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新造船建造開始?

 秘密ドックに飛空挺のノウハウを持つ『ビアンコ商会』の職人たちが大量に今日から入ることになった。

 入出管理は大伯母とオリヴィアの責任で厳重に行われる。商会への出入口が別にできたのだが、僕たちがそちらを利用することはない。

 それはいいとして、秘密の部分は秘密のままに。侵入して欲しくない場所への封印作業を今、大伯母としている。

「自重しろと言ったのに」

 大伯母がまた言った。今日何度目か……

「一隻ぐらいあってもいいだろ。技術を総動員してみたかったんだから」

「はぁ。昔あいつが飛行石で造った巨大船以来の無茶振りだ」

「爺ちゃんもやったんだ」

「戦時下だったんだよ!」

「今もそうだけど」

「……」

 爺ちゃんがゲートキーパーとエルフたちの力を借りてこっちの世界のどこかに浮かべたという世界を繋ぐ鍵のことか? 鏡像物質を使った見えない浮遊要塞。あれは『魔法の塔』主導の計画だったはずだけど。むしろ大伯母が無茶したケースだろう。戦時下に爺ちゃんが造った巨大船って…… 王様の船のことか? 見たことないけど。大戦でもびくともしなかったとか。

 なんにしても……

「超えたいよね」

「充分超えてるよ。完全に別ベクトルだけどな。まさか『浮遊魔法陣』を五つも導入することになろうとは」

「これで魔力消費は従来と変わらないんだから。とんでもシップだよね」

「自分で言うな。完全に資源の無駄遣いじゃないか。五つもあったら何隻船ができると思ってるんだ。艦隊運用だったら愚行もいいところだ」

「そこはスタンドアロンの強みでしょう。あくまで冒険者個人の船なんだから。開発者の特権。これぞ、やりたい放題!」

「全部アイシャのおかげじゃないか」

「エテルノ様が面倒臭がって、研究を途中で放り出したんだと思うけど」

「そんなことはわかってるんだよ!」

「自分だって途中から前のめりだったくせに!」


 甲板の両脇に格納してあるマストはあくまで緊急用である。この船は向かい風も物ともしない完全自立航行船だ。だがその分、魔石の補充はしっかりしないといけない。

 現在、属性を問わず、大量に収集中である。新開発した稼働炉はゲートキーパーの心臓部のミニチュア版だ。ソケットではもう管理できない。特大サイズではアレなので、サイズは大に抑えてあるが、通常航行なら余裕である。それでも一個金貨五十枚だ。自力で集められるとはいえ、ミスリル製に改修するまではじっと我慢である。

 現在、小さな魔石も大きなサイズに加工し直して保管作業を急いでいる。補給できないケースを考慮して、できれば一年分は備蓄しておきたい。

 姉さんに貸した『補助推進装置』もいい加減、返して貰いたいところであるし、試験航行を兼ねて前線に行ってみるのもいいだろうか。

 姉さんの『箱船』なら補修用のミスリルも載ってるだろうから、未完成品でも欲しいというならライセンス契約で複製って手もある。

 速度重視の船に補修材は積み込みたくないけど…… 鉄の塊を見る度に溜め息が出た。


「封印はこれでよしっと」

「これ以上軽くはならんな」

「充分だよ」

「飛行石があればどうとでもなるんだがな」

 飛行石か…… エルーダの迷宮深部で掘れる浮力を生む鉱石だ。それこそトップシークレットだ。

 オリエッタと浮島を掘り返したことがあるが、いつも『認識』スキルで先を越されて徒労に終っていた。以来僕の『解析』は頭打ちだ。

「そう言えば『解析』って」

「ん?」

「レベルが上がれば使えるようになるって?」

「努力しない奴に教えることはないな」

「子供たちには甘い癖に」

「身内だから厳しくしてるんだ。毎回迷宮に入ったら『魔力探知』は使っているのだろう? 同じことをすればいいだけだろう。魔力だけは無尽蔵にあるんだ。ネコにばかり頼ってないで使っていけ」

 つまり役に立つようになるということか。

 子供たちに抜かれそうだから、しばらく優先的に使っていくかな。

「そろそろ時間だ」


 僕たちはオリヴィアたちを迎えに地上に出た。そして白亜のゲートから商会の倉庫に向かった。

 待っていたオリヴィアたちの前で、大伯母は地下への搬入用エレベーターに細工した。

 こちらのエレベーターは『魔法の塔』にあるような上品な小洒落た物ではなく、大きな歯車とチェーンを使った無骨で頑丈なだけが取り柄のような人力タイプだった。力自慢の男たちが大勢いる現場ならではだ。

 その扉に大伯母は魔法陣を転写した。

「え?」

 今どうやった?

 一瞬だった。

 すえた臭いが鼻を突いた。これは酸だ。酸を水魔法でコントロールして、一瞬で金属の扉に魔法陣を焼き付けたのだ。

 大伯母は優しく僕に微笑んだ。

「探求するのは楽しかろう?」

 安易に答えを求めた馬鹿弟子への回答だ。『追い求めよ。探求せよ』とは大伯母が筆頭就任の時にした挨拶の一節だ。

 ずるいんだよ、その顔は。若作りの癖に。

「魔力を通してやれば、ゴンドラに積んだ分をあちらに搬入できるはずだ。但し、生き物は駄目だ。一応、安全装置は組んであるが、安全第一でな」

「人はどうするんですか?」

「この指輪をしろ。この町の転移網に既に繋いであるから、指輪をして転移ゲートを潜ればいい。行き先が表示されるはずだ。行き先は『地下ドック』になってる」

「面倒ですね」

「簡易ゲートの予備は全部使ってしまったからな。造ろうと思えば幾らでも造れるんだが……」

「ではゲートキーパーが繋がり次第、レジーナ様の名前で現物をこちらで造って、向こうにいる者に登録させるということにしては?」

「検査官にチェックして貰わないと正式な書面にはできないんだが…… 事後承諾でねじ込むか…… 公開の物ではないしな。お前がよければそうしよう」

「では、そのように!」

 オリヴィアが満面の笑みを浮かべた。

「あの……」

 成金オリヴィアは他にも数カ所、ゲートを開きたい場所があるとおねだりした。

 交換条件は大伯母もまだ見たことがない希少本だ。

 大伯母の性格をよく知ってる。

「リオも…… 量産型の新造船に一枚噛ませてくれたら……」

 ほんといい性格してるよ。

「元からそのつもりだ」

 折角来てくれた優秀なスタッフをいつまでも遊ばせておくつもりはない。

 商会の転移ゲートは倉庫の出入り口付近に設置することになった。指輪をしていなくても町の転移網とは繋がっているので、いずれ設置箇所が増えれば便利になるだろう。

 敷地ギリギリに設置するのは通行人にも利用して貰えるようにとの配慮からだそうだが、若干の金子と交換になるらしい。

「店のなかもついでに覗いて貰えたら、こっちは御の字だし」

 ほんと、抜け目がない。


 この後、大伯母もこの際、手間は一緒なのだからと言って、ギルド会館前と地下の公民館前、大門前にゲートを設置してしまうのだった。

 何せここの領主は自分の姪なのだから、町の内側でやる分にはお咎めはない。生産側の『魔法の塔』も元筆頭が相手となれば、チェックもおざなりになるだろう。恐らく、システムを理解している者、つまり僕がマニュアル片手に二重チェックしたら、検査は終わりだ。後は製造代金分と登録料に色を添えて『魔法の塔』に納めれば、誰も労せず取引完了だ。

 他の町とも繋げられたらいいんだけど、空間転移にタロスは敏感だからな。


「大きいわね……」

 ドックにやってきたオリヴィアはなめらかな岩肌をした、だだっ広い天井を見上げた。天井には煌々と輝く光の魔石が二十個。

 僕が四属性の魔石を使って合成しました。

「……」

 職人たちは部屋の中央に鎮座する巨大な塊に既に目を奪われていた。

 外装の表面は既に鏡面仕上げをして、魔法で状態固定してある。塗料さえあれば、いつでも染められるけど…… 商会にも在庫はない。

「塗料は次の船が来れば優先的に回すけど…… それにしても不思議な形ね」

 弾頭を上から押し潰したようにしか見えない。

「入口はどこですか?」

 職人が聞いてきた。

「完全密閉式の船になる予定だから、今は空いてるところから入って下さい」

「嘘でしょう?」

 オリヴィアが僕を馬鹿にするような目で見た。

「本当だよ。この船は速度重視の船なんだから表面の凹凸は少ない方がいいんだ」

「限度があるでしょう?」

「それでもだよ。すべての入出はゲートを使って行う。じゃなかったら上の甲板からガーディアンを使って」

「完全じゃないじゃないの」

「採用したのは僕じゃない」

 オリヴィアは大伯母と目で合図して動き始めた。

「じゃあ、足場作って上からね。こっちも作業用のガーディアンとか入れたいから」

「中を案内しよう」

 壁や骨組みはほとんど完成している。ブラックボックス化している操縦室と稼働炉、推進装置周りは今後も僕が担当するが、それ以外の駆動系は丸投げだ。既に装置からは無数の魔力導線の束がでている。

 内装もすべて任せる予定だ。僕にその手の才能がないことは既知のことであるし、ぜひ才能ある人に任せたい。


「これは…… 船全体が一つの魔道具なのね」

「鉄製じゃなきゃ、もっと小さくなるんだけどね」

 魔法で造った物なのでシステム全体が滑らかな一体成形物となっている。

 エアインテーク周りの空気の通り道は余裕で人が通れる広さがあったが、一番狭い場所は子供でも通れない。

 推進時に取り込まれた空気は魔法によって段階的に奥へと追いやられ、細くなっていく形状に合わせてどんどん高温高圧になっていく。

 燃焼室まで送られた空気はそこで燃焼。今回は『爆発』魔法を採用しているが、理想を言えばもうワンランク上の『爆炎』辺りを噛ましたいところである。が、目下、材質が材質なので抑えておく。

 兎に角、一気に熱せられ膨張したガスは狭まった管を通り、さらに加速、後部から高速噴射するのである。

 この時、噴き出した燃焼ガスが外気と接触すると轟音を奏でることになるのだが、音は大敵。消音結界を局部展開してガードした。


「ここは?」

「居住区だ。コアブロックと呼んでる」

「水に浮いているのはなんで?」

 球状の建造物が液体の入った丸い凹みに嵌って浮いている。魔法で浮かせようという当初の案は液体で衝撃を抑える案に変更されていた。液体には程よい粘性があり、急激な動きに波打つこともない。勿論ロックすることも可能だ。本体とは鎖で繋がっているから鎖を張ればいい。

 今はただの水だ。

「居住環境をよくしようと思ったら、衝撃を吸収する必要が出てきてね」

 急加速、急停止、急反転。その度にのし掛かる加速度重量。

 球体の底には錘代わりの制御コアを設置、低い重心のおかげでコアが逆さまに転がる心配はない。

 僕たちは板の足場を渡ってコアの中に入る。



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