を探しに行くことにした。僕にとっては下見する今日が攻略日なのだが。子供たちに取っては明日ということになる。

 二十六層の相手は恐らくスケルトンプルートである。人の二倍程ある巨人族の骨である。

「はあ…… 普通の迷路だ。ほっとする」

 場所はカタコンベ。地下墓地である。薄暗く、じめじめしていてカビ臭く、風もないのにどこか寒々しい。

 こんな環境でも泥沼よりマシだと思ってしまうのは踏みしめる固い石畳みがあるからに過ぎない。

 アンデッドが支配するフロアなので当然、闇属性のフロアとなる。魔素は薄めで、物理攻撃主体の場所である。

 万能薬で魔力をいつでも補充できる僕たちには関係ないけど。


 階段を上ると朽ちた教会が丘の上にポツリとあった。

 教会脇にまだ生きている扉があって、強引に開けてなかに入ると、今もいるのか、墓守の生活空間があった。テーブルや食器棚、家具は建物ほど朽ちておらず、埃が積もった様子もない。

 人がまだいてもおかしくない。警戒しつつも、揺れる燭台の明かりに誘われるように奥へ進んだ。



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